これには奇妙な中毒性を感じる。
新譜紹介です。ウェブマガジン「JAZZ TOKYO」の「FIVE by FIVE」の先月のレビューを読んで聴いてみたくなった1枚です。
菊地雅晃の『オン・ファゴットゥン・ポテンシー』(2012年rec. CERBERA RECORDS)です。メンバーは、菊地雅晃(b,effects,dub mix)、松村拓海(fl,b-fl,effects)、坪口昌恭(analog syn,el-p,org,vocoder,effects)、藤井信雄(ds)です。帯には「現実からの軽やかな飛翔感。過去にも未来にも無い幻想のアーバンサイケ・ミュージック。これぞテン年台の世田谷アンダーグラウンド!」と書かれていて、正にそんな感じの音楽が鳴っています。菊地雅晃は菊地雅章の甥とのこと。私はこの人を初めて聴きました。全6曲中5曲を菊地が作曲。菊地はなかなかの曲者だと思いますよ。
1曲目《ポテンシー》は現代版《ススト》といった感じで、ちょっと変なリズムフィギュアは過去に辿ればマイルスの『オン・ザ・コーナー』に行きつきます。そんなリズムフィギュアのクールな繰り返しの上で、爽やかで浮遊感漂うフルートと坪口のハービー・ハンコック似なアナログシンセが浮遊。このサウンドには奇妙な中毒性がありますね。この曲に限らず、菊地が全編アコースティック・ベースを弾いているところは、クラブ・ミュージック的なものを感じます。
こういうフルート、私が思い出すのは80年代のヒューバート・ローズ。「オーレックス・ジャズ・フェスティバル81’」(懐かしい!)の「フュージョン・スーパー・ジャム」に出演した時のサウンド。TV-CMの曲は今でも耳に残っています。その時の模様はレコード化されていて、私は後に懐かしくなって中古レコードを買いました。もちろん二束三文で(笑)。
次の2曲目《アクアライン1987》。これが私にとってはやたら懐かしくて切なく響きます。タイトルどおりの80年代都会派フュージョン。このサウンドが何でそれほど切ないのか?思い出しました。私の中ではマーク・グレイの『ザ・サイレンサー』(下のジャケット)に繋がっているのです。
このアルバムには悲しい思い出があります。それは就職して3年目(1988年)、母が亡くなり就職先の茨城から甲府に帰ってくる時に、車の中で聴いていたアルバムがこれだったからです。これを聴くと涙が出てくるので、その後数年間はこのアルバムを聴くことができませんでした。このサウンドは悲しさやむなしさであり、切ない気持ちに直結しています。
アルバムの中の曲では、共通するサウンドの切なさでは《ハー・スイートネス》、フルート(デイヴ・バレンティン)が入っているということでは《タンジェリン・ローズ》に繋がります。ちなみに、『ザ・サイレンサー』にはマイケル/ランディ・ブレッカー、デヴィッド・サンボーン、マーカス・ミラー、スティーヴ・ガッドという錚々たるメンツが参加してます。
《ハー・スイートネス》 ねっ、切ないでしょ。サンボーンのアルト。
*
話を戻しまして、続く2曲《コンジェクチャー》と《フラクチュエーション》は4ビートのジャズ。松村のジェレミ・スタイグ風~デイヴ・バレンティン風フルートと坪口のアナログ・シンセやエレピがアドリブを展開。きちっとアドリブをしているのに耳触りが良いサウンドですね。懐かしくも現代性が入り混じる不思議な世界が繰り広げられています。ベース・ソロもあります。
ちょっと短めな懐かし風味の捻りが効いた4ビート曲《エストール》をはさんで、ラスト《チャンズ・ソング》のみはハービー・ハンコックの曲。ボコーダーの使用が懐かしさを演出。80年代アーバン・フュージョンですね。この曲も”せつね~”感じでいっぱい。
80年代に青春時代を過ごされたフュージョン好きは必聴!
奇妙な中毒性を帯びたサウンドにやられちゃって下さい(笑)。
アルバム名:『on forgotten potency』
メンバー:
菊地雅晃(b, effects, dub mix)
松田拓海(fl, b-fl, effects)
坪口昌恭(analog syn, el-p, org, vocoder, effects)
藤井信雄(ds)
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