一昨日の ジャズ喫茶「いーぐる」 連続講演「1990年代のジャズを聴く」のレポートの続きです。
昨日説明したように、かかったのはベストではなく、予備選考で1票しか入らなかったものです。複数票が入るアルバムは少なかったというのが、90年代のジャズの拡散と名盤の減少をよく物語っているのだろうと思います。この辺りの事情は「いーぐる」ホームページの「blog」をご覧下さい。後藤さんが詳しくお書きになられています。
私が90年代にジャズをあまり熱心に聴いていなかった原因は、仕事が超多忙だったからに他なりませんが、90年代のジャズ状況がそうさせていたと言えなくもないと思えてきました。
*私の聞き違いや勘違いがあるかもしれませんし、聴き損ねた部分も多々ありますのでご了承下さい。
8.柳樂さんセレクト
Dino Saluzziの『Cite de la Musique』
ディノ・サルーシはアルゼンチンのバンドネオン奏者。タンゴのバンドネオンとは違う演奏。インプロバイザー的な部分が一番格好良くでたアルバム。ECMレーベルです。ジャズ・ベーシストのマーク・ジョンソンと息子(ギター)との共演。
これはエスニック・ジャズです。ECMの音になっています。ジョー・ザビヌルの《バディアの楼閣》とかそっち方面のテイスト。なかなか良い感じでした。(以降緑字は私の感想などです。)
9.林さんセレクト
Yusef Lateefの『Tenors of Yousef Lateef & Ricky Ford』
ユセフ・ラティーフは自分のレーベルに30枚録音していて、その中にサックスと組んだものは4枚あって、このアルバムが一番面白い。録音当時は73、4歳。ラティーフとリッキー・フォードは音色が似ているので分かり辛いけれど、2人が禅問答をしていて師匠がラティーフで弟子がフォードと思って聴けば判別できます。
リズムがオーネット・コールマンのプライム・タイム風ファンクであるところがまず気に入りました。ラティーフが吹き終えないうちにフォードが挑んでくるような掛け合いが続きます。ガッツがあって私はこういうの好きです。このアルバム、「ジャズ批評」No.125の「サックス・トリオ決定盤」の中で下段に紹介されてました。
10.原田さんセレクト
Horace Tapscottの『Thoughts of Dar Es Salaam』
すみません。前のアルバムのことを林さんと話してしまい、原田さんの解説を聞き逃してしまいました。皆さんごめんなさい。お詫びとして「ジャズ批評」の「90年代のジャズ」に書かれているこの盤に対する原田さんのコメントを一部抜粋します。
すべての時期がピークだったといってもおかしくない彼だけに、遺作であろう本番でも創造力は全くかげりがみられない。作曲にしろ、ピアノにしろ、彼こそ真のスタイリストだった。
重いビートがカッコいい。4ビートからシャッフル・ビートへ。これも暴れ太鼓の部類。黒いファンクとロックなギターがいいです。後で原田さんに聞いたら、ギターはマルク・デュクレ。なるほどだからキレたギター弾いていたのです。私、暴れ太鼓が好きです(笑)。
11.後藤さんセレクト
Henri Texierの『Ramparts D'Argile』
オーソドックスなジャズ。アンリ・テキシェは古いところでフィル・ウッズの『アライブ・アンド・ウェルインパリ』でベースを弾いていた人。息子のセバスチャン・テキシェがサックスをバリバリ吹くが、コルトレーンなんかとは雰囲気が違うもの。気合が入っているのが良い。トニー・ラべソンはマダガスカル出身のドラマーでリズムが好き。聴いた後で村井さんがベースの音が良く録れているとおっしゃっていました。「録音がいいですよね。」と後藤さん。
あれっ?と思いました。タイトルがフランス語表記だったので気付きませんでした。後藤さんが自著でたくさん推薦いる『粘土の城壁』です。これっ、「いーぐる」で聴きたかったんですよ。凄い音が入ってますからね。かけたのは《サクリファイス》。これです。これで決まり! サックスも強烈だけれど後半のベース・ソロが怖~っ。このテクニックとパワーは異次元。ラベル・ブリュー・レーベルのクリアにしてパワフルな録音。ベースが良い音なのはヨーロッパならではだろうと私は思っています。もちろんこれは持っています。
12.村井さんセレクト
Mick Goodrick, Jerry Bergonzi, Bruce Gertz, Gary Chaffeの『Sunscreams』
