現代版アル&ズート
ジャズ新譜紹介です。クリスクロス・レーベルは現代ジャズのストレート・アヘッドな部分を丁寧に追いかけて良質なアルバムを出すレーベル。ジャズはそれほど売れないと思うのですが、定期的に4、5枚の新譜を出し続けるその姿勢には頭が下がります。話題になりつつある新人にアルバム録音の機会を与えたり、地道に活動しいる中堅どころに定期的にアルバム録音をさせたり、現代ジャズを支える貴重なレーベルだと思います。私は全てのアルバムを追いかけてはいませんが、気になるアルバムは買うことにしています。今日紹介するのはそんな中の1枚。
シーマス・ブレイクとクリス・チークの『リーズ・ランブル』(2013年rec. Chris Cross)です。メンバーは、シーマス・ブレイク(ts)、クリス・チーク(ts,ss)、イーサン・アイヴァーソン(p)、マット・ペンマン(b)、ヨッヘン・ルカート(ds)です。ブレイクとチークは中堅というよりはそろそろベテランの域に入いりますよね。私にとってこの2人はやっているジャズのスタイルが似ている印象で、だから今回のアルバムは2人の相性の良さが出ているのではないかと期待して買いました。
実際にアルバムを聴くとそれは見事に的中し、2人のテナーはとても心地良く絡んでいます。また2人で壮絶なテナー・バトルを展開するような場面はなく、お互いにそれぞれの技を力まずに出しあって楽しむような雰囲気になっているところが意外です。そういう演奏になる理由はやっている曲によるのだろうと思います。ブレイクとチークは1曲づつしかオリジナル曲を出しておらず、他は新旧ジャズマンなどの良いメロディーの曲ばかり。つまり2人が気に入った曲をメロディアスに聴かせようという趣向。もちろんこの2人なので演奏の質は高く保たれています。
メロディアスに聴かせる趣向ということで、テーマのアンサンブルは丁寧に編曲されています。テーマ部で「これは良い曲だな」としっかり印象付けて、それに沿った形でメロディアスなアドリブを展開していく演奏ばかりが詰まっています。なので2人が1曲ずつ提供するオリジナルも良いメロディーの聴きやすい曲です。この2人なら抽象的な曲でアドリブ一発という演奏もできたのでしょうが、そうなっていないのが意外で面白いところ。白人テナーコンビということで、私の中にはアル・コーンとズート・シムズが浮かんできました。それがタイトルの「現代版アル&ズート」。
聴くまでは抽象的な曲でアドリブ一発のアルバムにしたかったから、ピアノのイーサン・アイヴァーソンを起用したのかと思いました。というのもアイヴァーソンは轟音ピアノ・トリオとして知られるザ・バッド・プラスのピアニストで、ここでも”ガシガシ”と尖がったピアノを弾いて、白熱のフロント2人を煽っているのではないかと思ったからです。ところが差に非ず、上記の趣向に沿ってメロディアスなバッキングをしていたのは意外でした。アイヴァーソン、実はバッド・プラスでも結構メロディアスなピアノも弾いているのですが、イメージとして前述のように思いがちなのです。
まあこのアルバムでも単にメロディアスに弾いているのではなく、随所にアイヴァーソンらしい尖がりはあります。私は最近のアイヴァーソンのジャズという大地にしっかり足を着けた自信あふれる演奏にとても魅力を感じています。このアルバムがメロディアスに聴かせるものであるにしろ、アイヴァーソン以下ピアノ・トリオ陣は緩くやっているわけではなく、温和なフロントをを力強くサポートしているのも聴きどころです。
ソプラノ・サックスを吹く曲で分かるのですが、向かって右がクリス・チークで向かって左がシーマス・ブレイクですね。ジャケット写真とは反対の配置です。演奏者の中に入って(後ろで)聴く感じか。テナーの音はチークの方が太めでブレイクの方が鋭いです。フレージングに関してはチークの方が堅実でブレイクの方がアグレッシブ。私の個人的な好みでは音もフレージングもブレイクが好きす。
こういうストレート・アヘッドでオーソドックスなジャズもまた良いです。前に紹介したアンブローズ・アキンムシーレなどを聴いた後で、このアルバムを聴くと程よく寛げて心地良い気分になります。色々織り交ぜて聴くのがジャズを飽きずに聴き続けるコツですよね。
アルバム名:『REEDS RAMBLE』
メンバー:
Seamus Blake(ts)
Chris Cheec(ts, ss)
Ethan Iverson(p)
Matt Penman(b)
Jochen Rueckert(ds),/span>
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