メンバーを一人増やしてユニティ・バンドからユニティ・グループに改名したパット・メセニーの新作。出来栄えや如何に?
パット・メセニー・ユニティ・グループの『KIN(←→)』(2014年、NONSUCH)です。メンバーは、パット・メセニー(el-g,ac-g,guitar synth,electronics,syn,orchestrionics)、クリス・ポッター(ts,bass-cl,ss,cl,alto-fl,bass-fl)、アントニオ・サンチェス(ds,cajon)、ベン・ウィリアムス(as-b,el-b)、ジュリオ・カルマッシ(p,tp,tb,french horn,cello,vibes,cl,fl,recorder,as,wurlizer,whistling,vo)です。アルバムタイトルに( )が付くのって、『スティル・ライフ(トーキング)』以来でしょうか?今回の(←→)矢印はどういう意味なのでしょうね(メセニー以前と以後を表しているらしい)。メセニーらしいです。
何でメンバーが一人増えただけで「バンド」から「グループ」に変えたのか謎でした。4人であろうが5人であろうがバンドはバンドなのですから。で、このアルバムを聴いて「グループ」にした理由がやっと分かったのです。私も鈍いですよね(笑)。サウンドはパット・メセニー・グループ(P.M.G.)のものと言って良いものになっていました。ライル・メイズとスティーブ・ロドビー(本作ではアソシエート・プロデューサーを務める)はいないけれど、新生P.M.G.のアルバムと言って良いのではないかと思います。
マルチ・インストゥルメンタリストのカルマッシが加入。もう四半世紀前の話になりますが、ライブ・アンダー・ザ・スカイの番組でP.M.G.を見た時、ペドロ・アズナールがボーカルだけでなくパーカッションやギターをやっていて、なるほどこうすればメンバーを増やさずにライブでスタジオ録音のクオリティを再現できるのかと納得したものです。今回もライブを見据えてのカルマッシの起用と推測。ライブツアー用にメンバーを人選するより、こうやってアルバム製作時から一緒にやっていれば、より高い理解度でグループサウンドをライブで実現できるのでしょう。
クリポタはバンドの時より役割が縮小したように聴こえます。でも決してクリポタは活躍していないわけではありません。やはりこの人でなければやれないソロやアンサンブルを披露していますし、メセニーもそれを生かすアレンジをしています。まあこれはP.M.U.G.のサウンドがバンドの時より広大になっているので、相対的にクリポタの役割が縮小して見えるということなのではないかと思います。
《オン・デイ・ワン》は正にP.M.G.サウンド。メセニー節に変拍子、ドラマチックな展開の長尺曲。こういうのを待っていたメセニー・ファンは多いはず。私がそうです。オーケストリオニクスも交えてP.M.G.サウンドの進化系を披露。最初からメセニーらしい直球勝負ですよね。カルマッシは基本的にはピアノを担当。P.M.G.サウンドにはピアノが必要かつ重要なのだと分かります。で、他の楽器は色んなところに入っていて、数回聴いたくらいではその仕掛けは明らかになりません。クリポタのテナー・サックス・ソロは良い! 最後に向けて盛り上がり、ボーカルが入るくだりで感極まりますよ(笑)。P.M.G.、帰ってきてくれてありがとう!
