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ジャスへの志向が感じられるアルバム

昨年出たアルバムのフォローです。黒田卓也のアルバムではフュージョン・ピアノ/エレピを弾いていたので「なんだかな~」と思ったのですが、自身のアルバムを試聴したらちょっと違う雰囲気があったので買ってみました。

P84クリス・バワーズ『ヒーローズ+ミスフィッツ』(2012年rec. CONCORD JAZZ)です。メンバーは、クリス・バワーズ(p,fender rhodes,syn)、ケイシー・ベンジャミン(as 3,4,6,8,vocoder 3)、ケネス・ウェイラムⅢ(ts 3-6,8,ss 3)、アダム・アガティ(g)、バーニス・アール・トラヴィスⅡ(el-b)、ジャミル・ウィリアムス(ds)、スペシャル・ゲスト:ジュリア・イースターリン(vo)5、ホセ・ジェイムズ(vo)10、クリス・ターナー(vo)3,6,7です。バワーズの2枚目のアルバム? コンコード・ジャズから出ているので、これもまたフュージョン/スムース・ジャズ系なのかと思って聴いたのですが、単なるフュージョン・アルバムではありませんでした。

全10曲中7曲をバワーズが作曲、他はバワーズとアガティの共作が1曲、バワーズとイースターリンの共作が1曲、バワーズとジェイムズの共作が1曲あります。なので基本的にはバワーズが作曲しているということです。3曲は1分代のイントロ曲なので全7曲という感じになっています。小難しい曲はなくメロディアスな曲ばかりです。バワーズはインプロバイザーというよりはコンポーザー型ピアニスト。

1曲目《フォーエヴァー・スプリング》は2分弱のイントロ。これがどことなくジェナイのアルバム『ダンス・ウィズ・ミー』に入っていたイントロ曲《スプリング・イントゥ・サマー》に似た雰囲気だったりして(笑)。つまりポップな曲なのですが、小鳥のさえずりをミキシングして単にポップというのではないところがミソ。

2曲目《ウェイク・ザ・ネイバーズ》はロックンロールな曲の途中に抒情的なピアノのメロディーが入って印象的。ロックに抒情的なメロディーの組み合わせは上原ひろみに通じると思います。騒音的なシンセのサウンドエフェクトや、途中に入る静かなブレイクに続くロックなギター・ソロなど、なかなか凝った作りの曲です。単なる美メロを聴かせるというのではなく、ちょっと内省的な響きというか寂しさというかそういうものが漂うのが独特。

3曲目《#ザプロテスター》も抒情的な美メロ曲ですが、どことなく内省的な響きを感じさせるのが現代性か。こういう現代人の内面性が滲み出るような作りにジャズとしての強度を感じます。芸術性と言っていいのかもしれません。ドラムは今時のビート。ケイシー・ベンジャミンのアルト・サックス・ソロが力強くて流されないのが○。後半に出てくるボーカルにも訴えかけてくる何かがあります。

4曲目《ヴァイスズ・アンド・ヴァーチューズ》はメローなバラードでアフリカンな雰囲気の曲。アフリカン・パーカッションやカリンバ的なシンセ・エフェクト音を薄くかけるあたりが知的。エフェクターをかけたサックス・ソロはなかなかパワフルです。バックではドラムがパワフルに煽ります。続くバワーズのエレピ・ソロもどことなく神秘的でイマジネイティブ。昼にまどろんでいるとアフリカの大地が見えてくると言った塩梅の曲。

5曲目《フォーゲット-ィア》は多重録音の女性コーラスをバックに女性ボーカルをフィーチャした曲。儚いメロディーと切なくパワフルな歌唱がフュージョン的な軽さとは一線を画します。ゆっくり入っしばらくするとブレイクがあってアップテンポになります。アップテンポになってからのピアノ・ソロはなかなか力強いです。ドラムのビートは今時のもの。

6曲目《ワンダーラブ》はメローな曲で男性ボーカルをフィーチャ。この曲のビートやメローなエレピのフレーズには、ロバート・グラスパー・イクスペリメントとの共通性を感じます。これがこのアルバム中一番フュージョン調。やっぱりグラスパーってフュージョンだよね(笑)。私はこういうのがかなり好きですよ。単に「これはジャズじゃないよね。」というだけ。曲後半に両チャンネルで同時に繰り広げられるサックス・ソロはジャズです。

7曲目《フォーエバー・ワンダー》は1分少々の短いイントロ。前曲のイメージを引き継ぎつつ、シンセ・ベースを基調にしたサウンドは現代的。

8曲目《ドリフト》は抒情的だけれど内省的。細分化されたドラムビートは現代的。切々と奏でられるサックスが軽さを排除。続くピアノ・ソロにも悲しさが漂います。フレージングの後ろに付けるアクセントが何となくチック・コリアっぽいかも。短いアルト・サックス・ソロもパワフル。サウンド・エフェクト・シンセ音はかなり凝っていてなかなかのセンス。バワーズのアレンジはかなり知的です。

9曲目《ファースト,》は約1分半の短いピアノ・ソロ。次の曲へのイメージの橋渡し。切ない感じが良いです。

10曲目《ウェイズ・オブ・ライト》はホセ・ジェイムズとの共作。切ない曲をジェイムズが丁寧に綴っていきます。黒田卓也とジェイムズの共演曲が単なるムーディーで終わっていたのとは大違い。繊細な感情が聴いている者の心に染みます。ジェイムズとのこの曲を聴いただけでも、バワーズがフュージョンをやっていないのが分かります。ピアノとジェイムズの美しくも切ない語らいが良いです。多重録音のコーラスやシンセの使い方もアートしています。

決して強い表現ではないと思いますが(それが現代的)、バワーズにはジャズへの志向が感じられます。それは漂う芸術性と言っても良いかもしれません。セロニアス・モンク・コンペティションで優勝(2011年)しただけのことはあると思います。ジャズの芸術的な部分をきちんと継承/表現しています。このアルバムの繊細な部分を聴き取ってほしいです。バワーズの今後に期待。

少し前にモンク・コンペが現代ジャズをつまらなくしているというような意見を耳にして、私もそうかもしれないと思ったことがありました。しかし最近はモンク・コンペがジャズの芸術性を担保している部分があるのだろうと、モンク・コンペを肯定的に捉えるようになりました。モンク・コンペが現代ジャズをつまらなくしているという意見、残念ながらそれはジャズの芸術性をよく理解していない人の意見なのだろうと思います。

アルバム名:『HEROES + MISFITS』
メンバー:
Kris Bowers(p, fender rhodes, syn)
Casey benjamin(as 3,4,6,8, vocoder 3)
Kenneth WhalumⅢ(ts 3-6,8, ss 3)
Adam Agati(g)
Burness Earl TravisⅡ(el-b)
Jamire Williams(ds)
スペシャル・ゲスト:
Julia Easterlin(vo) 5
Jose James(vo) 10
Chris Turner(vo) 3,6,7

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