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やっぱりクリポタはいいよね。

そろそろいっときましょう!

P174_2クリス・ポッター『ザ・サイレンズ(2011年rec. ECM)です。メンバーは、クリス・ポッター(ss,ts,b-cl)、クレイグ・テイボーン(p)、ダヴィ・ヴィレージェス(prepared piano,celeste,harmonium)、ラリー・グレナディア(b)、エリク・ハーランド(ds)です。とうとうECMからリーダー・アルバムを出してしまいました。録音から1年と4か月ほど、ECMですからきちんと作りこんで出してきたんでしょうね。ギリシャの詩人ホメーロスが残した叙事詩『オデュッセイア』にインスパイアされ制作したというアルバム。

音響的な趣向も取り入れた曲が2曲ありますが、基本は王道サックス・カルテット。実に堂々朗々とサックスを吹くクリポタがいます。自分のバンド、アンダーグラウンドのような尖がった部分はありません。でもそれがECMなのだろうと思いますし、大きく構えて演奏しているクリポタはとても好ましく思います。ラスト曲以外はクリポタが作曲。

1曲目《ワイン・ダーク・シー》はスケールが大きい曲想。朗々とテナーをブローするクリポタは頼もしい限り。いや~、何か貫禄ありますよね。テイボーンのピアノもガッチリしていて実に良い伴侶ぶりです。テイボーンはクリポターのバンドで長くやっていたので、何をやれば良いか分かっているんでしょう。グレナディアの音楽的なベース、ハーランドのキレとパワーのドラミング、カルテットとしてのまとまりは良好です。

2曲目《ウェイファインダー》ではヴィレージェスのプリペアド・ピアノが加わってイマジネーション溢れる曲になっています。ハーランドは今流行り?のシンバルの上にタンバリンを乗せてのプレイだと思います。中盤はクリポタ抜きで進み、再び現れたクリポタはテナーで爆発。

3曲目《ドーン(ウィズ・ハー・ロージー・フィンガー)》はバラード。テイボーンのピアノ・ソロとグレナディアのベース・ソロが美しい。クリポタはバラードでもスケールが大きいですね。ここでもテナーを浪々と吹いています。

4曲目タイトル曲《ザ・サイレンズ》はバス・クラリネットでテーマを吹き、荘厳で敬虔な祈りを感じさせます。ベースのアルコ奏法も荘厳な感じを維持し、テナーで再登場のクリポタはスピリチュアルにブロー。今までクリポタにこういうスピリチュアルな感じはなかったような気がするので新鮮です。現代のスピリチュアル、60年代のそれとは異なるどこか乾いた肌触りが良いです。

ちなみにタイトルの”サイレンズ”はギリシャ神話に登場するセイレーン(Seiren)の英語表記(siren)の複数形。セイレーンは航行中の船の乗組員を美声で誘惑、難破させる半人半鳥の精です。サイレン(警笛、警報)の語源とされます。

5曲目《ペネロペ》はソプラノ・サックスでじっくり。フュージョン的な心地良い響きがありながら、80年代の軽薄さがないのは立派。タイトルどおりの美しい曲です。テイボーンのピアノも儚い美しさを漂わせて素敵。

6曲目《Kalypso(カリュプソー)》はカリプソ曲。ウィキペディアによると”Kalypso”はギリシャ神話の海の女神で、英語風に発音すると”Calypso”となるそうです。カリプソと言えばロリンズを思い浮かべてしまう私ですが、ここではクリポタ流カリプソが展開します。テーマは複雑なリズム。テイボーンのピアノ・ソロも一癖あるカリプソになっています。ラストは同じフレーズを繰り返す中でのドラム・ソロとか、この人達にしかできないカリプソですね。

7曲目《Nausikaa(ナウシカアー)》はヴィレージェスのチェレスタが幻想的かつ宇宙的な響きを演出。スペイシーな中でピアノ・ソロとソプラノ・ソロが静かに音を綴っていきます。ウィキペディアによると、ナウシカアーって『オデュセイア』に登場する王女。宮崎駿の「風の谷のナウシカ」って、このナウシカアーからとられているとか。どちらも王女です。なるほど。

8曲目《ストレンジャー・アット・ザ・ゲート》はクリポタらしいちょと捻ったメロディー。クリポタらしい節回しでテナー・ソロを展開。クリポタが登場するラスト曲なので、冒頭の曲とこのラスト曲が実にクリポタらしい作風というところに彼の主張を感じます。

ラスト《ザ・シェイド》はピアノやチェレスタが静かにほんの少しずつ鳴っていき2分少々で終了。物語が静かに幕を下ろします。テイボーンとヴィレージェスの作曲になっているので即興ではないかと思います。デュオという感じではないです。

コンセプト・アルバムですがコンセプトに溺れず、サックス奏者として堂々と主張しているところが気に入りました。コルトレーン風スピリチュアル、フュージョン風美メロ、ロリンズ風カリプソがあっても、まんまやってしまうような軽率さはなく、どこを聴いてもクリポタのサウンドになっているところに感心します。

比較的オーソドックスでECMらしい中、クリポタのアイデンティティが確固として存在するアルバムです。推薦アルバム!

