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2012年6月

今日はヒップホップのお話です。

昨年、ジャズ喫茶「いーぐる」 で行われた中山康樹さんの「ジャズ・ヒップホップ学習会」5回に全て参加し、中山さん著「ジャズ・ヒップホップ・マイルス」の出版記念パーティーにも参加し、更に中山さんとは別に行われた「ヒップホップ講座」3回にも参加し、ヒップホップという音楽の魅力に引き込まれてしまった私。

今私なりにヒップホップという音楽の魅力について分かってきたことがあるのでここに書いておきます。あくまでジャズ・リスナーの私なので、ヒップホップ・リスナーからすれば何を今更と思われるかもしれませんし、また勘違いも甚だしいというご意見もあろうかと思います。それでもここに書いておきたいという。困ったものです(笑)。メモ的な意味もあります。

ジャズファンの皆様。m(_ _)m

3点書きます。

1.ブレイクビーツの魅力

ブレイクビーツというのは、ある曲の中の一部分(気持ちが良いリズムブレイク)を取り出して、繰り返し使って曲を作るものです。これはダンスミュージックとしてのヒップホップにおいて、気持ち良いリズムブレイクでいくらでも長く踊りができるという目的から生じたようです。このブレイクビーツという概念、本来なら曲が次々進行していくのが気持ち良さなのに、進行しないことが気持ち良いという発想の転換があります。

私は最初ブレイクビーツという概念に全く気付かずヒップホップを聴いていました。「いーぐる」の「ヒップホップ講座」で何回かそれに触れられてやっと意味が理解できたというありさまです。でもそれに気付いてからは、なるほど確かに面白いということになりました。このように、説明してもらわないと気持ち良さの元が何なのか気付かないことってありますよね。分からなくても気持ち良いのですが、その根拠が分かればよりはっきり気持ち良くなってくるから面白いです。

このブレイクビーツ、どうやって作るかというと、最初は2台のレコードプレーヤーに同じレコードを乗せ、互い違いに繰り返しかけることで作り出していました。DJの技の見せ所です。次の曲はDJであるグランドマスター・フラッシュの技の凄さを示す曲なのですが、1分18秒あたりから出てくる「ダッ、ダッ、ダッ、ダカダッタッタッ、タッタッタッタラッ、ダッ、ダッ、ダッ、ダカダッタッタッ~ラッ」という感じのベースラインが繰り返されえるのがブレイクビーツです。

ヒップホップにおいて当初DJが花形だったというのはこれを聴くとよく理解できます。だって、こんなことが出来るっなんてカッコ良すぎるじゃないですか。このトラックは全てがライブでやっているのではないようですが、これに近いことはできたそうです。最後のほうにラップが出てきます。このように場を盛り上げるのが当初のラップの目的でした。

さて、このブレイクビーツ、後にサンプラーという機械を誤用することで更に飛躍します。次の曲はそのサンプラーを極めたトラックメイカーのセッド・ジーが作ったトラックです。かなり凝ったことをやっています。

私、かなり気に入っています。カッコ良いでしょ。トラックの上で繰り広げられる4人のラッパーによる応酬を盛り上げています。

さて、ここで編集という行為が表に出てきます。レコードのある部分を切り出してサンプラーに記憶させて繰り返しや挿入を行い、時には音をイコライズして、そういう編集行為によって別物に作り変えます。当初私はヒップホップは編集によってトラックを作るのが凄いというように受け取っていたのですが、どうやらそうではなく、編集はあくまで手段であって、ブレイクビーツという発想が凄いのだということに気付きました。ちなみに「ジャズ・ヒップホップ・マイルス」にはブレイクビーツという言葉が出てきません。

ここでちょっと話が飛躍します。マッドリブというトラックメイカー/プロデューサーがいます。非常に凝った編集をする人で、ジャズをサンプリングしていることから、中山康樹さんはジャズつながりでマッドリブにジャズの未来を見ているようです。この人、当初私も評価していたのですが、徐々にそうでもなくなってしまいました。なぜそうでもなくなったのか? それはブレイクビーツとしての気持ち良さが足りないからです。まっ、たぶんに個人的な好みかもしれませんがそういうことです。後藤雅洋さんはこの辺り、すぐに気付かれていたみたいです。さすが! ひょっとしたらマッドリブはブレイクビーツという目的を忘れ、編集が目的になてしまっているのかもしれません??

ヒップホップにおけるブレイクビーツは、モダンジャズにおけるアドリブに匹敵するものだと私は考えます。

2.ラップのメッセージ性が発する魅力

ラップは全てにメッセージ性があるわけではありませんし、ラップが持つメッセージ性がヒップホップの本質だとも思っていませんが、私はメッセージ性があるものにはある種の音楽的強度が備わっているように感じます。反骨精神が音楽に強度を与えているように思うのです。ラップのメッセージの内容は、黒人への人種差別のみでなく、黒人やヒスパニック系を直撃した貧困、つまり経済格差がその主な中身であり、貧困層に蔓延したクラックによる荒廃、その製造卸しに係ったりしたギャングの生活などもメッセージになっています。

メッセージ性を持ったラップという意味では、ハードコア・ヒップホップの最高峰と言われるこの人達に登場していただくしかないでしょう。パブリック・エナミーです。メディアや社会の不正とその正体を見破ろうとするラップの過激さは前代未聞だそうで、これほどまでに政治的なラップはそれまで存在しなかったとのことです。これは彼らのセカンドアルバムにして80年代ヒップホップの最高傑作の一つ。全曲そのままYouTubeにUPされていたのですが、削除されてしまってので1曲UPします。

「ジャズ・ヒップホップ学習会」にゲストとして招かれた大谷能生さんが、このアルバムの冒頭のサイレンの音を聴いて怖かったとかおっしゃっていました。この音楽的強度はメッセージ性と切り離せないように私は感じます。

次の曲は90年代ですが、ハードなビート上でストリートライフを冷徹に語りつくすものとのこと。モブ・ディープです。

この暗さとヤバイ匂い。最高です。「ジャズ・ヒップホップ・マイルス」ではメセージ性(≒批評性)の中身をきちんと伝えていないところがあると思います。ラップは手法ということで、ヒップホップからラップを切り離してしまうことにも無理を感じます。まっ、「ジャズ・ヒップホップ・マイルス」はジャズとヒップホップの定説を読み変えることに意義があるのでそれでも良いのですが、ここから入るとジャズとヒップホップの本質的な部分を見誤る可能性を秘めていることを指摘しておきます。

3.ドクター・ドレーの魅力

ドクター・ドレーはヒップホップのプロデューサーで、ギャングスタ・ラップという90年代のヒップホップを席巻したブームを作った人です。そのブームは結果的にアメリカや世界中でもヒップホップが広く聴かれるブームをもたらしたそうです。つまりヒップホップのメジャー化を語る時には外せない人。特にアルバム『ザ・クロニック』は最重要作。この人のサウンドはGファンクと呼ばれ、私はこのサンドがとても気に入っています。次の曲はそのアルバムの1曲目。

このアルバムについて「ヒップホップはアメリカを変えたか?」という本の中で次のように書かれています。

「このアルバムはブラックスプロイテーション、ドキュメンタリー・フィルム、70年代ホーム・コメディー、ストリートカルチャーなどの要素が複雑に組み込まれており、まさにドクター・ドレーの才能が全開になったギャングスタ・ラップの傑作だった。ドクター・ドレーは洗練されたポップス感覚やユーモアをギャングスタ・ラップにブレンドする、抜群の芸術的センスがあったのだ。」

上の1曲を聴けばそれは分かりますよね。ヒップホップ界にこういう人が現われたことに意味を感ぜずにはいられません。

ということで、ヒップホップという既に長い歴史を持つ音楽の魅力の一部を私なりに簡単に紹介してみました。もっと詳しく知りたい方はヒップホップの本を読んでみることをおススメします。以下の3冊は私が読んで参考にしているものです。上記の文章の中に一部引用しています。

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なかなか渋いです。

新譜紹介です。今回もメセニー&クリポタの『ユニティ・バンド』ではありません。日本のジャズ・ジャーナリズムではあまり取り上げないだろう1枚です。

P191 ギレルモ・クライン/ロス・グアチョス『caRREra』(2011年rec. SUNNYSIDE)です。メンバーは、リチャード・ナント(tp,per)、ベン・モンダー(g)、ミゲル・セノーン(as,fl,vo)、サンドロ・トマシ(tb)、テイラー・ハスキンス(tp)、クリス・チーク(ts,bs)、ジェフ・バラード(ds)、フェルナンド・ウェルゴ(el-b)、ギレルモ・クライン(p,rhodes,vo)、ビル・マケンリー(ts)、ディエゴ・ウルコラ(tp,tb)です。

NYダウンタウン系のサックス陣は強力。ベン・モンダーにジェフ・バラードもいます。このメンバーを見れば聴いてみたくなる方もいるのではないでしょうか。Amazonの「こんな商品も買っています」をつらつら見ていてちょっとした勘違いから買ってしまった1枚です。

