アートなジャズ
新譜紹介です。メンバーが気になったので買いました。
トーマス・スタンコ・ニュー・ヨーク・カルテットの『Wistawa』(2012年rec. ECM)です。メンバーは、トーマス・スタンコ(tp)、ダヴィ・ヴィレージェス(p)、トーマス・モーガン(b)、ジェラルド・クリーヴァー(ds)です。スタンコについては今更説明不要でしょう。ポーランド出身のジャズ・トランペッターでECMレーベルから何枚もアルバムを出しています。マルチン・ボシレフスキ・トリオがバックを固めた『サスペンディト・ナイト』は私のお気に入りです。
今回はそのメンツに注目しました。最近話題になっているキューバ人ピアニストのヴィレージェス、最早現代屈指のベーシストのモーガン、実力は折り紙つきのドラマーのクリーヴァー、3人ともECMの他人のアルバムで良い演奏を聴かせていました。この3人がスタンコのジャズをどのように表現してくれるのか?興味津々でした。結果から言ってしまうと、かなり良かったです。
全曲スタンコが作曲。クールで淡い色彩の曲が続きます。基本的には静謐ですが、曲や場面によっては盛り上がるところもあります。これはいつものスタンコ・サウンドであり独特な美学。この前紹介したチャールス・ロイドがそうであったように、スタンコも自分のサウンドを確立していて、それを飄々とやっている感じです。非常に繊細でアートなジャズです。緊張感はありますが、聴く方に極度な緊張を強いるものではありません。
これを聴いてますますモーガンが気に入ってしまいました。抜群の存在感と芸術性を聴かせています。深みがあり落ち着いたベースはここにある音楽全体を支えています。クリーヴァーは繊細なドラミング。必要にして十分な音を散りばめていきます。この人は4ビートが上手いですね。これを聴いて思ったのはジャック・ディジョネットの系譜だろうということ。意外と正統派なのです。
ヴィレージェスはあまり特徴がありません。そしてここでの演奏からはキューバ人というのは浮かびません。ヨーロッパ系のピアニストのように聴こえます。ガチガチに尖がるようなところはなく、しなやかに芸術的な音を綴っていく様はなかなかの説得力。こういう風に一見どうってことないようでいてしっかりしたピアノを弾くのって実力がないとできないんじゃないでしょうか?
スタンコが抜けてピアノ・トリオになる場面があるのですが、これが非常にしっかりしたアートなピアノ・トリオで、この3人でピアノ・トリオのアルバムを作ってもアイヒャーの基準を余裕でクリアできるのではないかと思います。かなりいいんですよ。これが。ヴィレージェス、モーガン、クリーヴァー、こういう人達の時代が来ているのでしょうね。
CD2枚はちょっと多いような気がしますが、4人の演奏はどの曲においてもだれることはないので、その日の気分で2枚のうち1枚を選んで聴けば良いのではないかと思います。ECMレーベルってジャズの芸術的な部分をしっかり記録するレーベルですよね。
アルバム名:『Wistawa』
メンバー:
Tomasz Stanko (tp)
David Virelles (p)
Thomas Morgan (b)
Gerald Cleaver (ds)
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コメント
トーマス・モーガン、数年前からあちこちで名前を見るようになりましたが、特にある程度硬派な路線から完全に硬派になってくる場面にあっては、若手(?)ではかなりのウデとセンスではないでしょうか。
ここでも、マイペースなリーダーを、ベースでサウンドが引き締まるというか、やはり硬派な方に引っ張っていってくれている気がします。私も気に入った1枚(2枚)でした。
TBさせていただきます。
投稿: 910 | 2013年4月16日 (火) 07時33分
910さん
こんばんは。
トーマス・モーガンってモチアンのバンドとかにいて相当鍛えられて今があるという印象です。
ほんと、かなりのウデとセンスだと思います。
モーガンがどっしり構え、クリーヴァーが広げ、ヴィレージェスがしなやかに振る舞う、そんな感じでスタンコの世界を繰り広げている感じに聴こえました。
いいですよね。これ。
TBありがとうございました。
投稿: いっき | 2013年4月16日 (火) 20時31分