日本人ジャズ・アルバム紹介

早坂紗知の『ミラグロス』がいい。

最近パソコンがまたフリーズするようになりました。どうやら3、4ヶ月でメモリーかなにかが飽和しているのではないかと思われます。で、仕方ないのでいつものとおりリカバリーをすることに。とうとう4回目です。4回目ともなれば慣れたものです。昨夜と今朝の作業でアプリのインストールもほぼ終了。それにしてもこのパソコン/OSには泣かされます。

P63 さて、今日紹介するのは早坂紗知Stir UP!『ミラグロス(奇跡)』(1995年rec. Off Note)です。メンバーは、早坂紗知(as,ss)、黒田京子(p,accordion)、フェビアン・レザ・パネ(p,syn)、金子飛鳥(vo,electric-vln)、永田利樹(b)、八尋知洋(trapdrums,per)、岡部洋一(trapdrums,per)、角田健(ds)です。サブ・タイトルが”世界中の子供達に捧げる”。

P17 『JAZZ MASTERS MAGAZINE VOL.3』という本がありまして、「直感で選ぶ『ジャケ買い』コレクション」というメインの企画の中にこのCDが紹介されていました。ジャケットはメリー・ゴーラウンド。ぼやかした処理が良いではないですか。でも私の心を動かしたのはその評文。早坂さんの産休明け第一作とのことで、メリー・ゴーラウンドの音と赤ん坊の声で始まり終わるというのが気になったのです。

ちなみにこの本の表紙の写真はジャズ喫茶「ジニアス」です。レコードプレーヤーはガラード(手前)とトーレンス(奥)で、トーンアームはどちらもSME。

このアルバムは廃番なので中古をずーっと探していました。それが前回上京してのレコード・ハントの折にやっと見つかったのです。とうとう巡り合えた喜びはひとしおでした。

このアルバム、前半3曲はアフリカン・パーカッションが乱舞して曲想からは雄大なアフリカの大地を感じます。アフリカの大地に響く早坂さんのサックスが何とも爽快なのです。何て自由なんだろう。フリー・ジャズという意味ではありません。楽曲はきちんとしています。その音です。音の佇まいに自由を感じるのです。早坂さんのサックスってどうしてこんなに自由で伸び伸びとしているのだろう?と、いつも思います。本人の気持ちなんでしょうね。そこに惚れてます。

3曲の中ではアルバムタイトル曲《ミラグロス》が一番爽快です。アフリカの大地の上を早坂さんのソプラノ・サックスが優雅に舞います。続くピアノ・ソロ(たぶんレザ・パネさん)がまた優雅で爽快。バックに軽く入るコーラスはアフリカの大地に吹き抜ける涼やかな乾いた風の如し。何となく東洋な雰囲気も感じさせます。アフリカン・パーカッションのソロも元気ですね。とにかく気持ち良いです。

気分がアフリカのごとく雄大になったところで、4曲目《歪んだ三角形》は、金子さん(el-vln)、早坂さん(ss)、永田さん(b)による即興演奏。エレクトリック・バイオリンはギターのように聴こえ、そのロックな雰囲気が私は好きです。神経質にならないところが◎。続く《ベイビー・モンスター》は硬派の4ビート曲。こちらはアブストラクトなカッコいいピアノ・ソロ(たぶん黒田さん)がフィーチャされています。早坂さんのフリーキーなアルト・サックスの咆哮は痛快です。

続く《ユー・ドント・ノウ・ホワット・ラブ・イズ》はバラード。ピアノ(たぶん黒田さん、男前です。笑)とのデュオ。男前な(笑)早坂さんのアルトが太く胸に迫ってきます。小細工ではなく直球ど真ん中勝負。サックスを鳴らし切ることで聴く人を揺さぶるのです。日本人女性サックス奏者の草分け早坂さん。いや~っ、お見事!

続く《ガニメデ》はタイトルの響きのようなちょっとユーモラスなテーマの8ビート曲。こういう捻った曲もまた良いのです。こういう曲ではエレクトリック・バイオリンが映えますよね。ここではたっぷりソロ・スペースを与えられています。そしてラスト《子供達によろしく》は、日本の童謡~唱歌調。アルト・サックスとピアノのデュオで演奏されます。ベタな懐かしさです。私にはちょっと湿度過多。ビミューに苦手です(笑)。

全8曲、楽しいアルバムでした。中古を見つけたら即ゲットです!

