先日 ジャズ喫茶「いーぐる」 で行われた『ヒップホップ~黒い断層と21世紀』出版記念講演のレポートの続きです。
私なりににヒップホップを勉強してきたとはいえ、ヒップホップについての理解は未だ初心者より少しましな程度。また単に私の理解力不足もあるわけでして、そのあたりはご了承いただいたうえでお読みいただければ幸いです。当然ですが講演の全てではなく私なりの編集が入っています。いつものように音楽を聴いての感想などはピンク文字。
前半はヒップホップの歴史と特徴を駆け足で紹介する内容でした。後半は日本にはじまり世界に広まったヒップホップを紹介する内容になっていました。
KEYWORD3 日本におけるリアルの意味
時間が押していたため、この章は大幅にカットされてしまったのが残念です。4曲カットされてかかったのは1曲のみ。まあ、日本については聴こうと思えば簡単に聴くことができるので、それよりは聴いたことがない世界のヒップホップの紹介を優先されたのは了解できることです。
11.DCPRG with Simi Labの《Uncommon Unremix》2012年
これはシミ・ラボのラップ以外は、マイルスがキーボードを弾いている時の70年代マイルス・バンドのコピー。菊地成孔さん、好きなのは分かるけれど、どうなんでしょうね、これ? まあ、シミ・ラボとのマッチングは良いので良しとしておきましょう。私、基本的にこういうサウンドは好きですよ。
原さんから、先日ニューヨークへ行った時、乗ったデルタ航空の機内ラジオにはヒップホップというジャンルがなくて、アーバン・ソウルに含まれているという話がありました。ティンバランドが登場以降、ジェイ-Zやカニエ・ウェストはゴージャスになりセレブ系音楽になったという話もありました。
KEYWORD4 移民(イミグラント)たちの表現としてのラップ
ここではアメリカ以外の世界に広まったヒップホップを紹介。これは関口さんならではの切り口であり、著書『ヒップホップ~黒い断層と21世紀』にいおいても重要な視点です。
世界的に経済難民が移民する現象が起こっていて、モロッコ人はフランスへ、パキスタン/バングラディシュ人はイギリスへ、トルコ人はドイツへ移民。こういった移民が権限を主張してヨーロッパとぶつかり、移民の自己主張の手段がヒップホップとなっている。
※以下に紹介するラッパー/MCなどの詳細はウィキペディアを参照下さい。
アブダル・マリックはフランスに移民したコンゴ人。
12.Abd al Malikの《Mon Amour》、アルバム『Chateau Rouge』2010年から
女性ボーカルから昔懐かしい長山洋子の《ヴィーナス》を連想。あの頃はテクノだったけれど今はヒップホップ。途中にマリックのラップが入る。このポップス性はJ-POPを聴く人には受け入れやすいかも。
M.I.A.はスリランカ人。イギリスで活動。ディプロがサポートしているアルバムから。
聴いた後、原さんから、アメリカ以外のビートはダサイがM.I.A.は新しいビートをやっているという指摘があって、私も納得。
13.M.I.A.の《Mon Amour》、アルバム『Arular』2005年から
南部ビート。サウンド的にはアメリカのヒップホップとして聴ける。
マルクスマンはアイリッシュ。アイリッシュ民族音楽とヒップホップの融合を図っている。関口さんはアイルランドの可能性に注目。ヒップホップ・ミュージシャンがヨーロッパ全体で活躍して競争する中で、マルクスマンのような人がヒップホップを面白くしていくのではないか。
14.Marxmanの《Bucky Dung Gun》、アルバム『33 Revolution per Minutes』1993年から
オーソドックスなヒップホップ・ビート。録音が古いから。
タンザニアのヒップホップ。ボンゴフレーバーはダンス・ミュージックで、正確にはヒップホップではない。歌詞はタンザニア賛歌。スワヒリ語でラップ。
15.Bongo Flavaの《Umoja Wa Tanzania》、アルバム『Bongo Flava』2004年から
語感が何となく日本語っぽくて、フローは日本語ラップを聴いているように聴こえる。
ケイナーンはソマリア人。アルバム名『トルバドール』は放浪者という意味。
聴いた後、原さんから、トラックは地域の格差がなくなっていると指摘があって、これも納得。
16.K'Naanの《ABC》、アルバム『Troubadour』2009年から
ビートは新しい。「文化系のためのヒップホップ入門」で散々聴いた祭囃子系。大太鼓みたいな緩いドラム音が活躍。
ここで、高円寺で行われた原さんが参加したイヴェントの話題。そこに関口さんも行ったそうで、とても面白かったそうです。数名のトラックメイカーが、生演奏をしているのをその場でサンプリングしてビートを作り競うというもの。本当に色々なものが出くるとのことでした。私は全くそういうシーンに疎いのですが、お2人の話を聞いて興味が湧きました。
マルセロ・D2はブラジルで圧倒的に支持されている。コンテンポラリー音楽が発展したブラジルらしい工夫(ノイズを入れるなど)が凝らされているブラジルのヒップホップ。
17.Marcelo D2の《Pra Posteridade》、アルバム『Looking For The Perfect Beet』2007年から
ボッサ・ミーツ・ラップという感じ。
ドランクン・タイガーはUSコリアン。歌謡性が凄い。メロディー性が凄くて、こんなのがあったのかという感じのもの。
18.Drunken Tigerの《Pra Posteridade》、アルバム『Drunken Tiger4』2003年から
歌謡性ありまくり。こういうのを聴くと私には久保田利伸が浮かぶ。日本の歌謡性をひっさげてニューヨークでそれなりに受けた人だから。メロディーは哀愁マイナー調。私的にはいつもブログに書いている”セツネー”の極致(笑)。
スヌープ・ドッグがジャマイカに急接近。ヒップホップは世界を巡ってカリブに戻るのか?
