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2013年2月

マイ・ベスト・ジャズ・アルバム 2012

今年も「ジャズ批評」「マイ・ベスト・ジャズ・アルバム 2012」に私のベスト5を掲載していただきました。

P186

今年はピアノ・トリオに絞ってみました(笑)。なんともベタやな~。
選んだ理由については「ジャズ批評」をお読みいただきたく。

1.上原ひろみ ザ・トリオ・プロジェクト 『ムーヴ』
  いやはや何ともエネルギッシュ!

2.ヴィジェイ・アイヤ・トリオ 『アッチェレランド』
  やっぱり今注目すべきはこの人

3.ブラッド・メルドー・トリオ 『ホエア・ドゥー・ユー・スタート』
  メルドー・トリオはいいですね。

4.エンリコ・ピエラヌンツィ 『パーミュテーション』
  躍動感があって良いピアノ・トリオです。

5.フレッド・ハーシュ・トリオ 『アライヴ・アット・ザ・ヴァンガード』
  深みがあるピアノ・トリオのライブ・アルバム

もちろんピアノ・トリオ以外にも良いものはありました。

「マイ・ベスト・ジャズ・アルバム 2012」
にはジャズ友の高野雲さんももちろん投稿。
今年は後藤雅洋さんも投稿しています。
毎度のことですが、人それぞれ、本当に個性豊かです。

さて、毎年恒例の本号、今回から模様替えされてます。
編集体制の変化によるものですよね。
数年ごとにコロコロ変わるのがいかにも「ジャズ批評」。
軸足をどこへ置くのか?吉祥寺派と四谷派の間で揺れ動く(笑)。

ある大衆食堂がこれまで吉祥寺風ラーメンを売りにしていたとしましょう。
吉祥寺風ラーメンが好きで通ってくるお客さんもいることでしょう。
調理人が変わったことをろくに前置きせずに、
「今度四谷風カレーライスを売りにしました。こっちのほうが美味しいですよ。」
と言っている感じでしょうか?
私はここにお客(読者)視点の欠如を感じてしまうんですよね・・・。

あ~あっ、「ジャズ・オーディオ・ディスク大賞」が疎外されて後ろの方でちょっぴり。
色々なご意見があったのは承知していますがこれはこれで面白かったのに。
なななんと! 寺島靖国さんがこの賞の選考委員から外れています。
同じく選考委員だった岩浪洋三さんが亡くなり、
寺島さんもこの賞に見切りをつけたということなのでしょうか?
いやっ、「自分のレーベルのアルバムを受賞させるのは選考倫理に反する。」とか、
まっとうなご意見がとおった結果だろうと推測いたします(笑)。
なるほど、この賞が存亡の危機に陥った事情はこのあたりにあったんですね。

Suzuckさまも快調です。「夜光雲」にクリポタの新譜。

皆さん買って読んで下さい!

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プリアンプにバスブースト回路を追加しました。

最近はオーディオ熱が高まっているので今日もまたオーディオの話。

私はこれまでトーンコントロール否定派でした。トーンコントロールなんていう電気的補正をかけずに、スピーカーにはきちんと低音から高音を出してもらうというチューニングをしてきました。まあ、前はサブシステムのスピーカーがメインシステムのスピーカーの上に乗っていて、そのままではどうしても低音不足だったので、サブシステムに限りトーンコントロールで低音を少し増強してはいましたけれど。

でもとうとう今回、プリアンプにバスブースト(低音増強)回路を付けました。というのは、メインスピーカーを小型のものにしてから、低音は出ていますが時には足りない感じがしていて、特にオーディオチェックに使うようになった上原ひろみの『ムーブ』で、バスドラムがいまいちよく聴こえなかったからです。今はそれほどピュアに音を追及するシステムになっていないので、バスブーストを付けて心地よく聴くほうが良いだろうという心境になりました。

追加したバスブ―スト回路は簡単で、トーンコントロールアンプのようなめんどくさいものではありません。プリアンプの差動1段増幅部にかかっているネガティブ・フィード・バック(NFB)の量を変えることで達成しています。つまり低音になるほどNFB量を減らしゲインを上げることで低音を増強します。増強の度合いを切り替える必要性もないので、増強の度合いはひとつだけです。こうなると追加部品は、NFB量を変える抵抗1個、ハイパスフィルター用コンデンサー1個、切り替えスイッチ1個だけという簡潔さ。

気になっていたのは切換スイッチまでの配線が長くなるので、その配線がノイズを拾うのではないかということです。線をできるだけ短くしてできるだけ電源部から離すことも考えましたが、最終的には操作性を重視してフロントパネルの使いやすい場所にスイッチを付けました。

中身はこんな具合になりました。白色とオレンジ色の2組のより線が繋がっているのがバスブーストスイッチです。プリント基板側には緑色の抵抗と白色のコンデンサーが追加してあります。改造はたったそれだけ。

P184

抵抗値はこのアンプの設計者であるぺるけさんのホームページに書いてある回路を参考にして勘で決めました。自分と同じ環境は他にないので、とにかくやってみないと分かりませんからね。不都合があれば後で調整すれば良いのです。バカみたいに低音を増強する気はないですから補正量は控えめ。

プリアンプの外面はこんな感じです。銀色のパネルがプリアンプ。ボリュームノブの左側にある小さなスイッチがバスブーストスイッチです。

P185

聴いてみると意外とうまい具合に低音が増強されます。低音増強による音質の変化は特になく、『ムーブ』のバスドラがはっきり聴こえ、ベースが存在感を増して聴こえるようになりました。これは具合がよろしい。心配していたノイズの増加もありませんでした。バスブースト回路の追加は大成功と言っておきましょう。今のところわざわざサブウーファーを追加する必要性を感じません。

今回の改造によってまたひとつオーディオ懸案事項が減りました。こうなると残りの懸案事項はヘッドホンアンプ製作くらいか?

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こういうアプローチは好きです。

先月 ジャズ喫茶「いーぐる」 で行われた 「新春ジャズ七番勝負 : 原田和典 vs 大塚広子」 の最初の対決「私の一押しトンガリ系」で原田和典さんがかけたアルバムを紹介します。面白いサウンドだったので聴いてみることにしました。

P183サン・パウロ・アンダーグラウンド『TRES CABECAS LOUCURAS』(2010年rec. CUNEIFORM RECORDS)です。メンバーは、マウリシオ・タカラ(cavaquinho,ds,per,electronics,voice)、ロブ・マズレク(cornet,electronics,voice)、ギルヘルム・グラナド(key,loops,samplers,electronics,voice)、リカルド・リベイロ(ds,voice)、スペシャル・ゲスト:キコ・ディヌッチ?(g,voice)、ジェイソン・アダシヴィッツ?(vib)5,7、ジョン・ヘーンドン(ds)5,7、マシュー・ラックス(el-b)7です。シカゴ・アンダーグラウンドのロブ・マズレクがブラジルに移住した際に、ドラム / パーカッション奏者のマウリシオ・タカラとスタートさせたのがサン・パウロ・アンダーグラウンド。