「こんな商品も買っています」実は最近かなりお世話になっています。と言うのも私が買うようなCDを買っている人は、この手のものに非常に敏感で、だいたい私が好みそうなものを既に買って(予約して)いるからです。ここに目を通していればチェックすべき新譜が分かってしまいます。その中から好みのものを選んで購入すれば良いのです。少数のマニアの結果が反映されているのだろうと想像できます。

これなんか面白いですよ。ヘンリー・スレッギルのアルバムなのですが、後藤雅洋さんの本に掲載されているアルバムがずらりと、それもかなりマニアックなものが並んでいます。知っている人が見れば思わず笑ってしまうでしょう。このアルバムを買うということは後藤さんのファンなんでしょうね。
「Too Much Sugar for a Dime」
これ、今やレア盤のようになっていますが、良いアルバムなので安い中古CDを見つけて是非聴いてみてほしいです。

そして、今回紹介したアルバムの「こんな商品も買っています」リストには、私がブログで紹介したアルバムがゴロゴロ出てきます。この世界、やっぱり狭いですよね(笑)。

今日も話がそれてしまいました(笑)。このアルバムの話に戻ります。

このグループのアルバムについては以前ブログにUPしています。
どマイナーなアルバムでしょうけどいいです。

今回もほとんど同じ内容のアルバムです。アレンジ面はギル・エバンス~マリア・シュナイダー、サウンド面はキップ・ハンラハンと関連付けてイメージしてもらえれば良いのではないかと思います。全10曲中6曲をクラインが作曲、他にメンバーの曲2曲、南米の曲?1曲、ピアノソナタ1曲、という構成。各曲ではソリストが1名ずつフィーチャされていて、クラインの歌がフィーチャされる曲もあります。

このアルバムのSUNNYSIDEレーベル、ニューヨークの今を伝えるなかなか良いアルバムを出すマニアックなレーベルです。私はギレルモ・クライン、ジョエル・ハリソン、ダニー・マッキャスリン、クリス・ポッター・アンダーグラウンド、ベン・モンダー、レズ・アバシ、ディエゴ・バーバー、スティーブ・カーデナス、アダム・クルーズ、アーメン・ドネリアン、ルシアン・バン、ジョナサン・ブレイク、ハリエット・タブマン(グループ名)などのアルバムを持っています。

興味がある方は聴いてみて下さい。

アルバム名:『caRREra』
メンバー:
RICHARD NANT(tp, perc)
BEN MONDER(g)
MIGUEL ZENON(as, fl, vo)
SANDRO TOMASI(tb)
TAYLOR HASKINS(tp)
CHRIS CHEEK(ts, bs)
JEFF BALLARD(ds)
FERNANDO HUERGO(el-b)
GUILLERMO KLEIN(p, rhodes, vo)
BILL MCHENRY(ts)
DIEGO URCOLA(tp, tb)

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音を楽しむという快感

3年前、「ジャズ批評」2009年3月号(No.148)で後藤雅洋さんと私が「現代ジャズ・シーンの活性化を考える ~ブログ、ウェブ・マガジンの可能性~」というテーマで対談をしました。当時の問題点(今と大して変わりないと思います)を指摘して私の意見を表明してあります。若い人達にもっと新しいジャズを知ってもらいたいということです。まっ、いわゆるジャズの外側のことまでは想定していませんけどね。

基本的に今も私の気持ちに変わりはありません。ただ3年前の意気込みはないですし、最近では諦め気分が湧いてきていることも事実です。それでも少しずつ熱量は減ってはきているものの,持続しているつもりです。このブログも4年半続けているわけですから。鬱陶しいところもあるでしょうけれど、それがジャズ・マニアだということで。
m(_ _)m

そう言えば、ウェブ・マガジン com-post はだいぶ休眠のような状態たったので心配していましたが、やっと目覚めたので喜んでいます。そして対談時の流れからして、私はcom-postが新しいものを取り込んでいくことに特に異論はありません。それによって新たな活力が得られれば良いと思っています。

その対談の中では2008年に行われた「ジャズ・ジャーナリズムの現状を考える」というシンポジウムについて触れています。私も出席してましたからね。その流れで対談があったということでもあります。あれから4年、来月には「音楽批評とは何か」というイベントがあります。定期的にシーンに問題提起されている後藤さんは凄いと思いますよ。後藤さんの他にはいないわけですし。あとは議論だけで終わらないことを切に願っています。

一人のブロガーのささやかな活動、誰かに少しでも何かが届けばそれでいいです。

さてと、出るアルバムは全て買うことにしているミュージシャンが何人かいます。上原ひろみとかメセニーとかクリポタとかスティーブ・リーマンとかです。それぞれがやっているジャズはさまざまです。今回紹介するのもその中の一人である早坂紗知のアルバムです。そうそう、メセニー&クリポタの話題の新譜『ユニティ・バンド』の紹介は後日ということで。

P190 ミンガ『La Maravilla』(2012年rec. NBAGI Record)です。メンバーは、早坂紗知(ss,as)、リオ(bs)、高橋香織(vl)、吉田桂一(p)、永田利樹(b)、大儀見元(per)、コスマス・カピッツア(per)です。

ミンガの基本メンバーは、早坂、吉田、永田、カピッツアの4人。今回は早坂、永田夫妻の息子でバリトン・サックス奏者のリオ、仙波清彦の奥方でバイオリニストの高橋香織、オルケスタ・デ・ラ・ルス結成時のリーダーでパーカッショニストの大儀見元が加わって、いつにも増してパワフルでカラフルな演奏を聴かせてくれます。

2年前にライブを観た時には息子さんはアルゼンチンに行っていると言ってましたが、今はこっちにいるんでしょうかね。アルバムでの親子共演は今回初めてです。バリトン・サックスを痛快に吹いてミンガに新たな息吹を吹き込んでくれています。親子だからと言ってそこに緩さはありません。なんてったって強力な早坂のサックスと共演するわけですから半端は演奏でははじき飛ばされてしまいます。

ジャズを聴く楽しみというのは色々あるわけでして、聴いたことがないものに出会い触発される喜びは特に大きいわけですが、そればかりではなく、気持ち良い調べに心を躍らせたり、躍動するリズムに体を揺らしたり、感情をさらけ出した過激な咆哮に気持ちの高ぶりをおぼえたり、神妙微細な音の交換に心を引き込まれたりなどなど、ジャズというジャンルの中だけでもそれこそ千差万別の楽しみがあります。

ではミンガの音楽とははどういうものなのでしょう? これはもう音を楽しむ快感の一言なのであります。そこに理屈はありません。とにかく音がヴィヴィットに躍動していて、3Dのように飛び出しくるので、それをただ全身で浴びればいいのです。すると心躍り血が騒ぐのです。元気が出ない、気持ちが落ち込んでいる、そんな時はミンガを聴きましょう!元気が出ること間違いなしです。

早坂のサックスが生き生きとパワフルに歌い踊ります。永田のベースが大地の如く支えています。吉田のピアノがキラキラ降り注ぎます。パーカッションが辺りを囲んで囃し立てます。バイオリンが歓びの歌を歌い、バリトン・サックスがうねりのたうち回ります。さあ祝宴だ!飲めや歌え!

こういうジャズが大好きです。応援しています。
7月13日にはミンガが甲府「桜座」にやってきますので観にいきます。

アルバム予告動画があります。タイトル曲《La Maravilla》が流れています。

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誰が何と言おうとやっぱりレコードはイイ!

