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2014年4月

ザ・バッド・プラスの《春の祭典》

新譜紹介です。最近ザ・バッド・プラスをフォローしているので買いました。

P47ザ・バッド・プラス『春の祭典』(2013年rec. masterworks)です。 メンバーは、リード・アンダーソン(b,electronics)、イーサン・アイヴァーソン(p)、デヴィッド・キング(ds)です。《春の祭典》はイゴーリ・ストラヴィンスキーのバレエ音楽で、 複雑なリズムと不協和音で有名です。今回バッド・プラスがどんな風に料理しているか気になりますよね。

実は私、バッド・プラスの新譜というだけで内容をよく確認せずにAmazonで”ポチッ”としてしまいました。届いたCDを例によって何も考えずCDプレーヤーのトレーに入れて再生。するとどこかで聴いたことがあるメロディーが流れてきます。最初はバッド・プラスの過去のアルバムに入っている曲の再演だと思っていました。しばらく聴きつづけると・・・、アレッこれはひょっとして《春の祭典》? ジャケットの曲名を良く見てみると、やっぱり、《春の祭典》ではありませんか! 久しぶりにこの曲を聴きました。

P48 もう何年もこの曲を聴いていなかったので忘れかけていました。レコードは持っています。今から30年くらい前、当時私が愛読していたオーディオ誌「サウンドメイト」にクラシックの廉価盤を薦める記事があって、それに感化されて買ったアルバムです。その記事の中でこのアルバムを薦めていたわけではなく(記事の中で薦めているアルバムは売っていなかった)、前から興味があったこの曲を選んだだけです。

クラシック界では有名な”不協和音”満載の曲で、初演の時には客席から怒号が飛び交い凄い喧噪になったという逸話が語り継がれています。ある意味怖いもの見たさで買ったアルバム。「サウンドメイト」の記事で廉価盤を薦める理由は、値段は安いけれど再発されるだけあって演奏は評価が高いものだからというもの。このアルバムもロリン・マゼールが指揮したウィーン・フィルの名演奏の一つとされています。私が初めて聴いたウィーン・フィルがこれ。

ロリン・マゼールと言えば、今はウィーン・フィルのニューイヤーコンサートが思い浮かびます。父がクラシック好きでもあったので、正月にNHK教育TVで生中継されるこのニューイヤーコンサートを好んで見ていて、正月実家に帰った私はそこで指揮するマゼールを何度か見ているからです。マゼールはなかなか愛嬌がある人で、コンサートの最後に演奏する《ラデッキー行進曲》(2005年の指揮/演出だったと思う)はとても楽しかったです。何度も来日しているので日本人にとっては親しみがある指揮者だろうと思います。

《春の祭典》、意外や意外私は結構好きになりました。何が好きなのかというととてもリズミックだからです。原始的と言われるそのリズムの躍動感が好きなのです。私がなぜクラシックが苦手かというと、ほとんどの場合リズム/ビートがないから。聴いていて眠くなります。だからこういうリズミックな曲なら楽しめます。不協和音については意外と気になりませんでした。逆にそのアバンギャルドな部分が気に入ったくらいです。

さて、そんな《春の祭典》をバッド・プラスがどう演奏しているのか。冒頭は心臓の鼓動から入ります。この導入の仕方、ピンクフロイドの『狂気』みたいですよね。プログレッシブ・ロック的アプローチです。1曲目はアンダーソンの操るエレクトロニクス(主にサンプリング音)とアイヴァーソンのピアノの競演。《春の祭典》の原始的かつ幻想的な部分を効果的かつセンス良く表現していてカッコいいです。残念ながらこのアプローチはこの1曲のみ。私としてはもう少しこのパターンで演奏してほしかったです。

2曲目以降はピアノ・トリオになり、《春の祭典》の原始的なリズムがバッド・プラスの轟音ピアノ・トリオで再現されていきます。これが非常にマッチ。《春の祭典》のジャズ的な部分がとても上手く表現されていて、ここまでトリオの音楽性と楽曲がマッチすることって稀ではないいかと思います。かなりの部分が編曲されていてアドリブはほとんど無いと思いますが、自然発生的に聴こえて演奏のダイナミズムによって気分が高揚します。

基本的に私はクラシックの曲をジャズでやるのはあまり好きではないのですが、この演奏はとても気に入りました。《春の祭典》を確固としたバッ・ドプラス節で水を得た魚の如く料理していく様は快感以外の何者でもありません。途中で眠くなるようなことはありません。40分弱一挙に聴き通せて充実感が残ります。《春の祭典》の名演がまたひとつ生まれた瞬間なのかも?

このCDを聴き終わった後で、久しぶりにマゼール指揮ウィーンフィルの《春の祭典》を聴きました。オーケストラの迫力サウンドも良いですね。血が騒ぎ胸が躍ります。

アルバム名:『THE RITE OF SPRING』
メンバー:
THE BAD PLUS
Reid Anderson(b, electronics)
Ethan Iverson(p)
David King(ds)

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久しぶりのユーロジャズ

ジャズ新譜紹介です。ジャズ喫茶「いーぐる」で開催されている「ユニバーサルジャズ、ディスクユニオン合同主催・新譜試聴会」でこのアルバムがかかったらしく、「いーぐる」の掲示板にこのアルバムが良いと書いてあったので聴いてみることにしました。

4月28日(月) PM8:00~PM10:00 その第4回が開催されます。

P46 オリヴィエ・ボーゲ『ザ・ワールド・ビギンズ・トゥデイ』(2013年rec. naive)です。メンバーは、オリヴィエ・ボーゲ(sax,voice,p)、ティグラン・ハマシアン(p)、サム・ミナイエ(b)、ジェフ・バラード(ds)です。リーダーのボーゲはフランス人とのこと。これまでにリーダー作を出しているようですが私は初めて聴きました。注目はピアノのティグランなのでしょう。私はこの人も初めて聴きました。(と思ったのですが、ティグランはラーシュ・ダニエルソンのアルバムとアリ・ホニックのスモールズ・ライブで弾いていました。印象薄いかも?)

