即興演奏にトライし続ける。
昨年発売されたジャズアルバムのフォローです。気になっていながら、アルバムを買うのがなぜか遅くなってしまうこのグループのアルバム。このグループをフォローしている人が日本にいったい何人いるのでしょうか?
ザ・クローディア・クインテットの『セプテンバー』(2013年rec. CUNEIFORM RECORDS)です。メンバーは、ジョン・ホレンベック(ds, per)、レッド・ウィレンガ?(acc)、クリス・スピード(cl, ts)、マット・モラン(vib)、ドリュー・グレス(b)1,4,7-10、クリス・トルディーニ(b)2-3,5-6です。前アルバムはゲストが参加していましたが、今回はクインテットのみによる演奏。アコーディオン奏者が変更になり、ベースはレギュラーのグレスと新参加?のトルディーニで曲によって交代しています。
前アルバムについては以下のとおりです。この時も年を越してから紹介しています。
理知的なジャズ
サウンドの雰囲気は今回も同じで、アコーディオンとヴァイブラフォンを生かしたサウンドは郷愁感と近未来感の融合。ゲストが参加していないので、構成としては締まったものになっていると思います。ゲストが参加した前作の方が少しポップでした。ライナーノーツには曲ごとに現代アートが描かれていて芸術的。
1曲目はブレイクビーツ的なドラムのミニマルビートに乗って、アコーディオン、ヴァイブ、テナーが繰り返しフレーズを合奏。アドリブに頼らない演奏で独特な雰囲気を醸し出しています。ドラマーがリーダーならではのリズム処理ですね。2分半ほどの短い演奏。
2曲目のテーマのメロディーは、曲というよりはポエトリー・リーディング(詩の朗読)のイントネーションです。このやり方はこのグループの取り組みの一つなのだろうと思います。テーマの後はアコーディオン、ヴァイブ、テナーの強靭なアドリブ。アコーディオン奏者が変わった今回、アコーディオンはソロイストとしての活躍が目立ちます。この曲は従来型のアドリブを踏襲。
3曲目はアコーディオンとクラリネットがもの悲しいメロディーをゆっくり奏でる曲。ヴァイブがクールな音を加味します。ソロらしきものはなく淡々とメロディーが綴られていく中、後ろでドラムとベースが自由な動きをするのは、マイルスの《ネフェルティティ》同様の雰囲気。後半にアコーディオンのアドリブが少し登場。
4曲目は面白いです。誰かの演説を編集したものが流れ、それに合わせて演奏が繰り広げられます。演説を伴奏するのではなく、演説を伴奏にしてアドリブしているのが現代的逆転現象。2曲目のポエトリー・リーディングのようなテーマのメロディーといい、演説のイントネーションをテーマにしてアドリブするこの曲といい、人の話方とアドリブを融合させてしまう演奏は、このグループならではの即興演奏へのトライです。
5曲目はスローでアドリブに頼らない演奏。6曲目はアップテンポで同様の演奏。アコーディオン、ヴァイブ、テナー/クラリネットの音とメロディーの重なり具合を追いながら、徐々に場面が展開していく曲を追っていくと面白いです。エレクトリックなサウンドエフェクトが程良い香辛料になっています。アドリブも少しあります。
7曲目はまたポエトリー・リーディング的なイントネーション・メロディーのスロー曲で始まります。ヴァイブやアコーディオンが話しかけてくるように感じます。途中からテンポが上がり、バックのおもちゃチックなパーカッションが始まると、まるで童話の世界のようになります。「ブレーメンの音楽隊」か?
8曲目はベース・ソロから入る抽象的なメロディーの曲。変拍子であることもあって現代先端ニューヨーク・ジャズになっています。なのでアコーディオン、テナー、ヴァイブのアドリブが聴きどころ。ベースはグレス、存在感はトルディーニより1枚上手ですね。それはこのアルバム全体を通して言えます。
9曲目はアコーディオン、ヴァイブ、テナーが抽象的なメロディーをゆっくり奏でる上で、ホレンベックのドラム・ソロが繰り広げられます。3分弱の短い曲で、アルバム中唯一のドラム・ソロ。ホレンベックはあくまでグループ表現を主体にしているのです。ラストは物悲しく郷愁感を感じるテーマの曲で映画のサウンドトラック風。アコーディオンのみが短めのアドリブをとります。
全10曲ホレンベックが作曲。従来型のアドリブに頼らず、ジャズにおける即興演奏と真摯に向き合っている演奏だと思います。このグループならではのサウンドとアドリブ方法論に私は惹かれます。理知的ではありますが頭でっかちの音楽ではありません。情緒に訴えかけてくるところがあって魅力的です。
アルバム名:『SEPTEMBER』
メンバー:Claudia Quintet
John Hollenbeck(ds, per)
Red Wierenga(acc)
Chris Speed(cl, ts)
Mat Moran(vib)
Drew Gress(b)1,4,7-10
Chris Tordini(b)2-3,5-6
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