「クラブジャズの範疇」とは書いたものの・・・
先週末、ジャズ喫茶「いーぐる」で行われたイベント「新春ジャズ七番勝負 : 原田和典 vs 大塚広子」のレポートで、大塚さんのジャズ観をクラブジャズの範疇だろうと書きました。客観的に見ているつもりだったのですが、やはり私の主観は入っていますよね。そのあたりに関して補足的なことを書かせていただきます。
そのイベントの打ち上げで大塚さんと会話を交わしたところ、「私がクラブでかけるのは(いわゆる)クラブジャズとは違うんです。(いわゆる)クラブジャズはフュージョンなどで聴きやすいものです。柳樂さんや私は(いわゆる)クラブジャズとは違う(ものを志向している)んです。」というようなことを強調されていました。
実は年末の「いーぐる」忘年会で、柳樂さんからも同様の話をお聞きしていたのです。その時私は大塚さんにとても興味を抱きました。「大塚さんのクラブジャズ(ジャズ観)とはいったい何なのか?知りたい!」、それが今回の「七番勝負」に参加した最大の理由です。相手がどっぷりジャズの原田さんなので、大塚さんのジャズ観がより浮き出るのではないかという期待がありました。
結果は最初に書いたとおり「クラブジャズの範疇」ということに。この表現、大塚さんにとっては”違う”というお気持ちがあるようです。後になって大塚さんのツイッターを読んで気付きました。
これは私がジャズとフュージョン(ジャズではない)の間にある微妙な演奏を、これはジャズではないと言いたい気持ちと似ていると思いました。「あなたはジャズだと言うけれど違います。あなたは何も分かっていません。」という気持ちです。
そういう気持ちは私もよく分かります。大塚さんのそういう反応も想像できないことではなかったのに、「クラブジャズの範疇」と書いてしまう私。あ~っ、実にいやらしい。大塚さんごめんなさい。
実に面白いですね。私が硬派ジャズと軟派フュージョンを一緒にするのを嫌うように、大塚さんもフュージョンぽい軟派路線のクラブジャズと一緒にされるのを嫌っています。というか、そういうクラブジャズのあり方に大塚さんは危機感のようなものを抱かれているのではないかと思うのです。それには共感できる部分があります。
上記のことを書くに至った大塚さんのツイート2件(青字)を貼らせていただきます。
ツイッターを勝手に引用すること、ご容赦願います。
「矢部直さんのDJは刺激的で繊細で。振り幅が広くて繋ぎになる要素、曲の並べ方の理由がわかる。気持ち良いダンス。いーぐるで私が紹介したのを一概にクラブジャズと言われるのはやっぱり違う。それは矢部さんのやってることでDJプレイとして体感して感じてほしいです。」
「だからジャズサイドの環境で、じっくり矢部さんのDJでクラブジャズを体感してほしいんです。場所は、故日野元彦さんの奥様容子さんのジャズハウス、六本木のアルフィー。」
(注)上記イベントは既に終了。
ツイートはジャズ喫茶リスナー全般に対するのものだと思います。DJプレイ/クラブジャズを現場で体感したことがない私。う~む、大塚さんのおっしゃるとおりです。私が東京に住んでいれば行けるんでしょうけれど・・・、そういうことを理由にせず、行って体感しておかないといけないでしょうね。やっぱり体感していないと自分の意見が説得力を持ちません(涙)。
こちらも興味深い大塚さんのツイート。3件(青字)貼ります。
ジャズ喫茶いーぐるで、かけたsteve reid / kai 。ジャズ喫茶にいるみなさんでは、reidのドラミングや、les walkerのピアノじゃなくて、arthur blythe のサックスのソロを聴いてる。
それはすごく貴重な発見で。いままで気付かなかったこと。でもその聴き方の違いはどんな音設備の環境で聴いてるかによる、無差別的に。クラブや家の音で、こんないいサックスの響きは聴こえてこなかった。
でもリズムや鼓動はスピーカーよりも、なによりもフロアからの響きで感じとれる。
なるほど。確かに音設備の環境の違いは大きいでしょう。しかし、ジャズ・リスナーとクラブジャズ・リスナーの聴き方の違いもそこに浮き上がっています。
まず私達ジャズ・リスナーは個々のアドリブ/ソロの良し悪しを聴き取るのが基本だと思います。たとえ音が悪くても(音響装置が良くても録音がひどいものもあります)、まずそこに耳をそばだてます。それがある程度できないと「いーぐる」にはとても行けません(笑)。
