久しぶりのユーロジャズ
ジャズ新譜紹介です。ジャズ喫茶「いーぐる」で開催されている「ユニバーサルジャズ、ディスクユニオン合同主催・新譜試聴会」でこのアルバムがかかったらしく、「いーぐる」の掲示板にこのアルバムが良いと書いてあったので聴いてみることにしました。
* 4月28日(月) PM8:00~PM10:00 その第4回が開催されます。
オリヴィエ・ボーゲの『ザ・ワールド・ビギンズ・トゥデイ』(2013年rec. naive)です。メンバーは、オリヴィエ・ボーゲ(sax,voice,p)、ティグラン・ハマシアン(p)、サム・ミナイエ(b)、ジェフ・バラード(ds)です。リーダーのボーゲはフランス人とのこと。これまでにリーダー作を出しているようですが私は初めて聴きました。注目はピアノのティグランなのでしょう。私はこの人も初めて聴きました。(と思ったのですが、ティグランはラーシュ・ダニエルソンのアルバムとアリ・ホニックのスモールズ・ライブで弾いていました。印象薄いかも?)
全曲ボーゲが作曲。久しぶりにこういうユーロジャズを聴きました。最近はユーロジャズをほとんど聴かなくなってしまった私なので、ヨーロッパならではのエスニック色漂うものもたまには良いです。非4ビートの曲ばかりで、演奏の方向性はコンテンポラリーなものになっています。中にはパット・メセニーのサウンドを感じさせるものまであってなかなか面白いです。
エスニックを色濃く感じさせるのはティグランのピアノですね。ティグランはアルメニア出身で随所にアルメニア音階を織り交ぜているのだそうです。ティグランのピアノを聴いていて私はとても面白い感覚にとらわれました。というのはこのピアノのフレーズ(ティグラン節)に上原ひろみとの近似性を感じたからです。弾き方は似てはいないのですが、フレーズから漂う哀愁は日本的なメロディーにも通じると思います。
私は日本人なので上原にエスニック色は感じていなかったのですが、日本のフォークソング(ニューミュージック)のメロディーは強く感じていました。今回ティグランとの奇妙な近似性から上原の(外国人からすれば)エスニック色を改めて意識したというのが面白いです。そしてティグランが日本人受けする理由が分かったような気がします。周りからティグランが良いという声が聞こえていたのでなるほどと思いました。
もう一つ面白いのはボーゲが2曲でピアノを弾いている(多重録音)こと。ボーゲのピアノにはエスニック色はありません。ではそこに見えてくるものとは? まず《ライジング・ライツ》はボーゲがボイスを混ぜていたりして、物語性がある曲調からはメセニー・サウンドが見えてきます。そしてもう1曲《ザ・リトル・マリー・T》からは愛らしいフォーキーな曲調と相まってキース・ジャレットを感じます。ボーゲが目指している方向性が何となく分かりますよね。
さて、肝心のボーゲのサックスにはあまり個性を感じません。滑らかにメロディアスにサックスを吹いています。ここで吹いているサックスだけを抜き出せばフュージョン系のものだろうと思います。今時のサックス奏者らしいと思います。スムーズなサックスに日本人好みの哀愁を感じさせるティグランの組み合わせは、”ド”ジャズファンよりは女子ジャズ(久々登場!)の方に受けるかも?
ミナイエのベースはヨーロッパ系らしい技術のしっかりしたべースでがっちりボトムを固めています。バラードのドラミングが良いですね。こういうコンテンポラリー系の柔軟なビートを叩かせると上手いです。で、ビートが柔軟なだけに収まっていないところがこの人の良さ。哀愁メロディーに組み合わせると黄金の組み合わせとなる”ガッツ”を与えています。バラードの弾むリズムが気分を盛り上げてくれるのです。
ボーゲのサックスだけだと?かもしれませんが、ボーゲが作る良いメロディーの曲を土台にして、そこにティグランの”哀愁”とバラードの”ガッツ”を組み合わせたところが良さです。寺島靖国さんが言う「ジャズは哀愁とガッツ」が体現されています。こういうアルバムを推薦するのはディスクユニオンの得意とするところでしょう。
以前紹介した黒田卓也は当然ユニバーサルジャズ一押し。そしてこちらはディスクユニオン一押し。なるほどね。たった2枚からジャズ業界の構図が透けて見えたりして(笑)。にしても狭いな~。事情ツウには分かるはず。
アルバム名:『THE WORLD BEGINS TODAY』
メンバー:
Olivier Boge(sax, voice, p)(4)(6)
Tigran Hamasyan(p)
Sam Minaie(b)
Jeff Ballard(ds)
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