深みがあるピアノ・トリオのライブ・アルバム
遅れ馳せの新譜紹介です。
フレッド・ハーシュ・トリオの『アライブ・アット・ザ・ヴァンガード』(2012年rec. PALMETTO)です。メンバーは、フレッド・ハーシュ(p)、ジョン・エイベア(b)、エリック・マクファーソン(ds)です。今年2月にヴィレッジ・ヴァンガードで行われたライブを収録した2枚組CDアルバム。ハーシュのトリオは『ホイール』がとても気に入っていて、今回は同じトリオによるライブなので興味が湧いたのでした。
『ホイール』についてはこちら⇒ディスクユニオンで聴いて買いました。
2008年に2ヶ月にわたる昏睡状態に陥り、生死の境を行き来したというフレッド・ハーシュ。そこから奇跡の復活をとげて今に至ります。やっぱりこういう体験をしてしまうと音楽表現には何らかの影響を与えてしまうんでしょうね。ありきたりの言い方になってしまいますが、表現の深みが増していると思うのです。
このトリオ、特に新しいことをやるわけではありませんし、特に尖がった小難しいことをやるわけでもありません。至ってオーソドックスなピアノ・トリオです。でもそこにある音楽は心に響きます。今日みたいに雨が降る寒い日にこのライブにじっくり耳を傾けていると、「あ~っ、いいな~っ、このライブ」って素直に感動します。
場所がヴィレッジ・ヴァンガードということで、どうしても頭にはビル・エバンスの『ワルツ・フォー・デビィ』『サンディ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード』が浮かんできてしまいますよね。比較してもしょうがないのですが、ハーシュのこのライブ・アルバムもなかなかいい線行っていると思うのです。
特にベースのエイベアとのインタープレーはかなり良くて、私にはエバンスとラファロのコンビを彷彿とさせるものがあると感じます。エイベアのベースは力強いし絶妙の間を持ってハーシュに絡んでいるのです。マクファーソンはそんな2人に程よい装飾とグルーヴを付け加えていく演奏。3人がじっくり音楽を作り上げていく様が見て取れます。
ハーシュのオリジナル曲とスタンダードとジャズマン・オリジナルを織り交ぜて演奏しています。ハーシュのオリジナル《ハヴァナ》の哀愁とガッツ、ポール・モチアンに捧げた《トリステッセ》の空間に広がる美しい余韻、オーネットの《ロンリー・ウーマン》とマイルスの《ナーディス》の異色メドレーでは2人に共通する美が存在するこを認識、スタンダード《朝日のようにさわやかに》ではブルージーな中に見せる独特な煌めき、などなど聴きどころは色々あります。このトリオには美しさと力強さがありますね。
ピアノと言えばビル・エバンス、ピアノ・トリオ・アルバムと言えば『ワルツ・フォー・デヴィ』、それは確かに正解なのですが、そればかりではなく新しくて素敵なジャズ・ピアノもあるのです。このアルバムなんかは正にそれです。欧州マイナー・ピアノ・トリオも結構なのですが、このアルバムも忘れてもらっては困ります。
今日はCD2枚を聴いてこの素敵なライブに浸っていました。
ヴィレッジ・ヴァンガードの雰囲気が目の前に広がっていました。
ジャズ・ジャーナリズムがこのアルバムをそれほど積極的に取り上げているとも思えないので、「大推薦!」と言っておきましょう。あっ、日本盤は出てますね。この手のアルバム紹介は今やジャズブロガーの領域なんですよね。他がダメダメだからジャズブロガーの存在意義が高まってしまうのです。自画自賛(笑)。
アルバム名:『ALIVE AT THE VANGUARD』
メンバー:
Fred Hersch(p)
John Hebert(b)
Eric McPherson(ds)
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コメント
今年の秋の最初は暑かったですよね。。
なんとなく、暑い毎日が蘇るアルバムです。
ハーシュの病気と音楽は関係ないだろう!って、仰る方もいるかもしれないけど、、違いますよねぇ。
やっぱり、人生と何度も向かい合った人の音楽に対する真摯な姿勢は、、
演奏にも現れてると思います。でも、おもく沈んだ音楽ではなくて、
ピアノを弾ける喜びに満ちあふれた演奏だと思いました。
少し前に聴いたデュオのアルバムでも、元気溌剌だったんだけど、、
このまま、体調を維持して欲しいですね。
投稿: Suzuck | 2012年11月13日 (火) 18時18分
Suzuck様
こんばんは。
>今年の秋の最初は暑かったですよね。。
はい、暑かったです。
>なんとなく、暑い毎日が蘇るアルバムです。
なるほど、その頃よくお聴きになっていらしたんですね。
私はすっかり寒いイメージになってしまっています。
>ハーシュの病気と音楽は関係ないだろう!って、仰る方もいるかもしれないけど、、違いますよねぇ。
絶対に違います。
>やっぱり、人生と何度も向かい合った人の音楽に対する真摯な姿勢は、、
そうです。そういう真摯な姿勢に人は心打たれます。
>演奏にも現れてると思います。でも、おもく沈んだ音楽ではなくて、
>ピアノを弾ける喜びに満ちあふれた演奏だと思いました。
はい、喜びは伝わってきます。
一時期は相当沈んでいたんでしょうね。
そして極限を体験してしまうとある意味吹っ切れて、
くよくよしないでいようという気分になるんじゃないでしょうか。
で、そんな心境が音楽に反映しているのではないかと推測します。
>少し前に聴いたデュオのアルバムでも、元気溌剌だったんだけど、、
それは聴いていないので聴きたくなってきました。
>このまま、体調を維持して欲しいですね。
それは切に願います。
トラバありがとうございました。
投稿: いっき | 2012年11月13日 (火) 23時25分