これは結構気に入りました。
お待たせいたしました。新譜紹介です。ただしヒップホップ(笑)。
タイラー・ザ・クリエイターの『ウルフ』(2013年、Odd Future LLC/RED)です。Amazonサイトでジャズのアルバムを探していたら、なぜかこれが出てきました。この人は前から注目していたので買ってみることに。Amazonのカスタマーレビューも買う気にさせた一因。
この人の名を知ったのはジャズ喫茶「いーぐる」で開催されたヒップホップ関連の連続講演です。長谷川町蔵さんと大和田俊之さんの著書「文化系のためのヒップホップ入門」に関する回で、現代注目のヒップホップとしてこの人が紹介されました。私は独特な雰囲気のサウンドに惹かれてしまったのです。
アルバムを聴き始めてすぐに感じたのは現代の病んだ感じ。現代社会の歪が人間の心を病ませているのはアメリカも日本も同じなのかと思いました。特に若い世代は皆、こういう雰囲気を心の中に持っているのではないでしょうか? 共感できるフィーリングがあるんじゃないかと思います。結構ポップなサウンドなのにそういうものが醸し出される不気味さ。
Amazonのカスタマーレビューによると猟奇的なものらしいのですが、歌詞は分からなくてもサウンドからそういうことは伝わってきます。ブックレットには歌詞が全部書いてありますので、英語が得意な方は是非読んでみて下さい。英語が苦手な私が見た感じですが、たぶん英語が読めるだけではその意味するところは半分くらいしか分からないだろうということ。
ちなみにタイラー自筆の歌詞も掲載されていて、その小さくてかわいい字が意外です。その破天荒な行動から”アンファンテリブル”とか言われるこの人ですが、字だけ見ると小市民(笑)。小市民の中に実はこういう才能溢れるスターがいるという面白さ。
さすがにメジャーなヒップホップなだけあって、メロディーもリズムも特別難解なものはありません。かなり聴きやすいと思います。そこに現代のヒップホップに至る要素が網羅されているように思います。ドクター・ドレー的演劇要素、ティンバランドのような南部ビート、カニエ・ウェストのような内省的なもの、エリカ・バドゥのような歌、などなど。
これを聴いて改めて英語のイントネーションのカッコ良さに気付かされました。ラップというより詩の朗読のようなトラックもあり、タイラーの低音を効かせた流暢なラップはかなりの快感を生み出します。ちょっと大袈裟ですが、例えばフランク・シナトラやメル・トーメの歌に通じるカッコ良さが、このタイラーにも感じられる瞬間があります。シナトラの歌に感じる人の声の魅力はタイラーのラップにもあると思います。でもあくまでラップで歌ではありません。
こういうのを聴くとアメリカン・ポップスの歴史の重みを感じますし、ヒップホップにまで脈々と流れるエンターテインメントの精神からは、アメリカン・ポップスの懐の深さを感ぜずにはいられません。
現代のメジャー・ヒップホップがどういうものなのか知りたい人には是非聴いてほしい1枚。踊るのではなくて聴いて楽しむ音楽としてのヒップホップの先端がここに。
YouTubeにはご覧のとおりフル・アルバムが・・・!
さすがにこれは著作権侵害で削除されました。
アルバム名:『WOLF』
メンバー:Tyler, The Creator
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