一方、大塚さんの「リズムや鼓動はスピーカーよりも、なによりもフロアーからの響きで感じとれる。」、これは私にはない感覚です。凄く説得力がある言葉です。ここに「踊れるかどうかを唯一の基準にジャズを選ぶ」クラブジャズの聴き方の本質を見ます。”フロアーからの響き”って踊っている人がいる場でしか感じられないと思いますから。
最後に言い訳めいてしまいますが、その感覚を持ち合わせてクラブのフロアでジャズをかける(基本的に躍らせるわけですから当然のことです)大塚さんのジャズ観、私から見ればやはり「クラブジャズの範疇」ということで。m(_ _)m
ただし一概にクラブジャズと言っても様々なスタンスの方がいらっしゃるわけで、それは一概にジャズ喫茶と言っても様々なスタンスの店がある(例えば「いーぐる」と「メグ」の違いとか)のと同じことでしょう。「クラブジャズの範疇」と書いた上で、大塚さんのスタンスについてもう少し丁寧な説明をしていなかったのは反省点です。
*
これが話題の曲。スティーヴ・リードの『リズマティズム』から《カイ》。
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コメント
いっきさん。こんばんは。
いや〜面白い記事でした。
でも、DJやっていてそこまで悩むなら、自分の音楽やればいいのに・・・歌うか演奏するか、作詞作曲って思ってしまいます(笑)。
DJも自分の音楽なのかな?オレはそうは思わないけど。DJはDJ。
DJに対するオレの概念は、30代の頃リミックスやクラブで遊んでいた時に、仕事仲間だったDJ HONDAくんに言われたこと。
「日本のDJは、歌が歌えなくて、楽器もできなくて、楽譜も読めないヤツがやる・・・それが問題なんだよ」に尽きます。
今はどのくらい変わったかは知りませんが、ピンキリでしょうね。
とまぁ、必要ない人には必要ないDJって職業は前途多難!!
座って聴かせるイベントは、クラブのDJのやることではないと思いますよ。そこには選曲しかありませんからね。マヌケな感じがします(失礼)。
投稿: tommy | 2013年1月16日 (水) 00時00分
tommyさん
早速の反応ありがとうございます。
でもーっ、いくら私の着目点が面白いからってー、
私を山車に使ってー
波風立てようって魂胆はー。
見え見えですからー。
はーいっ、DJの皆さんはいちいち反応しにようにー。
ということでよろしくお願い申し上げます。
投稿: いっき | 2013年1月16日 (水) 00時11分
大昔の話ですが、私は「座って聴くDJ対決」を乃木坂の某クラブで体験しました。出演者は評論家の福島恵一さんと、名前は失念しましたが何人かのDJさん。深夜から明け方まで続くイヴェントで、私はDJもセンスで勝負する点ではジャズ喫茶のレコード係りとまったく同じであることを実感したものです。理由は単純で、明らかに福島さんの選曲感覚がその繫ぎ方を含め優れていて、ほとんど聴いたことのない音楽ジャンルであるにもかかわらず、飽きることがない。これって、いいレコード係り(たとえば旧『ジニアス』の西室さんとか…)のいるジャズ喫茶にいるときの快感とまったく同じなのですよ。
もちろんジャズ喫茶のレコード係りにも優劣があるように、DJだっていろいろでしょう。しかし、彼らのやっていることはある意味では「編集作業」でもあり、それ自体が一種の創造作業なのだと思います。ご自身編集者でもあるtommyさんがそのことに気がつかないのは不思議ですね。
投稿: 後藤雅洋 | 2013年1月16日 (水) 01時39分
早速の反応、ありがとうございます。波風?
好きなジャズ聴く時にDJはいらないし。クラブに遊びに行く時は場の雰囲気が大切で、音楽なんかぜんぜん聴いていないし。オレにとって「DJも創造作業、編集作業なのだ!」と思うようなことは、これからもきっとないです。一年に一回もDJのいる場所にはいかないからなぁ。必要だと思ったこともない。
あっ、ウソでした。友だちが時々やっているソウル&ブルースのDJイベントに行きます。友だちのイベントだから。まぁ、楽しい飲み会です。アイツらに創作活動を感じることはまずない。キッパリ!
投稿: tommy | 2013年1月16日 (水) 11時37分
なるほど、よくわかりました。私とは音楽に対する接し方が違うようですね。まあ、人それぞれ、いいんじゃないですか。
投稿: 後藤雅洋 | 2013年1月16日 (水) 17時46分
意見は出尽くしましたでしょうか?
それでは終了いたします。
投稿: いっき | 2013年1月16日 (水) 22時45分