全曲ボーゲが作曲。久しぶりにこういうユーロジャズを聴きました。最近はユーロジャズをほとんど聴かなくなってしまった私なので、ヨーロッパならではのエスニック色漂うものもたまには良いです。非4ビートの曲ばかりで、演奏の方向性はコンテンポラリーなものになっています。中にはパット・メセニーのサウンドを感じさせるものまであってなかなか面白いです。

エスニックを色濃く感じさせるのはティグランのピアノですね。ティグランはアルメニア出身で随所にアルメニア音階を織り交ぜているのだそうです。ティグランのピアノを聴いていて私はとても面白い感覚にとらわれました。というのはこのピアノのフレーズ(ティグラン節)に上原ひろみとの近似性を感じたからです。弾き方は似てはいないのですが、フレーズから漂う哀愁は日本的なメロディーにも通じると思います。

私は日本人なので上原にエスニック色は感じていなかったのですが、日本のフォークソング(ニューミュージック)のメロディーは強く感じていました。今回ティグランとの奇妙な近似性から上原の(外国人からすれば)エスニック色を改めて意識したというのが面白いです。そしてティグランが日本人受けする理由が分かったような気がします。周りからティグランが良いという声が聞こえていたのでなるほどと思いました。

もう一つ面白いのはボーゲが2曲でピアノを弾いている(多重録音)こと。ボーゲのピアノにはエスニック色はありません。ではそこに見えてくるものとは? まず《ライジング・ライツ》はボーゲがボイスを混ぜていたりして、物語性がある曲調からはメセニー・サウンドが見えてきます。そしてもう1曲《ザ・リトル・マリー・T》からは愛らしいフォーキーな曲調と相まってキース・ジャレットを感じます。ボーゲが目指している方向性が何となく分かりますよね。

さて、肝心のボーゲのサックスにはあまり個性を感じません。滑らかにメロディアスにサックスを吹いています。ここで吹いているサックスだけを抜き出せばフュージョン系のものだろうと思います。今時のサックス奏者らしいと思います。スムーズなサックスに日本人好みの哀愁を感じさせるティグランの組み合わせは、”ド”ジャズファンよりは女子ジャズ(久々登場!)の方に受けるかも?

ミナイエのベースはヨーロッパ系らしい技術のしっかりしたべースでがっちりボトムを固めています。バラードのドラミングが良いですね。こういうコンテンポラリー系の柔軟なビートを叩かせると上手いです。で、ビートが柔軟なだけに収まっていないところがこの人の良さ。哀愁メロディーに組み合わせると黄金の組み合わせとなる”ガッツ”を与えています。バラードの弾むリズムが気分を盛り上げてくれるのです。

ボーゲのサックスだけだと?かもしれませんが、ボーゲが作る良いメロディーの曲を土台にして、そこにティグランの”哀愁”とバラードの”ガッツ”を組み合わせたところが良さです。寺島靖国さんが言う「ジャズは哀愁とガッツ」が体現されています。こういうアルバムを推薦するのはディスクユニオンの得意とするところでしょう。

以前紹介した黒田卓也は当然ユニバーサルジャズ一押し。そしてこちらはディスクユニオン一押し。なるほどね。たった2枚からジャズ業界の構図が透けて見えたりして(笑)。にしても狭いな~。事情ツウには分かるはず。

アルバム名:『THE WORLD BEGINS TODAY』
メンバー:
Olivier Boge(sax, voice, p)(4)(6)
Tigran Hamasyan(p)
Sam Minaie(b)
Jeff Ballard(ds)

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現代版アル&ズート

ジャズ新譜紹介です。クリスクロス・レーベルは現代ジャズのストレート・アヘッドな部分を丁寧に追いかけて良質なアルバムを出すレーベル。ジャズはそれほど売れないと思うのですが、定期的に4、5枚の新譜を出し続けるその姿勢には頭が下がります。話題になりつつある新人にアルバム録音の機会を与えたり、地道に活動しいる中堅どころに定期的にアルバム録音をさせたり、現代ジャズを支える貴重なレーベルだと思います。私は全てのアルバムを追いかけてはいませんが、気になるアルバムは買うことにしています。今日紹介するのはそんな中の1枚。

P45 シーマス・ブレイククリス・チーク『リーズ・ランブル』(2013年rec. Chris Cross)です。メンバーは、シーマス・ブレイク(ts)、クリス・チーク(ts,ss)、イーサン・アイヴァーソン(p)、マット・ペンマン(b)、ヨッヘン・ルカート(ds)です。ブレイクとチークは中堅というよりはそろそろベテランの域に入いりますよね。私にとってこの2人はやっているジャズのスタイルが似ている印象で、だから今回のアルバムは2人の相性の良さが出ているのではないかと期待して買いました。

実際にアルバムを聴くとそれは見事に的中し、2人のテナーはとても心地良く絡んでいます。また2人で壮絶なテナー・バトルを展開するような場面はなく、お互いにそれぞれの技を力まずに出しあって楽しむような雰囲気になっているところが意外です。そういう演奏になる理由はやっている曲によるのだろうと思います。ブレイクとチークは1曲づつしかオリジナル曲を出しておらず、他は新旧ジャズマンなどの良いメロディーの曲ばかり。つまり2人が気に入った曲をメロディアスに聴かせようという趣向。もちろんこの2人なので演奏の質は高く保たれています。

メロディアスに聴かせる趣向ということで、テーマのアンサンブルは丁寧に編曲されています。テーマ部で「これは良い曲だな」としっかり印象付けて、それに沿った形でメロディアスなアドリブを展開していく演奏ばかりが詰まっています。なので2人が1曲ずつ提供するオリジナルも良いメロディーの聴きやすい曲です。この2人なら抽象的な曲でアドリブ一発という演奏もできたのでしょうが、そうなっていないのが意外で面白いところ。白人テナーコンビということで、私の中にはアル・コーンとズート・シムズが浮かんできました。それがタイトルの「現代版アル&ズート」。

聴くまでは抽象的な曲でアドリブ一発のアルバムにしたかったから、ピアノのイーサン・アイヴァーソンを起用したのかと思いました。というのもアイヴァーソンは轟音ピアノ・トリオとして知られるザ・バッド・プラスのピアニストで、ここでも”ガシガシ”と尖がったピアノを弾いて、白熱のフロント2人を煽っているのではないかと思ったからです。ところが差に非ず、上記の趣向に沿ってメロディアスなバッキングをしていたのは意外でした。アイヴァーソン、実はバッド・プラスでも結構メロディアスなピアノも弾いているのですが、イメージとして前述のように思いがちなのです。

まあこのアルバムでも単にメロディアスに弾いているのではなく、随所にアイヴァーソンらしい尖がりはあります。私は最近のアイヴァーソンのジャズという大地にしっかり足を着けた自信あふれる演奏にとても魅力を感じています。このアルバムがメロディアスに聴かせるものであるにしろ、アイヴァーソン以下ピアノ・トリオ陣は緩くやっているわけではなく、温和なフロントをを力強くサポートしているのも聴きどころです。

ソプラノ・サックスを吹く曲で分かるのですが、向かって右がクリス・チークで向かって左がシーマス・ブレイクですね。ジャケット写真とは反対の配置です。演奏者の中に入って(後ろで)聴く感じか。テナーの音はチークの方が太めでブレイクの方が鋭いです。フレージングに関してはチークの方が堅実でブレイクの方がアグレッシブ。私の個人的な好みでは音もフレージングもブレイクが好きす。

