ザ・バッド・プラスの《春の祭典》
新譜紹介です。最近ザ・バッド・プラスをフォローしているので買いました。
ザ・バッド・プラスの『春の祭典』(2013年rec. masterworks)です。 メンバーは、リード・アンダーソン(b,electronics)、イーサン・アイヴァーソン(p)、デヴィッド・キング(ds)です。《春の祭典》はイゴーリ・ストラヴィンスキーのバレエ音楽で、 複雑なリズムと不協和音で有名です。今回バッド・プラスがどんな風に料理しているか気になりますよね。
実は私、バッド・プラスの新譜というだけで内容をよく確認せずにAmazonで”ポチッ”としてしまいました。届いたCDを例によって何も考えずCDプレーヤーのトレーに入れて再生。するとどこかで聴いたことがあるメロディーが流れてきます。最初はバッド・プラスの過去のアルバムに入っている曲の再演だと思っていました。しばらく聴きつづけると・・・、アレッこれはひょっとして《春の祭典》? ジャケットの曲名を良く見てみると、やっぱり、《春の祭典》ではありませんか! 久しぶりにこの曲を聴きました。
もう何年もこの曲を聴いていなかったので忘れかけていました。レコードは持っています。今から30年くらい前、当時私が愛読していたオーディオ誌「サウンドメイト」にクラシックの廉価盤を薦める記事があって、それに感化されて買ったアルバムです。その記事の中でこのアルバムを薦めていたわけではなく(記事の中で薦めているアルバムは売っていなかった)、前から興味があったこの曲を選んだだけです。
クラシック界では有名な”不協和音”満載の曲で、初演の時には客席から怒号が飛び交い凄い喧噪になったという逸話が語り継がれています。ある意味怖いもの見たさで買ったアルバム。「サウンドメイト」の記事で廉価盤を薦める理由は、値段は安いけれど再発されるだけあって演奏は評価が高いものだからというもの。このアルバムもロリン・マゼールが指揮したウィーン・フィルの名演奏の一つとされています。私が初めて聴いたウィーン・フィルがこれ。
ロリン・マゼールと言えば、今はウィーン・フィルのニューイヤーコンサートが思い浮かびます。父がクラシック好きでもあったので、正月にNHK教育TVで生中継されるこのニューイヤーコンサートを好んで見ていて、正月実家に帰った私はそこで指揮するマゼールを何度か見ているからです。マゼールはなかなか愛嬌がある人で、コンサートの最後に演奏する《ラデッキー行進曲》(2005年の指揮/演出だったと思う)はとても楽しかったです。何度も来日しているので日本人にとっては親しみがある指揮者だろうと思います。
《春の祭典》、意外や意外私は結構好きになりました。何が好きなのかというととてもリズミックだからです。原始的と言われるそのリズムの躍動感が好きなのです。私がなぜクラシックが苦手かというと、ほとんどの場合リズム/ビートがないから。聴いていて眠くなります。だからこういうリズミックな曲なら楽しめます。不協和音については意外と気になりませんでした。逆にそのアバンギャルドな部分が気に入ったくらいです。
さて、そんな《春の祭典》をバッド・プラスがどう演奏しているのか。冒頭は心臓の鼓動から入ります。この導入の仕方、ピンクフロイドの『狂気』みたいですよね。プログレッシブ・ロック的アプローチです。1曲目はアンダーソンの操るエレクトロニクス(主にサンプリング音)とアイヴァーソンのピアノの競演。《春の祭典》の原始的かつ幻想的な部分を効果的かつセンス良く表現していてカッコいいです。残念ながらこのアプローチはこの1曲のみ。私としてはもう少しこのパターンで演奏してほしかったです。
2曲目以降はピアノ・トリオになり、《春の祭典》の原始的なリズムがバッド・プラスの轟音ピアノ・トリオで再現されていきます。これが非常にマッチ。《春の祭典》のジャズ的な部分がとても上手く表現されていて、ここまでトリオの音楽性と楽曲がマッチすることって稀ではないいかと思います。かなりの部分が編曲されていてアドリブはほとんど無いと思いますが、自然発生的に聴こえて演奏のダイナミズムによって気分が高揚します。
基本的に私はクラシックの曲をジャズでやるのはあまり好きではないのですが、この演奏はとても気に入りました。《春の祭典》を確固としたバッ・ドプラス節で水を得た魚の如く料理していく様は快感以外の何者でもありません。途中で眠くなるようなことはありません。40分弱一挙に聴き通せて充実感が残ります。《春の祭典》の名演がまたひとつ生まれた瞬間なのかも?
このCDを聴き終わった後で、久しぶりにマゼール指揮ウィーンフィルの《春の祭典》を聴きました。オーケストラの迫力サウンドも良いですね。血が騒ぎ胸が躍ります。
アルバム名:『THE RITE OF SPRING』
メンバー:
THE BAD PLUS
Reid Anderson(b, electronics)
Ethan Iverson(p)
David King(ds)
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