色々なご意見はあろうかと思いますが、やっぱりレコードはイイのです。今や配信がCDにとって代わろうとする時代です。でもやっぱりレコードから聴こえる音には何とも言えない味があります。大きい、重い、扱いが面倒、再生するレコードプレーヤーもあまり売っていない、などなどレコードには不利な条件が重なっています。でも一度その味に触れれば面倒くささなど吹き飛んでしまいます。

私アラウンド・フィフティー世代は、レコードからCDへの世代交代を社会人になった頃に目の当りにしました。社会に出るという人生の一大転換期にそれを目撃したことに意味があるような気がします。

街にレンタルレコード屋さんがあらわれたのとCDが発売されたのはほとんど同時だったように私は記憶しています。最初は全く別な物として認識していたのですが、このレンタルレコード屋がCDをレンタルするということになり世の中は一変しました。一方では携帯型音楽プレーヤー(ウォークマン)の登場、レンタルレコードをカセットテープにダビングして聴くというライフスタイルの変化も同時進行していました。

CDはそれまでオーディオ側から音質が良く録音時間が長い(ベートーベンの第九が丸々収録できるということを売り文句にしていました。)ことをアピールしていたのですが、レンタルCDが普及することで一挙に取扱いが簡単という面が全面に出て、更にCDプレーヤーは安くてもそれなりの音が出るという再生機器の普及も追い風になり、あれよあれよというまに世の中CDだけになってしまったのです。

何が世の中を変えるのか、ライフスタイルの変化とはどういうことなのか、分かった瞬間でもありました。

今世の中で騒いでいる携帯型音楽プレーヤー(スマホ含む)と音楽配信と違法ダウンロードなどの問題は、80年代に一挙に起きた変化の成れの果てという見方ができます。色々な問題を孕みつつ灰色なままそれなりに30年やってきたことが、とうとうここに来てそれでは済まされなくなったのではないでしょうか。

税と社会保障の一体改革(消費税増税)についても、これまでなあなあでやってきて国の借金という良く見えないものに押し込めてきたものが、ここに来てそれでは済まなくなったということであって、今やそういう時期に来ているのではないかと思います。これまで良い思いをしてきたけれど、そろそろ痛みを受け入れなければいけないのではないかと私は思っています。

なんか話が脱線しまくっていますね。今日の話はそんなことではありませんでした。
「レコードはいいな~。」というのんきな話です(笑)。

先日渋谷の老舗レコード屋さん 「discland JARO」 からレコードの通販リストが届きました。東京の府中に住んでいた頃は時々お店に買いに行っていましたが、山梨に引っ越してからはこの通販を利用させてもらってます。通販歴はもう5年くらい。3、6、9、12月の年4回送られてくるこのリストが私にとっては風物となっています。このリストから1、2枚の手頃なオリジナル盤を探してはこつこつと聴いていくのが楽しみです。

このリストにはオリジナル盤だけが掲載されているわけではなく、格安な日本盤や希少なヨーロッパ盤もたくさん掲載されています。このリストに並ぶレコード群はJAROの店主柴崎さんの愛情がこもったものばかり。眺めているだけでも楽しくなります。

今回は面白いものが見つかりました。テテ・モントリュー『ピアノ・フォー・ヌリア』です。CD化されていますがその半額くらいで日本盤中古レコードが買えました。今は予約注文しただけなので手元にはありませんが届くのが楽しみです。今回入手し損ねたのがジョージ・ケイブルス『ファントム・オブ・ザ・シティ』。既に売れてしまっていました。このアルバムは後藤雅洋さん著「ジャズ・レーベル完全入門」に掲載されています。ドラムがトニー・ウィリアムス。これもかなり探していますがこれまで目にしたことがありませんでした。ゲットできず残念!

ついでに前回3月に入手したオリジナル盤を公開します。

P200 『スタン・ゲッツ・クァルテッツ』。このアルバムは最初OJCのCDを買い、次にOJCのレコードに買い換え、そしてとうとうオリジナル盤を入手してしまいました。モノラル、N.Y.C.、溝アリ、RVG手書き、盤質N-、何と4桁(通販特価)でした。ジャケットの痛みが結構あって裏に書き込みがあるからなのでしょうか。私はそういうのは全然気にしません。意外と人気がないアルバムなのかも?

どんなアルバムなのかって、はいっ、「ジャズ・レーベル完全入門」にご登場願いましょう。後藤さんはこんな風にお書きになっています。

クールな演奏の中に即興のスリルが。初期ゲッツの傑作
はっきりいって、これはジャズ上級者向きのゲッツ・アルバムである。普通の人がジャズ・テナーに抱いているイメージを全部裏切っている。ゴリゴリと豪快に吹きまくるわけでなし、分かりやすく情緒に訴えることもしない。だが、その裏返しとしてクールなサウンド、抑揚を効かせた、しかしとんでもなくキレの良いアドリブの冴え、そういったものに着目してみると、なるほどこれは名演なのである。しかも折り紙つきの。
これからゲッツを聴いてみようという人は、後期ヴァーブ時代からでも、ボサ・ノヴァものでもいいからとにかく1枚購入し、このアルバムの良さが分かるようになることを一つの目標にしつつ、日々ジャズ修行に励んでいただきたい。ということは、まずこいつを手元に置いて、折に触れ自分の進歩の程度を確かめなあかんのです。

後半は後藤さんに説教されてるみたい(笑)。
最後に関西弁が飛び出すところがおちゃめ。
ということでジャズファンの皆様、”これを聴かなあかんのとちゃいまっか?”
安い輸入盤CDで十分です。
私はオリジナル盤を聴いて独り悦に入ってます。

ちなみに寺島靖国さんは「辛口JAZZノート」の中でこんなことを書かれています。

アドリブのメロディーがテーマを凌駕したもの
これが、ぼくにとっての最高のアドリブになる

というタイトルの記事の中で。

テーマらしきものが出て、いつのまにかアドリブ・パートに入り、テーマを越えた旋律が現らわれ、ハッと気がつくと終わっていたというのが理想である。
そんなうまい話があるものかという人は、『スタン・ゲッツ・カルテット』を聴けばいい。なるほどと合点がゆく。「マイ・オールド・フレーム」や「ホワッツ・ニュー」のメロディ・センスを聴いていただきたい。何人の人がその素晴らしさを理解するだろう。いやっ、わからなくてもいい。そう簡単にわかってもらっては困るのがこのレコードなのだ。

興味深いのは最後のところ。後藤さんと寺島さん、言い回しは違うけれど同じことをおっしゃっていると思います。全く反するお2人のようですが、実はこういう一致が他にもあります。ジャズが分かるってことの基本はこの辺りだと思いますよ。

私はまさにこの文章を読んでこのアルバムを購入しました。そしてなるほどと合点がいったのでした。そしてこの本の「レコード屋巡り」のところにある”一枚一枚に店主の愛情が染み込んだ「ジャロ」”を、この本の発売当時ではなく、だいぶ経ってお金がそれなりに稼げるようになってから読んで、オリジナル盤を買ってみる気になったのです。最初にお店に行ったときは恐る恐るでした。「トニイ・レコード」「コレクターズ」にも行きました。

「JARO」柴崎さんと「いーぐる」後藤さん、ついでに「Meg」寺島さんにはお世話になりっぱなしな私です。この方達に出会わなければ今の私のジャズ・ライフはあり得ません。

最後にもう一度、「discland JARO」 ホームページから買うこともできます。
東京にいるならお店に行って買うべし!
狭いお店なのですがそこはもう宝の山です。

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空を眺めるのは気持ちが良い。

なにかと世知辛い今日この頃。
たまには空でも眺めて気分転換してみては?
クリックして拡大して見てね。

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千変万化する自然。
少しは気分が晴れましたか?

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面白い動画がありました。

kimtさんから面白い動画を教えていただきました。
リンダ・オーがクリス・ポッターとカート・ローゼンウィンケルとやっている動画です。何とクリポタがピアノを弾いていて、カートがドラムを叩いているんです。それがこれ。携帯で撮っているんでしょうかね?

何なんでしょうね。この人達、ピアノもドラムも上手過ぎでしょ!オーソドックスなバップは難なくこなせて、その上で新しいことをやっているという。ニューヨークってこういうジャズマンがしのぎを削っているから凄いのでしょう。いや~っ、怖い世界です。

日本のジャズファンがどうのこうのとか、ジャズ批評がうんぬんとか言っていたとしても、結局は彼らや彼女らのようなジャズマンやジャズウーマンがジャズを継承して、少しずつでもジャズを進めていってくれるということなのでしょう。私はそれを見守っていけたらいいのかなと思います。

さて、リンダ・オーの動画もありました。まずはインタビュー。

前記事でビジュアルが地味なんて書いたけれど、ファッションとルックスはクラシックの人みたいですね。ジャズっぽくないのが逆にいい感じかもしれません。
こちらはモンク・コンペのセミ・ファイナル。

私的には腰のフリ具合がかなりカワイイ!(笑) ださい髪飾りがまたいい(笑)。

そして今年の1月のライブ。

ニューヨークいいな~っ、こういうのが観られて。
こういうリアルタイムのジャズを知らない日本人達(涙)。
坂道のアポロンね~っ、所詮アニメでしょ(笑)。

いつものことですがYouTube恐るべし!
あ~あっ、また愚痴書いちゃったし(笑)。

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武骨なベースが素晴らしいリンダ・オー

新譜紹介です。我々ジャズブロガーはこういうアルバムを紹介することに意義があると思います。ジャーナリズムがフォローしないこういうのを地道に紹介していきたいです。

P189 リンダ・オー『イニシャル・ヒア』(2011年rec. Greenleaf Music)です。メンバーは、リンダ・オー(b,el-b,bassoon)、ダイナ・ステフェンス(ts)、フェビアン・アルマザン(p,rhodes,melodica)、ルディ・ロイストン(ds)、イェン・シュー(vo)、クリスチャン・ハウズ(strings)です。オーの前作が気にいっていたので今回もチェック。

