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いやはや何ともエネルギッシュ!

上原ひろみ待望の新譜が発売されました。

P34 上原ひろみ ザ・トリオ・プロジェクト『ムーヴ』(2012年rec. TELARC)です。メンバーは、上原ひろみ(p,key)、アンソニー・ジャクソン(contrabass guitar)、サイモン・フィリップス(ds)です。前回のアルバムと同メンバーによるザ・トリオ・プロジェクトのアルバムです。ジャケット写真のホラーな感じと裏ジャケから分かるケバメイクはアメリカ人のセンスですからね。日本的なアイドルジャケ写を期待するのはやめましょう(笑)。ワールドワイドな人なのでこのジャケットで良いのです。

猛烈にエネルギッシュでスリリングなアルバムになっています。前作『ヴォイス』は上原とサイモンのスピード感/タイム感などが違って気になったのですが、本作はバッチリ合わせてきています。サイモンから上原に近づいただけではなく、上原もサイモンに合わせているのです。アンソニーとのマッチングは前作から良かったですから、もう今回は鉄壁のチームワークになっています。これはライブで世界中を巡って演奏を繰り返した成果なのでしょうね。

変拍子、複雑なリズム・チェンジとキメ、刻々と変化する表情、上原が作った高度な楽曲をビシビシ決めていくのは上記の鉄壁のチームワークの成せる技なのです。これが聴いていてスリリングで気持ち良いことこの上なし。基本的にアンソニーが土台を作りその上で上原とサイモンが絡んでいくという演奏です。もちろんアンソニーが絡んでいく場面もあります。今までサイモンについては大きなドラムセットでやたら叩きまくるだけのやつだと思っていましたが、今回そうではないことが分かりました。サイモンさんどうもすみませんでした。

一日の時の流れとともに変化していく感情の流れをテーマにしたという本作、冒頭に書いたとおりとにかくエネルギッシュなので、私がもしこんな一日を過ごしたら次の日はもうダウンしてしまうことでしょう。何なんでしょうね。上原のエネルギー。あの小さな体のどこにこんなエネルギーがあるのでしょう。きっと世界中の上原ファンから気を集めて”元気玉”にして音を放っているに違いありません(笑)。

どこをどう切ってもヒロミ・ワールド全開。プログレ志向ですかね。こういう個性が重要だと私は思うのです。ジャズに限りませんが自分の世界を作れる人が一流なのです。決してテクニックだけではなくきちんと表現したいものがあります。”日本人女性ジャズ・ピアニスト”なんていう枠はとっくに超えてます。そして癒しの哀愁ピアノ・トリオとか大人の音楽ジャズとかそういう既成概念をぶっ壊しているところも気に入ってます。

1曲目《ムーヴ》は目覚まし時計のアラームを模した音で始まります。なるほどね。”ジリ、ジリ、”から始まって”ジリジリジリジリ”まで、上手いですよね。凄い難曲を頭にかましてくるのはいつものパターン。目覚めからこれでは参ってしまいます(笑)。*2つ前の記事にこの曲を演奏したブルーノートでのライブを貼り付けてあります。必見!

次の《ブラン・ニュー・デイ》は美メロの優しい曲で普通の朝のイメージはこちら。日本のニューミュージック的なメロディーです。情感溢れるピアノが素敵ですよね。アンソニーのベースが美しいですね。サイモンのドラムも上手く寄り添っています。

3曲目《エンデーヴァー》はテーマ部にファニーなキーボードを交えた曲。キーボードで通すわけではなくアクセントとして使っています。テーマ部の後半は美メロのフュージョン調(デヴィッド・ベノワ調)になっていて、私はこの曲のような上原のピアノのソロが大好きです。ピアノとドラムのバース交換はピアノ部とドラム部でノリを変えているところがミソです。

4曲目《レインメーカー》は重い雰囲気の曲。ウエットな感じは日本の梅雨を想像させます。アンソニーのベースが深く沈んでます。曲が進むにつれてテンポアップしていってだんだん雨が強くなる感じ。そしてやみます。

ここから3曲は《組曲エスカビズム》《リアリティ》は全9曲の真ん中に位置して、この曲だけソロ部分が速い4ビートになっています。ジャズのリアリティ(現実)と中心はやっぱり4ビートってことなのでしょうか? 高速4ビートにのってめまぐるしく繰り広げられるピアノ・ソロがせわしい世の中を表しているんでしょうね。アンソニー&サイモンの4ビートはなかなかカッコいいです。

