コンポーザー・サンチェスを聴く1枚
最近オーディオが楽しくて、こういう時は意外とレコードやCDを素直に楽しんでいます。今はジャズについて鬱陶しい思考をしたくない気分なのでちょうど良いです。評論家のレビューは読む気になりません。こんな気分の時もあるさ。それはさておき、今日は新譜紹介。
アントニオ・サンチェスの『ニュー・ライフ』(2012年rec. CAMJAZZ)です。メンバーは、デイヴィッド・ビニー(as)、ダニー・マッキャスリン(ts,ss)、ジョン・エスクリート(p,fender rhodes)、マット・ブリューワー(ac-b,el-b)、アントニオ・サンチェス(ds,vo,additional keyboards)、ターナ・アレクサ?(voice)です。サンチェスの3枚目のリーダー作。前作がライブ2枚組でガッツリとジャズを聴かせてくれたのですが今回は如何に?
いきなりスピリチュアルな雰囲気の曲《アップライジング・アンド・レヴォリューション》で始まります。ビニーとマッキャスリンの熱いサックス・ソロで気分は盛り上がります。エスクリートはこういう時にありがちな”まんまマッコイ・タイナー”になっていないのが良いですね。ドラム・ソロが単なる力任せになっていないのはサンチェスらしいです。
このまま熱く力で押し切るのかと思いきやさにあらず。2曲目《Minotauro》はエスクリートのエレピを大きくフィーチャ。都会の夜のミステリアスな雰囲気です。エスクリートの適度な尖がりのキュートなソロがなかなか良いと思います。サックスはテーマの合奏のみでソロなし。後半のドラム・ソロは流れの中で自然に。
3曲目のタイトル曲はアレクサのスキャットが入ってメセニー風ブラジル調。メセニーのグループでドラムを叩くこの人ならではか? なかなかの美メロ曲です。アルバムで一番の長尺曲はドラマティックな展開。途中にはマッキャスリンの熱いソロを挟んだりして緩急をつけて物語のように聴かせます。ここまで来て分かったのは、このアルバムがコンポーズとアレンジを聴かせるアルバムだということ。
ビニ―のアルトが先導するカントリー調ワルツ曲《ナイト・ストーリー》ではアルト・サックス、ピアノ、テナー・サックスのソロは短め。2サックスの熱いアドリブを聴かせる《メデューサ》はモーダルな現代バップ。テナーとアルトの掛け合いをドラムが煽る出だしからファンクへと変わる《ザ・リアル・マックダディ》。エレピで始まる《エアー》はマッキャスリンのソプラノ・サックスがしっとり聴かせるバラード。ここではベース・ソロも歌ってます。ラスト《ファミリー・タイズ》はまたまたピアノ・ソロ主体の現代バップ。全曲サンチェスの曲。
このメンバーですから、どんなタイプの曲が来てもそつなくこなして、実力は見せてくれています。ブリューワーが曲によってエレベを弾いているのですが、アコベとあまり差がありません。まあこの辺りの使い方はメセニー・グループのスティーブ・ロドビーを意識しているのかもしれませんね。エスクリートが現代ニューヨークな人でありながら意外とキュートなフレーズを弾いていて、私はそこに好感を持ちました。ビニーとマッキャスリンは現代サックス実力派。マッキャスリンが時々マーク・ターナーみたいなフレージングをするのがちょっと気になるところか。
サンチェスのドラミングはどこを切っても似たような叩き方ですが、生み出されてるしなやかなグルーヴはいつも心地良いです。メセニー(このアルバムのライナーノーツも書いています)が自己のバンドでこの人を起用しているのはその辺りのセンスを買っているからでしょう。
主張はそれほど強く感じませんが、サンチェスのコンポーザーとしての力量をしっかり聴かせ、何度も聴くうちに味わいもじわじわ増してくるアルバムだと思います。
アルバムジャケット(過去作含む)の小シールが4枚入っているのが謎(笑)。
アルバム名:『NEW LIFE』
メンバー:
Dave Binney(as)
Donny McCaslin(ts, ss)
John Escreet(p, fender rhodes)
Matt Brewer(acoustic & electric bass)
Antonio Sanchez(ds, vo, and additional key)
Thana Alexa(vo-M3)
*
いよいよ明日は、「KOFU JAZZ STREET」
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コメント
ドラマーが作曲してドラマーが叩いたいいサウンドとなりました。もっと早く聴けばよかったです。どの曲も個性的でしたけど、やっぱり3曲目のタイトル曲が14分台の大作でもあって、メセニー・グループを思い起こさせるような感じで、一番印象に残りました。
TBさせていただきます。
投稿: 910 | 2013年4月24日 (水) 17時13分
910さん
こんばんは。
これはなかなか良い出来ですよね。
作編曲を自在にこなすサンチェスは知的ドラマーです。
今のジャズ界をリードしていく一人でしょう。
3曲目は私も気に入っています。
TBありがとうございました。
投稿: いっき | 2013年4月24日 (水) 22時24分