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ホンワカした雰囲気のピアノ・トリオ

ガッツリしたジャズはもちろん良いのですが、時にはこんなのも聴きたくなります。

P52 十五夜『オール・フォー・ユア・スマイル』(2010年rec. 月見レコード)です。”十五夜”というのはトリオの名前です。メンバーは、寺村容子(p)、磯部ヒデキ(b)、大澤基弘(ds)です。リーダーは大澤さん。アルバムタイトルがいいでしょ。”全てをあなたの笑顔のために”。

サブ・タイトルが”光はきらめき、色彩は踊る。伝えたい、音のチカラ。”
ただ今こんな時にピッタリどと思いませんか?

私は前作『うさぎの大冒険』(何とおおらかなタイトル、笑)を買って気に入ったのです。甲府の「ジャズ・イン・アローン」でライブも観て、CDには3人のサインをもらいました(笑)。ライブで見た時、ピアニストの寺村さんのおっとり具合がとてもキュートでした。

”十五夜”は、寺村さんのしっとり優しくメロディアスなピアノを中心に、なかなか強靭で太い磯部さんのベースと、軽やかなスイング感の大澤さんのドラミング、という構成です。今時の弾きまくりとかキレとか迫力で聴かせるピアノ・トリオとは真逆の方向性のトリオです。

聴いていると気分がホンワカ軽くなってくるピアノ・トリオですね。”笑顔のために”は強引に笑わせるのではなく、例えば温泉に浸かった時に、自然と笑みが浮かんでくる感じです。”極楽、極楽”と言いたくなるあの感じでしょうか(笑)?そして、都会の垢ぬけた感じはなく、田舎の素朴な感じが漂っているのも良いところです。

磯部さんの曲が2曲、大澤さんの曲が3曲、寺村さんの曲が2曲、アントニオ・カルロス・ジョビンなどメンバー以外の曲が4曲の全11曲。リーダー大澤さんの曲なんか、顔に似合わない(失礼m(_ _)m!)キュートなメロディーの曲ばかりで私は好きです。寺村さんの曲はちょっと情が深めの曲。ウェットな感じが日本的とでもいいましょうか。全体として聴くととても統一した雰囲気になっていますよ。

録音がいいです。加工をあんまりせず、素直に録っているように感じます。適度な収録現場の残響音が”十五夜”の音楽性に産毛のような優しいニュアンスを加えているところがプラスです。

心が”ギザギザ”な時に聴いくと良いと思います。ヒーリング効果アリです!

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日本人ジャズを聴こう!これは渋すぎ。

不定期企画ながらしぶとく続けます(笑)。日本人ジャズを聴こう!
さて、今回は誰でしょう?

P19 池田芳夫『DADAⅢ』(2010年rec. SEAVAN)です。メンバーは、池田芳夫(b)、緑川英徳(as,ss)、河村英樹(ts)、江藤良人(ds)です。池田さんはジャズ友tommyさんのベースの先生です。そんな繋がりから聴くようになりました。知る人ぞ知る名ベーシスト。日野皓正グループ、富樫雅彦の『スピリチュアルネイチャー』、高瀬アキとのデュオ『エスプリ』、藤川義明イースタシアオーケストラなどでベースを弾いています。

ホームページはこちら⇒池田芳夫

2006年発売の『DADAⅡ』以来4年ぶりの新作です。実は『DADAⅡ』を買いそびれたという経緯があるので、今回はディスクユニオン・ジャズ館の新譜情報を見て速攻購入しました。お店で扱う数が少ないのですぐに在庫取寄せになってしまいます。『DADAⅡ』も池田さんのホームページから購入できるのですが、自宅へ電話しなければならないのが・・・、結構人見知りの私は自宅へ電話する勇気がないのです(涙)。

さて、このアルバム。池田さんのプロベーシスト50年(2010年)の節目として録音したそうです。2テナーのピアノレス・カルテット。う~む、渋い、渋すぎます。売れ線なんてことは微塵も考えていません。ただありのままに池田さんのジャズが、50年のベーシスト人生が、ここに刻まれているのです。あ~っ、カッコだけの若手ジャズもどきグループに池田さんの爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。って、この表現が既に通じない人達か(笑)?