こうなってくると、「アンダーグラウンド」の新譜を早く出してほしいです。まあ今はパット・メセニー・バンドでのツアーが忙しいんでしょうけれど・・・。

アルバム名:『The Sirens』
メンバー:
Chris Potter (ss, ts, bcl)
Craig Taborn (p)
David Virelles (prepared p, celeste, harmonium)
Larry Grenadier (b)
Eric Harland (ds)

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コメント

個人的には「Sirens」と「Silence」を引っ掛けたタイトルだろうなあ、という先入観で聴いていたら、叙事詩「オデュッセイア」にインスパイアされたアルバムだったということが、聴いた直後に分かり、追記したりして文章を直しました。ただ、そういうことを知らなくても、クリポタはクリポタだった、ということが分かり、素晴らしかったです。

次はECMから出るのか、他レーベルから出るのか、気になります。今回のアルバムも良かったですが、多方面の活躍も聴いてみたいです。

TBさせていただきます。

投稿: 910 | 2013年2月10日 (日) 08時36分

910さん
こんにちは。

>「Sirens」と「Silence」を引っ掛けたタイトル
そこには気付きませんでした。
つづりが違ってたんですね。
私はすっかり「Silence」と受け取ってました(汗)。

>ただ、そういうことを知らなくても、クリポタはクリポタだった、ということが分かり、素晴らしかったです。
ですよね。ECMでもクリポタはクリポタ。
私も内容には満足しています。

>次はECMから出るのか、他レーベルから出るのか、気になります。
さすがにアンダーグラウンド名義でECMからは出ないでしょうね。

>今回のアルバムも良かったですが、多方面の活躍も聴いてみたいです。
そうですね。
色々な条件下で活躍の場を増やしてほしいです。
それが知名度を上げ実力も上げるのでしょうから。

TBありがとうございました。

投稿: いっき | 2013年2月10日 (日) 12時32分

こんにちは〜
わぁ♪ みなさま もうお聴きになっていますね。
う〜ん わたしは どうしようか迷う…

投稿: Marlin | 2013年2月10日 (日) 17時15分

Pianoが違いますが(Ethan Iverson)こちらでライブが聴けます。
http://www.npr.org/event/music/170717638/chris-potter-quartet-live-at-the-village-vanguard

ご存知でしたら失礼。

投稿: AZ | 2013年2月10日 (日) 17時17分

Marlinさん
こんばんは。

>わぁ♪ みなさま もうお聴きになっていますね。
はい聴いてますね。

>う〜ん わたしは どうしようか迷う…
これは聴いておいた方が良いと私は思います。
クリポタのサックスが堪能できます。

投稿: いっき | 2013年2月10日 (日) 19時16分

AZさん
こんばんは。

貴重な情報ありがとうございます。
後でゆっくり聴いてみます。
楽しみです。

投稿: いっき | 2013年2月10日 (日) 19時18分

こんにちは♪
トラバありがとうございました。m(_ _)m

アンダーグラウンドのような強力な破壊力とは違う筋書きが先にある濃密な空間でしたね。クリポタ10やビッグバンドとのアルバムにも発揮してるがっちりとした構図に違和感なくうねりこむ流麗なサックスを聴いてると本当に嬉しくなってきてしまいます。

彼のバラードは荘厳というか厳かと言うか、、静かな中に緊張感と真摯な雰囲気があって、大好きなコルトレーンのオリジナルに通じる重さ暗さが好きですって、書いたのですが、それって、どんどん神がかってきてる気がいたします。

ECMレーベルの特有の芸術的低体温。。精鋭揃いのメンバーと築く精密に計算された空間に溢れる情熱。ユニティバンドでも思ったのですが、感情を表現するということにかけての素晴らしさは唯一無二だと思います。

以前に、コメントでユニティバンドで来日するから、、クリポタバンドでの来日はいらない、と、仰ってましたが、個人的にはこっちも生生で聴きたいです。
ピアノ違うけど、、話題になってるサイトも凄かったですものね。

投稿: Suzuck | 2013年2月12日 (火) 17時51分

Suzuckさま

こんばんは。
こちらこそトラバありがとうございます。

>筋書きが先にある濃密な空間でしたね。

はい濃密だと思います。こういうのも悪くないです。

>クリポタ10やビッグバンドとのアルバムにも発揮してるがっちりとした構図に違和感なくうねりこむ流麗なサックスを聴いてると本当に嬉しくなってきてしまいます。

クリポタ10やビックバンドなど、この手の演奏も最早お手の物なのでしょうね。ここでのサックスを聴いていると私もニンマリしてしまいます。

>大好きなコルトレーンのオリジナルに通じる重さ暗さが好きですって、書いたのですが、

それを読んで同じことを感じているんだなと思いました。

>それって、どんどん神がかってきてる気がいたします。

神ががかっているというか、私は存在感が増しているように感じました。

>ユニティバンドでも思ったのですが、感情を表現するということにかけての素晴らしさは唯一無二だと思います。

感情表現の素晴らしさ、なるほど確かにそうですね。

>個人的にはこっちも生生で聴きたいです。ピアノ違うけど、、話題になってるサイトも凄かったですものね。

全く同感です。色んなフォーマットでのクリポタをできれば生で体感したいです。

投稿: いっき | 2013年2月12日 (火) 20時44分

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