《ファンタジー》は映画スターウォーズに出てくる《ザ・プリンセス・アンド・ダース・ブルース》のような雰囲気があるバラード。スターウォーズはファンタジーですから。メロディー自体は上原節ですけどね。ピアノ・ソロ部分のためと転がし具合が好きです。

《イン・ビトゥイーン》はバルカン半島あたりのエスニックな匂いがある曲。哀愁溢れる曲です。輪舞(ロンド)風かな。ピアノ・ソロはクラシックな匂いがあり、途中に《モーツアルト交響曲第40盤第1楽章》の頭のようなメロディーが出てきます。

8曲目《マルガリータ!》はファンキーに始まる(変拍子炸裂)けれど、後半はポップなラテン調になるというハイブリッドぶりが《エンデーヴァー》に近いです。キーボードのファニーなソロが入っています。今回はキーボードで押し通さず軽めに使っているのがいい感じ。アンソニーがギターのような高音でソロをとり上原がキーボードでベース・ラインを弾くのが面白いです。後半のピアノ・ソロはラテン調。色々盛りだくさんなのはパーティーをイメージした曲だからでしょう。

ラストの《11:49PM》は、この曲の演奏時間が11分少々ということで、曲の最後に鳴る鐘(シンバル)が午前0時を告げるという趣向らいいです。上原らしいドラマチックな曲。こんな遅くまでドラマチックなんですから。それもパーティーが終わった後ですよ。いやはや参りました(笑)。

前作『ヴォイス』は後半飽きてしまいましたが今回は最後まで飽きずに聴けました。ザ・トリオ・プロジェクト、フィーチャリング・アンソニー・ジャクソン&サイモン・フィリップス。今や世界屈指のピアノ・トリオと申し上げて良いのではないかと思います。凄い演奏してます。

テラークならではの好録音です。今回はいつもよりピアノがしっかり録れているように感じました。歪むところまではいってませんが、その一歩手前までいっていてそれがパワー感につながっています。低音もふんだんに入っていて、これは絶対良いオーディオで音量大きめで聴くべきです。たった3人ですがマッシブな音の壁が出現します。

そしてアンソニーのベースが上原のピアノの左手とシンクロして聴こえ難くなる場面(これはアンソニーが上原に寄り添っているからに他ならないのですが)があるので、低音がしっかり出る良いオーディオでそこを聴き取る必要性があるのです。

ダイナミックな割に繊細なニュアンスもあるので、大ホールとかの大音量PAで聴くと魅力が伝わりにくい部分があります。昨年の東京JAZZで聴いてそう思いました。コットンクラブやブルーノート東京やSTB139のような空間で聴く方が魅力は余すところなく聴き取れるはずです。まっ、野外とか大ホールで大盛り上がりするのもまた良いのでしょうけれど。

グラミー賞のコンテンポラリー・ジャズ部門、最優秀賞が狙えるか?
うんっ、となるとエスペランサの『ラジオ・ミュージック・ソサイエティ』と競うのか?

アルバム名:『MOVE』
メンバー:
上原ひろみ(p, key)
Anthony Jackson(contrabass guitar)
Simon Phillips(ds)

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コメント

スゴいアルバムが出ましたね。個人的にはハードコア・フュージョン的に聴きましたけど、ジャズ・フュージョンを超えてより広い層にアピールするプログレファンク的な印象も持ちました(というジャンルよりは、演奏自体のインパクトがスゴかったですが)。

ここまで緻密に息の合っているトリオ作が出てしまうと、次は大変だ、とも思うのですが、どんどん進化していくので、また期待していいのだな、と思います。

TBさせていただきます。

投稿: 910 | 2012年9月11日 (火) 17時16分

910さん
こんばんは。
凄い演奏ですよね。
サウンドのジャンル的な解釈は色々あるでしょうけれど、私はジャズ以外の何物でもないと思っています。
ここにあるアドリブとインタープレーはジャズなんですから。
上原ひろみファンは意識していなくてもジャズを聴かされているわけです(笑)。
そこが愉快です。
確かに次は大変かもしれませんね。
次はライブがいいのではないかと私は思います。
ライブにおける進化した姿をライブアルバムとしてのこしてほしいです。
TBありがとうございました。
私からもTBさせていただきます。

投稿: いっき | 2012年9月11日 (火) 19時57分

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