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しっかりしたジャズを聴かせてくれます。

ジャズ新譜紹介です。最近のブルーノートは売れ線なアルバムが多く出るようなので、その動向が心配になっていたのがこの人。同レーベルでのファーストアルバムが暗めのお堅いジャズだったので、セカンドアルバムが出るか私は心配していたのです。でもその心配をよそに無事セカンドアルバムが出たのでまずは一安心。

P34 アンブローズ・アキンムシーレ『ザ・イマジンド・セイヴァー・イズ・ファー・イージアー・トゥ・ペイント』(2014年、BLUE NOTE)です。メンバーは、アンプローズ・アキンムシーレ(tp,per,juno keybord)、ウォルター・スミス(ts)、サム・ハリス(p)、チャールズ・アルトゥラ(g)、ハリシュ・ラガヴァン(b)、ジャスティン・ブラウン(ds)、エレナ・ピンターグス?(fl)、ベッカ・スティーヴンス(vo)、テオ・ブレックマン(vo,effects)、コールド・スペックス(vo)、マリア・イム(vl)、ブルック・キギンス・サウルーニャ?(vl)、カリー・チーコムスキ(viola)、マリア・ジェファーズ(cello)です。もうタイトルからして小難しいですよね(笑)。プロデュースは本人。前アルバムから引き続いたメンバーの他に新メンバーも加わっています。ピアノはジェラルド・クレイトンからサム・ハリスにチェンジ。3曲でボーカルをフィーチャ。1曲を除いてアキンムシーレが作曲しています。

こういうジャズもブルーノートから出してくれることが分かって安心しました。でもよく考えれば、こういうジャズの筆頭とも言えるウェイン・ショーターがいますし、昨年出たテレンス・ブランチャードのアルバムも売れ線とは言い難かったので、アキンムシーレについて心配する必要はなかったのかもしれません。まあショーターの場合は知名度と話題性から契約したんでしょうから別格。

1曲目《マリー・クリスティー》はピアノとのデュオ。カデンツァ風に吹くトランペットには力がこもっています。アキンムシーレにとってマリー・クリスティーとはどういう女性なのでしょうね。トランペットから溢れる情感に思いを馳せます。この出だしから意気込みとジャズがムンムン匂ってきて私はニンマリ。

2曲目《アズ・ウィー・ファイト(ウィリー・ペンローズ)》はスピリチュアル~ユダヤ系という現代性で非4ビート曲。テナーのスミスにギターのアルトゥラが加わったセクステットでの演奏です。アルトゥラはご存知のとおり新生チック・バンドのメンバーなので、ここに入っていたのは意外でした。でも音楽性に違和感はないです。ソロの回し方が少し変わっていて面白く、しっかり曲を構成しつつソロもきちんと聴かせます。各人のソロの質は高いです。

3曲目《アワ・ベースメント(エド)》はベッカ・スティーブンスのボーカルをフィーチャ。曲もスティーブンスが提供。ピアノとドラムにストリングス・カルテットが加わってスティーブンスらしいフォーク系の曲が展開します。情感が籠ったトランペット・ソロが狂おしい。スティーブンスのボーカルと曲のイメージを生かした好編曲になっていつつ、アキンムシーレは存在感を示します。

4曲目《ヴァーサ》はトランペットとギターのクインテットで哀愁ワルツ。メロディーがユダヤ系に聴こえます。アルトゥラのギターが哀感を漂わせて良い感じです。アルトゥラはカート・ローゼンウィンケル以降の現代ギター系譜でテクニック抜群。ハリスのピアノ・ソロはドラマチック。ピアノの後ろでドラムがガンガン煽って盛り上がりを見せます。哀感に熱気も加わった重厚感が◎。

5曲目《メモ(g.ラーソン)》は、6/8拍子のなかなか開放感ある美メロ曲。ドラムの細分化されたビートは現代的。セクステット演奏でトランペット、テナー、ギターのソロは各自が力を発揮。

6曲目《ザ・ビューティー・オブ・ディゾルヴィング・ポートレイツ》は、トランペットとフルートとベースにストリングス・カルテットで演奏。曲調や弦の響きに雅楽のような雰囲気が感じられて面白いです。幽玄な中で朗々と優雅に歌うトランペットはスケールが大きい。

