スガダイロートリオのライブはとても楽しかった。
11月21日に 「桜座」 で「スガダイロートリオ」のライブを観て来ました。ダイローさんのトリオのライブは前から観たかったのでやっと念願がかないました。今回は志人(シビット)さんもゲスト参加するというのでこれも楽しみでした。
実は「桜座」に来るのはかなり久しぶりです。3月の「甲府ジャズストリート」の時は他の会場で観たのでここでは観ていません。そうなると更にさかのぼって昨年12月の「だいだらぼっち」以来ということになります。すっかりご無沙汰していたことになりますね。
”NEWアルバム「刃文」発売記念・冬の西南ツアー”はここ「桜座」から始まるとのことでした。お客さんの入りはなかなか良く、私より少し上くらいの年齢をトップに若めの年齢層。女性も多め(ほとんどカップルだが)なのが、ダイローさんのファン層なのでしょう。
スガダイロートリオ:スガダイロー(p)、東保光(b)、服部マサツグ(ds)
ゲスト:志人(詩人)
1stセットが始まる前にチャップリン風衣装に扮したパントマイム&MC、場内は微妙な雰囲気だったように思います。「これって必要あるのかな~」と思った私。実はこれ、ノイズ中村さんのパフォーマンスでした。アンコールでノイズ中村さんと紹介されるまで私は気付かず、「桜座」の微妙な新パフォーマかと思っていたのです。失礼しました!
1stセットはトリオでの演奏。1曲目はモンクの《クレプスキュール・ウィズ・ネリー》に《男はつらいよ》のメロディーを混ぜた曲だと思ったのですが、家に帰ってからアルバム『刃文』を聴いてみると、《男はつらいよ》だという事が分かりました。でもライブの演奏は《クレプスキュール・ウィズ・ネリー》成分の方が多かったのではないかと思います。この2曲、とても上手くマッチしていて、山中千尋さんのアルバムで《やつらの足音のバラード》とジャコ・パストリアスの《スリー・ビューズ・オブ・ア・シークレット》のメドレーを聴いた時以来の、和洋折衷の好例だと思いました。《男はつらいよ》、途中に《ウエディングマーチ》のフレーズが入っていますよね。ライブでもやっていました。
2曲目はモンクの《エピストロフィー》。モンクの変なんメロディーとダイローさんの美しいメロディーセンスが実に良くマッチングしているのでした。そして3曲目がスタンダードの《ザ・マン・アイ・ラブ》。メロディアスで楽しい演奏。溢れ出るスイングに心がウキウキしました。以上3曲、オリジナル曲ではなくても間違いなくスガダイロートリオのサウンド。オリジナル曲を演奏するものだとばかり思っていたので意外な展開でした。
ここまで聴いて、これは王道ジャズピアノトリオだと思いました。「桜座」ならではのPAが効いたドッシリと安定感あるサウンドと相まって、実に揺るぎない堂々とした演奏になっていたからです。安易にオリジナルに走らないダイローさんのアプローチ、したたかかつ頼もしいではありませんか。ドップリとジャズに浸かって、個性を発揮しているところが素晴らしい! 「ジャズってこれだからいいんだよね。」と素直に思える演奏でした。
ちなみにここまで曲紹介はありませんでした。4曲目はオリジナルの《雨ニモマケズ》。宮澤賢治の「雨ニモマケズ・・・」にメロディーを付けた曲。《寿限無》と同様の発想ですね。ライブでは途中3人が詞を歌いながら演奏していました。独特な変拍子でグルーヴします。こういう難しいリズムの曲を一糸乱れず演奏するところは、さすがに長くやってきたトリオならではの一体感。これが実に良い曲で、私にはパット・メセニーの曲に通じる爽やかな風が吹いているように感じられました。
5曲目は《命の水》と、東保さんに言ったと思います。ワルツのリズムに乗ったメロディアスで心地良い演奏でした。6曲目は曲名紹介なし、たぶんオリジナル曲だと思うのですが私には曲名が分かりませんでした。4ビートで楽しくて迫力がある演奏。東保さんのパワフルで表情歌かなベース、服部さんのダイナミックでキレのあるドラム、トリオのサウンドをしっかり表現していました。
ダイローさんと言うと、フリージャズピアニストで壊れるくらいピアノを激しく弾く人というイメージがあるような気がします。でも実はとてもメロディーを大切にして、しなやかな面があります。もちろん曲によっては後半にピアノを激しく、肘打ちも交えて弾き、グシャグシャなフリーへと突入しますが、大半はメロディアスなピアノを弾いています。そのフリーにしても決してハチャメチャではなく、きちんと計算があると思います。トリオの演奏も同様にきちんと構成されています。
以上6曲で1stセットは終了。良いトリオですね~。3人が楽しそうに演奏してました。
しばし休憩をはさんで2ndセット。またしても妙なパントマイムから。失礼! 志人さんが「スターウォーズ」のジェダイの騎士が被るような布を被って和風黒ずくめで登場。民話のような語りから始まりました。演劇の世界ですね。途中からスガダイロートリオの伴奏が入ります。ダイローさんも同じような黒布を被っていました(2曲目くらいで脱ぎました)。民話語りが終わると、ドラムだけをバックに怒涛の超高速ラップ! カッケー! スゲーッ!
次は明るくリズミックな曲でラップ。また民話語りがあって、その後リズミックな曲でラップ。テーマは男女の別れ? ラストは自然への賛歌を朗々とダイナミックにラップ、というような展開だったと思います。曲順とか曲数とか微妙に記憶がないので誤りがあったらごめんなさい。ピアノやベースのソロ中、志人さんが太極拳のような感じで踊っているも観ていて楽しいものでした。ラップのテーマは人間の機微や性と大自然への賛歌。志人さんの歌はとにかくパワフルで、聴く人をグイグイとその世界へ引きずり込んでしまいます。バックのトリオとも互角の勝負。
パフォーマンスはまるでミュージカルのようでした。ジャズと詩の朗読というと、昭和の世代がやるとどうしてもアングラな雰囲気と陰なイメージが漂います。ところがスガダイロートリオ+志人にはそういうアングラな雰囲気は希薄で陽な雰囲気があります。今時の言葉で言えば”エンタメ”か? それは”演劇”ではなく”ミュージカル”という言葉の持つ雰囲気が似合うように思いました。アンコールはノイズ中村さんも交えて楽しく演奏。
色々理屈をこねましたが、観ている時はそんなの抜きにとても楽しかったです。とにかくカッコいいと思いました。また「桜座」に来てほしいです。
ライブ後に買ったニューアルバム『刃文』にはスガダイロートリオの今が詰め込まれています。販売ルートは限られるようですが、是非入手して聴いていただきたい良いアルバム。今年のベストジャズアルバムに加えたいと思います。
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