ギルヘルム・グラナドとリカルド・リベイロは、ラテンのグルーヴを生かした緊張感溢れるアヴァンなインスト・ロックのグループ「ウルトモルド」のメンバー。ゲストにはマズレクのシカゴ・コネクション、ジョン・ヘーンドンやマシューラックスが参加しています。基本的にはシカゴ音響派のサウンドです。昨年12月にマズレクの新譜を紹介していますので、こちらも参考まで。まあまあかな?まっいっか(笑)。

このアルバム、ディスクユニオンの宣伝文によると、

「コンテンポラリー・ジャズ ― フリー・ジャズ、ブラジル音楽 ― トロピカリア、ラップトップ ― エレクトロニック・ミュージック、アヴァンギャルド ― ポスト・ロックなどの要素がアーティスティックに洗練されて紡がれており、さらには各パートが緊迫しながら絡み合う様はサイケデリアの領域さえも踏み込んでしまうほど超絶的な音世界を構築。」

とのこと。まあそうなんでしょうけれど、「超絶的」とまでは思いません(笑)。刺激的ではありますが想定内。私はどうやらこの手のサウンドに慣れてしまったのかも?日本盤とLPレコードまで発売されたようです。

全8曲中の4曲をマズレクが作曲。2曲をタカラが作曲、1曲は民謡ベース、1曲はグラナドのループをベースにマズレクが作曲。タカラが作曲した2曲にはブラジル色がありますが、その他はシカゴ・サウンド。このアルバム中で一番尖がった曲はラストの《リオ・ネグロ》。これは原田さんがかけた曲で、さすがに鋭い選曲だと納得。ノイジーなエレクトロニクス音から入る不穏な展開とエフェクトを聴かせたコルネットは、ニルス・ペッター・モルヴェル辺りの北欧フューチャー・ジャズの雰囲気です。

タカラが作曲した《ピジョン》はブラジル色というか、マイルスの《カリプソ・フレリモ》との類似性がかなりあります。南米~ラテンのリズムは私の好みです。エレクトロニクス音が飛び交う感じは現代的なのですが、サウンドの骨格はマイルスの時に既に出来上がってしまっていたものですね。タカラが作曲したもう1曲《ラド・レスト》はエスニックなメロディーが、「近藤等則チベタン・ブルー・エアー・リキッド・バンド」の曲に聴こえしまわなくもない私でした。

ヘーンドンがドラムを叩いている2曲、《ジャスト・ラヴィン》と《シックス・シックス・エイト》は、ラウドに躍動するドラムがカッコいいです。こういうドラミングは好き。この2曲にはヴァイブが参加していて、浮遊するヴァイブが近未来と郷愁を感じさせてこれまた私好み。この2曲のサウンドはシカゴ・コネクションがゲスト参加した曲なので、従来通りのマズレク・サウンド。

私はこれでマズレクのアルバムを4枚聴いたわけですが、メンバーや編成が変わってもマズレクがやっていることは基本的に同じです。音をダーティーに混ぜて混沌かつ塊としてマッシブに聴かせるやり方で、私は結構好きです。

8曲で38分少々、コンパクトにまとめた演奏。気になる方はどうぞ。

アルバム名:『TRES CABECAS LOUCURAS』
メンバー:
Mauricio Takara(cavaquinho, ds, per, electronics, voice)
Rob Mazurek(cornet, electronics, voice)
Guilherme Granado(key, loops, samplers, electronics, voice)
Richard Ribeiro(ds, voice)
スペシャル・ゲスト:
Kiko Dinucci(g, voice)
Jason Adasiewicz(vib)5,7
John Herndon(ds)5,7
Matthew Lux(el-b)7

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カセットデッキを買い換えてしまいました。

今日はオーディオの話。
結局何か懸案事項を探しては、いじらなければいられないのがオーディオ趣味。
今度はカセットデッキを買い換えてしまいました。

昨年の今頃、長らく壊れていたカセットデッキの修理をあきらめ、
小型のカセットデッキをオークションで入手しました。
ビクターのTD-F1です。安く落札しました。

P181_3

やっとカセットが聴けるということで喜んでいたのですが、
しばらく聴くとどうも走行が不安定なのでした。
「まあ聴ければいいや。」くらいの気持ちでいました。
それが最近、とうとう懸案事項の上位に来てしまったのです。

先々週くらいからYahooオークションをチェックしていました。
最近はフルサイズのカセットデッキも安くなっているのですね。
ジャンクも多数あります。
長年オークションを見ていると分かるのですが、
何というか不誠実な出品もあります。
注意しないと変な業者の粗悪品を掴まされてしまいます。

で、いくつかをウォッチリストに入れてフォロー。
最終的には結構いい加減に、勢いで落札してしまいました。
安かったです。¥4000以下(笑)。
今回入手したのはソニーのTC-RX711

P182_3

90年代生産の廉価なオートリバース機。
とは言ってもレーザーアモルファス・ヘッドや3モーターを搭載しています。
メーカーが高級カセットデッキを生産しなくなった頃の製品か?
付属のリモコンはありませんでした。

まずデザインが気に入ってます。
ソニーのデザインはやっぱり良いと思います。
日本独自のメカメカしさは男のオーディオ(笑)。
お洒落さはありませんよね。

前の時は録音の確認をしなかったので、今回は録音してみました。
なぜが1本だけ生テープが残っていたのでそれを利用。
取説のコピーも付けてくれていたので、見ながら十数年ぶりにカセットに録音。

テストなので1曲だけ。曲は中島美嘉の《ウィル》。
ぬぬぬぬっ!かなり良い音で録れるではありませんか。
なるほど、カセットデッキの技術も相当なレベルに達していたんですね。
私にはMP3の音よりはるかに良い音に聴こえます。

オーディオ界はもったいない技術を捨ててしまいました。
携帯に便利というだけで、ユーザーがMP3プレーヤーを選んだ結果です。
レコードと違ってカセットテープの復活はもうないと思います。
まっ、私も今更カセットテープに録音して持ち歩こうとは思いません。
今あるカセットテープを時々聴いて懐かしさに浸るくらいで良しとしましょう。

さて、実は次なる計画も進行中です。
ヘッドホンアンプを自作します。
部品を集めているところです。

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現代サウンド万華鏡!

