地味渋な現代バップ
新譜紹介です。
アレックス・シピアギンの『オーヴォールッキング・モーメント』(2012年rec. Criss Cross)です。メンバーは、アレックス・シピアギン(tp,flh)、クリス・ポッター(ts,ss)、スコット・コリー(b)、エリック・ハーランド(ds)です。一応シピアギンはフォローしているミュージシャン。相方がクリポタということで迷わず買いました。
シピアギンの曲が4曲、コリーの曲が2曲、クリポタの曲が1曲、マンデイ満ちるの曲が1曲の全8曲が収録されています。1曲目《エクスペクテイション》はハービー・ハンコック抜きの黄金のマイルス・クインテットという雰囲気。モーダルなバップ演奏です。きっちりアドリブを決めていますが、曲調も含め地味目で渋いといった感じ。以降もこういう感じの演奏に終始します。リズムは変拍子もあって現代的。
シピアギンの曲とコリーの曲は似た雰囲気。どちらが作った曲かを言い当てるのは難しいのではないかと思います。淡い色彩の曲です。そんな中でクリポタの《ミシシッピ・ワルツ》とマンデイ満ちるの《ファースト・ステップ》がちょっと雰囲気が違っていて、良い気分チェンジになっています。
4曲目クリポタの《ミシシッピ・ワルツ》はちょっとユーモラスな雰囲気を含んだ曲。ここまでの曇り空の雰囲気だったところに、ちょっと日差しが差し込んでくるような効果があります。決して演奏のテンションが緩いわけではありませんが、何かホッとさせるあたりに、クリポタの曲作りの上手さを感じます。
7曲目マンデイ満ちるの《ファースト・ステップ》は哀愁を帯びた静かなバラード。この曲ではシピアギンがフリューゲルホーン、クリポタがソプラノ・サックスを吹いていることもあり、ちょっと雰囲気が変わります。マンデイ満ちるはシピアギンの奥さんです。奥さんの曲を優しく吹くシピアギン。夫婦愛やな~(笑)。続くクリポタのソロもイメージを維持しています。
コリーのベース、ハーランドのドラム、曲によってはソロもありますが出しゃばることもなく、地味渋のイメージを崩さず好サポートに徹しています。クリポタのソロでは、《フラッシュ》の高速4ビートに乗ってのマシンガン・フレージングが一番好き。クリポタの良さがストレートに出ています。
わきまえた4人の実に大人なジャズ。この味はお子様には分かるまい。なかなか好アルバムです。シピアギンのトランペットとクリポタのサックスをじっくり味わいましょう。
それにしてもこういう中堅どころの現代バップをひたすら地道に録音し続けるクリス・クロスというレーベルには恐れ入ります。末永くこういう活動を続けていってもらいたいです。次回リリースの予約が始まっていますが、次も面白そうなものがいくつか控えています。
アルバム名:『Overlooking Moments』
メンバー:
Alex Sipiagin(tp,flh)
Chris Potter(ts,ss)
Scott Colley(b)
Eric Harland(ds)
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コメント
前回のアルバムの方が爆発的なものもあって好みだという方も複数いらっしゃいましたが、個人的には今回のアルバムのサウンド、好きです。クリス・ポッターのECM盤の方が1年先の録音なので、そちらからこっち方面にきてみました、的な感じで。
他のメンバー(特にフロント)に置きかえると、おそらく近いサウンドやフレーズでも再現不可能ではないか、と思えるくらい絶妙なバランスでした。
TBさせていただきます。
投稿: 910 | 2013年3月31日 (日) 07時59分
910さん
こんばんは。
確かに前回のアルバムの方が元気が良いサウンドでしたよね。私は元気な方が好きですが、こちらはこちらでまた聴きどころはあるように思いました。なるほど、ECM的低体温症との繋がりで解釈すると収まりが良い感じはします。今志向しているサウンドがこういうふうなものだということになるんでしょうかね?
TBありがとうございました。
投稿: いっき | 2013年3月31日 (日) 18時04分
お久しぶりです。m(_ _)m
うーん、、いつも、時流を踏まえたお勉強にも余念がなく、頭が下がります。わたし、、刹那主義?でだめだわ。一生、脈絡なくグダグダのまま終わる人生♪
わけありまして、いろいろなことが遅くなりましたが、この時のクリスクロスのリリースはどのアルバムもドキドキするメンツを揃えていて、、実際聴いても、、捨て盤なしだなぁ。。と、思いました。
で、愛聴盤というのとは少し違う気もするのですが、これが1番気に入りマした。
しかも、感想もよーー似てますです。(笑)
ピアノやギターがない分、音的には地味って言えば地味なのかもしれませんが、、ストレートな元気でなくても、こりゃ、充分力のはいった闘志溢れるサウンドだと思ったんですけどねぇ。
楽器は違うけど、いい意味でのライバル心むき出しな感じがして、互いに飼われたネコにはなるまい、って、感じがしたんだけどなぁ。。
投稿: Suzuck | 2013年6月17日 (月) 08時46分
Suzuckさま
はい、お久しぶりです。
>うーん、、いつも、時流を踏まえたお勉強にも余念がなく、頭が下がります。
何か理屈っぽいことが好きなんですよね。
困ったものです。
>わたし、、刹那主義?でだめだわ。一生、脈絡なくグダグダのまま終わる人生♪
それはそれで面白いと思うのですが。
>この時のクリスクロスのリリースはどのアルバムもドキドキするメンツを揃えていて、、実際聴いても、、捨て盤なしだなぁ。。と、思いました。
私は確かこれしか買わなかったはず。クリスクロスってなかなか手堅いですよね。
>しかも、感想もよーー似てますです。(笑)
それはもう今更というか、私達似通った感性なんでしょう。
>音的には地味って言えば地味なのかもしれませんが、、ストレートな元気でなくても、こりゃ、充分力のはいった闘志溢れるサウンド
はい、その通りだと思います。
かなりの力演で、孕んでいる冷たい炎みたいなものが良いですよね。
>いい意味でのライバル心むき出しな感じがして、互いに飼われたネコにはなるまい、って、感じがしたんだけどなぁ。。
共演経験が多いこの2人ですから、テンションは阿吽の呼吸で高く維持したんだろうと思います。
トラバありがとうございました。
投稿: いっき | 2013年6月17日 (月) 20時26分