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「益子博之=多田雅範 四谷音盤茶会」後編

先日の日曜日に 「綜合藝術茶房 喫茶茶会記」 で行われた「益子博之=多田雅範 四谷音盤茶会 vol.08」で紹介されたアルバムの続きです。

かかった曲のリストは tadamasu-連載 を参照願います。

*以下の解説は当日喋った全てのことではなく、誤解している箇所がある可能性もありますので、ご了承下さい。

6.ジェレミー・ユーディーンの『フォーク・アート』から《プロスペクト-パート1》

フォーク・タッチの演奏。ユーディーンはポール・デスモンドみたいに柔らかく吹く人ですが、このアルバムでは変わってきています。ブランドン・シーブルックはアメリカでバンジョー界のスティーヴ・ヴァイと言われる人。このアルバムでもバンジョーしかやっていません。ヴァイオリンみたいな持続音は弓弾き。バンジョーは余計な音がいっぱい鳴ってしまうところがエレクトロニカっぽいです。違う音が鳴ってしまうところは日本の三味線の「サワリ」にも通じアンチ西洋的。織原さんは、レベルが高い演奏で、併走はラインだけれどこの演奏は面でくるモヤモヤがあって凄いし、サックスとバンジョーのユニゾンが良いとのことでした。多田さんは、自分は音色フェチで、音程とか反応とかリズムではなく、どういう音を合わせていくかに興味があるそうです。スローだから良いのではなく、このタイミングでこの音を出してくるというような部分に惹かれるとか。益子さんは、定型リズムでなく伸びたり縮んだりするところが面白いそうです。

ここでは多田さんの音楽的嗜好が分かって面白かったです。こういうサウンドは益子さんがこれまで主張してきた現代ジャズ(所謂ジャズではないかも?)の面白さでしょう。

ここまでかけて休憩。B.G.M.は垣谷明日香のビッグバンド。
柳樂光隆さんがいらしていたのでお話しました。

7.ダヴィ・ヴィレージェスの『コンティニューム』から《El Brujo and the Pyramid》と《Unseen Mother》

ヴィレージェスはキューバ出身。昨年マーク・ターナーのバンドでピアノを弾いていたそうです。アメリカでは評価が高く、今売れっ子なんだとか。クリス・ポッターの新譜にも参加。クリポタの新譜ではほとんど弾いていないけれど、弾いていることには意味があります。益子さんは、アルバム全体は面白くないけれどパートパートは面白いとのことでした。ヴィレージェスのこのアルバムにはアンドリュー・シリルが参加。シリルはアメリカでは最近凄いと言われているそうです。このアルバムは全体を聴くとあまり面白くないけれど、サウンドの使い方を聴いてほしいとのことでした。かけた曲ではシリルはほとんど叩いておらず、空間の開いたところにオルガンとか入ってくるのが面白いところです。キューバの民話を題材にしたアルバム。

このアルバム、実は私も買ってます。ヴィレルスが『BRO/KNAK』に参加していて気になったからです。確かに全体を聴くとあまり面白くなくて、ブログに紹介文を書くのをやめようと思っていたアルバムです。言われてみれば確かに面白いところもありますよね。

8.ジョバンニ・ディ・ドメニコ/アルヴェ・ヘンリクセン/山本達久の『Distare Sonanati』から《Alma Venus》

ドメニコはイタリア人でベルギーに住んでいます。山本達久は凄いドラマー。ジャズ畑での演奏は少なく、ノイジーな演奏や歌もので叩いています。即興系で叩くことが多く、ジム・オルークがベストと言っているそうです。このアルバムではほとんど集団即興で曲はありません。同メンバーの前作はリズミックだったけれど今回のは空間的。益子さんは、パーカッションの金属音が気持ち良いそう。織原さんは、連帯感が凄く、一人一人が音を作っているような感じが良いとのことでした。多田さんは、鳴っているサウンドのバラエティーが凄く、不意にやって来る「これは何?」的なものや、タイム的メリハリから、アトラクションに乗せられているように感じたそうです。段取りの良いデートに誘われているみたいで、音楽的には良いけれど、トゥー・マッチとのこと。

私はこのサウンドが気に入りました。パーカッションの金属音は確かに快感。このアルバムは買って聴いてみたいです。

9.ラフィーク・バーティアの『イエス・イット・ウィル』から《ワンス》

バーティアはインド系のギタリスト。彼のサイトによるとイースト・アフリカン・インディアンだとか。借金の形としてインドからアフリカに渡った人の末裔らしいです。曲調は所謂インド系ではありません。基本的にギター/ベース/ドラムのトリオで演奏。最終的には編集しているようだけれど取って付けたような感じはありません。曲によってはM-BASEっぽいものもあります。益子さんは、単純にカッコいいそう。ギター・ソロはロバート・フリップっぽいとのことでした。織原さんは、最近のギター・トリオだけれどちょっと変で凄く良いとのこと。織原さんは講演後に早速Amazonで”ポチッ”としていました。LPレコードでも出ています。