もの凄く同業者の間で評価が高いけれど地味。ジョン・アバークロンビーを更に地味にした感じ。サックスも同様に同業者の間で評価が高いけれど地味なジェリー・バーガンジ。グッドリックのアルバムで一番地味なアルバム。バーガンジは全てフレーズがスケール・アウトしている独特なもの。
ギター&テナー・カルテットの好演。これは4ビートのコンテンポラリー・ジャズ王道。こういう渋めのやつも好きです。スタイル的には80年代です。バーガンジいいですよ。ドラムはジャック・ディジョネットにクリソツの叩き方でした。
13.益子さんセレクト
Pitaの『Get Out』
これはレジュメの解説から抜粋。PitaことPeter Rehbergは、ロンドン出身の電子音楽作家。オーストラリアのエレクトロニカ系のレーベル、Megoからのリリースが多い。本作はフル・アルバムとしては2作目で、全編Macパワー・ブックのみで制作されている。フィードバックのような高周波から、部屋の空気を振動させる低周波まで幅広い音域・音色のノイズを用いて、・・・、どちらかと言えば無機的で、時に暴力的な表現を用いる。この辺りの言葉に村井さんが反応(笑)。柳樂さんから補足。Megoレーベルは踊らない電子音楽のレーベルだそうです。聴いた後で後藤さんはこういうのは結構好きとおっしゃってました。
ノイズ・ミュージックでしょうね。ジャスに引き寄せれば音響系のフリー・ジャズと言えなくもないか。終りは”ブツッ”となったのでアンプが飛んでしまったようでした。皆さんはオーディオが壊れたのか?曲が終わったのか?と笑っていました。極たまにはこいうのも面白いでしょう。
14.八田さんセレクト
アルタード・ステイツの『Cafe 9.15』
アルタード・ステイツは日本オリジナル。八田さんは90年代からこのグループがたまたま好きだったそう。2000年代の方が好きだけれど、これも90年代を代表するアルバム。ネッド・ローゼンバーグ(サックス奏者)が参加しています。
ローゼンバーグの循環呼吸による演奏が彼らしい。フリー・ジャズ。ロック・ビート&変拍子は私も好みです。今堀恒雄のウンベルティポ・トリオとかにも通じます。私にはジェームズ・ブラッド・ウルマーとかがやっていたつんのめり気味のリズムに近いように聴こえました。なかなか良いです。
2巡目終了。
2巡目はジャズと言って良いと思います。
エスニック、ベテラン、ブラック、ヨーロッパ、コンテンポラリー、アバンギャルド、日本新進と、ジャズの広がりが網羅されている感じです。
私は全てジャズとして面白く聴けるのですが皆さんはいかがでしょう?
それぞれがその人らしいセレクトです。
メンバー各自がご自分の領分を分かってセレクトされているんだと思います。
時間に余裕があるとのことで柳樂さんセレクトから。
15.小野誠彦(オノ・セイゲン)の『Montreux 93-94』
小野さんというと今は録音エンジニアだが元はミュージシャン。シロ・バプティスタ、アート・リンゼイ、マーク・リボーなどが参加。モントルーのライブ。ワールドミュージックを取り入れ心地良い。90年代東京の感じがする。
正直に言ってしまえば、こういうの私にはどうも”ピン”と来ないんです。90年代東京の感じか~。薄っぺらい感じに聴こえます。1曲だけなので何とも言えませんが、どうやら私にはこの手の音楽の良さが分からないみたいです。
16.Mono Fontanaの『Ciruelo』
シカゴの音響派と同じことをやっているとして注目されたアルゼンチンの音響派。ジョー・ザビヌルとエルメット・パスコアールの影響大。多彩なパーカッション。音響的に面白い。
これもあまり”ピン”と来ないです。ジャズが私を引きつけてやまない何かがこの音楽には足りないような? 流れて行ってしまいます。う~む・・・。
ということで終了。
今回かけたのはベストではないということでしたが、色々バラエティーに富んでいて面白く聴けました。インナーゾーン・オーケストラ、ユセフ・ラティーフ、ホレス・タプスコット、ミック・グッドリック、アルタード・ステイツのアルバムは今回初めて聴いて気に入りました。
90年代のジャズ、やっぱりシーンはないようですね。
100枚選ぶとどういうことになってしまうのか?興味津々です。
打ち上げにも参加させていただき、とても楽しかったです。
「いーぐる」の連続講演、毎度色々ためになります。
感謝!!
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