その前作はこちら。地味で渋い1枚。こういうのを推薦するのは難しい。

ベースを鳴らすということに関しては、エスペランサよりオーのぼうが上だと思います。こんな”漢”なベースを弾く女性がいるというんだから驚きです。なのに見た目は小柄なアジア女性。これは上原ひろみに似た感触です。アジアン・パワー恐るべし! ビジュアル的には地味な感じなので何とかしてあげたいです。ヘアースタイルやメークでもっと魅力的になれると思うのです。そうすればもっと注目されると思います。まっ、本人は望まないでしょうけれど。

まずは何と言っても”ゴリンゴリン”鳴るベースが魅力。軟弱男子ベーシストにオーの爪の垢を煎じて飲ませてあげたいくらいです(笑)。《ミスター・M》という曲があり、ライナーノーツには「チャールス・ミンガスのために」なんて書いてありました。そうですよね。オーのベースがミンガスを範としているのは分かります。ベースをこれだけガッツリ聴かせてくれる人、なかなかいません。

さらに今回はフォデラのエレクトリック・ベースも弾いていて、こちらはアンソニー・ジャクソンみたいです。アーティスティックにエレベを弾くあたりにセンスの良さを感じます。アンソニー好きな私としてはオーにますます惚れてしまいました。いるんですよね。知名度は全然なくても凄い人が、アメリカには。

このアルバムは2曲を除いてオーが全て作曲しています。他人の曲の一つがレナード・バーンスタイン/イーゴリ・ストラヴィンスキーの《サムシングス・カミング/Les Cinq Doigts》。2曲のつなぎ目が私にはよく分からないのですが、こういう現代音楽が他の曲と違和感なく4ビートで演奏されてしまうのが現代バップなのでしょう。オーの高速ウォーキング・ベースに乗って、ステフェンスのテナーとアルマザンのピアノがアグレッシブなソロを繰り広げるのは快感です。

もう一つの他人の曲はデューク・エリントンの《カム・サンデイ》。ベース・ソロの深くゆったりしたイントロに始まり、カルテットでの自由な展開をはさんで落ち着いたベース・ソロ、ステフェンスの深入りしすぎない情感のテナー・ソロと、この曲の美しさを生かした演奏が続きます。エリントン音楽の”美学”が分かってらっしゃいますね。

1曲目《アルティメート・パーソン》のいかにも現代ニューヨーク的な変拍子の複雑リズムと浮遊感あるメロディーから始まり、色々な曲があります。テナー、ピアノ、ベース、ドラムのカルテット演奏が基本。2曲はエレピとエレベ、2曲はエレピとベースの組み合わせでやっています。それらの組み合わせは曲のイメージを上手く生かすものです。

真ん中5曲目《チケット・ザン・ウォーター》のみシューのボーカルをフィーチャ。シューは中国語(マンダリン/官話)で歌っています。オーが作詞してシューが翻訳。オーはバスーンも吹いていてベースは弓弾きと室内楽風仕上がり。これなんかはエスペランサの『チェンバー・ミュージック・ソサイエティ』を意識しているのかもしれませんね。この曲だけが浮いているかもしれませんが、気分転換になっていて私は良いと思います。オーもなかなかの才女です。

アーティスティックなエレベが映える寂しげでロマンチックな《リトル・ハウス》、”ジャラン”と鳴らすようにベースを弾くのが面白い《デザート・アイランド・ドリーム》、弓弾きで映画のサウンドトラックみたに始まりながら、コーラスなどを交えだんだんスピリチュアルへと変化する《ディーパー・ザン・サッド》など、落ち着いて味のあるテナーを吹くステフェンス、現代的知的センスを醸すアルマザンのピアノ/エレピ、複雑なリズムを難なくこなすロイストンのドラムが組んで、オーのジャズをしっかり表現しています。

どちらかと言えば地味なアルバムですが、ジャズが分かる人は是非。
このアルバムの良さが分かってもらえると思います。

アルバム名:『Initial Here』
メンバー:
Linda Oh(ac-b, el-b, bassoon)
Dayna Stephens(ts)
Fabian Almazan(p, rhodes, melodica)
Rudy Royston(ds)
ゲスト:
Jen Shyu(vo)(5)
Christian Howes(strings)(6)

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「ジャズ・オブ・パラダイス」完全制覇をめざして!

私のジャズ・バイブルの中の1冊『ジャズ・オブ・パラダイス』に掲載されたアルバムの完全蒐集をめざしています。はっきり目標にしてからもう10年くらい経ちます。焦らずのんびりやっています。

P188

インスト・アルバムは残り10枚を切りました。ここに残りのアルバムを一挙公開。

1.ドン・チェリー『オーガニック・ミュージック・ソサイエティ』
これはかなりのレア盤らしいですね。CD再発されたことを最近知ったので、Amazonで早速注文しました。ただいま海外から飛ばしています。

2.『ザ・コンプリート・レスター・ヤング』
これはレコードを入手しようと思っていたのですが、というのも60年代以前はできるだけレコードで持っていたいからです。これはもうCDでいいか~っ、Amazonで”ポチッ”とやってしまいましょうか?

3.セシル・テイラー『ニュー・ポート・ジャズ・フェスティバル’57』
これもレコードを探していたけれど、もうCDにしちゃおうかな~。

4.エロール・ガーナー『コンパクト・ジャズ』
これもレコードを探していたけれど、もうCDにしちゃおうかな~。

5.ダラー・ブランド『オートバイオグラフィ』
これはたぶんレコードを探すしかなくて、かなりの難関でしょう。
tommyさんが再発CDを教えて下さったのでAmzonで早速注文しました。

6.チャールス・ミンガス『ミュージック・リトゥン・フォー・モンタレー1965』
これもレコードを探すしかなさそうで難関。東京に住んでいて、ディスクユニオンあたりに足繁く通っていればみつかるかもしれませんが、年何回か上京する程度の今の状況では入手はかなり難しそうです。
tahsaanさんが再発CDを教えて下さったのでこれもAmazonで早速注文しまいた。

7.MJQ『たそがれのベニス』
これは何度も中古レコードに遭遇しているのになぜか未入手。今度出会ったら迷わずゲットします。

8.『ニューヨーク・コンテンポラリー・ファイブ Vol.1』
これはレコードを探していますが出会えていません。もう少しレコードに拘りたい。

9.『ザ・ジャズ・メッセンジャーズ・フィーチャチング・W・マルサリス’80 Vol.1』
これは同内容別タイトルのCDがあるようなのでその気になればゲット可能なはず。

そしてヴォーカルが残り7枚。レコードを探していることとヴォーカルにはそれほど力を入れていないのでこの体たらくです。

さて、完全蒐集できるでしょうか? できるとしたらあと何年かかるでしょうか?

*不備がありました。もう一度チェックしたら以下の2枚がまだなかったのです。

1.ギル・エバンス『ジャズ・フェスティバル-ギル・エバンス&スティング』
海賊盤だったのでフォロー・リストに入れるのを忘れていました。これ、今更見つかる可能性はあるのでしょうか?

2.チャーリー・ヘイデン『アズ・ロング・アズ・ゼアズ・ミュージック』
今持っているのは「ステレオ・ラボラトリー・シリースVOL.34」。オーディオ・マニア向けのレコードです。カッティング・レベルを高くとっているために収録曲は4曲のみ。つまり2曲足りないのです。やっぱりこれではまずいでしょう。CDは廃盤みたいですね。

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音楽が持つ表情を聴かせるフュージョンです。

今日は新譜紹介です。ウェブマガジン 「com-post」 のクロスレビューで取り上げられているアルバムです。

P176 橋爪亮督グループ『アコースティック・フルード』(2011年rec. tactilesound record)です。メンバーは、橋爪亮督(ts,effects)、市野元彦(g,effects)、織原良次(fretless bass)、橋本学(ds)、佐藤浩一(p)2,3,8です。橋爪のアルバムを聴くのはこれが2枚目。ジャズ喫茶「いーぐる」で数年前に行われていた益子博之さんの「ニューヨーク・ダウンタウンを中心とした新譜紹介」などに参加する中で知った人達です。

最初に一言。「com-post」のレビューは小難しいことも書かれていたので、アルバムの内容まで小難しいのかと勘違いしてしまいました。聴いてみたらこれが非常に聴きやすく心地良いのでビックリ! あんな書き方をされると、読んだだけで敬遠してしまう人がいるのではないかと心配になってしまいました。

タイトルに”フュージョン”と書いたので、フュージョン全盛期を知っている人には違和感があるかもしれませんね。決して悪い意味でのフュージョンではありません。ここでイメージしてもらいたいのは当時フュージョンと言われていた(今でもそうだという人はいるでしょうが)パット・メセニーとかのサウンドです。80年代に最盛期だったジャパニーズ・フュージョンに見られたようなテクニック偏重とかキャッチーなメロディーだけを売りにしていたコーマシャル路線とは一線を隔するフュージョンです。