19.Snoop Lion feat. Drakeの《No Guns Allowed》、アルバム『Reincarnated』2013年から
レゲエ・ビート。カリブに戻る。なるほど。 私はなぜかレゲエが苦手。基本的にエッジが効いたリズムが好きなのでノホホンとしたレゲエは魅力薄なのでしょう。
原さんによると、最近日本ではアメリカのヒップホップは聴かないとのこと。とうとうこのシーンでも”洋楽離れ”現象が始まったということなのでしょうね。
最後に関口さんから、この本を書くにあたって協力していただいた2人の女性と出版社の社長への感謝の弁があり、いらしていたので皆さんで拍手を贈り講演は終了。
<質問コーナー>
まずは後藤さんから指名された柳樂さんから質問。
Q: オバマ大統領以降のヒップホップの傾向は?
A: (いまいち私の頭に入っておらず、ごめんなさいm(_ _)m)
レゲエ系の音楽に詳しい方?から質問
Q: 今回レゲエにあまり触れなかった理由は?
A: 2000年以降ダンスホール・レゲエからの影響はあるが意識的に外した。
私から質問。
Q: ヒップホップが移民の権限主張の手段になった理由は? 単に今世界的に流行っている音楽というだけで、ヒップホップでなければならない理由はあるのか? 過去にはロックがそうであったし、日本ではかつてフォークがそういう音楽だった時期もある。
A: ヒップホップでなければならない理由はある。ラップは権限を主張しやすく歌に比べれば簡単だから。私から「メロディーというテクニックを要求される縛りがなく、より感情表現しやすいからかもしれない」ということを伝えて納得。今加えれば、ヒップホップが持つに至ったメッセージ性という文化が他の国でも共有されやすいのかもしれません。
後藤さんから質問。
Q: 中山康樹さんの「ジャズ・ヒップホップ・マイルス」、大和田俊之さんと長谷川町蔵さんの「文化系のためのヒップホップ入門」についての感想は?
A: (ここは敢えて伏せさせていただきます。笑)
<今回の講演を聞いて>
ヒップホップはアメリカの売れ筋の(メジャーな)音楽にとどまらず、世界中の音楽シーンに広まっているということを今回実感しました。まあそれは日本の状況からも何となく察しがつくことです。世界で多様化していくヒップホップをフォローするというのは、今だからこそできるヒップホップの聴き方としてとても面白いと思います。
ラップの重要性を改めて認識。ラップを手法のひとつとして片づけてしまうことに疑問を抱いていた私には納得できる内容でした。
今回はポップなものが多くて聴きやすかったです。それは主張(メッセージ)をより多くの人に聞いてもらうという目的を考えれば、理にかなっている気がします。
ヒップホップと一言で言っても売れ筋(ポップなもの)からマニアックなものまで様々。DJサイドからクラブシーンとの結びつきで語ることもできるでしょう。で、それはどうしてもサウンド志向の需要になりがち。これまではむしろそうい切り口で語られてたものが多かったようです。しかしクラブシーンを知らない私からすれば、今回の関口さんや以前講演を聞いた大和田さん/長谷川さんの切り口の方が分かりやすい気がします。
原さんもおっしゃっていましたが、関口さんが世界中のヒップホップを聴きまくっているのは凄いと思いますし音楽に対する並々ならぬ愛情を感じました。
『ヒップホップ~黒い断層と21世紀』はこれからじっくり読ませていただきます。
今回かかった曲のリストや後藤さんのレポートは ジャズ喫茶「いーぐる」 の「blog」を参照願います。
今回の講演、とても楽しく聞きました。
打ち上げにも参加させていただき色々な情報が得られました。
皆様どうもありがとうございました!
「いーぐる」の連続講演は何と今回が500回目!
500回とは凄い!後藤さんに拍手、そして、感謝であります。
余談ですが、後藤さんがみんなの党代表渡辺吉美風ヘアスタイル(ソフトモヒカンみたいな感じの)になっていてビックリ!似合っていましたので今後も続くけてほしいです。
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