こういうストレート・アヘッドでオーソドックスなジャズもまた良いです。前に紹介したアンブローズ・アキンムシーレなどを聴いた後で、このアルバムを聴くと程よく寛げて心地良い気分になります。色々織り交ぜて聴くのがジャズを飽きずに聴き続けるコツですよね。

アルバム名:『REEDS RAMBLE』
メンバー:
Seamus Blake(ts)
Chris Cheec(ts, ss)
Ethan Iverson(p)
Matt Penman(b)
Jochen Rueckert(ds),/span>

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私の”プア(貧乏)”オーディオ(笑)

私のオーディオシステムのグレードダウンはかなり進みました。オーディオというと普及品から入門して、徐々に高級品にグレードアップするのが普通の楽しみ方。でもそんなのありきたりで面白くありません。なので私はグレードダウンで行ってみようと(笑)。どれだけ安いシステムで満足できる音を出せるのか?面白いじゃありませんか。

これがグレードダウンした現状のオーディオシステム。

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実は昨年中にスピーカーをクォードの12L2からダイヤトーンのDS-200Zに交換してあります。たまたまヤフオクで落札してしまったのがきっかけです。安く入手できるなら聴いておいても良いかなという安易な思い付きでした。5050円で落札。オーディオ評論家の故長岡鉄男さんも推薦していた機種なのになぜこんなに安いのか。落札してしまった後で理由が分かりました。

ネット検索するとダイヤトーンのこの頃のスピーカーはウーファーのエッジが硬化しているのだそうです。アチャーッ、皆さんそれをご存知なんですね。ヤフオクの出品コメントでは一応音が出ているということでした。ということはエッジが硬化しているのを暗に示唆しているのでしょう。これではエッジを交換する費用がかかってしまいます。

でも更にネット検索するとウーファーエッジを軟化させる方法が多数ひっかかりました。皆さん同じようなことをやっていたのです。ネット上には今やこういう情報がたくさんあってとても便利。いくつかの方法がある中から簡単で失敗が少なそうなものを実行してみることにしました。

さて届いたスピーカーを確認すると、やはりエッジはカチカチでウーファーが動かないのでした。当然低音は出ません。中高音が”カーカー”鳴っています。ヨッシャーッ!ウーファーエッジ軟化作戦を発動。ブレーキフルードをエッジに浸透させて軟化させます。近所のホームセンターで売っている一番安いブレーキフルードを買いました。

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ネット上にスピーカーの改造をたくさん公開しているサイト(この方は改造したスピーカーをヤフオクに出品している有名な方)があり、ウーファーの取り外し方から詳しく記載されています。それを参考にしてウーファーを取り外しました。

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鉄フレームですけれどなかなかしっかりしたウーファーです。キャンセリングマグネット付の防磁型。このウーファーはローパスフィルターを介せずに接続してあり、高音はウーファーの自然な減衰に任せてあります。ツイーターはU-CON1個のハイパスフィルターで接続。信号をシンプルかつストレートにスピーカーユニットに入れる設計がこのスピーカーの特徴。

エッジの裏側はブレーキフルードを綿棒に付けてダンピング材を拭い取ります。ブレーキフルードを浸透させてダンピング材を軟化させつつ何度も拭いました。ついでにエッジの表側にもブレーキフルードを何度か塗り、エッジはかなり軟化できました。再度組み立てて音を確認すると低音もしっかり出てきます。この作業は一ヵ月ほど経った後に再度実施しています。

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特に目立つ傷もなく外観はなかなかきれいです。このDS-200Zは12L2とは全然音が異なります。何と言っても中音が勢い良く出てきます。なのでサックスとかトランペットの音が気持ち良くてしょうがありません。12L2は中音が控えめのヨーロッパトーンだったのだと改めて実感。ジャズを聴くのには必ずしも適していなかったのです。なるほど、ジャズはDS-200Zのような音で聴いた方が楽しいですね。例のサイトにも書いてありました。ジャズを聴くならJBLかダイヤトーンなのだそうです。納得。

ハイッ、ここでスピーカーを交換することをキッパリ決意。ダイヤトーンDS-66EXの後、タンノイSystem8MkⅡ、タンノイスターリングTWW、クォード12L2と続いた私のメインスピーカーは、またダイヤトーンに戻ることになってしまいました。イギリスの名門スピーカー達よ、これまでありがとう。さようなら!! DS-200Zは低音があまり出ないという意見もありますが、私にはこれで十分。かくしてスピーカーは15分の1以下の価格にグレードダウンしてしまったのであります(笑)。

20年くらい続けた真空管アンプ製作も一旦休止。持っていた真空管パワーアンプを全て処分してしまいました。良く考えたら上記のイギリス製スピーカーを使っていた時期は真空管アンプ自作期と重なることになります。今は自作プリアンプとメンテナンスした古いプリメインアンプをパワーアンプとして使う状態。フォノイコライザーアンプは自作の真空管式。ヘッドホンアンプも自作品。

更にCDプレーヤーもグレードダウンしました。オンキョーのC-7070にオンキョーのDAコンバーター(USB DAC)DAC-1000は、熟慮の上の好選択だと我ながら思っていたのですが・・・。システム的にグレードが合わないだろうということに。

まずハイレゾ音源を聴く機会はあんまりないんです。ハイレゾ用PCがあるわけではなく、ハイレゾを聴く時だけPCをつなぐのがめんどくさいです。更に聴きたい音源があまりないのも痛い。私が聴くのは基本新譜ジャズなのですが、これはもうほとんどCDしか入手できません。MP3配信がありますが、MP3を長く聴くと私は疲れるのでMP3配信はN.G.。古いジャズはレコードを聴いてますし。ということで達した結論はDAコンバータの撤去!

そしてCDプレーヤーC-7070の音が地味で面白くありません。ならばということで、CDプレーヤーも買い換えようと決心。ついでに一連の流れに沿ってグレードダウンしてしまうことにしました。しかしデジタルの世界は最新型が良いのです。音を決めるDAC ICは最新型ほど音が良いというのが電気エンジニアとしての私の持論。ということでAmazonの評価がやたら良かったティアックのCD-H750にしました。

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独特のデザインが気に入っています。買って聴いてみるとお気に入りのアルバム中島美嘉の『トゥルー』が・・・。C-7070ではとてもきれいに聴こえていた声がCD-H750ではそうでもないのです。ストリングスもなんか粗いです。音に元気はあるんですけどね~。C-7070は地味だけれど美音だったのです。品があります。値段が高いだけのことはあるのです。う~む、弱りました。CD-H750、どうしましょうか?