パット・メセニー、もちろんテクニックもキャッチーなメロディーもありますが、そこには音楽が持つ表情をきちんと聴かせるという姿勢があるように思います。で、そういう音楽に私は惹かれます。このアルバムはそういう意味のフュージョンなのです。アラウンド・フィフティーの私と同世代以下の人達には分かってもらえるサウンドなのではないでしょうか。

1曲目《カレント》。マイルスの《イン・ア・サイレント・ウェイ》と同質のものを感じました。ギターの”ポロロン”とかは似ていますよね。音の肌触りと空間の響きを重視した演奏で、スロー・テンポの自由なリズムが特徴。同傾向の演奏は《十五夜》と《ザ・カラー・オブ・サイレンス》か。《十五夜》はタイトルからも想像できるように和の幽玄な響きを感じます。

前述のパット・メセニー的フュージョンは、《ラスト・ムーン・ニアリー・フル》《カンバセーションズ・ウィズ・ムーア》《ザ・ラスト・デイ・オブ・サマー》《スランバー》です。どれも良い曲でちょっとウェットな感じが日本的。現代的な捻った感じもあり、演奏のクオリティは高いです。サウンドは穏やかですが演奏姿勢に緩さはありません。グループとしての一体感も良い感じです。

上記二つの中間に位置するよう感じが《ジャーニー》。この曲は表情豊かでタイトルどおりの”旅”を感じさせる展開がとても素敵。聴いていると心が旅に誘われます。テンションも高く、この曲なんかはECMレーベルの雰囲気にジャストフィットな気がします。安直な発想ですが、誰かこのグループをマンフレート・アイヒャーに売り込んでみたら面白いんじゃないかと思います。あっ、そんなことが出来る人、多分日本にはいませんよね(笑)。

ラスト曲《ホーム》はタイトルどおり郷愁感溢れる夕暮れの放課後的メロディー。子供の頃、学校の校庭で遊んでいて、「そろそろ家に帰らなきゃ。」という寂しさと暮れなずむ空の色が思い浮かびます。やはり日本人どおし、親近感を感じますね。この曲はポール・モチアンがやっていた演奏にも近いです。

全曲橋爪が作曲。こういう音楽は頭の堅いジャズ・オジサンではなく、感性豊かな特に女性には素直に良さが伝わるのではないかと思いました。女性が好むエスコートする感じがあるように思います。素敵な音楽ですよ。自主制作アルバムとかマイナーな人達とか、そんなことはどうでもよくて、ジャズ初心者にもオススメです。

オーディオ的に音がなかなか良いです。クリアで明るい音はこの人達の音楽を上手く聴かせています。今や自主制作でも音が良いものもありますよね。要は録音エンジニアのセンスの問題。アナログ一発録りなんだそうです。恐れ入りました!

こちらにレコ発ライブの《ザ・ラスト・デイ・オブ・サマー》がUPされています。
カッコイイ演奏です。
http://soundcloud.com/hashizume-ryosuke/the-last-day-of-summer

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是安則克 追悼LIVEへ行ってきました。

昨日は 「桜座」 の是安則克さんの追悼LIVEへ行ってきました。ベーシストの是安さんは去年56歳で急逝されました。心筋梗塞らしいです。私は全然知らなかったのですが、昨年桜座でライブをした5日後に亡くなられたのだそうです。まだお若いのに残念です。是安さんが亡くなられたことについて私が大好きなサックス奏者早坂紗知さんがブログに書かれているのでリンクを貼ります。

http://blog.goo.ne.jp/minga226/e/eaa247ddecc117922cdea0991dc3e042

私が持っているアルバムで是安さんが演奏しているのはサックス奏者林栄一さんの『MAZURU』です。《サークル》1曲だけですが、是安さんは腰の据わったウォーキング・ベースを弾いています。アルト・サックス・トリオなのでリー・コニッツの『モーション』~オーネット・コールマンの『アット・ザ・ゴールデン・サークル』みたいでカッコいいです。

P185 今回このライブに行ったのは林栄一さんのアルトと加藤崇之さんのギターが聴きたかったからです。このお2人の演奏、一度聴けば分かりますが凄いです。バンドのリーダーは 宅shommy朱美 さんです。shoomyさんは知らなかったのでネット検索したらYouTubeにいくつか動画あり、フリー・ジャズをやっていたのでてっきりジャズの人かと思っていたのですが、ライブを聴いたらどちらかと言えばシンガー・ソング・ライターでした。中央線沿線が似合いそうなアングラ系ジャジーなフィーリングに溢れた演奏と歌です。

shommyバンドのメンバーは、宅shommy朱美(vo,p)、加藤崇之(g)、樋口昌之(ds)とベースの是安さん。この4人で昨年桜座でライブをしました。今回は追悼バンドということで、ゲストとして松風紘一(ts,fl)、林栄一(as)、米木康志(b)、吉野弘志(b)が参加しています。

いつもより開演時間が早く18:30だったので間違わないように早めに桜座へ。中に入るとドリンクスペースにミュージシャンの皆さんがチラホラ、shoomyさんがテーブルに座って楽譜を書いていました。後で分かったのですが、演奏者の皆さんの編曲をしていたようです。そのせいなのかどうなのか、開演は30分遅れました。この辺りがジャジーですよね(笑)。

1stセット。全員登場して《Dejavu》から。フリー・ジャズです。shoomyさんの歌なのかスキャットなのか?混沌とした世界がアバンギャルドです。サックスの自由な咆哮、異音を放つギター、地を這うベースの重奏、タイトなドラム。カッコいいサウンドです。私はこういうカオス系が大好き。演奏が終了するとshoomyさんのMC。故是安さんの奥さんも来ていて紹介されました。是安さんがデザインした?Tシャツが飾られて演奏を見守る感じに。合掌。

ここでshoomyさんの指示でサックスが松風さん、ベースが米木さんに。《ロブノール》。日本のディープなジャジー・フォークという感じのバラード。ギターの加藤さんとドラムの樋口さんはこのバンドのオリジナル・メンバーなので楽譜は見ませんが、松風さんと米木さんは楽譜を見ながらの演奏。テナー・ソロはほとんど書かれたもののようでした。加藤さんはエレクトリック・ギターとエフェクター群を使いサウンドエフェクトで演奏を装飾し、ギター・ソロになればディープな演奏するというこのバンドの肝なのでした。とにかく加藤さんはカッコ良すぎ! 樋口さんは珍しいサウスポー・ドラマー。セッティングも不通と逆です。派手さはないけれど落ち着いたグルーヴを生み出していました。

次はサックスが林さんでベースが吉野さん。曲名がよく聞き取れませんでしたが、ボサノバ風の歌と曲です。林さんと吉野さんはやっぱり楽譜を見て演奏。林さんのアルト・ソロ。音が素晴らしいです。アルトの鳴りが良く抜けるようなブライトな音はその音だけで快感。書かれたものだとしてもそこに込められた情感は人の心を打ちます。吉野さんのベース・ソロはオーソドックスでした。

次は松風さんのサックスと米木さんのベース。《インファント・アイズ》。最初に曲紹介がなかったので、聴いたことはあるんだけれど曲名が浮かんでこず、「いい曲なんだよな~これ。何だっけ。」と、のどに小骨がつっかかったような感じで聴いていました。曲後にタイトルを聴いて「それそれ。」となりました。ウェイン・ショーターのこの曲を取り上げてくれたことで一挙に好感度UP。shoomyさん、さすがでございまする。松風さんのフルート・ソロ、加藤さんのギター・ソロ、この曲の持つミステリアスでアンニュイなイメージが良く出ていました。

5曲目は再び全員で。タイトルはよく分かりませんでした。4ビート(ここまで4ビートなし)でジャジーな曲。shoomyさんのピアノのタッチはクッキリ。ピアノも良く鳴っています。林さんのアルト・ソロ、松風さんのフルート・ソロ、それぞれ良かったです。松風さんは曲想にあった好演奏なんですが林さんほど個性がなく職人的。そこへ行くと林さんは職人でありつつアーティストです。shoomyさんのスキャット風な歌が印象的でした。ベースは一人だけで演奏したり一緒に演奏したり、楽譜に書かれているみたいでした。米木さんは職人的ジャズベーシストでピチカートに専念。吉野さんはより自由でアーティスティックなベーシストで弓弾きもしていました。

6曲目は最初と同様フリー・ジャズでした。曲が終わるとメンバーからshoomyさんに「休憩しないの。」と声が(笑)。もう1曲やって休憩とのことで、松風さんのテナーとのデュオから静かに情感豊かな演奏が始まり、途中からベースとドラムが入ってその流れのまま終了。ここまで約1時間半。普通より長めの1stセットでした。

ゲスト・メンバーの皆さん、たぶんリハーサルはあまりしていないと思うのですが、楽譜を見ながらでも全く不安のない演奏ぶり。要するにプロフェッショナルということです。マスメディアにはあまり乗らないけれど、こういうジャズ・マンがたくさんいて日本のジャズを支えているのです。

