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等身大の音楽。実は才能満載。

1ヶ月ぶりのジャズ新譜紹介です。長らくお待たせいたしました。新譜と言っても発売されてから結構経ってます。

(注) com-post のクロスレビューでもこれが取り上げられていますが、私はそれらを一切読まない状態でこの新譜紹介を書きました。後でクロスレビューを読んでみて、「そういう理解なのか、なるほどなあ。」と思いました。(10月6日)

P53デリック・ホッジ『リヴ・トゥデイ』(2013年、BLUE NOTE)です。メンバーは、デリック・ホッジ(ac-b, el-b, fretless bass, key, syn, el-p, synth bass, vo, string arangements, etc)、クリス・デイヴ(ds, per, table beats)、マーク・コレンバーグ(ds,per, snare drums, quads)、ロバート・グラスパー(p, choir pad, fender rhodes, table beats)、アーロン・パークス(p, fender rhodes)、ジェームズ・ポイザー(key, additional key)、トラヴィス・セイルズ(syn, key, hammond B3 organ)、ジャヒ・サンダンス(turn tables)、キーヨン・ハロルド(tp, fl)、マーカス・ストリックランド(ts, ss)、コーリー・キング(tb)、コモン(vo)、ケーシー・ベンジャミン(vocoder)、アラン・ハンプトン(vo, ac-g)、ザ・アメリカン・ストリング・カルテットです。ロバート・グラスパー・イクスペリメントのベーシストの初アルバム。

黒人だから・・・とかジャズとヒップホップの融合だから・・・とかそういう主張はあまり感じられず、ホッジ自身が体験してきた音楽を素直に表現しているように思います。ベーシストというよりは、色々な素材をコーディネートして自身の音楽を作るサウンド・コーディネーターとしてのホッジに注目。素材のコーディネートぶりは相当凝っています。また、色々な楽器をこなして一人でトラックを作ってしまう才能もあります。

まずは一部で話題となっている2人のドラマーについて。最初メンバークレジットを見ずに聴いたら全部クリス・デイヴが叩いているのかと思いました。2人のビート感覚は似ていると思います。こういうビートを叩ける人は今や複数いるのでしょう。で、よく聴いてみたら、2人の違いを簡単に言ってしまうと、繊細なクリス・デイヴに対してラフなマーク・コレンバーグというところでしょう。

コレンバーグのラフな感じは、ヒップホップが求めるトラックの粗い/荒い感じを出していてこれはこれで必要性があるように思います。特に《アンセム・イン・7》でのドラミングは、アルバム中最もヒップホップ・ビートになっていて、編集したような感覚のドラミングは、ロバート・グラスパーがこの人のことを”変態ドラマー”と言う所以だと分かります。この辺りのことはヒップホップの視線がないと分からないことかも? 一方ストリングスが入る《ソリチュード》は繊細なデイヴが似合います。ホッジは2人をきちんと使い分けているのです。

曲によってメンバーや編成がコロコロ変わります。最初はロバート・グラスパー一派ならではの《ザ・リアル》。アドリブ・ソロを聴かせるのではなくサウンド交錯の妙を聴かせるものでしょう。アフリカ的なイメージのパーカッション(デイヴ、グラスパー、ホッジが鳴り物で机を叩いている)にベースが乗る短い《テーブル・ジャウン》はなかなかユニークでした。ギターのようなベース・ソロを聴かせるフュージョン調《メッセージ・オブ・ホープ》。キーヨン・ハロルドの多重録音トランペットが良い味を出すミニマル的メロー曲《ボロ・マーチ》

コモンがラップするバックでグラスパーがモロにグラスパー節を弾くタイトル曲《リヴ・トゥデイ》。これはモロにグラスパー・サウンド。似た雰囲気だけれどアーロン・パークスがピアノ/エレピを弾く《ダンシズ・ウィズ・アンセスターズ》。こういうのはグラスパーあってのサウンドだと思っていたけれど、パークスでも成り立ってしまうという発見。パークスのピアノが美し過ぎます! 似たような雰囲気を引きずりつつ、実はホッジがエレピを弾いているという!ビートはモロにヒップホップな《アンセム・イン・7》。さらに似たようなサウンドをほとんどホッジだけで作ってしまった《スティル・ザ・ワン》

この流れ、最初だけグラスパーをゲストに招き、グラスパーをパークスに変え、次にピアノを自分で弾いて、最後はほとんど一人で、グラスパー的なサウンドをやってしまうということに、かなりしたたかなホッジの戦略を見ました。ホッジはグラスパー・サウンドを完全に掌握しているのでしょう。グラスパー・グループの影の参謀ホッジ。なかなかの才能です。

こう来ておいて次はコロッと変えて、アラン・ハンプトンをゲストにカントリー調(オルタナティブ・ロック)《ホールディング・オントゥ・ユー》。弦楽四重奏はホッジのアレンジ! どんでん返しですね(笑)。次の《ソリチュード》はやはり弦楽四重奏が入って、物語性を感じさせる曲はブラッド・メルドーの『ハイウエイ・ライダー』にも通じます。ホッジのフレッドレス・ベースが美しく感動的。ピアノはパークスの良さが出ていますよね。ホッジの中はブラック・ミュージックだけではないのです。

ヒップホップ系の短い《ラバーバンド》。クリス・デイヴのドラムにはニュアンスを感じます。同じようなヒップホップ系の《グリッティ・フォーク》は、ハロルドのトランペットが入ってジャズを感じさせます。トランペッターがやりがちなエレクトリック・マイルスの現代版サウンド。トランペットが入るとジャズになっちゃう(笑)。《ドクソロジー》は郷愁ゴスペル風味。アルコ・ソロとオルガン・ソロに”ホロッ”。ホッジのルーツ・サウンドといった感じでしょうか。ラストの《ナイト・ヴィジョンズ》は一人で全ての楽器を演奏。ベース・ソロはマーカス・ミラーっぽいです。ホッジは現代のマーカス・ミラーかも?

とても聴きやすく柔らかいサウンドなのでスラスラ聴けてしまうのですが、実はそこにホッジの才能が満載という、なかなかしたたかなアルバムだと思いました。

1ヵ月前にアップしたのが同じベーシストのチャーネット・モヘットのアルバムでした。モフェットがあくまでジャズの中にいて、ジャズが既に取り込んだ色々な要素でサウンドを作っていたのに対し、ホッジはジャズの外から色々な要素を取り込んでサウンドを作っているところが現代的で面白いです。

アルバム名:『LIVE TODAY』
メンバー:
Derrick Hodge(ac-b, el-b, fretless bass, key, syn, el-p, synth bass, vo, string arangements, etc)

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