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スピリット溢れるジャズ

今日はレコード紹介です。油井正一著「ジャズ ベスト・レコード・コレクションズ」に掲載されているアルバムです。

P197『 マックス・ローチ・カルテット ライヴ・イン・トーキョーVol.1』(1977年rec. DENON)です。メンバーは、マックス・ローチ(ds)、セシル・ブリッジウォーター(tp)、ビリー・ハーパー(ts)、レジー・ワークマン(b)です。1977年1月郵便貯金ホールでのライヴ録音。DENON(デンオン)のPCM録音シリーズの1枚。ライナーノーツにはPCM録音のありがた味が記載されていて時代を感じます。「discland JARO」の6月通販リストにあったので購入。

こういう硬派な1枚が最近は新鮮に聴こえてきます。スピリチュアルではなくスピリット溢れるジャズです。注目の若手を後ろからローチが”ガンガン”煽って気合が入ったジャズに仕立て上げています。前回書いたケニー・ギャレットのアフロ・スピリチュアル・ジャズとはものが違うのです。あちらにはこちらにあるような内から湧き上がるパワーが不足しています。時代の違いもあるんでしょうね。70年代はまだまだパワーが溢れていました。

油井さんの本には次のように書かれています。

「注目の新人ビリー・ハーパーを加えた久々の来日公演のライヴ・レjコーディング。あい変らず端正でいて力強いローチのドラミングにあおられて、若手連中がいずれも甲乙つけがたい快調なソロを展開する。ジャズの歴史はこのようにして次の世代へひきつがれていくのだろうと思わせる白熱のライヴ盤。」

ちなみにハーパーはこの時点ではもう新人ではないと思います。油井さんが書いたライナーノーツにもそのような記述はないです。上記の本を書いた1986年に勘違いが生じているものと思われます。

そしてジャズ継承のあり方を考えさせられます。その後ハーパーやブリッジウォーターもローチに習って、若手にジャズを伝承していったのでしょうけれど、私はよく知りません。マイルスのところでジャズを継承したはずのケニー・ギャレットも、今や懐かしコルトレーン路線ですし、ジャズはちゃんと継承されているのか否か?

ライナーノーツには面白いことが書かれています。当時マサチューセッツ大学音楽部に新設されたアフロ・アフリカン・ミュージック課主任教授だったローチへのインタビューで、ローチが強調したことだそうです。

「第二次大戦がおこるまで、ジャズは娯楽音楽であり、ダンス音楽であった。 ところが開戦と共に戦時特別税として、ダンス税が課税されることになった(ローチはその税率を20%といったが、私の知る限り最初が30%で、のち25%に引き下げられたはずである)。つまりダンスは禁止的重税の対象となり、ジャズは鑑賞の音楽となったのであるが、鑑賞に堪え得る音楽家の数はすくなく、ここでジャズ界は淘汰され、パーカー、ホリディらによって芸術音楽としての道を歩むことになった。」

大体以上の論旨で、ローチが大学教授として板についてきたな~というのが、油井さんの偽らざる感想だったそうです。

なるほどね。第二次世界大戦という環境下に適したジャズマン/ウーマンが生き延びてジャズを担っていくという、ダーウィンの進化論みたいな論法がなされているのはいかにも教授(笑)。去年の「ジャズ・ヒップホップ学習会」や「ジャズ・ヒップホップ・マイルス」でも、ジャズがダンス音楽から芸術音楽へと変わる辺りはポイントで、ローチも重要人物として取り上げられていたりするので、上記の話は興味深いところです。

A面がハーパーのオリジナル1曲のみ、B面が《ラウンド・ミッドナイト》とローチのオリジナル曲という全3曲。それぞれ各人のソロがたっぷり聴けます。内容は前述のとおりスピリット溢れるジャズ。特にハーパーの強烈ブローには惹かれます。油井さんはポスト・コルトレーン派の第一人者と評しています。

油井さんがここでのローチのドラミングを「驚くべきポリリズム」と評していて、言葉で正確に説明するのは難しいとしつつ、「叩き出される現実の音と音との間に、叩き出されていない音が発生して、それが現実の音とオーバーラップして、複雑なポリリズムをつくりだすのである。」と書いていて、ちょっとそれは感覚的過ぎるのでは?と思ってしまいます(笑)。

このドラミング、私には4ビートと8ビートのハイブリッドに聴こえます。シンバルレガートで4ビートのスイング感を残しつつ、スネアとバスドラのコンビネーションで8ビートに細分化して叩いているのです。ノリがステディなのでロック的に聴こえる面白いビートが生じています。他でこういうビートは聴いたことがありません。ビートにアプローチして進化させるローチ、凄いですよね。で、このローチのドラミングが最高にカッコいいのです。35年前の出来事。

ジャケ写のとおりドラムを叩くローチは大学教授ではなくジャズマンの顔です。
ジャズの面白さを感じさせてくれるアルバムです。
CD化はされたようですが廃盤みたいですね。残念。

アルバム名:『MAX ROACH QUARTET LIVE IN TOKYO Vol.1』
メンバー:
Max Roach(ds)
Cecil Bridgewater(tp)
Billy Harper(ts)
Reggie Workmann(b)

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