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スティーヴ・リーマンの新譜

注目しているアルトサックスのスティーヴ・リーマンが新譜を出したので早速チェック。

P130スティーヴ・リーマン『Mise en Abime』(2014年rec. PI RECORDINGS)です。メンバーは、スティーヴ・リーマン(as,live electronics)、ジョナサン・フィンレイソン(tp)、マーク・シム(ts)、ティム・アルブライト(tb)、クリス・ディングマン(vib)、ホセ・ダヴィラ(tuba)、ドリュー・グレス(b)、タイション・ソーリー(ds)です。2009年に同一メンバーでアルバム『トラヴェル,トランスフォーメーション,アンド・フロー』を出していますので、同グループによる5年ぶりのアルバムということになります。今回も前作のサウンドを継承しています。

世間の認知度は一向に上がる気配はないですが、私はリーマンを現代アルトとしてかなり高く評価しています。芸術音楽としてのジャズをしっかりやっていると思うからです。まあそれ故大衆性は乏しくなってしまい、凄く難解なことをやっているわけでもないのに、やはり聴く人が少ないのは残念です。このリーマンとルドレシュ・マハンサッパが私の中では現代注目アルトの双璧です。

このグループのサウンドの要はヴァイブラフォン。このオクテットで初めてアルバムを出す前年の2008年には、ドルフィーの『アウト・トゥ・ランチ』と同構成のグループ、つまりアルトサックス、トランペット、ヴァイブ、ベース、ドラムで『オン・ミーニング』を出していて、そこではクールで知的な新主流派的サウンドが鳴っていました。アルトのフレージングやリズムは60年代とは異なる現代版ではありましたがサウンドの共通性を感じ取りました。それがオクテットに拡大してもそのまま継承されています。

次にサウンドにおいて重要な役割を担っているのがチューバ。チューバと言うと、私はヘンリー・スレッギルのグループ、ヴェリー・ヴェリー・サーカスが浮かんできます。アーサー・ブライスの80年代グループにもチューバがいましたよね。そこには、伝統に即しながらアバンギャルドなことをやっているアルトサックス奏者の系譜としてのリーマンの存在が浮かび上がってきます。

ドルフィー、スレッギル、ブライス、この3人の名前を聴いてサウンドが浮かんだあなた。あなたはかなりのジャズ通です。「それ誰?」と思ったあなた。あなたは「ジャズの歴史が分かってないよね。」、とか言うと反感を買うでしょうね(笑)。「そんなもん知らなくてもジャズは楽しめる。」とおっしゃることでしょう。まあそれは確かにそうなのですが・・・。

メンバーからサウンドを解析してみましょう。トランペットのフィンレイソンと言えば、M-BASEスティーヴ・コールマンのグループの相方です。このリーマンのグループもその方面に位置すると思います。テナーのシムは最近あまり名前を聴かないですが00年代初頭の新生ブルーノート・サウンドの人。ジョー・ヘンダーソン系譜のフレージングはリーマンのフレージングにも呼応するものです。00年代ブルーノートではヴァイブのステフォン・ハリスが新主流派サウンドを醸し出していました。

ベースのグレスは現代ニューヨークのアバンギャルド系重鎮ベーシストであり、ドラムのソーリーはやはり現代ニューヨークのアバンギャルド系新進気鋭ドラマーです。細分化されたビートを自在に操り複雑な変拍子をグルーヴさせるソーリーのドラミングは注目すべきものがあります。00年代ブルーノートのナシート・ウェイツやエリック・ハーランド(共に現代も活躍中)の先に位置するビート感覚がこのソーリーだと思います。

このアルバムはかなり編曲されているのだろうと思います。次々と現れては浮遊して消えていくホーン・アンサンブルやヴァイブの絡みは緻密に計算されているように聴こえるからです。そんなサウンドの上でリーマンのせきたてるようなウネウネしたアルト・ソロが繰り広げられます。シムはこのリーマンのフレージングをそのままテナーでやっているように聴こえて、2人の親和性の高さが分かります。全曲でホーン全員がソロを回すわけではなく、曲によってソリストは変わります。各ソロの出来は良いです。

数曲でリーマンが控えめに使うエレクトロニクスは曲に良い味を加味。ヴァイブのクールさにトロンボーンのホットさを加えて独特の温度感を出すあたりに、リーマンのバランス感覚の良さを感じます。また場面によってチューバとベースが微妙に存在感を変えていて、どちらがより存在感を出しているかを場面と照らし合わせながら聴くのは楽しいです。ラスト曲だけはボイス(ナレーション?)を含むアンビエントな曲で、ここが前アルバムにはなかった先端性。次への展開を予見させます。

過去との繋がりを色々書いていますが、このグループのサウンドはこのグループにしか出せない独特なものです。リーマンのアルトも独特なフレージングです。現代のクリエイティブなジャズとして良い出来だと思います。現代ジャズフォロワーは必聴!

<追伸>
インプロバイザーとしてのリーマンを聴くならこちら。
アドリブ一発!漢のサックス・トリオ。

アルバム名:『Mise en Abime』
メンバー:
Steve Lehman(as, Live Electronics)
Tim Albright(tb)
Jose Davila(tuba)
Chris Dingman(vib)
Jonathan Finlayson(tp)
Drew Gress(b)
Mark Shim(ts)
Tyshawn Sorey(ds)

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