新たなインド系コネクション?ではなく、アラブ・コネクションでした。
今日はニューヨーク・ダウンタウンです。昨年はメジャーな人の新譜を中心に聴きましたが、やっぱりこちらの動向も気になるわけでして、また少しずつ気になるもをフォローしています。ニューヨーク・ダウンタウンと言えばやっぱり益子博之さんの情報が一番頼りになります。
今日紹介するアルバムは、四谷の「綜合藝術茶房 喫茶茶会記」開催されている 「益子博之=多田雅範 四谷音盤茶会 vol. 07」 で紹介されたアルバム。
益子さんからコメントしていただいた情報にて以下修正します。2013.1.20
HAFEZ MODIRZADEHの『ポスト・クロモーダル・アウト!』(2012年rec. PI RECORDS)です。メンバーは、HAFEZ MODIRZADEH ハフェス・モディルザデー(as,ts)、アミール・エルサファー(tp)、ヴィジェイ・アイヤ(p)、ケン・フィリアノ(b)、ロイアル・ハーティガン(ds)、DANONGAN KALANDUYAN(filipino kulintang)3曲、FARAZ MINOOEI(persian santur)3曲、ティモシー・ヴォルピセラ(el-g)2曲です。この名前からいってリーダーとトランペッターはインド系の人だと思われます。アイヤがいるのでニューヨーク・ダウンタウンの新たなインド系コネクションによるアルバムということか?
ではなくて、リーダーのモディルザデーはイラン系で、トランペッターのエルサファーはイラク系。ということでアラブ・コネクションです。
短めの曲を次々と演奏していく組曲2曲が収録されています。1~17曲(48分31秒)がMODIRZADEHの組曲《ウェフト・ファセッツ》、18~28曲(26分16秒)がジェイムス・ノートンの組曲《ウォルフ&ワープ》。内ジャケにはコード(和音)名を並べた図が書いてあるので、そういう作曲法によって作られているのかもしれません。ジャズであり現代音楽です。図がいかにも数学なので、やはりインドの人は数学が”売り”なのかもしれません。
ではなくて、アラブ系の人なので強引に解釈すればアラビア数学つながりということでしょう。
大衆音楽ではなく芸術音楽としてのジャズです。特に難解な音楽というわけではありません。現代音楽的な楽曲の中にフリー・ジャズが織り込まれています。MODIRZADEHのサックスはルドレシュ・マハンサッパやスティーブ・リーマンの系統で、フレージングはウネウネのアブストラクト。曲によってはエリック・ドルフィーのような感じの部分があります。
MODIRZADEHがドルフィーならば、エルサッファーのトランペットは新主流派のフレディ・ハバードという感じか。2人ともしっかり演奏していますし説得力があります。アイヤが曲によっては一部の調律をわざと狂わせたピアノを弾いていて、琴を弾いているようにも聴こえるところがあって面白いです。この人は色々攻めてきますよね。フリー・ジャズの部分ではガツンと弾いてくれます。
ここも調律を狂わせているのではなくて、アラブ音階をベースにモディルザデ―が考案したクロモーダル音階に調律されているとのことです。アラブ・コネクションは面白いところを突いてきますよね。
ベーシストはピチカートだけでなくアルコも交え現代音楽をきちんとこなせるレベル。ドラムは緩急自在にリズムをこなし、4ビートのフリー・ジャズ部分でのドラミングはなかなかキレがあって良い感じです。曲によってはフィリピンの打楽器などが加わりガムラン的な響きがあったり、シタールのような弦楽器が出てきたり、インド系/東南アジアのアイデンティティをジャズに混ぜ込みます。とは言っても、フリー・ジャズの部分はやっぱりアフロなんですよね。
インド系/東南アジアのアイデンティティではくて、中東からパキスタン/インドを挟み東南アジアまで行ってしまうような、ひとまとめにしてエスニック・テイストと強引に言ってしまいましょう。そういうサウンドが鳴っています。
頭でっかちの音楽というわけではありません。間にはスポンティニュアスなジャズもあり、知性的ではありますが、堅苦しくなく自由な空気も漂っています。その自由な雰囲気がジャズの持つ良さなのだろうと思います。
なかなか面白いジャズだと思いました。間違っても日本のジャズ・ジャーナリズムに取り上げられることはないと思いますし大衆性はないですが、こういうジャズが出てくるニューヨーク・ダウンタウンの動向には注目する価値があると思います。
アルバム名:『POST-CHROMODAL OUT!」
メンバー:
HAFEZ MODIRZADEH(as, ts)
AMIR MODIRZADEH(tp)
VIJAY IYER(p)
KEN FILIANO(b)
ROYAL HARTIGAN(ds)
ゲスト:
DANONGAN KALANDUYAN(filipino kulintang) 4,5,17
FARAZ MINOOEI(persian santur) 8,10,17
TIMOTHY VOLPICELLA(el-g) 16,17
*
ニューヨーク・ダウンタウンのジャズに興味がある方はこちらのイベントに注目。
来週1月27日(日)に 「綜合藝術茶房 喫茶茶会記」 で開催される「益子博之=多田雅範 四谷音楽茶会 vol.8」です。2012年の年間ベスト10が発表されます。面白そうなので私は行く予定です。
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コメント
こんばんは、いっきさん。
インド系(アジア系?)はそのうち黒人より元気になりそうで怖いですね。
益子さんのイベント行かれるんですね、私は都合がつかないので羨ましいです。
あと日本人の現代NY系の評論家だとNY在住カメラマンの常盤武彦さんも面白いですよ。
毎月ジャズライフに2,3ページコラムが載っていて、本人のサイトにもアーカイブが5年分くらいあります。良ければどうぞ。
投稿: 北澤 | 2013年1月20日 (日) 00時16分
北澤さん
こんばんは。
>インド系(アジア系?)はそのうち黒人より元気になりそうで怖いですね。
今、勢いがあると思います。
>益子さんのイベント行かれるんですね、私は都合がつかないので羨ましいです。
行く予定です。益子さんのこの手のイベントに行くのは実は数年ぶりです。「いーぐる」で開催されていたころにはよく行きました。
>あと日本人の現代NY系の評論家だとNY在住カメラマンの常盤武彦さんも面白いですよ。
情報ありがとうございます。早速ホームページを見ました。メジャー系ですね。なかなか面白いと思います。
投稿: いっき | 2013年1月20日 (日) 01時03分
いっきさん、ご紹介ありがとうございます。若干、情報を訂正させていただくと、ハフェス•モディルザデーはイラン系、アミール•エルサファーはイラク系で、インド/パキスタン•コネクションではなく、アラブ•コネクションなんですね。で、ヴィジェイ•アイヤーのピアノですが、平均律とは異なる、アラブ音階をベースにモディルザデーが考案したクロモーダル音階なるものにチューニングされているのです。
投稿: 益子博之 | 2013年1月20日 (日) 21時10分
益子さん
こんばんは。
ご指摘ありがとうございます。
なるほどそういうことでしたか。
事実がわかると聴き方がより深まります。
早速本文を修正します。
投稿: いっき | 2013年1月20日 (日) 22時31分