ドラムのミニマル/ヒップホップっぽいところに、私は大谷さんの『ジャズ・アブストラクション』の雰囲気を感じました。益子さんがおっしゃるとおり単純にカッコいい。帰ってから私もすぐに注文しました。輸入盤を買ったので届くまでにはちょっと時間がかかります。

10・マルク・デュクレの『タワー,Vol.4』から《フロム・ア・ディスタント・ランド》

デュクレのギター・ソロ。益子さん、多田さん共に、デュクレがこんなアルバムを出すと思っていなかったそうです。多田さんはヘヴィー・ローテーション中だとか。益子さんもお気に入りのようです。よく聴くと後ろで鳥が鳴いているのが入っているそうで、そういう環境で録音されているのが面白いところです。多田さんは、相当な技量で反イデオマティックとおっしゃっていました。韓国の音楽に似ているものがあるということでかけたのですが、確かに雰囲気が似ていました。私は”和”テイストを感じました。織原さんによると、アコギを使っている場合、普通は響きを聴かせるのに、これはミュートしてこういう音を出しているのが面白いとのことでした。

確かにヘンテコ面白サウンドにしてアートでした。

以上で第4四半期のアルバム紹介は終了。

こういうアルバムをまとめて紹介しているのは、多分日本中でここしかないと思われます。濃くてディープな世界。

続いて2012年の年間ベスト10。時間が押していたので急ぎ足の紹介でした。

1.Henry Threadgill Zooid 『Tomorrow Sunny/The Revelry,Spp』
 音楽の構造を別なものにしちゃってる。個性をそれぞれが発揮しているわけではない。ルールらしきものが分からない。筋書はない。禁則として出してはいけない音とかある。楽譜はある。Sppは学術的に名前が決まっていない場合に取り敢えず付ける名。そういう感じの音楽。

2.Rafiq Bhatia 『Yes It Will』
 今日9番目にかけたアルバム。ニューヨークにはインド系が多くインドっぽさを出す場合が多いが、バーティアはインドっぽさがなく今の若者が聴いてきた音楽。音楽が自然でロジックがある。考えているというより鳴っている感じ。バーティア個人だけでなく、周りにいる人も面白い。

3.橋爪亮督グループ 『Acoustic Fluid』
 空いている感じがいい。次のアルバムはライブ録音にしたいと言っているそう。

4.Jeremy Udden 『Folk Art』
 今日6番目にかけたアルバム。

5.Eivind Opsvic 『Overseas Ⅳ』
 アイヴィン・オプスヴィークはノルウェー出身でニューヨーク在住。自主制作盤。やっている音楽に必然性がある。人為的なものと勝手に鳴ってしまうサウンドの両方を感覚として持っている。益子さんは、こういうサウンドはポップ・ミュージックの再構築であり、ポップ・ミュージックに繋がるものとおっしゃっていました。織原さんは、最近はより個人的な音楽を作るようになっていて、大きくジャズとかの括りではなくなっているとおっしゃっていました。私もこのアルバムは今年のベスト10に入ると思いますが、そのことはどこにも書いていませんでした。

6.Tomas Fujiwara & The Hook UP 『The Air is Different』
 2管クインテット。やっている音楽は比較的オーソドックス。自分のアルバムでは一本調子っぽいギタリストのメアリー・ハルヴァーソンが、”キュンキュン”変な音を弾いている。ジャケットはお祖父さん。

7.Tim Berne 『Snakeoil』
8.Masabumi Kikuchi Trio 『Sunrise』
 多田さんによるとこの年間ベスト10は、「大物3人の中でなぜこの2人が7、8位でヘンリー・スレッギルが1位なのか?」という疑問を抱かせるようなあざとさがあるとのことでした。この2人はECMに飲み込まれていない。元ECMファンクラブ会長の多田さんがおっしゃっているところが重要。

9.Colin Stetson 『New History Warfare Vol.2 - Judge』
 やっている質感が今までにない感じ。多重録音なしの独奏。これはジャズ喫茶「いーぐる」の「年末ベスト盤大会」で益子さんがかけたアルバム。今度マッツ・グスタフソンとのデュオ・アルバムが出た。

10.Becca Stevens Band 『Weightless』
 ベッカ・スティーヴンスはバークリー出。バックはジャズ畑。女性ボーカルでフォークに分類。結構難しいことをやっている。上手いのは当たり前だが、益子さんは生で観てぶっ飛ばされたそう。

最後にミュージシャン・オブ・ジ・イヤー。
ブランドン・シーブルック、メアリー・ハルヴァーソン、トーマス・モーガン、橋本学、チェス・スミス。ライジング・スター:ラフィーク・バーティア。

以上で全プログラムは終了。

音を聴いて言葉にして会話するって大切だと思います。新たに見えてくるものがあります。そして益子さん、多田さん、織原さんというユニークな感性に出会える面白さを再認識。特にミュージシャンである織原さんのご意見には興味深いところがありました。多田さんも面白くて魅力的な方ですよね。益子さんとはもう長い付き合いですが、ユニークな活動をされていて、このイベントは正にそれです。都合が合えばまた参加したいです。

「綜合藝術茶房 喫茶茶会記」2月9日(土)に関連したライブがあります。
「tactile sounds vol.10」

P168

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