「益子博之=多田雅範 四谷音盤茶会」前編「益子博之=多田雅範 四谷音盤茶会」後編 でかかった1枚を紹介します。私は凄く気に入りました。

P180ラフィーク・バーティア『イエス・イット・ウィル』(2012年、REST ASSURED)です。メンバーは、ラフィーク・バーティア(el-g,ac-g,loops,syn,wuritzer)、ジェレミー・ヴァイナー(ts)、ジャクソン・ヒル(b)、アレックス・リッツ(ds)、ビリー・ハート(ds)、ヴィジェイ・アイヤ(p)、コリー・キング(tb)、ニーナ・モフィット(vo)、ピーター・エバンス(tp)、クレア・チェイス(fl)、ジョシュア・ルビン(cl)、カリブ・バーンズ(violin)、クリストファー・オット(violin)、ヴィクター・ローリー(viola)、ケビン・マクファーランド(cello)、アレクサンダー・オヴァリントン(proccessing,samples,syn,wuritzer)です。四谷音盤茶会の2012年ベスト2位。納得の順位です。

バーティアは借金の形としてインドからアフリカに渡った人の末裔で、イースト・アフリカン・インディアンとのこと。ニューヨークのインド系の人達にありがちなインド・メロディーは感じません。1曲目こそエスニックな風味がありますが、それはバス・クラリネットの感じから私にはバルカン音楽みたいに聴こえます。他の曲にはあまりエスニック臭はありません。全7曲中6曲をバーティアが作曲。ラストの曲のみ弦楽4重奏が加わったバラードでサム・クック作曲。

バーティアはコンポーザー・タイプのギタリストです。なのでギター・ソロがない曲がいくつかあります。現代の若者が聴いてきたであろう色々な音楽の要素が混じった楽曲は正にサウンド万華鏡なのです。聴きどころが色々あって飽きません。とにかくサウンドが面白いです。それはプロデューサーのオヴァリントンの志向するところでもあるのかもしれません。

リズムは変拍子炸裂、曲によってはモロにM-BASEな曲もあります。ベースとドラムの音の肌触りはヒップホップのサンプラーで作り出す粗っぽい感じそのもの。全編弾いているアコースティック・ベースはア・トライブ・コールド・クエスト辺りのテイストです。デトロイト・テクノともつながる感じです。私はデトロイト・テクノに詳しくないので、唯一アルバムを持っているインナー・ゾーン・オーケストラの『プログラムド』とのサウンド類似性からそう言っています。

基本はギター/ベース/ドラムのトリオ。エレクトリック・ギター・ソロのフレージングは正に現代的。ギター・トリオを核に、ホーンのアンサンブルが入ったり、アイヤの尖がったジャズ・ピアノが入ったり、ミニマル系の音響があったり、ベース・ソロ主体でコーラスが入ったり、爆裂ボントロ&テナー・ソロあり、ベースとドラムのヒップホップ的肌触りのリズムを中心にミニマルなギターが鳴ったり、トロンボーンとテナーの音響的なものも含めた掛け合いがあったり、現代音楽的音響演奏があったり、ビル・フリゼール的カントリー色あり、弦楽四重奏が加わったり、更に編集やサウンドエフェクトがさり気なく入ったりと、とにかく種々雑多。

色々なサウンドがありますが、間違いなく発想はジャズ。色々なサウンドを取り入れているのは他にもありますが、そういうものでもジャズにきちんと軸足を乗せていないものを私は評価しません。だってそれはジャズではないですから。しかしバーティアはサウンドがヒップホップであろうがテクノであろうが現代音楽であろうが、ジャズ! それは作った感がなくサウンドがスポンティニュアスだからかもしれません。これからが楽しみな才能です。こういうのを見つけてくる益子さんのアンテナは凄いです。

現代ジャズはつまらないと言っている人、これを聴いてみて下さい。
これがつまらないと言うのなら、それはあなたの頭が古すぎるからです。

アルバム名:『Yes It Will』
メンバー:
Rafiq Bhatia(el-g, ac-g, loops, syn, wuritzer)
Jeremy Viner(ts)
Jack Hill(b)
Alex Ritz(ds)
Billy Har(ds)
Vijay Iyer(p)
Corey King(tb)
Nina Mofitt(voice)
Peter Evans(tp)
Claire Chase(fl)
Joshua Rubin(cl)
Caleb Burhans(violin)
Christopher Otto(violin)
Victor Lowrie(viola)
Kevin McFarland(cello)
Alexander Overington(processing, samples, syn,wuritzer)

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久しぶりのオーディオ快感ピアノ・トリオ。

今日は 「綜合藝術茶房 喫茶茶会記」 で昨年行われた「益子博之=多田雅範 四谷音盤茶会 vol.07」で紹介された1枚です。

P179デイヴ・キング『”アイヴ・ビーン・リンギング・ユー”』(2012年rec. Sunnyside)です。メンバーは、デイヴ・キング(ds,cymbals & waterphone on (1))、ビル・キャロザーズ(p)、ビリー・パターソン(b)です。デイヴ・キングは轟音ピアノ・トリオ「ザ・バッド・プラス」のドラマー。どんな豪快なドラミングをしているのか気になったので聴いてみました。

ピアノは一癖あるとか言われるビル・キャロザーズです。ひねくれた音が出てくるのかと思いきや? えぇ~っ・・・、意外と普通に淡々と美しいメロディーを弾いているではありませんか! これは欧州マイナー・ピアノ・トリオの雰囲気です。シンプル・アコースティック・トリオやヘルゲ・リエン・トリオのように空間を生かしつつインター・プレーが展開していくやつです。

ほとんどがスロー・テンポのバラードで時間がゆったり流れていきます。ピアノの音にキングが程良くシンバルやスネアやタムの音を混ぜ込んで、隙間は多めながら芳醇なサウンドが醸し出されていて心地よいです。ポール・モチアン系の音響的で空間的な演奏。しかし、これが結構ヘルゲ・リエンなのでした(笑)。まあ、ヘルゲ・リエン・トリオに少々ある衒いのようなものはなく、もっと枯れた感じではあります。

演奏している曲はスタンダードやジャズマン・オリジナルです。ラストの1曲のみが3人の共作。《グッドバイ》《ロンリー・ウーマン》《ソー・イン・ラブ》《イフ・アイ・シュッド・ユーズ・ユー》などが並んでいます。キャロザーズは曲のメロディーを大切にしつつ慈しむように紡いでいて、ロマンチックな香りに溢れています。メロディーに浸れるピアノ・トリオ。

このトリオのもう一つの快感はオーディオ的な音の良さです。シンバルの金属音やブラシの擦過音やタムのスキンの振動がリアル。ピアノはクリアで音が空間に浸透し、ベースはズ太く沈み込んでいきます。広がる残響音も見事に捉えられています。録音はミネソタの小さな教会ということからも分かるように音に拘っているのです。アメリカ発のこういうオーディオ快感ピアノ・トリオって、私はこれが初めての出会いかも?

各曲は短めで全8曲39分弱。メロディーの処理、サウンド、収録時間、どれをとっても寺島靖国さんが提唱する理想的なピアノ・トリオなのでは(笑)? 寺島ファン、ピアノ・トリオ・ファンは必聴! 