全7曲、池田さんのオリジナル曲を収録。キャッチーなところはないけれど良い曲ばかりです。バラードなんかは泣かせる曲ですよ。甘くはないのですが胸にじんわりと染みてきます。知り合いのレゲエー好きのお嬢さんをイメージしたという楽しい曲や亡くなったお姉さんへ送る曲もあったりして、池田さんという人物の人柄がよくあらわれているように感じます。とはいっても、私は池田さんにお会いしたことはないので、あくまで曲を聴いてのイメージ。

曲も良いのですが、一番の良さはやっぱりそのベースプレイにあります。力強いです。ただガッツがあるとかではなく、懐が深いベースです。響きを大切にプレイしています。大地にがっちり根をはやした大木の如きベース。日本のジャズ全盛期を第一線で支えてきたベースの凄みを聴いてほしいです。こんなベースを聴きながら教えてもらっているtommyさんも凄いですよね(笑)?

2人のサックス奏者も派手さは皆無。ひたすらジャズを真摯にプレイしています。池田さんの前ではいい加減な気持ちでは吹けないでしょうからね。音を丁寧に選びつつ歌心もありつつ時にはフリーキーに熱く吹く場面もあります。私はアルトの緑川さんが特に良いと思います。ドラムは流れを見ながら過激に煽ります。ベースが底部を支える分、ドラムがグルーヴに緩急をつけていきます。

硬派ですね~。これがジャズだっ、としか言いようがありません。こういうジャズにこそ「ジャズは新しさを追えばいいというものではない。」という言葉が相応しいと思います。

”マジ/ガチ”ジャズを求めている人だけに聴いてほしい1枚。

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優しくて強さも秘めた小粋なピアノ・トリオ

「桜座」で菊池成孔×南博『花と水』デュオライブを観た時に買ったCDです。

P90 南博トリオ『ザ・ガール・ネックスト・ドア』(2010年rec. ewe records)です。メンバーは、南博(p)、鈴木正人(b)、芳垣安洋(ds)です。ディスクユニオンの新譜情報で試聴してチェックしていました。ジャズマン・オリジナルやスタンダードを収録。ラスト1曲だけが南さんのオリジナルです。

優しくて強さも秘めたピアノだと思いました。最近は女性ジャズ・ピアニストの方がガンガン弾いて注目を集めるものだから、男性ジャズ・ピアニストにとってはなかなか大変な時代だと思います。そんな中にあって南さんのピアノは逆に優しさがあっていいのではないかと思いました。そして、男の強さも秘めた優しさなので女性には受けるんじゃないかと思いました(笑)。

1曲目、アルバムタイトル曲の優しさと美しいメロディーを聴いていたら、澤野工房から出たピアノ・トリオと言って聴かせても違和感は全くないと思いました。演奏全体からは優しい雰囲気が漂っていますが、ピアノのタッチそのものはしっかりしていて粒立ちの良いものです。小粋なリズム感で繰り出されるコロコロと転がるアドリブ・フレーズがとても心地よく感じます。

モンクの《バイ・ヤ》は8ビートと4ビートの混在するリズム処理がユニーク。南さんのピアノは単に優しいだけではなく、主張すべきところは主張してメリハリがあります。ドラムの抑揚のあるリズム感はなかなか素敵だと思います。ドラムが派手目なのに対してベースはどちらかというと控えめに堅実にサポートしています。

《バット・ノット・フォー・ミー》は南さんのピアノを中心にトリオ一丸で小粋にドライブする演奏が楽しいです。ベース・ソロ、ドラム・ソロともに勢いに乗っていく様が痛快。《アイ・ラブ・ユー・ポギー》は優しさ全開のバラード演奏。メロディーの展開が結構かわいかったりします。ライブで見た南さんは静かな方でしたがちゃめっけがある人だったので、そいうい部分が滲み出ている感じがします。

