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スガダイローの深いピアノソロ・アルバムです。

こちらも素敵なピアニストのアルバムです。
前記事の上原ひろみとは全く方向性が違う作品ですが凄く良いんです。

まずジャケットの写真が凄いです。

P35
写真屋(ご本人がそう書いてます)中筋純さんが撮った「廃墟チェルノブイリ」の写真です。貼ったのは6枚つづりの中の2枚。遠くにかすむチェルノブイリ原発とその原発事故により廃墟と化した街。緑に被われているところが何とも不思議。人々は追い出されてしまったのに木々は何事もなかったかのように青々と息づいています。人の営みなんて自然の前にはちっぽけな気がしますし、でも時にはその営みが自然に大きな影響を与えてしまうことも考えなければいけないと思います。

このアルバムはスガダイロー『春風』(2011年rec. VELVETSUN PRODUCTS)です。ピアノソロ作品。中筋さんの写真個展「黙示録チェルノブイリ 再生の春」のB.G.M.を依頼されたダイローさんが、写真からインスピレーションを得て録音したアルバムです。これを録音したのが2011年の2月22日。つまり東日本大震災と福島第一原発事故の数週間前なのです。何という巡り合わせなんでしょうね。今こうしてこのアルバムを聴くと色々な思いが頭の中を巡ります。

このアルバムには以下の9曲が収録されています。
1.巨骸、2.春風、3.融合、4.廃界、5.深部、
6.望郷、7.臨界、8再生、9.終末

全ての曲が力強く深いです。そこには上記写真の緑の木々のような自然の営みの力強さが込められているように感じます。原発事故は決して終わりではなく、年月を経ればまた生命の息吹は戻ってくるのだろうと思います。そう感じさせます。抽象的なフリー演奏ではなくメロディアスなので、そのメロディーが描く思いを感じでほしいです。

冒頭の《巨骸》から深くて美しいです。左手の廃墟をイメージさせる重く繰り返される低音と右手の生き生きとしたメロディーの動きは正に上記の写真だと思いました。イメージをかきたてる演奏です。ピアノが素晴らしく良く鳴っています。それを見事に捉えている録音も相あいまって一挙にその世界に引き込まれます。

《融合》における目まぐるしい音の放出は核反応そのもの。《深部》の寂しげで暗い音の佇まいはに心が深く沈み込まされます。《望郷》のメランコリックな響きは故郷を離れた人達の切ない思いが詰まっていていると同時に、やり場のない怒りが内に秘めているようであり、また今を強く生きようとする思いも感じます。

《臨界》は核分裂が徐々に進んでいって臨界へと達します。中盤以降の怒涛のフリー演奏は生み出される強大なエネルギーの放出。後半にはその強大なエネルギーをコントロールする意思も感じられるような気がします。《再生》は大地の響きと生命の躍動。これがダラー・ブランドの持つアフリカの響きに似ているのが面白いんです。ダイローさんにはアフリカの血が混じっているじゃないかと疑ってます(笑)。

といった具合でピアノたった1台で様々なものを表現。そしてそれはとても力強い。今世の中に足りないものはこういう地にしっかり足を着けた上での揺るぎない生命活動なのではないかと思います。東日本大震災から今日で1年半経ちました。ここにある音は被災者のみならず日本への応援歌として私の耳には響いてきます。

良いピアノソロです。心を揺り動かすものがあります。

Amazonに予約しておいたら入荷見込なしになってしまい、だいぶ経ってからディスクユニオン通販で購入したため紹介がすっかり遅くなってしまいました。今ではディスクユニオンにも在庫なしです。ベルベットサンで購入できるのかな? 良いアルバムなんで多くの人に聴いてほしいのですが。

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