これもやはりフュージョンでした。
ジャズ新譜紹介です。ジャズ喫茶「いーぐる」で開催されている「ユニバーサルジャズ、ディスクユニオン合同主催・新譜試聴会」でこのアルバムがかかったらしく、「いーぐる」の掲示板にこのアルバムが良いと書いてあったので聴いてみることにしました。
黒田卓也の『ライジング・サン』 (2013年rec. BLUE NOTE)です。メンバーは、黒田卓也(tp)、コーリー・キング(tb)、クリス・バワーズ(rhodes,syn,p)、ソロモン・ドーシー(b,synth bass,per,vo)、ネイト・スミス(ds)、リオーネル・ルエケ(g)(2)、ホセ・ジェイムズ(vo)(5)です。ホセ・ジェイムズのプロデュースで、日本人としては初めて米ブルーノートからアルバムを出したそうです。
これを聴いてすぐに思い浮かんだのが日野皓正(ヒノテル)の80年代フュージョンアルバム(本人は70年代CTIやハービー・ハンコックのようなと言ってます)。そういえば当時ヒノテル(渡辺貞夫と菊地雅章も)が米CBSと契約して話題になったんですよね。これもまた80年代に起こったことの繰り返してのような・・・。80年代ジャズシーンをよく知らない今時の人達はワクワクするんでしょうけれど、私にとっては特にどうという感慨もなく・・・。何とかならんのでしょうか。今の私のこの思い。
1曲目《ライジング・サン》には今時のグルーヴ感とサウンドがあり良い感じだと思います。トランペットのソロもありますが、それよりはサウンドを聴かせる曲。この曲に限らず多重録音をしています。2曲目《アフロ・ブルース》はこの曲だけリオーネル・ルエケが参加していて、アフリカンビートが心地良いです。ビートが違うんですけれど、私にはなぜかヒノテルのあの三三七拍子曲が思い浮かんでしまうという(笑)。アフリカンビートに乗って繰り広げられる黒田、バワーズ、キング、ルエケのソロはなかなか良いと思います。
3曲目《ピリ・ピリ》は80年代フュージョンの匂いが濃厚。この曲他6曲を黒田が作っているのですが、この人の曲には日本人メロディーを感じます。80年代ヒノテルや同じく当時話題になったタイガー大越とかの曲に雰囲気が似ているからです。こういう曲だとバワーズのエレピが当時のヒノテルのバンドにいたケニー・カークランドに聴こえてきてしまいます。ここで際立つのがビートの違い。ネイト・スミスが叩くビートは80年代のフュージョンとは全く異なっているのが分かります。最早新しさを感じるのはビートだけなのでしょうか?
4曲目《マラ》も80年代ヒノテル調。ビートだけは今時です。黒田のトランペットは抑制が効いているのに対し、80年代のヒノテルはもう少し熱かったですけどね。HMVサイトの黒田のインタビュー記事にヒノテルは一切出てきませんが、私にはこのメロディーとサウンドにどうしてもヒノテルが透けて見えてしまいます。不思議なことです。
5曲目《エブリバディ・ラブズ・ザ・サンシャイン》はロイ・エアーズの曲。プロデューサーのホセが歌います。ムーディーな曲に仕上がっていますね。ヒップホップ・ミュージシャンが尊敬するジャズ・ミュージシャンの上位に位置するのがこのロイ・エアーズ。中山康樹さんの「ジャズ・ヒップホップ学習会」で、中山さんがなぜこの人が上位にいるのか理由を知りたいと言っていたのを思い出しました。
この曲を聴いて思いましたね。尊敬するジャズ・ミュージシャンの上位にロイ・エアーズが来ること、それが「ボタンの掛け違い」の始まりなのです。黒人音楽として上位に置くのは問題ないと思いますが、ジャズの上位に置くのは誤り(キッパリ)。ここでボタンを掛け違えると、「油井正一的ジャズ観」との食い違いの溝は永遠に埋まらないのではないかと私は思います。「油井正一的ジャズ観」は日本でのジャズ評論なのであって、あちらとは無関係と言う人がいるでしょう。しかし「油井正一的ジャズ観」はとても上手くあちらのジャズ状況を説明した上に成り立つジャズ観なのです。ですからあちらと無関係とは決して言えないと私は考えます。
この曲でのスミスのドラミングは、ロバート・グラスパー・エクスペリメントで現代ビートを叩いていたクリス・デイヴに近いです。クリス・ポッター・アンダーグラウンドで叩いているスミスからは感じなかったビート。スミスもやはり現代ドラマーなのですね。状況により色々なビートを叩き分けることができるスミス、やはり凄いドラマーなのだと認識を新たにしました。
6曲目《グリーン・アンド・ゴールド》もロイ・エアーズの曲。サウンドは80年代ヒノテルです。ヒノテルもこういうレイジーな演奏をしていました。ここでのバワーズがやっぱりカークランドに聴こえます。7曲目《サムタイム・サムホエア・サムハウ》がこれまたヒノテル曲調。バワーズのローズ・ソロ、今度はジョー・サンプル風です。サンプルの『虹の楽園』以降のアルバムを聴いたことがある人には頷いてもらえるはず。懐かしいな~。黒田のソロもヒノテルっぽいですよね。
ラスト《コール》は現代ビートの曲。ヒップホップ的感覚のスミスの現代ドラミングを堪能できます。スミスのドラミングはカッコイイーっす。これはロバート・グラスパー・イクスペリメントの曲に通じますね。でもトランペットが鳴るとどうしてもヒノテルが浮かんできてしまう私。で、バッキングしているバワーズのエレピがカークランドに聴こえるという・・・。しつこい(笑)。
私にはフュージョン・アルバムとして楽しめるアルバム。でも残念ながらそれ程良いとは思えませんでした。これが良いと言っている皆さんは、当然80年代フュージョンヒノテルの良さを認めているんですよね? でないと論理的に破綻しますよ(笑)。ただしそれがジャズとして良いかどうかは問わないことにしておきましょう。
こんなのがありました。
*
アルバム名:『Raising Son』
メンバー:
Takuya Kuroda(tp)
Corey King(tb)
Kris Bowers(rhodes, syn, p)
Solomon Dorsey(b, synth bass, per, vo)
Nate Smith(ds, per)
Lionel Loueke(g) (2)
Jose James(vo) (5)
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