男が一旦決めたこと。もう後戻りしません。キッパリ! CD-H750でイケーッ!(笑) エージングすれば中島美嘉はもう少し何とかなるでしょう。私の耳もこの音に慣れるはず(笑)。昨年末に交換したのでもう4か月過ぎます。エージングが進み、今はそこそこきれいな音でかつ元気よく鳴っているので良しとしています。飾り気がないストレートな鳴り方は廉価カートリッジと共通。今の私のオーディオの方向性にマッチしているのです。

カラッとあっけらかん!音源に入っている音をまんま出しっ放し!それが今の私の”プア”オーディオの音です。潔し(笑)。

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今度こそ廉価カートリッジ探究は終了か?

昨年7月から廉価MM型カートリッジ探究を続けてきたのですが、今度こそ終了しそうな気分です。これにて打ち止めかな?

またまたレコードプレーヤーごと落札しました。今回は1円ではありませんが開始価格で落札。やはりここのカートリッジは人気がないんですね。他にも入札があるだろうと思って放っておいたら誰も入札しませんでした。落札したレコードプレーヤーも動作品。入手したのはナガオカ(ジュエルトーン)のMP-11。大ヒットしたらしいです。日本ではあまり売れていなかったような気がするのですが・・・。

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針は折れています。純正ヘッドシェルMg-704Jに取付けられていました。マグネシウム製ヘッドシェルです。ヤフオクの小さい写真から、アルミブロック削出しヘッドシェルAl-703Jだと思ったのですが勘違いでした。本当はAl-703Jを狙っていたのに・・・、まあこれでも良いです。しっかりした作りの良質なヘッドシェル。結構汚れていたので入念にクリーニングしました。

針が折れていたので、以前入手したMP-150の針を挿してみました。問題なく挿せました。ノブの色が本体ベースの色と異なりますがそれほど違和感はないです。MP-150の音が聴こえてきます。針の音が支配的なんですよね。

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ナガオカのこのシリーズは下からMP-10、MP-11、MP-15、MP-20、MP-30、MP-50の6機種がラインナップされていました。今はこの型番の後ろに”0”を追加して、それぞれ前の仕様を受け継いで販売されています。価格は時流を反映してUP。このMP-11だけはSP用の針をつけ、SP用カートリッジとして現在も継続販売中。

このカートリッジを入手した目的は現行品MP-110の針で聴いてみようということ。ネット上にはMP-11がなかなか良い音だという情報がありました。MP-110にも良さは継承されているはずです。なのでヨドバシ通販(ここはすぐに商品を送ってくれます)で針を入手。JN-P110は接合型楕円針としては安いです。

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ノブが山吹色なので、本体ベースの肌色とデザイン上マッチしないかと思いましたが意外とマッチしています。シェルリード線は恒例のPCOCCに交換。音は癖がなく標準的ですね。いや本当、特に高価なカートリッジを使わなくても、これで十分音楽を楽しめます。変な癖がないので何でもこなせます。

少し慣らし運転をした後でいつもの比較試聴を実施しました。2枚のリー・リトナー『オン・ザ・ライン』(ダイレクトカットディスク)を2台のプレーヤーで同時にかけて、自作フォノイコライザーの入力セレクタで瞬時切替試聴。比較の相手はZ-1S。

左 : ビクターZ-1S(針:JICO現行丸針DT-Z1S)
右 : ナガオカMP-11(針:ナガオカ現行楕円針JN-P110)

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表現力はこのクラスのMM型の標準的なもの。MP-11の方が僅かに出力が小さいです。MP-11の方が高音は良く出て低音は控えめに聴こえます。Z-1Sが開放的に明るく鳴るのに比べ、MP-11は無駄な音が鳴らない感じがします。それから松田聖子のサ行は素直でチェックレコードのトレースは優秀。

新リファレンスAP-25Dとも比較してみました。

左 : A'pisAP-25D(針:A'pis現行楕円針ST-25DED)
右 : ナガオカMP-11(針:ナガオカ現行楕円針JN-P110)

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両者楕円針ということで高音は良く出ます。出力はAP-25Dのほうが大きいです。AP-25Dが少し華やかなのに対して、MP-11(MP-110)は落ち着いた音です。実はMP-110の宣伝文には「落ち着いたサウンドを実現」とあります。そのとおりだと思います。さすがは針の専門メーカーですね。カートリッジの特徴を的確に表しています。そつが無いのですが少々面白みに欠ける音と受け取られる可能性あり。

ここまで聴いてなるほどと思ったことがあります。MP-11の音は、以前Z-1Sとの比較で聴いたXL-25A(針:ナガオカ88-25、接合型楕円)、AT10d(針:ナガオカ74-27 ELLI、接合型楕円)とほとんど同じ印象なのです。そして全てナガオカの接合型楕円針ということから、これが昔も今もナガオカの音作りなのではなかろうかと推測しました。

こうなるとわざわざ古いカートリッジや新古の代替針を買う必要はないと思えます。現行カートリッジを買えば良いのです。新品を買った方が信頼性は高いですし、当然劣化していないわけですからきちんとした音が出ます。またJICOやA'pisの現行針を使うとJICOやA'pisの音になってしまいます。廉価品はカートリッジ本体より針で音が決まってしまうからです。というわけで、私はもう古~いカートリッジ(特にレコードプレーヤーに付属していたもの)にあまり魅力を感じなくなってしまいました。廉価MM型カートリッジを使うなら現行品で十分だと思います。

私の推薦機種は、A'pisのAP-12D(=JICOのJR-525C)、JICOのJR-595E、ナガオカのMP-100またはMP-110、オーディオテクニカのAT100EまたはAT5V。それぞれの音には多少違いがありますので、どれが好みに合うかは聴いて判断するしかないでしょう。少々癖はありますがシュアーのM44Gも良いと思います。

そうだ! このクラスではまだオルトフォンの2M Red(ヘッドシェル付モデル以外は仕様に対して割高感あり)を聴いていないですね。現在もMM型カートリッジを自社製作している海外メーカーとしては、シュアーと双璧のオルトフォン。オルトフォンの音を検証しておかないとまずいでしょうかね? こうなると廉価MM型カートリッジ探究はまだ続くことになってしまいます。困ったものです(笑)。

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しっかりしたジャズを聴かせてくれます。

ジャズ新譜紹介です。最近のブルーノートは売れ線なアルバムが多く出るようなので、その動向が心配になっていたのがこの人。同レーベルでのファーストアルバムが暗めのお堅いジャズだったので、セカンドアルバムが出るか私は心配していたのです。でもその心配をよそに無事セカンドアルバムが出たのでまずは一安心。