それにしてもサニーサイド・レーベルって、尖がったアルバムがある一方で、こういうのを出してくるところが面白いです。私はその音楽センスが気に入っています。

アルバム名:『"I've been ringing you"』
メンバー:
Dave King(ds, cymbals & waterphone on (1))
Bill Carrothers(p)
Billy Peterson(b)

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ルドレシュ・マハンサッパの新譜

フォローしているアルト・サックス奏者の新譜を紹介します。

P178ルドレシュ・マハンサッパ『Gamak』(2012年rec. ACT)です。メンバーは、ルドレシュ・マハンサッパ(as)、デヴィッド・フュージンスキー(el-g)、フランソワ・ムタン(b)、ダン・ワイス(ds)です。マハンサッパはインド系アメリカ人。現代先端ニューヨークのインド系一派として活躍しています。アクト・レーベルに移籍してから2作目のリーダー・アルバム。前作からは約1年半ぶりくらい。

今回は変態ギタリストのフュージンスキーとやってます。この人は上原ひろみのソニックブルームに参加していたので日本でも人気がありますよね。フレットレス・ギターを使って変態的なグニョグニョ・メロディーを弾くのが面白い人。今回は、マハンサッパのインド系メロディーに見事に絡み付き、アルト・サックスとギターがグニョグニョ・グニュグニュとメロディーをねじ込んできます。

ベースは自分のバンドのムタン・リユニオン・カルテットでのコンテンポラリー・バップから、マンハッタン・ジャズ・クインテットのオーソドックスな演奏までこなすフランソワ・ムタン。フランス人ですが、現代は主にニューヨークで活動。私はこの人の男気溢れるゴリゴリなベースが好きです。マハンサッパの『APEX』で以前共演しています。

ドラムのダン・ワイスは複雑な変拍子を難なくこなす現代派ドラマー。マハンサッパのこれまでのアルバムに参加していたデミオン・リードの手数が多いパワフル過ぎるドラミングと比べるとちょっぴりパワー・ダウンしているかもしれません。でも整理されたリズムはこのバンドのサウンドには適しているように思います。

冒頭から変拍子とインド系メロディーが炸裂します。ジャズというよりはロック・スピリットを感じるパワフル演奏。あっけらかんとやってます。こういうのは細かいことを考えずサウンドを浴びるのが良いと思います。ただ全体を通すといまいち一本調子なんですよね。スロー・ナンバーや短い曲を混ぜたりして緩急はあるものの、もう一工夫ほしい気がします。全曲マハンサッパが作曲。

期待して聴いたのですがこのメンバーならではの想定範囲内。マハンサッパとフュージンスキーは調和し過ぎな感じかも? 私としては想定外の化学変化がほしかったです。まあこういうのは好きですけどね。

アルバム名:『Gamak』
メンバー:
Rudresh Mahanthappa(as)
David Fuczynski(el-g)
Francois Moutin(b)
Dan Weiss(ds)

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真空管6V6アンプを改造してしまった。

まずはクリス・ポッターの話題。
AZさんから貴重な情報を教えていただきました。

こちらでクリポタの最新ライブが聴けます。
http://www.npr.org/templates/archives/archive.php?thingId=90611896

ヴィレッジ・ヴァンガードでのライブ。
2013年2月6日、先週の水曜日ですよ!
「ザ・サイレンズ・カルテット」。
ピアノはイーサン・アイヴァーソン。
クリポタがちょっとフルートも吹いてます。
ポール・モチアンの曲も1曲やってます。

カッコいい演奏です。必聴!

私はUSB DACでオーディオ再生。
すると場の雰囲気がよく分かります。

ダヴィ・ヴィレージェスの『コンティニューム』ライブもありますね。
他にも面白そうなもの多数。

さて、今日の本題。

今年初めに オーディオの近況 なんて記事を書きました。そこで懸案事項になっていた6V6アンプの低音不足。あれから1ヵ月。やっちゃいました。出力トランスをもう少し大きいものに交換しました。

選んだ出力トランスはノグチトランスのPMC-28P-8Kです。このアンプのトランスは全てノグチトランスのものを使用しているので、それを継承しました。前のものはPMC-18P-8K。出力容量が18Wから28Wにアップ。ノグチトランスのホームページから通販で購入。もう最近はわざわざ秋葉原に出向かず通販を利用してます。

P175_2
写真のとおり一回り以上大きくなりました。シャシーには余裕があるのでスペース的には支障ありません。ただし前のトランスの取付け穴を上手く利用したり隠したりして見苦しくないようにしなければなりません。

P153_4

前はこんな感じでした。出力トランスが可愛いですよね。

P176_2

今度はこんな感じになりました。出力トランスが大きくなって迫力が増しました。低音が増強されそうな雰囲気です。内部の部品配置を少々変更しています。

P177_2

さて、肝心の音なのですが、その前に100Hzの矩形波を入力してオシロスコープで観測。う~む、あまり変化していないような気がします。巻き線の抵抗値が変わったのでNFB量は少し異なっているとは思います。NFB抵抗を再調整しませんでした。多分-9dBくらいかかっているはずです。

音はまあこんなものかなと。低音がしっかりしたような気はします。ほとんど気分的な問題かも。出力容量に余裕があるほうが良いし、見た目の迫力が増したということでO.K.です(笑)。

懸案事項は解消されました。しかし、また懸案事項を探しては、オーディオをいじらないと気が済まないのがオーディオ・ファンというやつです。はてさて次は何をしよう?

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やっぱりクリポタはいいよね。

そろそろいっときましょう!

P174_2クリス・ポッター『ザ・サイレンズ(2011年rec. ECM)です。メンバーは、クリス・ポッター(ss,ts,b-cl)、クレイグ・テイボーン(p)、ダヴィ・ヴィレージェス(prepared piano,celeste,harmonium)、ラリー・グレナディア(b)、エリク・ハーランド(ds)です。とうとうECMからリーダー・アルバムを出してしまいました。録音から1年と4か月ほど、ECMですからきちんと作りこんで出してきたんでしょうね。ギリシャの詩人ホメーロスが残した叙事詩『オデュッセイア』にインスパイアされ制作したというアルバム。

音響的な趣向も取り入れた曲が2曲ありますが、基本は王道サックス・カルテット。実に堂々朗々とサックスを吹くクリポタがいます。自分のバンド、アンダーグラウンドのような尖がった部分はありません。でもそれがECMなのだろうと思いますし、大きく構えて演奏しているクリポタはとても好ましく思います。ラスト曲以外はクリポタが作曲。

1曲目《ワイン・ダーク・シー》はスケールが大きい曲想。朗々とテナーをブローするクリポタは頼もしい限り。いや~、何か貫禄ありますよね。テイボーンのピアノもガッチリしていて実に良い伴侶ぶりです。テイボーンはクリポターのバンドで長くやっていたので、何をやれば良いか分かっているんでしょう。グレナディアの音楽的なベース、ハーランドのキレとパワーのドラミング、カルテットとしてのまとまりは良好です。

2曲目《ウェイファインダー》ではヴィレージェスのプリペアド・ピアノが加わってイマジネーション溢れる曲になっています。ハーランドは今流行り?のシンバルの上にタンバリンを乗せてのプレイだと思います。中盤はクリポタ抜きで進み、再び現れたクリポタはテナーで爆発。

