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メルドー・トリオはいいですね。

ジャズ評論家の岩浪洋三さんが亡くなられたそうです。
岩浪さんがライナーノーツを書いたレコードをたくさん持っています。
寺島靖国さんとの番組「PCMジャズ喫茶」(現:ジャズ喫茶「MUSIC BIRD」)を聴いて、当ブログのレポートで散々ツッコミを入れさせていただきました。
謹んでご冥福をお祈り申し上げます。

今年は良いピアノ・トリオのアルバムが出ているので、ジャズ批評誌の「2012年マイ・ベスト・ジャズ・アルバム」の依頼がくるようなら、ピアノ・トリオだけにしてしまおうかなんて考えています。私としてはかなり珍しい。

ヴィジェイ・アイヤ『アッチェレランド』、エンリコ・ピエラヌンツィ『パーミュテーション』、ブラッド・メルドー『オード』、ルイス・ペルドモ『ユニバーサル・マインド』、そしてこれは絶対欠かせませんの上原ひろみ『ムーヴ』と、それぞれ良い出来です。そしてまたメルドーがピアノ・トリオのアルバムを出してくれました。

P56ブラッド・メルドー・トリオ『ホエア・ドゥー・ユー・スタート』(2008, 11年rec. NONESUCH)です。メンバーは、ブラッド・メルドー(p)、ラリー・グレナディア(b)、ジェフ・バラード(ds)です。もうあちらこちらでこのアルバムについて書かれているとおり、前作『オード』と同じ日に録音されていて、『オード』とこのアルバムは兄弟アルバムなのです。

あちらがメルドーのオリジナル曲(誰かのためのトリビュート曲が多い)ばかりなのに対して、こちらはカバー曲にメルドーのオリジナルが1曲という構成。2008年と3年後の2011年に録音したものを、こういう形で2枚のアルバムに収録して出すというのもちょっと変わっていると思います。でも、2枚の異なるコンセプトのアルバムに仕上げたところは、なかなか憎い所を突いているとも思います。

『オード』についてはこちら⇒メルドー・トリオってやっぱりいいな~。

今回ロックやポップスの色んなミュージシャンの曲がカバーされているのですが、残念ながら私はジャズ・マン・オリジナル以外は原曲を聴いたことがありません。まあそれでもメルドーが料理した結果は、きっと原曲の良さを生かした上でメルドーらしさが出ているのだろうと想像します。

冒頭《ゴット・ミー・ロング》からメルドーらしさ全開。7拍子をスイングさせるところが現代的リズム感覚ですよね。ダークな匂いのメルドー節になっています。続く《ホランド》はワルツ曲。荷物を徐々にほどいていき中にあるメロディーを取り出してゆく感じでだんだん盛り上がる展開が素敵です。

《ブラウニー・スピークス》はクリフォード・ブラウンの曲なのですが、メルドーの特異なハーモニー・センスと相まってモンクの曲に聴こえてきます。後半はキース・ジャレット風にメロディーが湧いてきます。ベース・ソロから始まりピアノ・ソロ、ドラム・ソロという展開がジャズらしいです。次の《ベイビー・プレイ・アラウンド・アゲイン》はバラード。メロディーを慈しむように優しく大事そうに弾いていき、最後の無伴奏ソロに向かっての演出がなかなか感動的。メルドーのバラードは染みます。

次の《エアジン》はソニー・ロリンズの有名曲。メルドーがこんなベタな曲を選ぶなんて意外です。最初からしばらくはテーマのメロディーを隠して演奏。強靭なベース・ソロの後にメルドーのソロがあるのですが、アドリブの噴出具合がキース的に聴こえます。私の頭の中はキースの唸り声が聴こえてこない不思議な感覚に(笑)。パワフルなドラム・ソロが入る展開はやっぱりジャズの曲だからか。

《ヘイ・ジョー》はゴスペル風?ここでもキースの演奏が思い浮かびます。次の《サンバ・エアモール》はラテン調の演奏。寺島靖国さんのラジオ番組「PCMジャズ喫茶」でラテン好きの寺島さんがメルドーの《トレス・パラブラス》をかけて、良いと言っていたのを思い出しました。寺島さん、メルドーが良いとは(笑)。哀愁と内に秘めた情熱が素敵。後半へ行くに従い徐々に熱を帯びていきます。メルドーのラテン風味はいいですよ。

メルドー作《ジャム》は前曲と続けて演奏されるので、最初は曲が変わったことに気付きませんでした。前曲の途中からメルドー得意の右手左手バラバラメロディーが現れ、そのソロが続くような感じでこの曲に入り、右手左手2重人格を披露するための曲がメルドーのオリジナルというのが彼らしい(笑)。

《タイム・ハズ・トールド・ミー》はワルツ曲。漂う暗さはやっぱりメルドーならでは。メロディーをじっくり弾いていきます。メルドーのワルツ演奏って説得力がありますよね。次の《Aquelas Coisas Todas》はトニーニョ・オルタのサンバ曲。哀愁の美メロと躍動するリズムの取り合わせが最高。これは寺島さんも絶対気に入ると思います(笑)。ラリーとジェフのリズムが素敵。ラスト《ホエア・ドゥー・ユー・スター》は夕暮れ時の郷愁か。やさしくしっとり終了します。

各曲の良いところをしっかり聴かせたうえで、メルドーならではの世界をきちんと描き出しています。ラリー、ジェフのわきまえたサポートぶりとトリオとしての一体感は文句ありません。途中でキースを連想させるところもあったりして、何度か聴くうちにこれはメルドー流の「スタンダーズ・トリオ」なのかもしれないと思いました。私は「アナザー・スタンダーズ・トリオ」とでも命名したい気分です。