P186

15分ほどの休憩をはさんで2ndセット。1曲目は全員で面白い歌詞の《まわる まわる 目がまわる》フリー・ジャズ、加藤さんのギターが尖がりまくってました。林さんのフリーキーな吹奏はさすがの一言。2曲目は林さん米木さんとでボサノバ調。3曲目は松風さんと吉野さんとでボサノバ風《サウダージ》。4曲目は全員でバラードの《泣いて笑って》。加藤さんの泣きのギターが素敵でした。5曲目は松風さんと米木さんとでフォーク調歌謡曲を弾き語りから。6曲目は林さん吉野さんとで《天国への最後の階段~Last Steps To Heaven~》。弾き語りで始まりドラム・レス。林さんのアルト・ソロ、吉野さんの弓弾きも含めたベース・ソロが素敵でした。ラストは全員で《サンクチュアリ~船出~》。

ここまでで22:00を少々過ぎていたので(桜座は原則22時以降音が出せない)、アンコールはどうなるのかと思いました。松風さんが「2ndセットは全曲がアンコールのつもりです。」と言ったので終わりかと思ったら、shoomyさんが1曲やるということで、ピアノ弾き語りで《オセアナ》(と言ったと思います)。始まる前に照明が一旦明るくなったので、このアンコールは予定外だったのでしょう。静かなエンディングとなりました。

全部がジャズというわけではありませんでしたが濃ゆ~い時間を過ごせました。
とても楽しかったです。

ライブ終了後、是安さんが亡くなる5日前昨年9月18日の桜座ライブの模様を収めたDVD&CD2枚組が発売されてたとのことで買ってきました。
是安さんのご冥福をお祈りいたします。

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ルドレシュ・マハンサッパじゃっ!

ルドレシュ・マハンサッパ、この変な名前は時々私のブログに登場してきます。私が注目しているアルト・サックス奏者だからです。現代ニューヨーク、ダウンタウンのジャズマンです。聴く人がいようがいまいが、ジャズが正統継承されているのは何と言ってもここなんだから私としてはフォローしていくだけです。

結局ジャズを支えるのはコアなマイノリティ(少数派)であってマジョリティ(多数派)ではないのです。どうしてそれが分からないのでしょうか? マジョリティ/マスなんて所詮流行しか作りませんし、そんなものはすぐに廃れてしまいます。と、思う今日この頃。戯言はこのくらにしておきます(笑)。

P184 MSG『テイスティ!』(2006年rec. PLUS LOIN MUSIC)です。メンバーは、ルドレシュ・マハンサッパ(as)、チャンダー・サードジョー(ds)、ロナン・グイルフォイル(acoustic bass guitar)です。MSGというのはメンバーの姓の頭文字を並べたもの。2006年録音2008,9年ミックスで2010年発売です。日本では昨年発売。気になりながら買いそびれていた1枚なのですが、クリポタのライブを観に上京した時にディスクユニオンで中古を見つけたので購入。

インド系アメリカ人のマハンサッパ(ジャケット写真一番奥)、黒人かと思ったらインドネシア出身のサードジョー(ジャケット写真真ん中)、白人(ユダヤ系?)グイルフォイル(ジャケット写真一番手前)で構成されるトリオ。黒人がいないところが今時。”美味しい!”というタイトルにかけ、食堂のテーブルに並んで座ったジャケット写真がユニークです。

冒頭にも書きましたが現代ニューヨークの人達で、M-BASEの流れを汲むジャズをやっています。従来にない新しいものをということで色々思考してきたあげくの難解メロディーと複雑奇怪な変拍子ファンクがその特色と言ってしまってもよいかもしれません。

新しいものや分からないことに拒絶反応を示す人達には、ミュージシャンの独りよがりとして受け入れ難いものがあるようです。その筆頭が寺島靖国さんだと私は理解しています。まあ、そんな意見は放っておきますが(笑)。

このサックス・トリオ難解そうでいて実はあまりそうでもないのです。まあこの手のやつをたくさん聴いてきた私なのであまりあてにならないかもしれませんが・・・。なぜそれほど難解ではないのか? まずメロディーが無機的でないです。これはもうマハンサッパのインド系ならではのメロディーセンスによるところ大なのでしょうね。インドメロディーの好き嫌いはあるにしても、哀愁が漂うメロディーは馴染みやすいです。

そしてこれも私の個人的な感覚(たぶん世代的なものもある)なのかもしれませんが、変拍子とはいえファンキーなグルーヴがあるところです。こういうグルーヴって腰に来てとても気持ちが良いのです。8ビート系なので大まかに括ればハード・フュージョンとしてとらえることができ、そのテクニカルなリズムはテクニカル・フュージョン好きにも訴えかかえるものはあるはずです。

演奏のテンションが極端に張りつめていないところも○。どことなく大らかで付け入る隙を与えてくれているところが親しみやすさにつながるわけです。そんなわけでサウンドとしては結構馴染めます。

聴きどころは何といっても東洋エスニック・パワーで独特のメロディーを”グリグリ”とねじ込んでくるマハンサッパのアルト・サックス。パワフルでテクニカルな吹奏というのはジャズの醍醐味です。そして複雑な変拍子と多用されるリズム・チェンジをものともせず、弾力あるパワフル・グルーヴを叩き出すサードジョーのドラミングはやはり快感でしょう。

さて、もう一人のメンバー、グイルフォイルのベースはというと。センスの良い音やリズム感覚を持っているとは思うのですが音がちょっと弱い。これは彼が使っているアコースティック・ベース・ギターのせいだと思います。ギターのでっかいやつです。緩めの響きが独特のニュアンスを出しているんでしょうけれど私はダメ。”ギリギリ”締まったアップライト・ベースにするか、緩く低いエレクトリック・ベースにするか、はっきりせい!(笑)

曲はマハンサッパが5曲、グリフォイルが3曲提供して全8曲。2人の作曲ですが一貫性はあります。どの曲も途中でリズムチェンジしながら表情を変え、ソロとテーマが有機的につながる構成。途中4ビートが出てくる曲が2曲あり、良いアクセントになっています。アドリブが主体ですがアドリブ一発というだけではないところが現代的です。

「皆さん聴いて下さい。」とは言いません。ジャズを支えるコアな方に薦めます。

アルバム名:『Tasty!』
メンバー:
Rudresh Mahanthappa(sax)
Chander Sardjoe(ds)
Ronan Guilfoyle(b)

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ジャック・ディジョネットが活躍するピアノ・トリオ

昨日はサッカーワールドカップのアジア最終予選でした。
ヨルダンに圧勝!本田凄いね。もちろん香川も凄い。
他にもタレント揃い。今の日本代表はこれまでで最強な感じです。

続けてジャズの新譜紹介です。これも発売されてからだいぶ経ちます。

P183_2 ルイス・ペルドモ『ユニヴァーサル・マインド』(2009年rec. BKM music)です。メンバーは、ルイス・ペルドモ(p)、ドリュー・グレス(b)、ジャック・ディジョネット(ds)です。録音は2009年で発売は2010年ですが、輸入されたのは今年。

ペルドモのピアノはアルト・サックス奏者ミゲル・セノーンのアルバムで聴いて気に入っていました。プエルト・リコ出身でラテン風味の哀愁を明るく聴かせるセノーンにぴったりのピアノを弾いていたからです。そのピアノはほのかに甘く爽やかな哀愁漂うフレージングを聴かせる美メロピアノ。ペルドモはベネズエラ生まれの黒人です。セノーンとペルドモは中南米つながりで相性が良いのかもしれません。

そんなペルドモは何枚かピアノ・トリオのアルバムを出しているのですが、これまで買いそびれていました。今回はメンバーを見て購入を決定。ディジョネットがいるからです。最近のディジョネットのアルバム『サウンド・トラヴェルズ』はドラムがあまり目立たなかったので消化不良気味でした。それはそれで違う意図があると感じたのでアルバム自体は否定するのものではありません。で、今回はディジョネットのドラムがより多く聴けるのではないかと期待したわけです。

期待は見事に的中。ディジョネットは大活躍です。ペルドモが書いたライナーノーツの冒頭にはペルドモがディジョネットのファンだと書かれています。どうやらペルドモの希望でディジョネットとの共演がかなったアルバムということのようです。ディジョネットはファンであるペルドモの期待に応えてとても楽しそうに溌剌とした感じでドラムを叩いています。ディジョネットは録音時67歳、歳をとってもまだまだ衰えませんね。

曲は、ジョー・ヘンダーソンとミリアム・サリバンの曲が1曲ずつ、ペルドモの曲が6曲、ディジョネットの曲が1曲、ペルドモとディジョネットの共作2曲です。というわけで曲構成からもディジョネットへの敬愛は分かります。