3曲目《ドーン(ウィズ・ハー・ロージー・フィンガー)》はバラード。テイボーンのピアノ・ソロとグレナディアのベース・ソロが美しい。クリポタはバラードでもスケールが大きいですね。ここでもテナーを浪々と吹いています。

4曲目タイトル曲《ザ・サイレンズ》はバス・クラリネットでテーマを吹き、荘厳で敬虔な祈りを感じさせます。ベースのアルコ奏法も荘厳な感じを維持し、テナーで再登場のクリポタはスピリチュアルにブロー。今までクリポタにこういうスピリチュアルな感じはなかったような気がするので新鮮です。現代のスピリチュアル、60年代のそれとは異なるどこか乾いた肌触りが良いです。

ちなみにタイトルの”サイレンズ”はギリシャ神話に登場するセイレーン(Seiren)の英語表記(siren)の複数形。セイレーンは航行中の船の乗組員を美声で誘惑、難破させる半人半鳥の精です。サイレン(警笛、警報)の語源とされます。

5曲目《ペネロペ》はソプラノ・サックスでじっくり。フュージョン的な心地良い響きがありながら、80年代の軽薄さがないのは立派。タイトルどおりの美しい曲です。テイボーンのピアノも儚い美しさを漂わせて素敵。

6曲目《Kalypso(カリュプソー)》はカリプソ曲。ウィキペディアによると”Kalypso”はギリシャ神話の海の女神で、英語風に発音すると”Calypso”となるそうです。カリプソと言えばロリンズを思い浮かべてしまう私ですが、ここではクリポタ流カリプソが展開します。テーマは複雑なリズム。テイボーンのピアノ・ソロも一癖あるカリプソになっています。ラストは同じフレーズを繰り返す中でのドラム・ソロとか、この人達にしかできないカリプソですね。

7曲目《Nausikaa(ナウシカアー)》はヴィレージェスのチェレスタが幻想的かつ宇宙的な響きを演出。スペイシーな中でピアノ・ソロとソプラノ・ソロが静かに音を綴っていきます。ウィキペディアによると、ナウシカアーって『オデュセイア』に登場する王女。宮崎駿の「風の谷のナウシカ」って、このナウシカアーからとられているとか。どちらも王女です。なるほど。

8曲目《ストレンジャー・アット・ザ・ゲート》はクリポタらしいちょと捻ったメロディー。クリポタらしい節回しでテナー・ソロを展開。クリポタが登場するラスト曲なので、冒頭の曲とこのラスト曲が実にクリポタらしい作風というところに彼の主張を感じます。

ラスト《ザ・シェイド》はピアノやチェレスタが静かにほんの少しずつ鳴っていき2分少々で終了。物語が静かに幕を下ろします。テイボーンとヴィレージェスの作曲になっているので即興ではないかと思います。デュオという感じではないです。

コンセプト・アルバムですがコンセプトに溺れず、サックス奏者として堂々と主張しているところが気に入りました。コルトレーン風スピリチュアル、フュージョン風美メロ、ロリンズ風カリプソがあっても、まんまやってしまうような軽率さはなく、どこを聴いてもクリポタのサウンドになっているところに感心します。

比較的オーソドックスでECMらしい中、クリポタのアイデンティティが確固として存在するアルバムです。推薦アルバム!

こうなってくると、「アンダーグラウンド」の新譜を早く出してほしいです。まあ今はパット・メセニー・バンドでのツアーが忙しいんでしょうけれど・・・。

アルバム名:『The Sirens』
メンバー:
Chris Potter (ss, ts, bcl)
Craig Taborn (p)
David Virelles (prepared p, celeste, harmonium)
Larry Grenadier (b)
Eric Harland (ds)

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これなんかはかなり気に入ってます。

突然ですが、欧州マイナー・ピアノ・トリオのこれなんかはかなり気に入ってます。寺島靖国さん著「新しいJAZZを聴け!」に感化されていた頃、ディスクユニオンへ行ってこの本掲載アルバムを買い集めていました。その中の1枚です。

P173マーカス・シェルビー・トリオ『UN FAUX PAS!』(1997年rec. NOIR RECORDS)です。メンバーは、マーカス・シェルビー(b)、マット・クラーク(p)、ジャズ・ソーヤー(ds)です。シェルビーはフランスに住む黒人でジャケ写の人。フランスにもアフリカから連れてこられた黒人の子孫はたくさんいるんですよね。

内容は何の仕掛けもないバップ・ピアノ・トリオ。けれど雰囲気は何となくフランスなんです。これを買った当時、アメリカの有名どころしか聴いていなかった私は、こういうジャズがあるとは知らなかったので、凄く新鮮に感じました。おかげでこういう欧州マイナー・ピアノ・トリオにすっかりはまってしまったのです。

全曲シェルビーが作曲。これがなかなか愛らしい曲ばかり。単に甘い美メロというのとは異なります。良いメロディーなんですけれどビターなものを含みつつ翳りのような成分もあって、それが品を感じさせます。フランスならではのエスプリ薫るという俗っぽい言葉が似合うジャズになっています。

演奏はなかなかガッツがあって、この辺りが寺島さんには評価されていました。ピアノはチック・コリア系か。ドラムは極オーソドックスな4ビートの奏法ですが、結構パカパカと叩いてくれていて、それが全体のガッツに繋がります。ベースも逞しく真ん中に鎮座して揺るぎません。愛らしいメロディーと逞しい演奏のハーモニー。哀愁とガッツ。ブルージーなものもきちんとあります。

当時聴いた時、その録音の仕方が新鮮に響きました。クリアに捉えられているのにひ弱にならず迫力があります。特にベースが低く力強いのにクリーンなところには、ヨーロッパの音楽的録音の一日の長を感じました。そしてこういうジャズ録音があっていいんだと目から鱗が落ちました。オーディオ的にとても好録音だと思います。

今の私の現代先端ニューヨークとはかけ離れていますが、こういうところも経過しています。私は恥だとは思っていません。色々なジャズを知っている方がジャズの理解の幅が増えるってものです。

こういうピアノ・トリオも良いですよ。

世間的には同メンバーによる『THE SOPHISTICATE』の方が人気があるみたいです。

アルバム名:『UN FAUX PA』
メンバー:
Marcus Shelby(b)
Matt Clark(p)
Jaz Sawyer(ds)

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素敵なブラジリアン・ピアノ・トリオ。

クリポタとルドレシュ・マハンサッパの新譜を紹介する前に紹介しておきたいアルバム2枚のうちのもう1枚がこれ。柳樂光隆さんがツイートしていたのを見て、ディスクユニオンのサイトで試聴してから購入を決めました。私はピアノ・トリオのエスペランサを聴いたことがなかったので、それも興味のポイント。

P172ナンド・ミシェリン『レインコントロ~再会』(2007年rec. AGATE)です。メンバーは、ナンド・ミシェリン(p)、エスペランサ・スポルディング(b,voice)、リッチー・バーシャイ(ds)、ティアゴ・ミシェリン(ds m6, 10)、リーラ・ヴォート(voice m7,10,background voise m1,tp m4)です。ライナーノーツは柳樂さんが書いています。録音は2007年ですが発売は2010年のようなので、今回は再発ということか。