P34 アンブローズ・アキンムシーレ『ザ・イマジンド・セイヴァー・イズ・ファー・イージアー・トゥ・ペイント』(2014年、BLUE NOTE)です。メンバーは、アンプローズ・アキンムシーレ(tp,per,juno keybord)、ウォルター・スミス(ts)、サム・ハリス(p)、チャールズ・アルトゥラ(g)、ハリシュ・ラガヴァン(b)、ジャスティン・ブラウン(ds)、エレナ・ピンターグス?(fl)、ベッカ・スティーヴンス(vo)、テオ・ブレックマン(vo,effects)、コールド・スペックス(vo)、マリア・イム(vl)、ブルック・キギンス・サウルーニャ?(vl)、カリー・チーコムスキ(viola)、マリア・ジェファーズ(cello)です。もうタイトルからして小難しいですよね(笑)。プロデュースは本人。前アルバムから引き続いたメンバーの他に新メンバーも加わっています。ピアノはジェラルド・クレイトンからサム・ハリスにチェンジ。3曲でボーカルをフィーチャ。1曲を除いてアキンムシーレが作曲しています。

こういうジャズもブルーノートから出してくれることが分かって安心しました。でもよく考えれば、こういうジャズの筆頭とも言えるウェイン・ショーターがいますし、昨年出たテレンス・ブランチャードのアルバムも売れ線とは言い難かったので、アキンムシーレについて心配する必要はなかったのかもしれません。まあショーターの場合は知名度と話題性から契約したんでしょうから別格。

1曲目《マリー・クリスティー》はピアノとのデュオ。カデンツァ風に吹くトランペットには力がこもっています。アキンムシーレにとってマリー・クリスティーとはどういう女性なのでしょうね。トランペットから溢れる情感に思いを馳せます。この出だしから意気込みとジャズがムンムン匂ってきて私はニンマリ。

2曲目《アズ・ウィー・ファイト(ウィリー・ペンローズ)》はスピリチュアル~ユダヤ系という現代性で非4ビート曲。テナーのスミスにギターのアルトゥラが加わったセクステットでの演奏です。アルトゥラはご存知のとおり新生チック・バンドのメンバーなので、ここに入っていたのは意外でした。でも音楽性に違和感はないです。ソロの回し方が少し変わっていて面白く、しっかり曲を構成しつつソロもきちんと聴かせます。各人のソロの質は高いです。

3曲目《アワ・ベースメント(エド)》はベッカ・スティーブンスのボーカルをフィーチャ。曲もスティーブンスが提供。ピアノとドラムにストリングス・カルテットが加わってスティーブンスらしいフォーク系の曲が展開します。情感が籠ったトランペット・ソロが狂おしい。スティーブンスのボーカルと曲のイメージを生かした好編曲になっていつつ、アキンムシーレは存在感を示します。

4曲目《ヴァーサ》はトランペットとギターのクインテットで哀愁ワルツ。メロディーがユダヤ系に聴こえます。アルトゥラのギターが哀感を漂わせて良い感じです。アルトゥラはカート・ローゼンウィンケル以降の現代ギター系譜でテクニック抜群。ハリスのピアノ・ソロはドラマチック。ピアノの後ろでドラムがガンガン煽って盛り上がりを見せます。哀感に熱気も加わった重厚感が◎。

5曲目《メモ(g.ラーソン)》は、6/8拍子のなかなか開放感ある美メロ曲。ドラムの細分化されたビートは現代的。セクステット演奏でトランペット、テナー、ギターのソロは各自が力を発揮。

6曲目《ザ・ビューティー・オブ・ディゾルヴィング・ポートレイツ》は、トランペットとフルートとベースにストリングス・カルテットで演奏。曲調や弦の響きに雅楽のような雰囲気が感じられて面白いです。幽玄な中で朗々と優雅に歌うトランペットはスケールが大きい。

7曲目《アジアム(ジョアン)》はテオ・ブレックマンのボーカルをフィーチャ。ブレックマンの美声を生かした演奏。曲はアキンムシーレで歌詞はブレックマン。ブレックマンがフィーチャされたのも意外でした。でもアキンムシーレの音楽性を考えれば違和感なし。現代ニューヨーク・ダウンタウンという括りで解釈できます。ボーカルの左右移動を加えて幻想的な出来栄え。トランペットが主張していながらブレックマンと上手く併存しているところはさすがです。

8曲目《バブルズ(ジョン・ウィリアム・サブレット)》はセクステットによる変拍子現代バップ演奏。テーマのメロディーは抽象的。パワフルなベース・ソロから入ります。続くのはドラム・ソロ。この曲はテーマとベース・ソロとドラム・ソロだけという面白さ。

9曲目《シースレス・イネクサスティブル・チャイルド(シントイア・ブラウン)》はコールド・スペックスのボーカルをフィーチャ。スペックスは新世代ソウル・シンガーらしいです。私は初めて知りました。曲はアキンムシーレで歌詞はスペックス。スペックスがゆったりとブルージーな歌を披露。バックでアキンムシーレが叩くタンバリンやパーカッションがいい味を出してます。トランペットが主張しながらやっぱりボーカルの邪魔になっていません。スペックの灰汁の強い歌に負けない表現力を示すトランペットが素晴らしい。

10曲目《ロールコール・フォー・ドーズ・アブセント》はハリスのムーグ・シンセとアキンムシーレのオルガンのようなキーボードをバックに、女の子が詩の朗読をする何やら怪しげな曲。懐かしげで寂しげな雰囲気が心にひっかかります。

警察に射殺された黒人青少年の名前を読み上げているとのこと。なるほどそういうことだったのですね。この異様な雰囲気。

11曲目《J.E.ニルマ(イクリズアスティズ6:10)》はトランペットとギターのクインテット演奏。トランペットとピアノのデュオがしばらく続いた後、他のメンバーが加わって変拍子の抽象的なテーマが現れます。トランペットの熱いソロのバックでドラムとベースが力強く煽ります。

12曲目《インフレーテッドバイスプリング》はフルートとストリングス・カルテットとベースで演奏される3分のクラシカルな室内楽的演奏。アキンムシーレは参加していません。こういう曲を入れるあたりにアキンムシーレの単なるトランペッターの域を出た主張があるのでしょう。

ラスト《リチャード(コンドゥウィト)》はスピリチュアルな曲で、トランペットとテナーのクインテット演奏。この曲だけはインナースリーブに記載がないので後から追加になったのかもしれません。12曲目で終わった方が収まりが良いように思えますから。途中に拍手が入っていてライブ録音だ分かります。これはオマケ曲なのかも? ここでも未練がましくたっぷりかつ思いっきりトランペット・ソロを展開。途中から曲調が変わってスミスのテナー・ソロへ。スミスは落ち着いて朗々とテナーを吹奏しています。更にハリスのピアノ・ソロは今時の歯切れ良いピアノ。でもう一度トランペット・ソロ。ライブでの白熱演奏が楽しめます。