ショーターの《ネフェルティティ》はドラムとベースが比較的自由に絡む上で、ピアノが美しいフレーズを力強く重ねていく演奏。リズムもメロディーも難解になる手前のところで上手く曲の構造を残していて、この曲の持つ美を力強く聴かせているのがいいです。《ドキシー》は《バット・ノット・フォー・ミー》と同様のドライブ感に溢れる演奏。ここでもコロコロ転がるピアノが気持ち良いです。

《ブレイム・イット・オン・マイ・ユース》は優しくてしっとり美しいバラード。小細工なしにストレートに美しく語るところが粋。ミンガスの《グッド・バイ・ポーク・パイ・ハット》は曲そのものが持つ力強い美しさを際立たせる演奏になっています。私はこの曲が好きなので、いい演奏だと思いました。ラストは南さんオリジナルの《エピローグ》。終わりに相応しい哀愁感をたたえた優しいピアノ・ソロ。素敵です。こんなの聴かされたら女性はウットリでしょうね~(笑)。

このアルバムは特に女性にオススメします。
南さんの美の世界へエスコートしてもらえますよ!

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日本人ジャズを聴こう!懐かしい(笑)。

ピアノトリオ好きが求めているのは癒しなのか?
ジャズ友の雲さんとtommyさんのブログで第2回戦がありました(笑)。

雲さんのブログ
ピアノトリオに求める要素

tommyさんのブログ
ピアノトリオ好きが求めているのは癒しだ(2)

面白いじゃありませんか?
こういうことを書くお二人が好きです(笑)。

さて、今日もアルバム紹介。

P136 BOZO(ボゥゾ)『デュエンデ』(2005年rec. イーストワークスエンターテインメント)です。メンバーは、津上研太(as,ss)、南博(p)、水谷浩章(b)、外山明 (ds)です。セカンド・アルバム。

BOZOのファースト・アルバム『1st』は持っていて、その独特な雰囲気が良いのか悪いのか?微妙に馴染めないでいました。で、棚上げのままだったのですが、昨年5月「高野雲の快楽ジャズ通信」にBOZOのリーダー津上さんがゲスト出演した 「快楽ジャズ通信、恐るべし!」 のをきっかけに、BOZOを見直すことになりました。あれからもう1年くらい経ってしまいました。

改めて聴くと、その独特な浮遊感と一抹の孤独感が身にしみます。ここにもやっぱり第2期マイルス黄金クインテットの影響がありますよね。津上さんが影響を受けたと言っているウェイン・ショターが参加したクインテットです。あそこまでの緊張感はないと思いますが、そこに現代の洗練が加味されているように感じます。

そしてもう一つ、津上さんが参加している大友良英のONJQやONJOで得たものの成果がここにあるのだと思います。個々のアドリブの前にバンドのサウンド/トーンというものが重視されていて、曲が醸し出すイメージにそって演奏が展開していきます。比較的スロー・テンポでサウンド/トーンに陰影感を持たせることに主眼を置くソロ。それこそがマイルスが打ち出したモードと言えばそうなんですが、そこに大友の音響的な感覚が入ってきます。

津上のアルト・サックスの音はブライトでクリアなところが素敵です。非常にストレートに音が飛んできます。で、メロディーが微妙に捻じれているから、快感と不快感の絶妙なバランスの上に立っていると思います。私が馴染めなかったのはそこなんです。でもこういうのって一旦馴染むと結構癖にんるようなものです。一方ソプラノ・サックスは音やフレージングからはデイブ・リーブマンを彷彿とさせます。

ラストのウェイン・ショーター作《ザ・アルバトロス》以外は全て津上が作曲しています。基本的に落ち着いたトーンの曲ばかり、哀愁漂う曲調だと思います。でも”哀愁のラテン”みたいな品の悪さは一切なし(笑)。非常に洗練されたメロディーばかり、そのイメージはスマートな都会であり大人なのです。”男の美学”を感じます。

南のピアノ、水谷のベース、外山のドラム、3人は非常にバランスが良く、津上が持つ世界を過不足なくサポートしていきます。それから南のハーモニー・センスは津上と相性抜群ですね。嵌まり過ぎている感じで他のピアニストは考えられないと思います。ラスト1曲前の《イクイリビリウム》だけが軽快な曲になっているのも気になります。なんでここに1曲だけ?謎です。

う~ん、BOZO渋すぎ!