最初に聴いた時の印象はマイナー・ピアノ・トリオ。自分の出自を生かしてジャズをやる欧州のそれと発想的には同様と思います。ただしこれは欧州風味ではなく南米風味。その理由はミシェリンが南米ウルグアイ出身だからです。コーヒー豆が南米大陸型に並べらたジャケットにその趣向が表れています。ミシェリンの現在の活動拠点はアメリカだそうです。

南米と言っても色々ありますが、ミシェリンが影響されているのはブラジル音楽。ミシェリンのオリジナル曲、またエスペランサのハミングを取り入れたサウンドからは、ウェザー・リポート脱退前後のウェイン・ショーターやブラジル色が濃厚だった頃のパット・メセニー・グループのサウンドと共通項が見えます。

最近ジャズ界(だけでなく?)でブラジル音楽がちょっとしたブームらしいのですが、前述のショーター、メセニーから四半世紀ほど経って、またブームが再来しているんでしょうかね? ブームなんてものはどこからともなく現れて、しばらくすれば必ず消えて行く、そんなものです。私はブームをいちいちフォローすることにあまり興味がありません。音楽をファッション的に捉えるのが嫌いなんですよね。そういう楽しみ方を否定する気はありませんが。

このアルバムはブラジル音楽をセンス良く取り込んだ好アルバムと捉えればO.K.。マイナー・ピアノ・トリオの楽しみ方でいきましょうよ。ナンドの曲《Paula》なんかは哀愁溢れる良い曲です。エスペランサのベースもいい感じ。私はかなりお気に入りの曲。寺島靖国さんが聴いたら絶対気に入る曲だと思います。寺島さんお得意の「この1曲から聴け!」てな具合でお薦めしたほうが、このアルバムは売れるのではないでしょうか(笑)。

ナンドの曲《Oxossi》はエスペランサのベースがなかなか逞しくからみ、バーシャイに替わってナンドの息子ティアゴがドラムを叩いていますが、パーカッシブにはしゃぎ気味に煽るところは微笑ましいです。3人のインタープレイが良いです。こういうインタープレイは寺島さんも好きなのではないでしょうか? 1曲だけ入っているバーシャイの曲《Sycamore》はバラードで、エスペランサのベースを中心にした3人のインタープレイがここでも素敵。バーシャイのドラミングのほうがやっぱりティアゴよりは1枚上手。

ほとんどの曲にハミングが入っています。エスペランサが歌っている曲もあれば、リーラ・ヴォートが歌っている曲もあります。しかしそれはあくまで調味料。中心は爽やかでありながら決して軽く流されない骨格のしっかりしたナンドのピアノです。聴けば聴くほど味が出てきます。陰影感が良いのです。

エスペランサのベースはとてもアーティスティック。やっぱりこの人はセンスがいいんだと納得。ドラムのバーシャイがいいです。リズムのさばき方は今時のパーカッシブなもので、それほど手数が多くなくても熱気を孕みつつ盛り上げていけるのがこの人の美点。こういうドラミングはブライアン・ブレイドあたりと似ています。

オーディオ的に録音がいまいちなのが残念。混濁気味なのです。もう少しクリアに録音できていたらオーディオ的にも楽しめて、寺島さんの推薦盤になったのではないでしょうか(笑)? マイナー・ピアノ・トリオということで聴かせながら、実は演奏の質も高いというのが良いではありませんか。

佳い曲と美味しい3人のインタープレイが詰まっています。お薦めピアノ・トリオ!

アルバム名:『Reencontro』
メンバー:
Nando Michelin(p)
Esperanza Spolding(b, voice)
Richie Barshay(ds, except 6, 10)
Tiago Michelin(ds, on 6, 10)
Leala Vogt(voice on 7, 10, background voice on 1, tp on 4)

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う~ん、やっぱりそれほど面白くないかも?

クリポタとルドレシュ・マハンサッパの新譜は既に届いていますが紹介は後程。その前に2枚ほど紹介しておかなければいけません。そのうちの1枚。

P171ダヴィ・ヴィレージェス『コンティニューム』(2012年rec. PI RECORDINGS)です。メンバーは、ダヴィ・ヴィレージェス(p,harmonium,pump organ,wurlizer organ)、ベン・ストリート(b)、アンドリュー・シリル(ds,per)、ロマン・ディアス(vo,per)、スペシャル・ゲスト:ロマン・フィリュー(as,ts)、マーク・ターナー(ts,b-cl)、ジョナサン・フィンレイソン(tp)です。ゲストのホーン陣が参加するのは1曲のみ。

このアルバム、昨年末紹介した なかなか面白い趣向の新譜です。 に参加していたピアニスト、ダヴィ・ヴィレージェスのカタカタ表記が分からずに、ネットを検索しているうちに見つけたアルバムです。さわりを試聴していい感じだったので買ってみました。先日レポートした「益子博之=多田雅範 四谷音盤茶会 vol.08」でも紹介されました。ヴィレージェスは最近アメリカで評価が高く売れっ子のキューバ人ピアニストとのこと。

このアルバムはキューバの民話を題材にしたコンセプト・アルバムです。現代音楽的な部分もあります。冒頭いきなりアフリカンなボイスが聴こえてきて何かの儀式みたいな感じです。この曲に象徴されるようにアフロ/アフリカンな匂いがアルバム中から漂ってきます。こういうアフロに回帰しているよな路線を最近ちらほら見かけますが流行りなのでしょうか?フリー・ジャズ的なサウンドもあり、シリルが参加しているあたりにアフロ/フリー・ジャズの意図を感じます。

ゲストのホーン陣が参加している唯一の曲《アワー・バースライト》はアフロ・スピリチュアル・ジャズで集団即興的な部分もあります。コンセプトとしては懐かしい感じがします。この曲以外は基本的にピアノ・トリオ。ヴィレージェスの比較的カッチリしつつ、隙間多めで何かを考えているようなピアノが聴きどころなのでしょう。音響的処理に面白いところもあります。ただしちょっと考え過ぎのような感じがしないでもありません。

シリルのドラムがそんなヴィレージェスに上手く寄り添って、繊細なドラムやパーカッションを奏でます。シリルがこんな繊細なプレーをするのはちょっと意外でした。ドラム・ソロになっても決してやみくもに叩かず、サウンド全体を意識して音をちりばめて行く感じには好感が持てます。ストリートは逞しいベースを弾いていますが、意外と目立たずサポートに徹している感じか。

コンセプトは終始一貫しています。音絵巻ではあると思います。でも通して聴くと、私にはどうもあまり面白くないんですよね~。希求力に乏しい感じ?