7曲目《アジアム(ジョアン)》はテオ・ブレックマンのボーカルをフィーチャ。ブレックマンの美声を生かした演奏。曲はアキンムシーレで歌詞はブレックマン。ブレックマンがフィーチャされたのも意外でした。でもアキンムシーレの音楽性を考えれば違和感なし。現代ニューヨーク・ダウンタウンという括りで解釈できます。ボーカルの左右移動を加えて幻想的な出来栄え。トランペットが主張していながらブレックマンと上手く併存しているところはさすがです。

8曲目《バブルズ(ジョン・ウィリアム・サブレット)》はセクステットによる変拍子現代バップ演奏。テーマのメロディーは抽象的。パワフルなベース・ソロから入ります。続くのはドラム・ソロ。この曲はテーマとベース・ソロとドラム・ソロだけという面白さ。

9曲目《シースレス・イネクサスティブル・チャイルド(シントイア・ブラウン)》はコールド・スペックスのボーカルをフィーチャ。スペックスは新世代ソウル・シンガーらしいです。私は初めて知りました。曲はアキンムシーレで歌詞はスペックス。スペックスがゆったりとブルージーな歌を披露。バックでアキンムシーレが叩くタンバリンやパーカッションがいい味を出してます。トランペットが主張しながらやっぱりボーカルの邪魔になっていません。スペックの灰汁の強い歌に負けない表現力を示すトランペットが素晴らしい。

10曲目《ロールコール・フォー・ドーズ・アブセント》はハリスのムーグ・シンセとアキンムシーレのオルガンのようなキーボードをバックに、女の子が詩の朗読をする何やら怪しげな曲。懐かしげで寂しげな雰囲気が心にひっかかります。

警察に射殺された黒人青少年の名前を読み上げているとのこと。なるほどそういうことだったのですね。この異様な雰囲気。

11曲目《J.E.ニルマ(イクリズアスティズ6:10)》はトランペットとギターのクインテット演奏。トランペットとピアノのデュオがしばらく続いた後、他のメンバーが加わって変拍子の抽象的なテーマが現れます。トランペットの熱いソロのバックでドラムとベースが力強く煽ります。

12曲目《インフレーテッドバイスプリング》はフルートとストリングス・カルテットとベースで演奏される3分のクラシカルな室内楽的演奏。アキンムシーレは参加していません。こういう曲を入れるあたりにアキンムシーレの単なるトランペッターの域を出た主張があるのでしょう。

ラスト《リチャード(コンドゥウィト)》はスピリチュアルな曲で、トランペットとテナーのクインテット演奏。この曲だけはインナースリーブに記載がないので後から追加になったのかもしれません。12曲目で終わった方が収まりが良いように思えますから。途中に拍手が入っていてライブ録音だ分かります。これはオマケ曲なのかも? ここでも未練がましくたっぷりかつ思いっきりトランペット・ソロを展開。途中から曲調が変わってスミスのテナー・ソロへ。スミスは落ち着いて朗々とテナーを吹奏しています。更にハリスのピアノ・ソロは今時の歯切れ良いピアノ。でもう一度トランペット・ソロ。ライブでの白熱演奏が楽しめます。

とまあこんな具合で、色々な編成にゲスト・ボーカルまで加え、曲調も様々で、更にオマケ曲(16分半)まであるという、もうアキンムシーレの魅力を余すところなくタップリ詰め込んであります。前作から3年ぶりなのでこうなったのでしょうね。間違いなく力作。良いアルバムだと思います。でもトータル78分44秒を続けて聴くのは少々しんどいかもしれません。私の中のアキンムシーレ株は更に上昇しました。

今のところ日本盤が出ていないようです。出してもあまり売れないでしょう。昨今の日本のジャズ需要下ではあまり受けない気がします。良いジャズをやっているんですけどね。

アルバム名:『The Imagined Savior Is Far Easier To Paint』
メンバー:
Ambrose Akinmusire(tp)
Walter Smith III(sax)
Charles Altura(g)
Sam Harris(p)
Harish Raghavan(b)
Justin Brown(ds)
Becca Stevens(vo)
Theo Bleckmann(vo)
Cold Specks(vo)
OSSO String Quartet

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