アルバム名:『DUENDE』
メンバー:津上研太(sax),南博(p),水谷浩章(b),外山明(ds)

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のたうつベースとファナティック・アルト!

先月「快楽ジャズ通信」「ジャッキー・マクリーン特集」の収録を見学したました。
ゲストはアルト・サックス奏者の纐纈雅代さん。
纐纈さんの生アルト演奏に接して背中が”ゾワゾワ”したことはブログにUP済。
http://ikki-ikki.cocolog-nifty.com/blog/2010/01/post-0b7f.html

機会を作って下さった高野雲さんに感謝!

そんな体験をしたからには、纐纈さん参加のアルバムを聴いてみたいと思い、
鈴木勲さんのアルバムを買いました。

P56 『ソリチュード フィーチャリング纐纈雅代』(2008年rec. Sony Music Direct)です。メンバーは、鈴木勲(b,syn)、纐纈雅代(as)、中村恵介(tp)、塩本彰(g)、板垣光弘(p,syn)、小松伸之(ds)、川口弥夏(ds)です。鈴木勲さんはこのアルバム録音時に75歳、何なのでしょうこれは!超お元気です。最近の高齢の方には”お年寄り”という言葉が当てはまりません。

鈴木さんはウッドベースにエレキベースの弦を張っています。ライナーノーツに鈴木さんは、「私はいつも、他とは違った個性的な音色を追求しているのです。」と書いています。ベースの音は大蛇がのたうちウネルが如く。こんなベースは他では聴いたことがありません。暴れっぷりがまたお見事!ということで、上記のとおり75歳が信じられないのです。

こんなパワフルで個性的なベーシストにフィーチャーされちゃった纐纈さんも凄いではありませんか?纐纈さん、実に堂々と渡りあっています。纐纈さんのアルトにはもう一言しか思いつきません。”ファナティック(熱狂的な、狂信的な)・アルト”!アルバム冒頭の曲《キャラバン》でドラム・ソロのイントロに続いて登場するアルトの”ビヒャー”を聴けば、納得してもらえると思います。

この曲の収録時、初めのソロが終わったところで纐纈さんは倒れたんだとか。そしてドラムソロの間に復活したらしいです。もちろんワンテイク録音。渾身のブローなのでした。

”ファナティック”という言い方は、ジャズ喫茶「いーぐる」のマスター後藤雅洋さんが自著で、ジャッキー・マクリーンのアルトに対してよく使われるのですが、私は纐纈さんのアルトにもその称号を与えたいのです。そういう意味では「ジャッキー・マクリーン特集」のゲストとして、纐纈さんは正にピッタリなのでした。

こんなやんちゃなアルトを吹くのが若い女性だというのは、今時の”肉食系女子”を表しているんじゃないでしょうか?でも、普段の纐纈さんはためらいがちな喋りなのですよ。

2曲目《ソリチュード》は、バラードでベースとアルトのデュオ。鈴木さんののたうつベースに優しく包まれながら、纐纈さんが素直に自分を出していると思います。纐纈さん、これぞバップな堂々の吹奏です。番組収録時に聞いたのですが(雲さん、番組ネタばらしご容赦)、ちょっとリハーサルのような感じで演奏したら、それが本テイクになってしまったらしいのです。いや~っ、実にジャズではありませんか。

このアルバム。とにかく楽しいアルバムなのです。これって、鈴木さんのおもちゃ箱なんじゃないかと思います。上記のように、サックス・トリオあり、サックスとのデュオあり、セクステットでのファンクあり、ギターとのデュオあり、ベース・ソロありとフォーマットも色々で、スタンダード曲のアレンジも斬新。シンセを入れたり、アルトを多重録音したりと、ジャズの伝統にあぐらをかくようなところは微塵もありません。アグレッシブに挑んでいます。

《マイ・フェイバリット・シングス》のリズムやテンポを様々に変えるアレンジも面白いですよ。纐纈さんのアルト・ソロも痛快!ギターとのデュオ《ラウンド・ミッドナイト》は、名演だと思います。カッコいい!鈴木さんのオリジナル《バンブー・ダンス》は、4ビート/8ビート、スロー/ミディアム/アップ・テンポを目まぐるしく行き来し、その上でトランペット、アルト、ピアノがクール/ホットなソロを展開するカッコいい曲。ラスト《やさしく歌って》は、自分で弾いたバックグラウンド・シンセとのオーバー・ダビングでベース・ソロ。スケールがデカイ!