アルバム名:『CONTINUUM』
メンバー:
David Virelles(p, harmonium, pump organ, wurlitzer organ)
Ben Street(b)
Andrew Cyrille(ds, per)
Roman Diaz(vo,per)
スペシャル・ゲスト:
Roman Filiu(as, ts)
Mark Tunner(ts, b-cl)
Jonathan Finlayson(tp)

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気持ちが軽やかになり体が自然に揺れる。

たまにはちょっと気分を変えて、こんなのを聴いてみました。

P169ローゼンバーグ・トリオ&ティム・クリップハウス『ステファン・グラッペリに捧ぐ』(2012年、PLANKTON)です。メンバーは、ストーケロ・ローゼンバーグ(g)、モゼス・ローゼンバーグ(g)、サニ・ヴァン・ミュラン(b)、ティム・クリップハウス(vl)です。ローゼンバーグ・トリオにクリップハウスのヴァイオリンが加わって、ヴァイオリニストのステファン・グラッペリに捧げたアルバムです。

この手の音楽は”マヌーシュ・スウィング”というらしですね。ディスクユニオン・ジャズ館のホームページを見ていると新譜紹介の中に時々この文字列を見かけていたのですが、これまで素通りしていました。

ここで”マヌーシュ・スウィング”とは何なのか説明しておきます。以下コピペ。「20~30年代にジャンゴ・ラインハルトによって作り上げられたスタイルで、当時のアメリカのスウィング・ジャズをジプシー的に解釈したギター・ジャズ。」ということで、ジャズの仲間なのです。

聴いてみて最初に感心したのがストーケロの超絶ギター・テクニック。フレーズを超高速で何のストレスもなく弾き倒しているからです。溢れ出るメロディアスなフレーズが心地良い。最近はフュージョンでもここまで速弾きする人はめったにいないです。テクニックを駆使しているからと言って、それが聴きどころの音楽というわけではありません。

聴きどころは軽やかなスウィング感です。聴いていると気持ちが軽やかになって、自然と体が動き出してしまいます。超絶テクニックはそれを聴かせるわけではなく、軽やかなスウィングを生み出す手段に過ぎません。気持ち良い音楽が溢れ出してきます。

ヴァイオリンを聴くと、私の場合はどうしても寺井尚子のことが浮かんで来てしまいます。一時期結構この人を聴いていましたから。ジャズ・ヴァイオリンと言えばステファン・グラッペリではなく寺井尚子なのです(笑)。ヴァイオリンの軽妙な調べはいいですよね。その音に哀愁が漂っているところも好き。

ちょっと気が早いかもしれませんが、これから暖かくなり気分が春めいてくると、心がだんだん軽やかになりますよね。そんな心境にフィットしそうな音楽です。なぜか1曲だけポップス曲があり、それがスティービー・ワンダーの《ユー・アー・ザ・サンシャイン・オブ・マイ・ライフ》というのが素敵。私はこの曲が大好きだからです。

私はこのアルバムが気に入ってしまいました。

このアルバムは来日記念盤です。この人達が今月来日して何ヶ所かで公演します。3月3日(日)にはめぐろパーシモンホールでやるそうです。ゲストは山中千尋。興味がある方は是非。楽しい公演になると思います。

P170_2

ジャズ喫茶「いーぐる」でも2月16日(土)に以下のような関連イベントがあります。

「ジャンゴ・ラインハルトから現在のマヌーシュ・ギタリストたちまで」
ジャズ評論家の村井康司さんと音楽評論家の松山晋也さんの解説を交え、ジプシー・ギターの神様ジャンゴ・ラインハルトや、ジャズ・ヴァイオリンの父ステファン・グラッペリ、そしてストーケロをはじめとする現代のマヌーシュの演奏家まで、音源や映像をかけながら紹介。没後50年以上たった今も音楽シーンに多大な影響を与え続けるジャンゴ。なぜ彼の音楽がここまで愛され続けているのか、その魅力と秘密を紐解きます。

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「益子博之=多田雅範 四谷音盤茶会」後編

先日の日曜日に 「綜合藝術茶房 喫茶茶会記」 で行われた「益子博之=多田雅範 四谷音盤茶会 vol.08」で紹介されたアルバムの続きです。

かかった曲のリストは tadamasu-連載 を参照願います。

*以下の解説は当日喋った全てのことではなく、誤解している箇所がある可能性もありますので、ご了承下さい。

6.ジェレミー・ユーディーンの『フォーク・アート』から《プロスペクト-パート1》

フォーク・タッチの演奏。ユーディーンはポール・デスモンドみたいに柔らかく吹く人ですが、このアルバムでは変わってきています。ブランドン・シーブルックはアメリカでバンジョー界のスティーヴ・ヴァイと言われる人。このアルバムでもバンジョーしかやっていません。ヴァイオリンみたいな持続音は弓弾き。バンジョーは余計な音がいっぱい鳴ってしまうところがエレクトロニカっぽいです。違う音が鳴ってしまうところは日本の三味線の「サワリ」にも通じアンチ西洋的。織原さんは、レベルが高い演奏で、併走はラインだけれどこの演奏は面でくるモヤモヤがあって凄いし、サックスとバンジョーのユニゾンが良いとのことでした。多田さんは、自分は音色フェチで、音程とか反応とかリズムではなく、どういう音を合わせていくかに興味があるそうです。スローだから良いのではなく、このタイミングでこの音を出してくるというような部分に惹かれるとか。益子さんは、定型リズムでなく伸びたり縮んだりするところが面白いそうです。

ここでは多田さんの音楽的嗜好が分かって面白かったです。こういうサウンドは益子さんがこれまで主張してきた現代ジャズ(所謂ジャズではないかも?)の面白さでしょう。

ここまでかけて休憩。B.G.M.は垣谷明日香のビッグバンド。
柳樂光隆さんがいらしていたのでお話しました。

7.ダヴィ・ヴィレージェスの『コンティニューム』から《El Brujo and the Pyramid》と《Unseen Mother》

ヴィレージェスはキューバ出身。昨年マーク・ターナーのバンドでピアノを弾いていたそうです。アメリカでは評価が高く、今売れっ子なんだとか。クリス・ポッターの新譜にも参加。クリポタの新譜ではほとんど弾いていないけれど、弾いていることには意味があります。益子さんは、アルバム全体は面白くないけれどパートパートは面白いとのことでした。ヴィレージェスのこのアルバムにはアンドリュー・シリルが参加。シリルはアメリカでは最近凄いと言われているそうです。このアルバムは全体を聴くとあまり面白くないけれど、サウンドの使い方を聴いてほしいとのことでした。かけた曲ではシリルはほとんど叩いておらず、空間の開いたところにオルガンとか入ってくるのが面白いところです。キューバの民話を題材にしたアルバム。

このアルバム、実は私も買ってます。ヴィレルスが『BRO/KNAK』に参加していて気になったからです。確かに全体を聴くとあまり面白くなくて、ブログに紹介文を書くのをやめようと思っていたアルバムです。言われてみれば確かに面白いところもありますよね。