1曲目はジョー・ヘンダーソンの《テトラゴン》。しっかりしたタッチの現代王道バップ・ピアノです。最初のほうで”哀愁漂う美メロピアノ”と書きましたが、マイナー・ピアノ・トリオのそれではなく、しっかりしたテクニックに支えられた逞しいピアノを弾いています。音はとても粒立ち良くクリア。気持ちの良いピアノです。ドリュー・グレスのベースがガッツある骨太の確固としたグルーヴで気持ち良いことこの上なし。で、ディジョネットのパルシブなドラミングが炸裂。ベース・ソロ、ドラムとのバース交換もあり痛快な演奏。

2曲目はペルドモの《Lagnau》。こちらは一転して美メロのミディアム・テンポ。曲が持つ情感を表情豊かに奏でていきます。最初の方のベース・ソロもとても情感豊かで曲の中にぐいぐいと気持ちを引き込んでくれます。伴奏に回っても情感を維持させる好サポートぶり。グレスのベースもこのアルバムの聴きどころであることに間違いはありません。ディジョネットは繊細に叩いています。こういう繊細なドラミングも魅力的ですね。

3曲目もペルドモの曲で《リベリアス・コンテンプレイション》。アップテンポの曲でこちらはディジョネットとのバース交換から弾けてますね。ピアノ・ソロに入ると淀みなくテキパキとフレーズが繰り出されていきます。フレーズが疾走する感じはチック・コリアか?ペルドモは特別個性的という感じではないのですが良い感じです。ディジョネットとグレスを堂々とリードしているところはなかなかのものです。

4曲目と6曲目はディジョネットとのデュオで共同名義の曲。この2人、非常にマッチングが良いです。最初の曲はメロディーがしっかりあるので、即興というよりはしっかり作ってあるのかもしれません。ちょっとエスニック漂う確固とした美しい世界が繰り広げられます。次の曲は即興だと思われます。集中度高い演奏が高レベルでぶつかっています。

7曲目は懐かしい曲です。ディジョネットの《ティン・カン・アレイ》。ジャック・ディジョネッツ・スペシャル・エディションの2枚目のアルバムのタイトル曲ですね。ちょっとユーモラスな感じを含むオープンンな曲にとてもマッチしたピアノを弾いています。最後のほうではフリーに突入。ペルドモのアグレッシブなピアノが弾けます。

クリーンで溌剌とした良いピアノ・トリオだと思います。ディジョネットが好きなら買い!

アルバム名:『Universal Mind』
メンバー:
LUIS PERDOMO(p)
DREW GRESS(b)
JACK DEJOHNETTE(ds)

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フランスの腕利き達を聴く。

今日はジャズの新譜紹介です。新譜とは言え出てからだいぶ経ちます。

P182 ロマーノ、スクラヴィス、テキシェの『3+3』(2011年rec. LABEL BLEW)です。メンバーは、アルド・ロマーノ(ds)、ルイ・スクラヴィス(cl,sax)、アンリ・テキシェ(b)、エンリコ・ラヴァ(tp)、グエン・レ(g)、ボヤン・Z(p,el-p)です。フランスの重鎮、ロマーノ、スクラヴィス、テキシェにゲストの3人、イタリア人ラヴァ、ベトナム系フランス人のレ、セルビア出身でパリ在住のZが濃いジャズを聴かせてくれる1枚。

ロマノ、スクラヴィス、テキシェはトリオを組んでアルバムを出しています。そこにラヴァ、レ、Zという個性派にしてしっかりジャズを聴かせるメンツが絡みます。全曲を6人でやっているわけではなく、3人を主体に曲によってゲスト3人が出入り。曲はロマーノが2曲、スクラヴィスが2曲、テキシェが2曲、3人の合作が2曲、ラヴァ、レ、Zが1曲ずつで全11曲と、なかなかバランス良い構成になっています。

1曲目は6人が参加して顔見世。静かに自由度高いイントロから入るスクラヴィスのプログレ調の曲。ゲスト陣がラヴァ、Z、レの順でソロを披露します。単なる4ビートではなくこういう曲をやるのがこの人達らしいところです。

2曲目は打って変わってラヴァ、スクラビス、テキシェ、ロマノのピアノレス・カルテットでオーネット・コールマン風フリー・ジャズ。ラヴァの曲です。テーマ合奏後テキシェのベースとロマーノのドラムが大暴れ、続くラヴァとスクラヴィスの掛け合いと、それぞれかなりのカッコ良さです。

3曲目はレらしいエスニック曲。ウェザー・リポートの《ブラック・マーケット》のような明るく緩めな感じの響きが心地よいです。奔放なバス・クラリネット・ソロ、エスニックかつロックなギター・ソロはこの人ならではの節回しです。

4曲目は3人の合作ですが即興でしょう。アグレッシブなソプラノ・サックス、”ゴリゴリ”と凄みを効かせる凶暴ベース、暴れ回るドラム。ジャスト2分の快感。

5曲目はクラシカルなクラリネットの無伴奏ソロから入るZの曲。マイナー美メロのワルツです。カルテットで演奏。静かなテーマーの演奏がしばらく続き、ベース・ソロからテンポ・アップして4ビートへ。Zの軽快でいて太いタッチのピアノはいかにもジャズな雰囲気を醸し出します。なかなか凝った構成がZの作編曲らしいです。

6曲目はまた3人の合作でフリー・ジャズ。バス・クラリネット、ベース、ドラムが高速4ビートで自由奔放に演奏します。私は特にテキシェのベースがいいです。テクニカルですけれどテクニックより音圧を聴かせるところに惹かれます。こういう力強いベースを前面に出すベーシストってヨーロッパには少ない気がします。

7曲目はテキシェのスローでのんびりした4ビート曲。ラヴァとレが入ってクインテットで演奏。伴奏ギターがジョン・スコフィールド風に聴こえたり、ラヴァのトランペットがソロをとるので、これが80年代マイルスがやっていたブルース曲に聴こえてきて懐かしいのです。

8曲目はロマーノのアップテンポでシンプルな8ビート曲。3人で演奏。多重録音でスクラビスのクラリネットアンサンブルが付きます。ソロはソプラノ・サックス。これがデイブ・リーブマンの匂い、熱いです。これも80年代のフュージョン経由後のジャズを感じます。

9曲目は現代音楽の匂いがするスクラヴィスのスローな曲。3人で演奏。テーマ部では曲調に合わせてベースはアルコ弾き、ドラムはマレットも使ってスピリチュアルに。ベース・ソロはピチカートでゴリゴリ。バス・クラリネット・ソロは腰の据わった力強い響き。きっちり聴かせます。この人達らしい演奏です。

10曲目はZのエレピから入るウェザー・リポートの《ブギ・ウギ・ワルツ/バディアの楼閣》似の曲。作曲はロマーノでタイトルが《グリオ・ジョー》。ジョー・ザビヌルを意識しているのかな~。伴奏のエレピもザビヌルみたいですしね。演奏は6人で。レの変態ギター・ソロ、ラヴァのトランペットとスクラビスのソプラノ・サックスの自由な掛け合いがフィーチャされます。

ラストはテキシェのミディアム・テンポのワルツ曲。3人で演奏。テキシェらしい哀愁エスニック曲でクラリネットが優しく響きます。バックをしっかり支える太いベースと小粋なブラッシュワークのドラムが一体となり、3人の熟成を聴かせます。

以上のように内容はバリエーションに富んでいて濃いです。やっぱりこのメンバーならではでしょう。80年代から幅広くジャズを聴いている私のようなジャズ・ファンには親近感が湧く内容なのではないでしょうか。演奏の質については保障します。

ラベル・ブリューらしいクリアでいてパワー感のある録音も素敵です。

アルバム名:『3+3』
メンバー:
Aldo Romano(ds)
Louis Sclavis(cl,sax)
Henri Texier(b)
Enrico Rava(tp)
Nguyen Le(g)
Bojan Z(p)

Amazonに1点在庫ありですが、ディスクユニオンには在庫があります。
中古品が3枚もありますね。
ユニオンのジャズ・ファン、分かってないよね。
レア盤とかレア・グルーヴとかマイナー・ピアノ・トリオとか
すっとぼけたことばかり言ってるからこうなるのです。
ダメだこりゃ!(笑) あ~あっ、言っちゃった。

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これは暗くて重いです!