鈴木勲さん、とんでもない77歳(今年)のベース弾きです(笑)。
そして、纐纈雅代さんにはこのまま突き進んでほしいと思いました。
雲さんがこのアルバムは面白いとおっしゃっていましたが、納得!

P57 鈴木勲さんと言えば、昔のアルバムでは『ブルー・シティ』(1974年rec、TBM)が好きです。メンバーは、鈴木勲(cello,b)、菅野邦彦(p)、渡辺香津美(g)、井野信義(b)、小原哲次郎(ds)です。鈴木さんのアルバムは、他に『ブローアップ』(スイングジャーナル誌日本ジャズ賞)と『タッチ』『黒いオルフェ』も持っています。

これはレコードも持っていますが、写真のXrcdも持っています。ビクターで開発した高音質CD。今となっては貴重なプレミアもの?CDなのです。レコードとCDで音質比較して、CDの音に近いカートリッジやイコライザー(真空管自作)の組み合わせはどれか試したこともあります。

鈴木さん、こちらではチェロでソロを弾いています。若き日の渡辺香津美のブルージーなギター、菅野邦彦の繊細で美しいピアノも良いです。でも2人とも本場とはちょっと違う日本的なノリや音が当時の日本ジャズを感じさせます。私は鈴木さんのオリジナル曲《45丁目(8番街)》が特にお気に入りです。

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矢野沙織にデビッド・サンボーンを見た(笑)!

矢野沙織の新譜『ビバップ・アット・ザ・サボイ』を聴いてみました。
実は矢野さんのアルバムをまともに聴くのはこれが初めてです。
ライブは4年くらい前に一度、ジャズ喫茶「メグ」で見たことがあります。

変な言い方なのですが、実に”ジャズ”な演奏です。
日本人だからとか女性だからとかそういうことは考えずに聴けます。
ジャズ・アルバムとして、とても楽しめます。

で、聴いていて浮かんできたのが、面白いことにデビッド・サンボーン!
”しゃくり上げ”っていうんでしょうか?
フレーズ最後の”ズリズリ”なやつ、サンボーンみたい。
もちろん、サンボーン程の強烈な”アク”(個性)はありませんが。

矢野さんとしては、古いバップのプレイヤーを意識しているんでしょうけど、
出てきた音の佇まいは、当然のことながら現代的あっさり風味。
で、サンボーン風になっちゃう(笑)。
ジャズの”アク”みたいなものが、きれいさっぱり取り除かれています。

サンボーンはフュージョンの人と思っている方も多いと思いますが、
実はサンボーン独特の個性から、
ジャズの”アク”はよっぱどサンボーンの方があるんですよ。
今は何がジャズで、何がフュージョンなのか、さっぱりわかりませんです。

で、こういう現象は、別に矢野さんに限らず、現代の若手の多くに感じます。
(もちろん独特な個性を放つ若手もいますが)
ジャズ・マニアな私にとっては寂しい感じなのですが、
こういう感想って私だけなのでしょうかね~?

まあ、矢野さんはまだ若いので、
時間が経てば”アク”も出てくるのかもしれませんね。
ここは優しく見守ってあげる親心が大切(笑)。

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コケティッシュ・ボーカルが結構好きな私。

最近アルバム・レビューが面倒な私。
去年のアルバムや、今年に入ってからの新譜が届いているので、
紹介したいアルバムはいくつかあるんですがね~。
まっ、ボチボチとやっていきましょう。

P47 今日紹介するのは去年出たアルバムエミコ・ヴォイス×スガダイロー『フェイズ・ツー ツイスト&シャウト』(2009年rec. COOLFOOL)です。エミコ・ヴォイスのボーカルスガダイローのピアノデュオとしては2枚目のアルバムだそうです。ミュージックバードの「ブランニューCD」で数曲聴いて気に入ってしまいました。エミコ・ヴォイスはコケティッシュ・ボーカルです。嫌いな人はいるでしょうが、私は結構好き。