とまあこんな具合で、色々な編成にゲスト・ボーカルまで加え、曲調も様々で、更にオマケ曲(16分半)まであるという、もうアキンムシーレの魅力を余すところなくタップリ詰め込んであります。前作から3年ぶりなのでこうなったのでしょうね。間違いなく力作。良いアルバムだと思います。でもトータル78分44秒を続けて聴くのは少々しんどいかもしれません。私の中のアキンムシーレ株は更に上昇しました。

今のところ日本盤が出ていないようです。出してもあまり売れないでしょう。昨今の日本のジャズ需要下ではあまり受けない気がします。良いジャズをやっているんですけどね。

アルバム名:『The Imagined Savior Is Far Easier To Paint』
メンバー:
Ambrose Akinmusire(tp)
Walter Smith III(sax)
Charles Altura(g)
Sam Harris(p)
Harish Raghavan(b)
Justin Brown(ds)
Becca Stevens(vo)
Theo Bleckmann(vo)
Cold Specks(vo)
OSSO String Quartet

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これもやはりフュージョンでした。

ジャズ新譜紹介です。ジャズ喫茶「いーぐる」で開催されている「ユニバーサルジャズ、ディスクユニオン合同主催・新譜試聴会」でこのアルバムがかかったらしく、「いーぐる」の掲示板にこのアルバムが良いと書いてあったので聴いてみることにしました。

P33 黒田卓也『ライジング・サン』 (2013年rec. BLUE NOTE)です。メンバーは、黒田卓也(tp)、コーリー・キング(tb)、クリス・バワーズ(rhodes,syn,p)、ソロモン・ドーシー(b,synth bass,per,vo)、ネイト・スミス(ds)、リオーネル・ルエケ(g)(2)、ホセ・ジェイムズ(vo)(5)です。ホセ・ジェイムズのプロデュースで、日本人としては初めて米ブルーノートからアルバムを出したそうです。

これを聴いてすぐに思い浮かんだのが日野皓正(ヒノテル)の80年代フュージョンアルバム(本人は70年代CTIやハービー・ハンコックのようなと言ってます)。そういえば当時ヒノテル(渡辺貞夫と菊地雅章も)が米CBSと契約して話題になったんですよね。これもまた80年代に起こったことの繰り返してのような・・・。80年代ジャズシーンをよく知らない今時の人達はワクワクするんでしょうけれど、私にとっては特にどうという感慨もなく・・・。何とかならんのでしょうか。今の私のこの思い。

1曲目《ライジング・サン》には今時のグルーヴ感とサウンドがあり良い感じだと思います。トランペットのソロもありますが、それよりはサウンドを聴かせる曲。この曲に限らず多重録音をしています。2曲目《アフロ・ブルース》はこの曲だけリオーネル・ルエケが参加していて、アフリカンビートが心地良いです。ビートが違うんですけれど、私にはなぜかヒノテルのあの三三七拍子曲が思い浮かんでしまうという(笑)。アフリカンビートに乗って繰り広げられる黒田、バワーズ、キング、ルエケのソロはなかなか良いと思います。

3曲目《ピリ・ピリ》は80年代フュージョンの匂いが濃厚。この曲他6曲を黒田が作っているのですが、この人の曲には日本人メロディーを感じます。80年代ヒノテルや同じく当時話題になったタイガー大越とかの曲に雰囲気が似ているからです。こういう曲だとバワーズのエレピが当時のヒノテルのバンドにいたケニー・カークランドに聴こえてきてしまいます。ここで際立つのがビートの違い。ネイト・スミスが叩くビートは80年代のフュージョンとは全く異なっているのが分かります。最早新しさを感じるのはビートだけなのでしょうか?

4曲目《マラ》も80年代ヒノテル調。ビートだけは今時です。黒田のトランペットは抑制が効いているのに対し、80年代のヒノテルはもう少し熱かったですけどね。HMVサイトの黒田のインタビュー記事にヒノテルは一切出てきませんが、私にはこのメロディーとサウンドにどうしてもヒノテルが透けて見えてしまいます。不思議なことです。

5曲目《エブリバディ・ラブズ・ザ・サンシャイン》はロイ・エアーズの曲。プロデューサーのホセが歌います。ムーディーな曲に仕上がっていますね。ヒップホップ・ミュージシャンが尊敬するジャズ・ミュージシャンの上位に位置するのがこのロイ・エアーズ。中山康樹さんの「ジャズ・ヒップホップ学習会」で、中山さんがなぜこの人が上位にいるのか理由を知りたいと言っていたのを思い出しました。

この曲を聴いて思いましたね。尊敬するジャズ・ミュージシャンの上位にロイ・エアーズが来ること、それが「ボタンの掛け違い」の始まりなのです。黒人音楽として上位に置くのは問題ないと思いますが、ジャズの上位に置くのは誤り(キッパリ)。ここでボタンを掛け違えると、「油井正一的ジャズ観」との食い違いの溝は永遠に埋まらないのではないかと私は思います。「油井正一的ジャズ観」は日本でのジャズ評論なのであって、あちらとは無関係と言う人がいるでしょう。しかし「油井正一的ジャズ観」はとても上手くあちらのジャズ状況を説明した上に成り立つジャズ観なのです。ですからあちらと無関係とは決して言えないと私は考えます。

この曲でのスミスのドラミングは、ロバート・グラスパー・エクスペリメントで現代ビートを叩いていたクリス・デイヴに近いです。クリス・ポッター・アンダーグラウンドで叩いているスミスからは感じなかったビート。スミスもやはり現代ドラマーなのですね。状況により色々なビートを叩き分けることができるスミス、やはり凄いドラマーなのだと認識を新たにしました。

6曲目《グリーン・アンド・ゴールド》もロイ・エアーズの曲。サウンドは80年代ヒノテルです。ヒノテルもこういうレイジーな演奏をしていました。ここでのバワーズがやっぱりカークランドに聴こえます。7曲目《サムタイム・サムホエア・サムハウ》がこれまたヒノテル曲調。バワーズのローズ・ソロ、今度はジョー・サンプル風です。サンプルの『虹の楽園』以降のアルバムを聴いたことがある人には頷いてもらえるはず。懐かしいな~。黒田のソロもヒノテルっぽいですよね。

ラスト《コール》は現代ビートの曲。ヒップホップ的感覚のスミスの現代ドラミングを堪能できます。スミスのドラミングはカッコイイーっす。これはロバート・グラスパー・イクスペリメントの曲に通じますね。でもトランペットが鳴るとどうしてもヒノテルが浮かんできてしまう私。で、バッキングしているバワーズのエレピがカークランドに聴こえるという・・・。しつこい(笑)。

私にはフュージョン・アルバムとして楽しめるアルバム。でも残念ながらそれ程良いとは思えませんでした。これが良いと言っている皆さんは、当然80年代フュージョンヒノテルの良さを認めているんですよね? でないと論理的に破綻しますよ(笑)。ただしそれがジャズとして良いかどうかは問わないことにしておきましょう。

こんなのがありました。

アルバム名:『Raising Son』
メンバー:
Takuya Kuroda(tp)
Corey King(tb)
Kris Bowers(rhodes, syn, p)
Solomon Dorsey(b, synth bass, per, vo)
Nate Smith(ds, per)
Lionel Loueke(g) (2)
Jose James(vo) (5)

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血塗れのクレイグ・テイボーン?

