昨年末、ツイッターのタイムラインに流れてきた記事を読んでなるほどと思ったのと同時に、YouTubeで聴いて気に入ってしまったので買ったアルバムです。年賀状と一緒に届いたので今年最初に聴いたアルバム。
転校生 の『転校生』 (2012年、EASEL)です。 「転校生」は水本夏絵 のソロ・プロジェクト。
プロデューサー:塚本亮、水本夏絵 ミュージシャン: 水本夏絵:歌、シンセサイザー、 塚本亮:ピアノ、シンセサイザー、ベース、エレキギター、ドラムス(m3) 神谷恂平:ドラムス(m1,m2,m4,m7,m9) 白石尚吾:エレキギター(m1,m3,m7,m8)、アコースティックギター(m3) 市川和則:エレキギター(m4)、アコースティックギター(m4) 吉良都:チェロ(m1,m4,m5,m10) 禹貴恵:バイオリン、ビオラ(m1,m4,m5)
これにはちょっと衝撃を受けたというか。現代の女子高校生がクラスの中で疎外されている心境や、そこからくる自殺願望などが赤裸々に歌詞になっていたりするのです。そんな重い歌詞がとても上質なポップに乗せて歌われています。私とはかけ離れた世界の出来事。なのになぜかその気持ちが心に”スーッ”と入ってくるから不思議です。その繊細な感性に心を揺さぶられるのです。
私にもその傾向があるからなのでしょうか、自分が置かれた状態を客観視するその視線に共感してしまうのです。感情的に訴えかけないクールな視線ゆえ、返って説得力があるように感じます。重い歌詞をポップに歌えてしまう転校生の感性には驚かされると同時に、こういうミュージシャンが出てきていることに新しい時代の到来を感じます。
この感覚、昭和な私には井上陽水の歌に出会った時に似ています。《人生が二度あれば》、《傘がない》、《東へ西へ》、《断絶》などに、当時の若者の素な感情が歌われていました。陽水の場合、かなり感情的なのは時代性でしょう。当時小学生だった私は、今の私が転校生を見る場合とは逆に、まだ知らない大人の世界に共感できた気がしました。
『転校生』はサウンドが素敵です。まずピアノの響きが凄くクリアに録音されていて、今時ありがちなチャラチャラしたJ-POPサウンドとは一線を画しています。そんなピアノの音を聴いただけで世界に引き込まれてしまいます。他の楽器もピアノと同様に表情豊。そのため曲やアレンジはポップなのですが、大人の私が聴けるクオリティの高い深みのある音楽になっています。
歌詞の独特な世界観とクオリティの高いサウンドが一体となって私の心に響く。
さて、このアルバムを買うきっかけとなたのがこちらの記事。「洋楽聴いてないのに聴いたかのような若者音楽ってのがあるんですヨ。」
YouTubeなどで容易に世界中の音楽にアクセスでき、結果世界中の音楽の「テイスト」みたいな部分だけは蓄積されているのかも?という推論があり、なるほどと私は納得したのでした。
しかしその後、私は別な推論が可能なのではないかと思ったのです。それはテレビでもラジオでもお店のB.G.M.でも、そこらじゅうに流れていて意識しなくとも接している現代のJ-POPが、世界中の音楽の「テイスト」を内包しているからではないかというものです。つまり今やJ-POPも豊饒な音楽なのです。
だからわざわざ洋楽を聴かなくても、J-POPを聴いていれば豊饒な音楽を作れるのではないかということです。その結果がこの『転校生』と言っても良いのではないのでしょうか?
本当に今のJ-POPは世界中の音楽の「テイスト」を内包しているのでしょうか?それの答えになるのではないか思われる記事を以前私は書いています。こんなところに類似性を発見! サウンド・リサイクル
ちなみにユーミンの《ひこうき雲》はプロコル・ハルムの《青い影》の影響下にあります。メロディーを聴き比べてみて下さい。分かりますよね。
それにしてもこの歌が自殺について歌っていたものとは知りませんでした。これまで歌詞が意図するところがよく分からなかったのですが、そう思って聴くと確かにそうですね。なるほど、私が井上陽水と出会ったのと同じ時、荒井由美にも出会っていたのですが、こういう感性との出会いが私の音楽体験を豊かにしてきたのかもしれません。
sikoがユーミンと共演しているものもありました。転校生の水本夏絵がaikoのファンならば、これを見ているんじゃないでしょうか? ユーミン~aiko~転校生。
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いい加減J-POPが獲得するに至った豊かな音楽性をきちんと認めたらどうなのかと思うのです。洋楽至上主義じゃあ今のJ-POPは語れません。まあポップス(洋楽も邦楽も)にそれほど詳しいくない私が言っていることなので信憑性は? それにしても、YouTubeってやっぱり凄い。こういうのを使えない(知らない)と音楽評論も時代遅れになりますよね。私の問題処理能力や如何に?(笑)
さて、『転校生』に戻ります。これなんかどうですか?
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教室の中の疎外感、不思議なことに共感できてしまいます。
このアルバムの中で私が一番好きな曲はやっぱり《東京シティ》かな。あなたも転校生の繊細な感性に触れてみませんか?是非聴いてほしいアルバムです。
ユーミンも良いですよね。40周年記念アルバムのラストには、《ひこうき雲》と《青い影》が続けて入っていて、しかも《青い影》はユーミンとプロコル・ハルムの競演バージョンなのです。
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