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音楽が持つ表情を聴かせるフュージョンです。

今日は新譜紹介です。ウェブマガジン 「com-post」 のクロスレビューで取り上げられているアルバムです。

P176 橋爪亮督グループ『アコースティック・フルード』(2011年rec. tactilesound record)です。メンバーは、橋爪亮督(ts,effects)、市野元彦(g,effects)、織原良次(fretless bass)、橋本学(ds)、佐藤浩一(p)2,3,8です。橋爪のアルバムを聴くのはこれが2枚目。ジャズ喫茶「いーぐる」で数年前に行われていた益子博之さんの「ニューヨーク・ダウンタウンを中心とした新譜紹介」などに参加する中で知った人達です。

最初に一言。「com-post」のレビューは小難しいことも書かれていたので、アルバムの内容まで小難しいのかと勘違いしてしまいました。聴いてみたらこれが非常に聴きやすく心地良いのでビックリ! あんな書き方をされると、読んだだけで敬遠してしまう人がいるのではないかと心配になってしまいました。

タイトルに”フュージョン”と書いたので、フュージョン全盛期を知っている人には違和感があるかもしれませんね。決して悪い意味でのフュージョンではありません。ここでイメージしてもらいたいのは当時フュージョンと言われていた(今でもそうだという人はいるでしょうが)パット・メセニーとかのサウンドです。80年代に最盛期だったジャパニーズ・フュージョンに見られたようなテクニック偏重とかキャッチーなメロディーだけを売りにしていたコーマシャル路線とは一線を隔するフュージョンです。

パット・メセニー、もちろんテクニックもキャッチーなメロディーもありますが、そこには音楽が持つ表情をきちんと聴かせるという姿勢があるように思います。で、そういう音楽に私は惹かれます。このアルバムはそういう意味のフュージョンなのです。アラウンド・フィフティーの私と同世代以下の人達には分かってもらえるサウンドなのではないでしょうか。

1曲目《カレント》。マイルスの《イン・ア・サイレント・ウェイ》と同質のものを感じました。ギターの”ポロロン”とかは似ていますよね。音の肌触りと空間の響きを重視した演奏で、スロー・テンポの自由なリズムが特徴。同傾向の演奏は《十五夜》と《ザ・カラー・オブ・サイレンス》か。《十五夜》はタイトルからも想像できるように和の幽玄な響きを感じます。

前述のパット・メセニー的フュージョンは、《ラスト・ムーン・ニアリー・フル》《カンバセーションズ・ウィズ・ムーア》《ザ・ラスト・デイ・オブ・サマー》《スランバー》です。どれも良い曲でちょっとウェットな感じが日本的。現代的な捻った感じもあり、演奏のクオリティは高いです。サウンドは穏やかですが演奏姿勢に緩さはありません。グループとしての一体感も良い感じです。

上記二つの中間に位置するよう感じが《ジャーニー》。この曲は表情豊かでタイトルどおりの”旅”を感じさせる展開がとても素敵。聴いていると心が旅に誘われます。テンションも高く、この曲なんかはECMレーベルの雰囲気にジャストフィットな気がします。安直な発想ですが、誰かこのグループをマンフレート・アイヒャーに売り込んでみたら面白いんじゃないかと思います。あっ、そんなことが出来る人、多分日本にはいませんよね(笑)。

ラスト曲《ホーム》はタイトルどおり郷愁感溢れる夕暮れの放課後的メロディー。子供の頃、学校の校庭で遊んでいて、「そろそろ家に帰らなきゃ。」という寂しさと暮れなずむ空の色が思い浮かびます。やはり日本人どおし、親近感を感じますね。この曲はポール・モチアンがやっていた演奏にも近いです。

全曲橋爪が作曲。こういう音楽は頭の堅いジャズ・オジサンではなく、感性豊かな特に女性には素直に良さが伝わるのではないかと思いました。女性が好むエスコートする感じがあるように思います。素敵な音楽ですよ。自主制作アルバムとかマイナーな人達とか、そんなことはどうでもよくて、ジャズ初心者にもオススメです。

オーディオ的に音がなかなか良いです。クリアで明るい音はこの人達の音楽を上手く聴かせています。今や自主制作でも音が良いものもありますよね。要は録音エンジニアのセンスの問題。アナログ一発録りなんだそうです。恐れ入りました!

こちらにレコ発ライブの《ザ・ラスト・デイ・オブ・サマー》がUPされています。
カッコイイ演奏です。
http://soundcloud.com/hashizume-ryosuke/the-last-day-of-summer

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コメント

>>あんな書き方をされると、読んだだけで敬遠してしまう人がいるのではないかと心配になってしまいました。

いっきさんのご意見、よ~くわかります。自分もこのクロスレビューの書き手の一人ですが、書いてあることの中身より、「書き方」というんでしょうか、「語り口」が一定の印象を読者の方々に与えてしまうことのコワさ、身に染みております。あまり表立って言われないことですが、ファンの身になってみると、「ジャズ評論」におけるほんとうに大事なことは、実はこのあたりにあるのではないかと昔から考えておりました。

投稿: 後藤雅洋 | 2012年6月14日 (木) 09時06分

後藤さん
こんばんは。
コメントいただきあありがとうございます。


>書いてあることの中身より、「書き方」というんでしょうか、「語り口」が一定の印象を読者の方々に与えてしまうことのコワさ、身に染みております。


私も自分で文章を書いている際にそのあたりは気にしています。だから今回も気になってしまいました。中身を正確に伝えようとしていることは分かるのですが、それをどのくらいの固さの文章で書くのか、なかなか悩ましいところだとは思います。


>あまり表立って言われないことですが、ファンの身になってみると、「ジャズ評論」におけるほんとうに大事なことは、実はこのあたりにあるのではないかと昔から考えておりました。


それを聴いて安心しました。ちゃんと考えて下さっているんですね。評論の読み手(ファン)はかなり敏感に「語り口」の難解/平易に反応していると思います。

投稿: いっき | 2012年6月14日 (木) 20時14分

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