MAYAさんもコケティッシュな歌い方のほうが好きです。アルバム『Maya』の《カーニバル》《ガール・トーク》などが好きでした。同アルバムの《イフ・アイ・ワー・ア・ベル》は今日紹介するものにも通じるコケティッシュ・ミーツ・ジャズですよね。で、この人のラテンはちょっと苦手部類かも?結局MAYAさんはこれ1枚しか持っていません(笑)。

さて、本アルバムに戻って、頭の《ヤードバード組曲》。スガダイローのおもちゃ箱をひっくり返したようなイントロから一挙に2人の世界へと引き込みます。エミコ・ヴォイスはコケティシュですが肌触りは意外とあっさり。スガダイローのコントラストのはっきりしたコテコテ・ピアノとの対比がいい塩梅です。

エミコ・ヴォイスは歌が上手いですね~。リズム感が特に素晴らしい。いとも簡単そうにメロディーをスラスラと推進させるフラットなノリ。そこにアクセントを強調したピアノがからんでも動じることはありません。このリズム・アプローチの違いがお2人のデュオの妙味。スムーズなヴォーカル、アクセントの強いピアノ、それぞれが生かされるのです。スリルに溢れていると思います。

バラード演奏の《ソリチュード》。なかなか深い味を出しているのではないでしょうか。《サマー・タイム》は意表を突くアレンジ。スガダイローのピアノはまるでダラー・ブランドの『アフリカン・ピアノ』です。重厚なアルペジオでバックをガッチリ支えます。エミコ・ヴォイスはそんなアフリカの大地の上を舞う鳥の如き優雅さ。こんな《サマー・タイム》は聴いたことがありません。イイです。

《いつか王子様が》は、優雅なボーカルで始まるのに、ピアノが入ってくると一転してサスペンス(笑)!その後4ビートに入るのですが、随所でピアノが暴れて盛り上げます。こんな王子様が目の前に現れたら人生は楽しくなることでしょう(笑)。《イパネマの娘》は、ズッコケそうになるモッタリ・リズムが秀逸です。こんなリズムを見事なマッチングでやってのけるお2人。リズム感は凄いものがあります。

《コンファーメーション》のドライブ感は最高です。この曲、メロディーが結構難しいと思いますが、エミコ・ヴォイスは正確な音程でかつアップテンポで歌い切ってしまう。素晴らしい!低音強調ピアノで下世話なラテンと化した《キャラバン》。表向きのギトギト感に対して根はクールだと思うんですよ。スガダイローは演出をちゃんと計算しています。

お2人のアプローチは従来のジャズ・ヴォーカルからは離れているかもしれませんが、ジャズに根ざしていることは感じられますし、こういった新しいアプローチこそが、本来ジャズの持つべき意味なのではないかと、私は思います。

とても楽しいボーカル・アルバムです!

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カワイイ松本茜さんの新譜が届きました!

やばいです!
「ツイッター」に結構時間を取られています(笑)。
ブログ巡回がおろそかになってます。
初めてまだ3日目なのに、新しい出会いもあったりします。
緩い繋がりなので、これはこれで気楽かも?

さて、本題!

ネット通販予約していた松本茜さんの新譜が今日届きました。
明日発売なのにね。

P40 『プレイング・ニューヨーク』
(2009年rec. T&Kエンターテインメント)。

ジャケットのはじける笑顔がカワイイです(笑)。

まずはひととおり聴いてみました。
ちょっと地味目なアルバムです。
変に媚びるものよりは高感度大!

等身大の茜さんなのではないかと思います。
ニューヨーク録音なのですが、力んだ感じもなく平常心。
これはじっくり聴いてあげるべきアルバムですよ。
後日レビューをUPします。

どんなアルバムなのか早く知りたい方は?
アルバム買を買って下さい(笑)。

それでは不親切なので、
コチラ↓をご覧下さい。高野雲さんのレビューです。相変わらず素敵。
http://cafemontmartre.jp/jazz/Ma/playing_NY.html
茜さんの写真も満載!

