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レイナルド・コロンの骨太な1枚。

新譜紹介です。これは予想外に良い内容だったので気に入りました。

P92レイナルド・コロン『ライズ』(2011年rec. JazzVillage)です。メンバーは、レイナルド・コロン(tp)、ユーレ・プクル(ts)、アーラン・オーティス?(p)、ラサーン・カーター(b)、ルディ・ロイストン(ds)、フィーチャリング:ソフィア・レイ(voice)5、コア・リズム(spoken word)2,8、フィリップ・コロン(b-cl)3,6,8、ロジャー・ブラヴィア(per)3,8、イクレクティック・カラー・オーケストラ3,6,8です。コロンはフランス生まれのバルセロナ育ちだそうです。

これまでコロンはフレッシュ・サウンド・ニュー・タレントから2枚のリーダー・アルバムを出しています。1枚目が『マイ・フィフティー・ワン・ミニッツ』(2004年)で、フュージョン/クラブ~エレクトリック・マイルスという内容でした。エレピとエレベのクインテットを主体とした演奏。間奏曲でマイルスの曲をやったり、ジャコの《スリー・ビューズ・オブ・ア・シークレット》をやっていたので購入。サウンドが軽めな割にはしっかりした内容なので気に入っていました。軽やかなトランペット吹奏は爽快です。

2枚目が『スケッチズ・オブ・グルーヴ』(2007年)で、エレクトリック・マイルス度は下がり、フュージョン/クラブ系の他にフラメンコ調のものやアコースティックな4ビートなど様々な要素が混在していました。メンバーも入れ代わり立ち代わりで少々散漫な印象。もう少し方向性を絞ったほうが良いのではないのかと思っていましたが、内容としては悪くありません。

で、今回レーベルが変わってこれが1枚目とのこと。話はちょっと横道に反れますが、スペインの財政難や不況の影響なのでしょうか?最近フレッシュ・サウンド・ニュー・タレントからはあまり新譜が出ませんよね。一時期の驚異的な新人紹介ぶりを考えると、今の状態は寂しい限りです。もしもこのまま消滅なんてことになると惜しい気がします。

本アルバムの話に戻ります。今回はアコースティックなものに絞って来ました。まずそこに好感が持てます。明確なクレジットがないのですが、たぶん全曲コロンが作曲しているのではないかと思います。プロデュースも自身が手がけ、コンポーザー型のトランペッターですね。

1曲目《オヴァーチャ》は60年代黄金のマイルス・クインテットの雰囲気濃厚。テナーは、ポスト・スティーヴ・コールマンと言われるユーレ・プクル(最近リーダー・アルバムを出しました)。このアルバムでの演奏はむしろウェイン・ショーターに近い雰囲気です。ピリッと引き締まった硬派演奏にニンマリ。私ってこの雰囲気に弱いのです(笑)。オーティスが新鮮かつしっかりしたピアノを弾いていて良いです。アルバム全体をとおして良いピアノを弾いています。

2曲目《El'Baka》は逞しいベース・ソロから始まるスピリチュアルな曲。これも60年代の雰囲気濃厚です。コア・リズムのポエトリー・リーディングも入って、重厚な雰囲気の演奏が良いです。このリズムの腰の据わり具合と粘りは黒人ベーシストとドラマー故かもしれません。ドラマーのロイストンはリンダ・オーの『イニシャル・ヒア』に参加していました。以上2曲は10分越えの力演です。

3曲目《間奏曲#1:ホープ》はストリングス・オーケストラ&パーカッションをバックに抒情的なトランペットを朗々と吹きます。3分弱。

4曲目《La Llegada》はクインテットによる変拍子のモーダルな現代バップ。私には懐かしのV.S.O.P.クインテットの匂いが感じられる演奏。スローなテンポでのトランペット・ソロはなかなか気合が入っています。ここでのプクルは現代的なフレージングですね。

5曲目《Avec le temps》はフランス語の女性ボーカル入りでシャンソン風の曲。エスニックな哀愁が良い感じです。トランペット・ソロは甘さに流されずストレート。

6曲目《間奏曲#2:ザ・ジャーニー》はストリングス・オーケストラのみ。こちらはマイルスの《スケッチ・オブ・スペイン》を想起させる吹奏を見せます。クインテットの録音はニューヨークですが、ストリングス・オーケストラとの録音はスペインです。これも3分弱。

7曲目《イン・ア・ミスト》はタイトルの”霧の中”を表したような儚げなメロディーです。ピアノだけをバックにした演奏で、古き佳きアメリカの匂いを感じます。それはピアノとメロディーがストライド・ピアノ風だから。ミディアム・テンポでまろやかなトランペットが素敵。

ラスト《ザ・ライジング》は最初クインテットでテーマを演奏。中ほどはコア・リズムのポエトリー・リーディングで、韻を踏んだ繰り返しの詩はラップとも受け取れます。後半ストリングスも被さり最後にトランペット・ソロで終焉へ。面白い流れを持った曲です。

新譜インフォによるとトランペッターのアヴィシャイ・コーエンに迫る本格派ということのようですが、確かにしっかりしたトランペッターだと思います。色々な面を持っているのが現代人らしくて、このアルバムを聴いて益々注目しました。このアルバム、アメリカの変なジャズの呪縛から逃れ、自分がジャズだと思うことを自由に盛り込んでいるところが好印象です。そして骨太だと思います。

レイナルド・コロン、日本のダメダメなジャズ・ジャーナリズムは話題にもしないでしょうが、私は注目すべき人だと思います。本アルバムを推薦します。

<追伸>フラメンコとの融合を図った2009年のアルバム『エヴォケーション』がJazzVillageレーベルから再発されていて、只今買うかどうか思案中。

アルバム名:『Rise』
メンバー:
Raynald Colom(tp)
Jure Pukl(ts)
Aruan Ortiz(p)
Rashaan Carter(b)
Rudy Royston(ds)
Philippe Colom(bcl, M-3,6 & 8)
Roger Blavia(perc, M-3 & 8)
Core Rhythm(Spoken Word, M-2 & 8)
Sofia Rei(vo, M5)
Eclectic Colour Orchestra(M-3, 6 & 8)

貼れるアフィリがないとは・・・(涙)。

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