最近ココログの記事作成ページと私のパソコンのインターフェースの具合がかなり悪いです。文字色キーや強調キーなどからの入力が反映されませんし、記事作成画面の表示がHTML表示のままになってしまうこともあります。ココログは比較的頻繁に細かい仕様変更がありまして、これまでにも細かなトラブルや不便さが発生してきました。私が使うパソコンのOSが、XP、Vista、7と変遷したことにもよるでしょう。まあこの手のことは覚悟して付き合っていくのがパソコンの世界だと思っています。使う側は寛容で融通が効かないとやっていけません。

昨年出たアルバムの紹介です。ディスクユニオンのサイトで試聴して気になっていたアルバム。その後買いそびれていたのですが、「ジャズ批評」誌の「マイ・ベスト・ジャズ・アルバム2013」の益子博之さんの推薦文を読んで買う気になりました。そこには前記事にも登場した多田雅範さんが、このアルバムを「血塗れのクレイグ・テイボーン」と評したと書いてあったからです。人を買う気にさせる一言ってありますよね。

P32 マット・ミッチェル『フィクション』(2012年rec. PI RECORDINGS)です。メンバーは、マット・ミッチェル(p)、チェス・スミス(ds,per,vib)です。ピアノとドラムのデュオでフリージャズ。「血塗れの」という言葉のとおり、ピアノを”ガシガシ”弾きまくるミッチェルがいます。益子さんは「底知れない過剰な何かに憑かれたように弾きまくる」と言っています。確かにそのとおりの内容です。

リズミックでダイナミックな演奏がほとんどなので楽しく聴けます。先程フリージャズと書きましたが、決して無秩序な演奏ではなく比較的秩序がある演奏になっています。どういう秩序なのかというと、ミッチェルが弾いているのは数小節のフレーズを基本としていて、それを繰り返して表情を付けていくというもの。ミニマルな要素があります。ドラムはそこに比較的自由に絡んでいきます。フレーズが短めなので曲が姿を現しそうで現さないようなもどかしさがありそれがまた快感。

こういう演奏形態で思い出すのはマイルスの《ネフェルティティ》。マイルスとウェインが同じフレーズを繰り返して表情をつけながら吹奏し、バックでピアノ・トリオが比較的自由に動いていくあれです。ただしこのアルバムでは《ネフェルティティ》のようなゆったりした演奏は少なく、「血塗れの」「憑かれたように弾きまくる」という状況なので、パッと聴いた感じではそれに気づかないです。それからフレーズを繰り返すのがピアノなので、ホーンのようなテクスチャー表現はできませんね。

全曲ミッチェルが作曲しています。4分前後の短めの曲が多くて全部で15曲。自由にやっているようで、実はかなり緻密な計算の基に演奏されているのではないかと思います。そういう部分に気付きながら変化していくフレーズを追いかけていくと面白いのではないでしょうか。そこにダイナミックに絡むドラミングには気分が高揚させられます。サウンド的には時々登場するヴァイブラフォンが良い気分転換になっています。ピアノとヴァイブが醸し出す幻想的な響きにも注目しましょう。

何かに憑かれているようで血塗れではありますが、実は頭脳明晰な凶暴犯といった感じか? こう書いてしまうと何やらとても怖い演奏をしているように感じさせてしまいますよね。そんなことはありません。意外と聴きやすい演奏とメロディーなのではないかと私は思います。多分?

アルバム名:『Fiction』
メンバー:
Matt Mitchell(p)
Ches Smith(ds, per, vib)

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たまにはこの手のアルバムも良いでしょう。

さて、そろそろジャズについて書きましょう。

現在私が最も注目しているジャズピアニストはヴィジェイ・アイヤです。この度ECMからアルバムを出すというので予備知識がないまま購入しました。う~む、こう来ましたか。私、この手の音楽はあまり好みではないです。それはそれとして、クリス・ポッター、アーロン・パークス、そしてヴィジェイ・アイヤと、私が注目している人達が次々とECMからリーダーアルバムを出してくるのは面白いです。

P31ヴィジェイ・アイヤ『ミューテイション』(2013年rec. ECM)です。メンバーは、ヴィジェイ・アイヤ(p,electronics)、ミランダ・クックソン(violin)、ミッチ・ヴィアンコ(violin) 、キール・アーンブラスト(viola)、キヴィ・カーン・リプマン(violoncello)です。弦楽四重奏との共演が10曲で、冒頭2曲とラスト曲だけがピアノソロになっています。 全13曲アイヤが作曲。 たぶん弦楽の部分もアイヤが作曲しているのだろうと思います。ジャズというよりは現代音楽でしょう。ECMらしい楽想です。こういう作品ですからプロデュースはもちろんマンフレート・アイヒャ。

アイヤの使用楽器にエレクトロニクスの記載があったので、ポップアート的なものが盛り込まれているかと期待したのですが、エレクトロニクスの使用はかなり限定的で、クラシックな楽想に繊細なニュアンスを付け加える程度に留めてありました。センスの良いエレクトロニクスの扱い振りはさすがアイヤと言ったところです。

1曲目のピアノソロを聴いていたらチック・コリアが浮かんできました。何となく音の選び方が似ているように思ったからです。ならばということで、チックの『ピアノ・インプロヴィゼーションVol.1』(前半5曲が好き)を久しぶりに聴いたところ、音の選択は何となく似ている感じでしたが、チックの方がダイナミックな演奏でした。こんなところからも分かるとおり、今回はインド系であることをほとんど出していません。これまでのアルバムでたぶんにインド系を演出していたのは、ジャズにおけるアイデンティティ表出の重要度を意識しての戦略なのかもしれませんね。