P41_2届いたCDを見てビックリ!
こんなものが付いてきました。
直筆サイン入り生写真です。
嬉しいプレゼントですよね。

チェックのスカートが女子高の制服に見えました(笑)。
これはAKB48に通じるものがあるような・・・(笑)。

こんな茜さんですが、この度大学を卒業(祝)!
来春からはれっきとした社会人です。
茜さんのブログ:「想像天国」

実家に犬の置物があるらしいのですが。

P42_2犬なら私の部屋にもいます(笑)。

昔池袋駅西口を歩いていたら、
お店の外でこいつが私を見つめていたんです。
たまらず連れて帰ることに(笑)。
買った時、店員さんに「プレゼントですか?」と聞かれました。
私には似合わないですからね(笑)。

もう10年くらい居着いています。
いつも元気です(笑)。

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とんでもないジャケットのレコードがありました!

中古レコードを集めているととんでもないレコードに出会うことがあります。

P35 このレコードです。どこが変なのかわかります?これレコード入口が左右反対なんです。普通は向かって右側が裂けていて、レコードを出し入れするのですが、これは左側が裂けています。左利き用のレコードジャケット(笑)?右利きの人は非常に出しづらいのです。まっ、レコードを裏返しにいして裏ジャケットを見ながらレコードを取り出せば全く問題ないのですが。

これは製造ミスなんでしょうか?最初のロットにジャケットの発注ミスがあり、捨てるのは損害が大きいからそのまま売りだしてしまったとか?サンプル盤ではありません。れっきとした正規品です。わけがわかりません???

さて、レコードの中身の話。KAI,EMIKO『エメラルド・シティ』(1986年rec. CBS SONY)。メンバーはKAI,EMIKO(p)、ロン・ホルドリッジ(b)、ジェリー・グラネリ(ds)、デニー・グッドヒュー(fl)です。KAI,EMIKOさんを知っている方いらっしゃいますか?知っているとしたら相当なマニアですよね(笑)。私はこのレコードを買うまで全く未知の人でした。EMIKO KAIじゃないところがエライ(笑)? 「カンマ」も入ってるし・・・。更に、ヘアー・スタイルがアフロ(笑)。

KAIさんは今時たくさんいる女性ピアニストのさきがけなんじゃないでしょうか?「ビル・エバンスのピアノを聴いてジャズの素晴らしさを知った。」というだけあり、俗に言うエバンス系ピアノを弾きます。なかなかクリアなタッチで、女性らしさに溢れた優しい美メロフレーズを弾きます。軽やかでスインギーで上品でもあります。

今このアルバムを出して新譜だと言っても誰も疑わないと思います。80年代だから誰にも知られず多分歴史に埋もれたのです。今出せばマイナー・ピアノ・トリオ好きには絶対耳にとまる内容です。A面1曲目のオリジナル《エメラルド・シティー》はキャッチーな美メロですし、B面ラストのオリジナル《瞳の中に拡がる青空》も落ち着いた良い曲です。

オリジナル4曲とスタンダード/ジャズマン・オリジナル4曲をやっています。《サマータイム》《イン・ユア・オウン・スイート・ウェイ》もなかなかの好演ですよ。デジタル録音なので、ベースとドラムの音もクリアで程よくガッツもあると思います。ピアノ・トリオでの演奏とフルートが加わってカルテットでの演奏があります。

もう25年ほど前の演奏です。80年代は埋もれたレベルの演奏が、今では大手を振って売られる時代になりました。私はこういう気楽なジャズを悪いという気は全くありません。でも、こういう現実を知ってしまうと何か複雑な気持ちになってしまいます。ジャズ・ミュージシャンにとって今は良い時代なのか?悪い時代なのか?

P36 色々言ってますが、KAIさんの『クリスタル・エコー』(1987年rec. CBS SONY)も持っています(笑)。ギリシャ神話をモチーフにしたオリジナル曲集です。各曲には詩(歌詞ではありません)まで付いています。ベースとドラムは日本人、2曲にギターの天野清継が参加しているあたりが”らしい”でしょ。フュージョン系アコースティック・ピアノ・トリオです。んでっ、ファ、ファッションが・・・80年代じゃー(笑)。

キャッチ・コピーは「澄み渡るアコースティック・ピアノの響きと、心地よいスイング感。ジャズ界に爽やかなセンセーションを巻き起こすKAI,EMIKO待望の新作!!」

どうだ参ったか!

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