『オード』とは甲乙付けがたい出来です。
メルドー・トリオ、いいです!聴いて下さい。

アルバム名:『WHERE DO YOU START』
メンバー:
Brad Mehldau(p)
Larry Grenadier(b)
Jeff Ballard(ds)

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コメント

こんばんは。
夜に雨がふりはじめました。

わたしは、冒頭から、やられたぁ、って、感じでした、、
ジミヘン好きなので、このメルドーのHey Joeの演奏もよかったですが、コステロの Baby Plays Aroundはほんとに深い解釈と表現で、これまた、やられたぁ。と、おもいましたよ。

そして、とどめにジョニーマンデルのタイトル曲。これは、反則ですよ。メルドーがこれするなんて狡いです。もう、メロメロです。
この曲をタイトルにしたメルドーの心模様が伝わってきますよね。

こちらからもトラバいたしまーす。

投稿: Suzuck | 2012年10月 6日 (土) 23時59分

Suzuckさま
こんばんは。
こちらも雨が降ってます。


>わたしは、冒頭から、やられたぁ、って、感じでした、、
確かに最初からいいですもんね。
>ジミヘン好きなので、このメルドーのHey Joeの演奏もよかったですが、コステロの Baby Plays Aroundはほんとに深い解釈と表現で、これまた、やられたぁ。と、おもいましたよ。
元の曲を知っていればなおさら良さが分かるんでしょうね。
Baby Plays Aroundはほんとに深いです。染みました。
>そして、とどめにジョニーマンデルのタイトル曲。これは、反則ですよ。メルドーがこれするなんて狡いです。もう、メロメロです。
元曲は知らない私ですが、このメロディーと感触はメロメロになるのも分かります。
>この曲をタイトルにしたメルドーの心模様が伝わってきますよね。
はい。心模様。さみしさのつれづれに~。


トラバありがとうございました。

投稿: いっき | 2012年10月 7日 (日) 00時59分

こんにちは〜

メルドーのアルバムよかったですよね。

ライナーがなかったのでみなさまのレビューを参考に聴きました♪

わたしも 原曲を知らなかったので カバーの良さは ちょっと分からなかったのですけど いろんなタイプの曲があって いろんな演奏が聴けてよかったです。

゙Ode゙もよかったけど こっちの方が好きかもです♪


あっ 岩浪さん 亡くなられたの こちらにも書かれていたんですね。わたしは夜まで気づきませんでした(;_;)
わたしはまったく面識ないのですけど いっきさんやSuzuckさんなどは よくご存じで 悲しいお知らせになったことと思います。

わたしの好きなピーターソンのCDやエディ・ヒギンズさまのCDのライナーにお名前がありました (;_;)

投稿: Marlin | 2012年10月 7日 (日) 16時19分

Marlinさん
こんばんは。


>メルドーのアルバムよかったですよね。
ですよね。
>ライナーがなかったのでみなさまのレビューを参考に聴きました♪
お読みいただきありがとうございます。
>わたしも 原曲を知らなかったので カバーの良さは ちょっと分からなかったのですけど いろんなタイプの曲があって いろんな演奏が聴けてよかったです。
そうですね。いろんなタイプがあるので最後まで飽きずに楽しめるところは上手いプロデュースだと思います。
>゙Ode゙もよかったけど こっちの方が好きかもです♪
馴染みやすい曲という意味ではこちらの方が気に入られやすいのではないかと思います。


>あっ 岩浪さん 亡くなられたの こちらにも書かれていたんですね。わたしは夜まで気づきませんでした(;_;)
ツイッターのタイムラインに亡くなられたことが上がっていたのですぐにブログに書きました。
>わたしはまったく面識ないのですけど いっきさんやSuzuckさんなどは よくご存じで 悲しいお知らせになったことと思います。
私も面識はないです。ただラジオ番組で長らく聴いていたのですごく近しい存在でした。本当に残念です。
>わたしの好きなピーターソンのCDやエディ・ヒギンズさまのCDのライナーにお名前がありました (;_;)
本当に色んなアルバムのライナーを書いていて、節操がないというような意見も耳にしましたが、私は凄いことだと思っていました。あんな風にジャズに身を捧げた人は少ないと思います。

投稿: いっき | 2012年10月 7日 (日) 19時33分

Odeを録音していた時に、アルバムの曲のストックが、しかも既成曲中心でこれだけあるとは予想してなかったので、いい意味で裏切られた感じです。78分があっという間でした。

時間がある時に、録音年月別に曲をまとめ直して、2枚をゴチャマゼにして聴いてみたいな、と思ってます。それにしても、ちょっと前の録音が多いとはいえ、奥が深いトリオだと思いました。

TBさせていただきます。

投稿: 910 | 2012年10月11日 (木) 21時14分

910さん
こんばんは。
私も『Ode』の時に別のアルバムを1枚作れるほど録音していたとは予想できませんでした。全くの新録アルバムが出るのだと思い楽しみにしていたらこれだったのでちょっと驚きました。
さすがはメルドー、深いですよね。「ちょっとカバー曲をやってみました。」というのとは次元が違う演奏だと思います。
>時間がある時に、録音年月別に曲をまとめ直して、2枚をゴチャマゼにして聴いてみたいな、と思ってます。
それもまた面白そうですね。
TBありがとうございました。

投稿: いっき | 2012年10月11日 (木) 22時27分

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