現代音楽的な楽曲であるのはそのとおりだと思うのですが、ここには(私が勝手に思い込んでいるだけかもしれませんが)クラシックの高尚なものはあまりないように思います。だからクラシックの高尚な部分が苦手な私には、返って聴きやすい音楽になっています。話はちょっと反れますが、クラシックの高尚さを感じているのが坂本龍一で、私としてはそこがいまいち坂本龍一を好きになれないところ。格調はあるのですが「ポップスやっててそっれって必要なの?」といつも疑問に思います。でもそれを取っちゃうと坂本龍一でなくなるのはまた然り。

クラシックの匂いが続いて私が飽きてきそうになると、エレクトロニクスを適度に使った曲が表れてくるのが面白いです。何か私の心を見透かされているようでニンマリしてしまいました。また譜面に書き込まれているはずなのに、弦楽四重奏とピアノのやりとりは意外と自然発生的に聴こえる曲もあります。そういう曲で実はピアノは即興演奏に近いのかもしれません。書かれた弦楽四重奏をバックにピアノのインプロみたいな感じ? 弦にサウンドエフェクトみたいなことをやらせる部分にはポップなセンスを感じます。ゴジラが登場しそうな曲もありますよ(笑)。

実は一度聴いてから2週間ほど聴かずにいたのですが、ブログを書くにあたって聴いてみると、意外に馴染める音楽でした。現代音楽ではあるのでしょうけれど、そこには大衆音楽としてのジャズが持っている部分が非常に上手くブレンドされているように感じました。メロディーが難解でないところも気に入りました。なるほど、なかなか面白いアルバムです。

実はこのアルバムを聴く前に、ネットマガジン「JAZZTOKYO」に掲載されている多田雅範さんのアルバム評を読んだのですが、その時は趣旨がよく分かりませんでした。でも今ブログを書いて改めて読んで「なるほどなあ。」と納得しているところです。今私がアルバム評を読んで面白いと思える数少ないジャズ評論家の一人が多田さんです。アルバム内容を独特な表現で的確に表現しているところが好きです。

アルバム名:『Mutation』
メンバー:
Vijay Iyer(p, electoronics)
Miranda Cuckson(violin)
Michi Wiancko(violin)
Kyle Armbrust(viola)
Kivie Cahn-Lipman(violoncello)

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再び入手するはめになってしまいました。

東芝オーレックスのカートリッジC-550(C-500)は一度手放しました。一緒に入手した大東京宝石の針N-550(接合丸針、アルミパイプカンチレバー)はこのクラスにありがちな普通の音で、特に持っていたいとは思えなかったからです。それでもしばらくの間持っていたのは、当時の純正針N-550MかN-550Ⅱが聴きたかったからです。これがヤフオクになかなか出てきません。待ちくたびれた私はとうとうC-550(C-500)を手放すことに。我慢が足りませんよね(笑)。

ところが先月始めに突如針がヤフオクに登場。これはもう確保するしかないということで、まず針だけをゲットしてしまいました。というのもカートリッジ本体の方はヤフオクに登場する頻度が高いので、そのうち入手できるだろうと思ったからです。新古品のN-550Ⅱはかなりレアだと思います。でも落札価格はあまり高くならず良かったです。とうとう入手できました。聴きたかったものが手に入って嬉しい!

P26

さて、それから待つこと数週間。もう出ました! 純正ヘッドシェル付のC-500M-Ⅱ。動作未確認とのことでしたが、コイルが断線していることはまずないのでO.K.と判断。針はダメでも問題なし。動作未確認の方が落札価格が上がらないので好都合です。そこそこ競りましたが粘ってゲット。それほど高くなりませんでした。

P27

この型番はノブの色がグレーのスモークのはずですがグリーンのスモークですね。それもかなり淀んだ色(笑)。スタイラスカバー付属。接合針で接着剤がスタイラスチップのかなり下まで垂れてきています。それでもレコードの溝と接する部分はギリギリ生きているみたいで再生は可能。ヘッドシェルが軽量なため、本体との間に鉄のスペーサーを入れて重量を増してあります。このカートリッジが付属したレコードプレーヤーのアームとのマッチングを考慮したのでしょう。

2つの針を並べてみました。左がN-550Ⅱで右がN-500M-Ⅱ。N-550Ⅱはカーボンファイバーカンチレバーなので黒色です。根本はアルミパイプになっていて、そこにカーボンファイバーの棒が挿し込まれている構造。カンチレバーはかなり細見なので軽量なはずです。スタイラスは特殊楕円の無垢針。これも軽量化に貢献しているでしょう。ノブの空洞部分には共振防止のゴムブロックが入っています。N-550Ⅱは音質向上のために色々な対策がなされた針です。

P28

針だけ交換して問題ないことを確認した後で、ヘッドシェルとシェルリード線を交換して聴いてみました。黒色ヘッドシェルのほうがデザイン的にはマッチすると思うのですが、シルバーのものしか空いていなかったのでこれで良しとしました。レコードプレーヤーのシックな色合いと比較すると、ノブの黄緑色蛍光色(バスクリン色)がかなり浮いた感じになります(笑)。ピュアオーディオよりはDJ向きのデザインかも。ベスタクスのヘッドシェルがそれを強調してしまっています。

P29

音は私好みで普通に良いです。高音がきれいに出ているように思います。少し慣らし運転をした後でいつもの比較試聴を実施しました。2枚のリー・リトナー『オン・ザ・ライン』(ダイレクトカットディスク)を2台のプレーヤーで同時にかけて、自作フォノイコライザーの入力セレクタで瞬時切替試聴。比較の相手はZ-1S。

左 : ビクターZ-1S(針:JICO現行丸針DT-Z1S)
右 : オーレックスC-550Ⅱ相当(針:純正特殊楕円針N-550Ⅱ)

P30

かなり似た音ですね。C-550Ⅱの方がほんの少し出力レベルが小さいです。C-550Ⅱの方が高音は良く出ますが、きめ細かい音なので誇張感はありません。低音の出方は良く似ていて量感があります。Z-1Sのバランスをそのままに、程よく上質/高品位にした音がC-550Ⅱ。上質/高品位になり過ぎると元気がなくなってしまいがちですが、そうなっていないのが良いです。とても素直でナチュラルな明るい音。繊細な表現も可能。松田聖子のサ行は素直に出て、チェックレコードのトレースも問題ありませんでした。

カーボンファイバーカンチレバーは癖がないということが分かりました。日本製らしい音だと思います。カートリッジに個性や情緒を求める人には向かない音でしょう。特別高音質とまでは思いませんが良い音だと思います。廉価クラスとの価格の違いは実感できます。材質構造的に同仕様の針は現在出ていませんので、この針がダメになるまで聴けば良い感じです。今度はたぶん放出することはないと思います。

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