情感溢れるトランペットに酔う
時々フォローしているトランペッターの新譜です。安く買うためにHMVのマルチバイにしたらすっかり入手に手間取ってしまいました。
パオロ・フレス・デビル・カルテットの『Desertico』(2012年rec. Tuk Music/Bonsai Music)です。メンバーは、パオロ・フレス(tp,flh,multi-sffects)、ベーボ・フェッラ(el-g,ac-g)、パオリノー・ダッラポルタ(b)、ステファノ・バニョーリ(ds)です。2007年には同メンバーによるアルバム『スタンリー・ミュージック!』が出ていて、ブログでは紹介していませんが私のお気に入り。このグループの2作目が本作。(Suzuckさまから教えていただきました。どうやらこのグループの3作目らしいです。)
その『スタンリー・ミュージック!』のやんちゃな演奏からデビル(悪魔)・カルテットと名付けられているのでしょうけれど、本作はどちらかと言えば同じ編成で異なるメンバーの『エンジェル(天使)』(1998年)というアルバムが出ているように、天使の雰囲気のほうが強いように感じます。悪魔と天使が同居しているところがこのグループの魅力なんでしょうね。『スタンリー・ミュージック!』にももちろん天使はいました。
このアルバムの魅力は何といってもフレスの情感溢れるトランペット/フリューゲルホーンでしょう。全体の雰囲気はコンテンポラリーなフュージョンですが、決して心地良さだけに走らない品と質を備えているのが良いところです。なかなか豊饒な音楽性を持っています。誰とは言いませんが今流行りの甘いだけのフュージョン・トランペッター達とは一線を画しているように思います。
フレスは曲によってトランペットとフリューゲルホーンを使い分け、ミュートプレイが多いです。フェッラはエレキギターよりアコースティックギターを弾く方が多く、その使い分けからもわかるように天使の雰囲気が勝っています。フレスが4曲、フェッラが2曲、ポルタが2曲、バニョーリが2曲提供。《サティスファクション》にスタンダード《ブレイム・イット・オン・マイ・ユース》が加わって全12曲。良いメロディーの曲がたくさんあります。
冒頭はローリング・ストーンズの《(アイ・キャント・ゲット・ノー)サティスファクション》。変拍子でロックに迫ります。勢い溢れるトランペット・ソロが気持ち良いですね。フェッラのエレキギターはジョン・スコフィールド系だと思いますが灰汁は強くありません。強烈な個性ではないところがこのバンドにはフィットしているように思います。フレスのエフェクト使用は控えめに。
哀感溢れる曲ではフリューゲルホーンの柔らかい響きやミュートの切ない響きにアコースティックギターがさり気なく寄り添います。5拍子の《オール・アイテムズ》は軽やかでスインギー。《ブレイム・イット・オン・マイ・ユース》はミュートが切なくリリカル。不穏なワルツ曲《Desertico》はベースが同じフレーズを刻む中、ミュートとギターが多重録音も交えて浮遊して突然終了。勇ましい感じの《Voci Oltre》はバニョーリの曲だけあってドラムが弾け、シンセのようなサウンド・エフェクトもあり音響系。《ヤング・フォーエバー》はフリューゲルホーン?とアコースティックギターの美しいデュオで染みます。
ラストの《Inno Alta Vita》はカントリーの雰囲気。アメリカの大草原に吹く心地良い風。ロックな《サティスファクション》から始まってカントリーな《Inno Alta Vita》で終わるというのが面白いのですが、間は様々な表情を見せつつ曲が展開してきます。じっくりフレスの音楽に浸れるアルバムになっていると思います。
録音が素敵で、エコーを多めに収録していてるところが音楽をより豊饒に響かせています。徐々に暖かくなってくる今聴くと良いアルバムかも。
アルバム名:『Desertico』
メンバー:
Paolo Fresu(tp, flh, multi-effects)
Bebo Ferra(el-g, ac-g)
Paolino Dalla Porta(b)
Stefano Bagnoli(ds)
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コメント
これいいですよねー
このバンドで来日するといいなーいいなー!
投稿: すずっく | 2013年3月 1日 (金) 23時28分
すずっくさま
こんばんは。
>これいいですよねー
はいとてもいいと思います。気に入ってます。
>このバンドで来日するといいなーいいなー!