8.ジョバンニ・ディ・ドメニコ/アルヴェ・ヘンリクセン/山本達久の『Distare Sonanati』から《Alma Venus》

ドメニコはイタリア人でベルギーに住んでいます。山本達久は凄いドラマー。ジャズ畑での演奏は少なく、ノイジーな演奏や歌もので叩いています。即興系で叩くことが多く、ジム・オルークがベストと言っているそうです。このアルバムではほとんど集団即興で曲はありません。同メンバーの前作はリズミックだったけれど今回のは空間的。益子さんは、パーカッションの金属音が気持ち良いそう。織原さんは、連帯感が凄く、一人一人が音を作っているような感じが良いとのことでした。多田さんは、鳴っているサウンドのバラエティーが凄く、不意にやって来る「これは何?」的なものや、タイム的メリハリから、アトラクションに乗せられているように感じたそうです。段取りの良いデートに誘われているみたいで、音楽的には良いけれど、トゥー・マッチとのこと。

私はこのサウンドが気に入りました。パーカッションの金属音は確かに快感。このアルバムは買って聴いてみたいです。

9.ラフィーク・バーティアの『イエス・イット・ウィル』から《ワンス》

バーティアはインド系のギタリスト。彼のサイトによるとイースト・アフリカン・インディアンだとか。借金の形としてインドからアフリカに渡った人の末裔らしいです。曲調は所謂インド系ではありません。基本的にギター/ベース/ドラムのトリオで演奏。最終的には編集しているようだけれど取って付けたような感じはありません。曲によってはM-BASEっぽいものもあります。益子さんは、単純にカッコいいそう。ギター・ソロはロバート・フリップっぽいとのことでした。織原さんは、最近のギター・トリオだけれどちょっと変で凄く良いとのこと。織原さんは講演後に早速Amazonで”ポチッ”としていました。LPレコードでも出ています。

ドラムのミニマル/ヒップホップっぽいところに、私は大谷さんの『ジャズ・アブストラクション』の雰囲気を感じました。益子さんがおっしゃるとおり単純にカッコいい。帰ってから私もすぐに注文しました。輸入盤を買ったので届くまでにはちょっと時間がかかります。

10・マルク・デュクレの『タワー,Vol.4』から《フロム・ア・ディスタント・ランド》

デュクレのギター・ソロ。益子さん、多田さん共に、デュクレがこんなアルバムを出すと思っていなかったそうです。多田さんはヘヴィー・ローテーション中だとか。益子さんもお気に入りのようです。よく聴くと後ろで鳥が鳴いているのが入っているそうで、そういう環境で録音されているのが面白いところです。多田さんは、相当な技量で反イデオマティックとおっしゃっていました。韓国の音楽に似ているものがあるということでかけたのですが、確かに雰囲気が似ていました。私は”和”テイストを感じました。織原さんによると、アコギを使っている場合、普通は響きを聴かせるのに、これはミュートしてこういう音を出しているのが面白いとのことでした。

確かにヘンテコ面白サウンドにしてアートでした。

以上で第4四半期のアルバム紹介は終了。

こういうアルバムをまとめて紹介しているのは、多分日本中でここしかないと思われます。濃くてディープな世界。

続いて2012年の年間ベスト10。時間が押していたので急ぎ足の紹介でした。

1.Henry Threadgill Zooid 『Tomorrow Sunny/The Revelry,Spp』
 音楽の構造を別なものにしちゃってる。個性をそれぞれが発揮しているわけではない。ルールらしきものが分からない。筋書はない。禁則として出してはいけない音とかある。楽譜はある。Sppは学術的に名前が決まっていない場合に取り敢えず付ける名。そういう感じの音楽。

2.Rafiq Bhatia 『Yes It Will』
 今日9番目にかけたアルバム。ニューヨークにはインド系が多くインドっぽさを出す場合が多いが、バーティアはインドっぽさがなく今の若者が聴いてきた音楽。音楽が自然でロジックがある。考えているというより鳴っている感じ。バーティア個人だけでなく、周りにいる人も面白い。

3.橋爪亮督グループ 『Acoustic Fluid』
 空いている感じがいい。次のアルバムはライブ録音にしたいと言っているそう。

4.Jeremy Udden 『Folk Art』
 今日6番目にかけたアルバム。

5.Eivind Opsvic 『Overseas Ⅳ』
 アイヴィン・オプスヴィークはノルウェー出身でニューヨーク在住。自主制作盤。やっている音楽に必然性がある。人為的なものと勝手に鳴ってしまうサウンドの両方を感覚として持っている。益子さんは、こういうサウンドはポップ・ミュージックの再構築であり、ポップ・ミュージックに繋がるものとおっしゃっていました。織原さんは、最近はより個人的な音楽を作るようになっていて、大きくジャズとかの括りではなくなっているとおっしゃっていました。私もこのアルバムは今年のベスト10に入ると思いますが、そのことはどこにも書いていませんでした。

6.Tomas Fujiwara & The Hook UP 『The Air is Different』
 2管クインテット。やっている音楽は比較的オーソドックス。自分のアルバムでは一本調子っぽいギタリストのメアリー・ハルヴァーソンが、”キュンキュン”変な音を弾いている。ジャケットはお祖父さん。

7.Tim Berne 『Snakeoil』
8.Masabumi Kikuchi Trio 『Sunrise』
 多田さんによるとこの年間ベスト10は、「大物3人の中でなぜこの2人が7、8位でヘンリー・スレッギルが1位なのか?」という疑問を抱かせるようなあざとさがあるとのことでした。この2人はECMに飲み込まれていない。元ECMファンクラブ会長の多田さんがおっしゃっているところが重要。

9.Colin Stetson 『New History Warfare Vol.2 - Judge』
 やっている質感が今までにない感じ。多重録音なしの独奏。これはジャズ喫茶「いーぐる」の「年末ベスト盤大会」で益子さんがかけたアルバム。今度マッツ・グスタフソンとのデュオ・アルバムが出た。

10.Becca Stevens Band 『Weightless』
 ベッカ・スティーヴンスはバークリー出。バックはジャズ畑。女性ボーカルでフォークに分類。結構難しいことをやっている。上手いのは当たり前だが、益子さんは生で観てぶっ飛ばされたそう。

最後にミュージシャン・オブ・ジ・イヤー。
ブランドン・シーブルック、メアリー・ハルヴァーソン、トーマス・モーガン、橋本学、チェス・スミス。ライジング・スター:ラフィーク・バーティア。

以上で全プログラムは終了。

音を聴いて言葉にして会話するって大切だと思います。新たに見えてくるものがあります。そして益子さん、多田さん、織原さんというユニークな感性に出会える面白さを再認識。特にミュージシャンである織原さんのご意見には興味深いところがありました。多田さんも面白くて魅力的な方ですよね。益子さんとはもう長い付き合いですが、ユニークな活動をされていて、このイベントは正にそれです。都合が合えばまた参加したいです。

「綜合藝術茶房 喫茶茶会記」2月9日(土)に関連したライブがあります。
「tactile sounds vol.10」

P168

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