2曲目《ライズ・アップ》は手拍子も入ってアコースティック・ギターでフラメンコ調のテーマ。こういうのはこれまであまり聴いたことがなかったような気がしますが、メセニーですから何でも様になります。単にフラメンコ調ではなくメセニーならではのフォークの感じもきちんと織り込まれていますね。途中からクリポタのソプラノ・サックスが入って調子が変わり、テーマ部だけでもドラマチック。メセニーの憂いを帯びたギター音とメロディーのソロがいいな~。メセニー節全開。仕掛けに満ちたテーマを挟みクリポタのテナー・サックス・ソロはスケールが大きい。これも最後にボーカルが入って盛り上がりに盛り上って終了。満腹(笑)。
3曲目《アダージャ》は小休止。アコースティック・ギターのみからテナー・サックス他が入りスローでテーマのみを演奏して2分少々。
4曲目《サイン・オブ・ザ・シーズン》はほとんど曲間なく続きます。ミディアム・テンポでメセニーらしい美メロのテーマ。タイトルらしい曲想です。メセニーのギター・ソロ、クリポタのソプラノ・サックス・ソロ、ウィリアムスのベース・ソロ、全て美しいです。単に美しいだけでなく生命力があります。緩急自在でダイナミックなサンチェスのドラム、しっかり大地を踏みしめて奏でられるアートなウィリアムスのベース、この曲に限らず2人はグループのサウンドをしっかり構築しています。
ここまでで時間的に半分強、既にかなりお腹いっぱい状態(笑)。
5曲名はタイトル曲《KIN(←→)》。エレクトロニクスとの共演。打込みビートを大幅に取り入れているのは新機軸だと思います。これが単に打込みビートを垂れ流しにしているのではなく、打込みビートに強弱表情を持たせてあって、これによって非常に想像力が掻き立てられます。こういうところがメセニーの才能。その上でギター・シンセのソロが飛翔します。その後はクリポタのテナー・サックスとカルマッシのチェロの掛け合いが展開。テーマに戻って鯨の鳴き声のような音も入ります。ラストは打ち込みビートをバックにサンチェスのドラム・ソロがダイナミックに躍動して終了。この曲は途中から交響曲のようにも聴こえてくるから不思議です。
6曲目《ボーン》はストリングスシンセが薄く被さるフォーク調バラードのメセニー節のテーマ。メセニーのギター・ソロはいつも通り。クリポタのテナー・サックスが大らかに。これも打ち込みのさりげない使い方がセンス良いんです。
7曲目《ジーニオロジー》はテーマ演奏だけの短いフリー・ジャズ。メセニーってこういう部分も持っているんですよね。カルマッシがトランペットを吹いています。
8曲目《ウィー・ゴー・オン》はフュージョン! 打込みも軽く入って、これはアルバム『ウィー・リヴ・ヒア』でやっていたようなメセニー流R&B演奏。ウィリアムスはエレクトリック・ベースを弾いています。このアルバム中一番好きな曲(メロディー)かも。メローなアーバン・ミュージック。私はこういうのが凄く好きです(笑)。これはギター・ソロがなくて、クリポタのテナー・サックス・ソロのみ。このソロを聴くと、クリポタにも流れているマイケル・ブレッカーの血のようなものを感じますね。メセニーがクリポタに惚れた気持ちが分かる気がします。
ラスト《キュー》はフォーク調のバラード。テーマ部のメセニーとクリポタの合奏が非常に2人に合っていると感じます。マイケル・ブレッカー亡き後、メセニーはクリポタと出会うべくして出会ったのではないかという気がしてきます。こちらはメセニーのギター・ソロだけで、ここまでの熱気を冷ましつつゆったりエンド。
メセニーが持っているものを惜しみなく注ぎ込んだ新生P.M.G.のアルバム。私はかなり気に入りました。「やっぱメセニーは凄いな。」と思います。昨年はチック・コリアが新生エレクトリック・バンドと呼べるようなバンドでアルバムを出し、まだまだやってくれると感じさせてくれましたが、今度はメセニーがやってくれました。
このアルバムはハイレゾでもう配信されているんですね。
やっぱハイレゾを聴かなきゃまずいかな?
配信サイトe-onkyoミュージックのメセニーインタビュー記事は下記。
http://www.e-onkyo.com/news/59/
アルバム名:『KIN(←→)』
メンバー:
Pat Metheny(el-g, ac-g, guitar synth, electronics, syn, orchestrionics)
Chris Potter(ts, bass-cl, ss, cl, alto-fl, bass-fl)
Antonio Sanchez(ds, cajon)
Ben Williams(as-b, el-b)
Giulio Carmassi(p, tp, tb, french horn, cello, vibes, cl, fl, recorder, as, wurlizer, whistling, vo)
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