はい、是非来日してほしいです。
後ほどお邪魔いたしますのでよしなに。
投稿: いっき | 2013年3月 2日 (土) 00時10分
トラバありがとうございました。
フレスの抒情的な面も好きなのですが、エレクトロニクスなどを効果的に使って様々な感情を呼び起こすサインドも大好きです。
でも、時々、あまりに実験的すぎて、、短い曲がドドーーっとならぶアルバムもあったりして、手が出なかったりもするんですが。。
しかし、短い1曲の中でもフレスらしいフレージングでノックアウトされたりするので、ファンとしては侮れません。。
そういったことを考えると、これはかなりメロディをしっかり吹いていて聴きやすいサウンドになってると思います。
聴きやすい=安易な作品という感じに捉えるような文章をネットで見かけることもありますが、わたしとしては今回もいい作品だったなぁ、と、ニヤニヤしております。
あとで、前作もトラバしますね。
実は、このバンドの公式な?1枚目って、昔わたしがボチボチと書いていた「すべての道はローマに通ず。」のシリーズにあるのですが、その年の他のアルバムは全てblogにあげたのですが、これはあげられずに今にい至ってます。だから、知ってる範囲だとこのメンバーで、3枚目なのです。
Jazzitaliano Live2006 Paolo Fresu Devil Quartet
思い入れが強すぎて、この年のシリーズはこの1枚だけあげきれずにいます。それじゃ、あかんですよねぇ。でも、そんなのばかり!(爆)
投稿: Suzuck | 2013年3月 5日 (火) 08時13分
Suzuckさま
こんばんは。
こちらこそトラバありがとうございました。
>エレクトロニクスなどを効果的に使って様々な感情を呼び起こすサイドも大好きです。
エレクトリック・マイルスを継承する部分ですよね。私もその路線は大好きです。
>でも、時々、あまりに実験的すぎて、、短い曲がドドーーっとならぶアルバムもあったりして、手が出なかったりもするんですが。。
私はその手のやつにあまり接していませんが、P.A.F.の『MORPH』なんかはその口ですかね?これは結構好きです。
>しかし、短い1曲の中でもフレスらしいフレージングでノックアウトされたりするので、ファンとしては侮れません。。
でしょうね。
>これはかなりメロディをしっかり吹いていて聴きやすいサウンドになってると思います。
はい、おっしゃるとおりだと思います。
>聴きやすい=安易な作品という感じに捉えるような文章をネットで見かけることもありますが、
聴き方が浅い(笑)。
>わたしとしては今回もいい作品だったなぁ、と、ニヤニヤしております。
同感です。ちゃんと聴けば決して安易ではありません。色々仕掛けや捻りもあります。
>あとで、前作もトラバしますね。
ありがとうございます。
>実は、このバンドの公式な?1枚目って、昔わたしがボチボチと書いていた「すべての道はローマに通ず。」のシリーズにあるのですが、
そうだったのですか!
>その年の他のアルバムは全てblogにあげたのですが、これはあげられずに今にい至ってます。
あらまっ。
>だから、知ってる範囲だとこのメンバーで、3枚目なのです。
では3枚目であると追記しておきます。
>Jazzitaliano Live2006 Paolo Fresu Devil Quartet
う~うぅ、それも聴きたいです。
>思い入れが強すぎて、この年のシリーズはこの1枚だけあげきれずにいます。それじゃ、あかんですよねぇ。でも、そんなのばかり!(爆)
色々なことがありますよね。私もあげてないのが時々ありますから。
投稿: いっき | 2013年3月 5日 (火) 20時34分
もう1枚も、トラバしました。
って、ショーターのアルバムは、、わたしは凄く気に入りました。
やっぱ、人それぞれなんですねぇ。。
投稿: Suzuck | 2013年3月 6日 (水) 18時18分
Suzuckさま
トラバありがとうございました。
熱い紹介を楽しく読ませていただきました。
前のプロバイダのブログも残っているんですね。
>って、ショーターのアルバムは、、わたしは凄く気に入りました。
>やっぱ、人それぞれなんですねぇ。。
良いとは思うんですけどね、以前出たアルバムもそうなんですけれど、どうもハートに響いて来ないんです(涙)。
投稿: いっき | 2013年3月 6日 (水) 21時21分