ペイトンの痛快なジャズ
ジャズ新譜紹介です。最近この人をフォローしていますし、面白い編成でやっているということで購入しました。
ニコラス・ペイトンの『#BAM Live at Bohemian Caverns』(2013年、BMF RECORDES)です。メンバーは、ニコラス・ペイトン(tp, fender rhodes)、ヴィセンテ・アーチャー(b)、レニー・ホワイト(ds)です。何とペイトンはトランペットだけでなく、かなりの部分でエレクトリック・ピアノを一緒に弾いています。ライブ演奏ですから多重録音ではありません。ジャケット内側の写真を見ると、右手でトランペットのバルブを操作しつつホールドして、左手でエレピを弾いています。
タイトルにある”BAM”というのは”Black American MUsic”のことらしいです。このアルバムを聴くと良く分かりますが、ペイトンは黒人音楽としてのジャズをやりたいんでしょう。ただし純粋なバップというわけではなく、エレピを弾いたりレニー・ホワイトを起用したりしていることから分かるとおり、もちろんサウンドもそうですが、70年代のクロスオーバー/フュージョンの影響が強いようです。これまでのアルバムにもそういう傾向があったのでその延長になっています。
冒頭いきなりエレピから始まります。途中からトランペットも吹いて徐々に盛り上がり、レニーの煽りも相まってエキサイティングな演奏が展開。エレピを弾いていてもトランペットの演奏を疎かにするようなことはなく、トランペットのみのソロはかなりの熱演。トランペットの吹きっぷりは良く鳴りっぷりが気持ち良いです。エレピのソロはメローでアダルトな雰囲気を醸し出したり、ワイルドな攻撃性を見せたり、これはこれでまた良し。
トランペット・トリオというシンプルな構成で、自分のやりたいことを上手く構築しているペイトンはなかなかのやり手だと思います。こういう演奏だとレニーのドラムが見事にマッチしますね。熱気溢れるシンプルなグルーヴはカッコいいです。アーチャーのベースもゴリゴリ力強く、エレクトリック・ベースではなくアコースティック・ベースのグル―ヴに、クラブジャズ的現代性と過去のバップへの繋がりのクロスオーバーを見ます。
ペイトンのオリジナル3曲に、マイルスの1曲に、モンクの1曲に、レニーの1曲に、トラディショナル1曲の全7曲。モンクの《パノニカ》はペイトンのトランペットとアーチャーのベースとのデュオ。これは落ち着いたジャジーな雰囲気が良いですね。アルバムの真ん中にあってクールダウンも兼ねています。演奏自体は昔懐かしいとはいえ、こういう形でジャズをやっていくのも一つの選択。迷いなくストレートにやっているから痛快。
黒人音楽としてこの辺の時代のジャズを範とするのは正解かも? 今思えばその頃が一番幸せな黒人音楽としてのジャズだったのかもしれないと思えなくもないからです。80年代に入って黒人音楽としてのジャズは迷走し始めた感がありますからね。迷走を象徴するのがマイルスの復帰とウイントン・マルサリスの登場。で、迷走を決定づけたのがマイルスの死であり90年代。
最初は体調不良、その後セレブリティになってしまい、やんちゃになりきれなかったのがマイルス、やんちゃを封印したのがウイントン、ジャズにあったやんちゃな部分はヒップホップに持っていかれてしまいました。”やんちゃ”というのは”批評性”というより”ストリート性”でしょうね。ヒップホップにおける”やんちゃ”の系譜は、オタクなマッドリブではなく、アンファンテリブルなタイラー・ザ・クリエイターへと脈々と繋がっているのだと思います。
80年代、オーネット・コールマンのハーモロディック一派やM-BASE一派何かはやんちゃな部分を持ってジャズをやっていたように私は思います。日本ではこれらの人達への注目より新伝承派でありM.J.Q.(マンハッタン・ジャズ・クインテット)へ注目したんですよね。中山康樹さん指導で(笑)。
今80年代の雰囲気がジャズ界にも来ているようで、そこに今の黒人音楽としてのジャズ云々が絡むわけですが、私にとっては何となく収まりが悪いと思っていたのです。どうやらそれは、黒人音楽としてのジャズが迷走し始めた80年代以降を範としているからなのかもしれないと、今ふと思いました。何の根拠もないです。ハイッ。
このアルバムに話を戻します。熱いジャズライブ。黒さムンムン。音も会場の熱気を上手く表現していて悪くないです。
Nicholas Payton (tp, fender rhodes)
Vicente Archer (b)
Lenny White (ds)
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