今日はヒップホップ。たくさんは聴けないので有名どころをボチボチ聴いています。

ジャズ喫茶「いーぐる」で昨年開催された中山康樹さんの「ジャズ・ヒップホップ学習会」からヒップホップに興味を持つようになった私ですが、最初は聴きどころがよく分かりませんでした。「ジャズ・ヒップホップ学習会」は5回も行われたのに、その5回ではまだ雲をつかむような状態。ジャズとの関係からヒップホップを見ると、ヒップホップに正面から向き合えないという問題が内在していたようにも感じました。

その後、後藤さんの判断により追加されたヒップホップに特化した3回の「ヒップホップ講座」に参加して、やっとヒップホップというものが見えてきました。私にとってこの3回は非常に意味がありました。その間に読んだ「文化系のためのヒップホップ入門」(長谷川町蔵×大和田俊之)も大変参考になりました。そして少しずつ音源を聴いていくうちに、各講座で語られていた事の意味がまた見えてくるようになって今に至ります。

P181 モブ・ディープ『イン・フェイマス』(1995年、Loud/RCA)です。

これもいつものパターンで、「文化系のためのヒップホップ入門」の紹介文を転記します。

「ナズの成功は、クイーンズに再び人々の目を向けさせたが、それを利用してブレイクしたのがこのデュオ。ハードなビート上でストリートライフを冷徹に語りつくす本作でコアなリスナーの支持を獲得した。ゲストのナズ、レイクウォン、ゴーストフェイスらも好演。トラックは大半をメンバーのハヴォックが手掛けているが、3曲をQティップが手掛けお洒落さがいいアクセントになっている。」

これはAmzonのレビューを読んだら聴かずにいられなくなりました。「そんなにヤバイのか?」と。で聴いてみたら? その通りのヤバサでした。聴きだしてすぐに暗さや退廃感が溢れ出しました。確かに何度も聴くと気分が沈んできてしまいますが、ある意味くせにもなります。私ってこういう暗いのも好きです。昨日のザ・スクエアーとは対極にあるサウンドですよね。

この暗さが堪りません。気分がどんどん沈んでいきます(笑)。
《サーヴィヴァル・オブ・ザ・フィットネス》

PVを見ると「こういう世界なのか」とよく分かりますよね。
まっ、これはサウンドだけでもう十分想像はできますが。

《ショック・ワンズ・パートⅡ》
これはラップの歌詞が表示されますのでご注目。
う~む、何だかよく分からないです。

この世界、私には分かりかねますが、サウンドが持つ力には打たれます。

《テンパレチャーズ・ライジング》
これは明るい感じで、Qティップがトラックを作っている3曲中の1曲です。

長谷川さんが書いているとおり、お洒落さがいいアクセントになっています。
ベースの使いかたとかブレイクの具合がQティップのサウンドですね。
途中に入る女性ヴォーカルはエリカ・バドゥみたいです。

2曲にイントロとしてナレーションがあり、1曲はイントロが銃撃される場面。
これがその銃撃場面のイントロ付《クレイドル・トゥー・ザ・グレイヴ》

このヤバサはやっぱりカッコいいと言えるでしょう。

暗さとヤバサのカッコ良さが分かる人は必聴。

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こんな時代もありました。

紹介したい新譜が何枚か溜まっているのですが、最近どうも書く気力が減退しているので、昔話でも書いてお茶を濁すことにします。

同世代の方には懐かしい話でしょうし、今の若い方には想像できない話でしょう。30年ほど前の話です。あ~あっ、今日はとうとう株価TOPIXがこの頃の水準に戻ってしまったらしいです。当時は将来これほどの景気の落ち込みになるとは夢にも思いませんでした。

まずはこれ。ザ・スクエアー(T-スクエアー)《サバナ・ホテル》

この軽薄感が1983年当時をよく表していると思うのです。大学2年生の私、受験戦争から開放されて大学生活を謳歌していたので、このサウンドは当時の私の周囲の雰囲気にフィットしていたように思います。バブル前夜ということで世の中明るい感じに満ちていたように記憶しています。超就職難に苦しむ今の大学生には想像できないでしょうね。

これを最初に聴いたのは友達の車の中でです。それは初めてザ・スクエアーを意識した時でもあります。夏休みに伊豆へ海水浴に行く途中、この曲が入った『うち水にRainbow』をリピートして聴かされました。友達の車はシビック。それまでのださいデザインを一新して若者にも受けるデザインになり、当時大流行した車です。

理系の悲しさですが色気はなく、野郎ばかりで海水浴へ行くという硬派な状況(笑)。友達の親が管理していたどこぞの会社の保養(リゾート)施設にただで泊まらせてもえるという、お金がない学生にはたまらない旅行でした。”会社の保養施設”、そういう時代になっていたのです。肌を焼き過ぎて全身激痛。その後初めて全身の皮が剥けました(笑)。

当時私は積極的にこういうジャパニーズ・フュージョンは聴いていませんでした。既にジャズを聴き始めていましたから、この手のチャライサウンドはバカにしていました。まっ。今聴いても音に触発されるようなことはなく、単に思い出の音楽と化しています。ちなみにジャズは私にとって”思い出の音楽”ではありません。

当時惚れていたのはこちらなど。ウェザー・リポート《ブギ・ウギ・ワルツ》

上記スクエアーの10年前にこんなカッコいいサウンドが録音されてたというんですから。ジャズにどんどんのめり込むことになりました。黒いグルーヴ最高!尖がってます。最後へ向かっての怒涛のリピートに”クラクラ”きます。そこにはヒップホップのブレイクビーツと同質のものを感じるんですよね。私にとっては永遠の愛聴曲。

1982年に出たこれもカッコいいと思いました。
ウェザー・リポート《ヴォルケーノ・フォー・ハイヤー》

アースキンの”パタパタ”ドラミング全開(これは好き嫌いあるでしょう)。ジャコのアグレッシブなベースが炸裂。でもこの曲の魅力は何と言ってもショーターの逞しいテナー・ブロー。終盤絶好調となるザビヌルのシンセも過激ですよね。各人がやっていることはある意味シンプルです。これがメイン・ストリーム回帰の意味するところだと思います。

ザ・スクエアーの話に戻ります。ザ・スクエアー《オール・アバウト・ユー》
この曲は学園祭でやった電子工学科の出し物”レザリアム”(レーザー光線を電子制御の鏡で変調して絵を書いたりするやつ)でB.G.M.に使った曲の中の一つ。これも思い出の曲ですね。1984年当時かなり流行ったはずです。

この当時のスクエアーはドラムが嫌いでした。この単調ドラミングはまるで歌謡曲のバックバンドのノリです。当時ジャズの凄腕ドラマーに心酔していた私にとっては許容し難いものがありました(笑)。このドラマー、ウィキで調べたらジャニーズにいたこともあるんだそうです。どうりで歌謡曲ノリなわけです。

この私にとってはダメなドラマーが交代したのがこのアルバム『S・P・O・R・T・S』
《ラブ・イズ・イン・マイ・サイト》を聴いてみて下さい。いい感じになりました。

変化するリズムをタイトに決めていくこういう腰のあるドラミングがカッコいいのです。ドラマーはご存知則竹裕之。この後スクエアーを支えていくドラマーになります。今や日本のフュージョン・ドラマーの第一人者。当時の私の耳に狂いはなかったのです(笑)。

で、ここにベーシストの須藤満(学芸大のマーカス・ミラーと言われていたとか)が入り、フジテレビF1中継のテーマ曲である《トゥルース》を引っさげて大ブレイク!この頃になるともうバブル真っ只中ですね。当時ライブを観に行きましたが、私が知っている中で最大音量がこのバンドのライブでした。終わったら耳と頭が”ジンジン”。

こんな感じのノリで若者が熱狂していた時代です。これは野外ジャズフェスですから集まった半分以上は単なるお祭り好きでしょう(笑)。

初体験がそうであったように、ザ・スクエアーはその後私のドライブのB.G.M.として定着しました(笑)。真面目に聴き入る対象になったことはありません。m(_ _)m

歳をとるに従い、”昔は良かった。”と思うことが多くなってきます。
なんか嫌にもなりますが、そういうものなんですよね。

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日曜日の午後はレコードハント

東京スカイツリー見物の後は恒例のレコードハントです。

ますはディスクユニオン新宿ジャズ館へ。昨年9月にここでレコードの買い取りをしてもらったらかなり安かったので、以来行くのを拒否していたのですがとうとう解禁です(笑)。オリジナル盤も売っていましたが今は売れているのかな~?手頃な価格の気になるものもありましたが本日はパス。普通の新入荷の箱を物色。

3枚買いました。
1.アート・アンサンブル・オブ・シカゴ『フェーズ・ワン』
これは後藤雅洋さん著「ジャズ・オブ・パラダイス」の中の1枚です。この本掲載アルバムのコンプリート蒐集を目指して探していた1枚。やっと見つけました。ジャケットが格好いい。後藤さん著「ジャズ百番勝負」の中で、このアルバムの《オーネダルス》(スタジオ録音)と『バプティスム』(既に入手)の同曲(ライブ録音)の聴き比べが提案されていて、この度それが出来ることになりました。
P179

2.ジェリー・マリガン/ポール・デスモンド『ブルース・イン・タイム』
これは油井正一さん著「ジャズ ベスト・レコード・コレクション」掲載アルバム。マリガン&デスモンドのサックスが心地良く響きます。渋い。

3.チャールス・ミンガス『ミンガス・イン・ヨーロッパVOLUME1』
これは後藤雅洋さん著「ジャズ・レーベル完全入門」掲載アルバムです。どうも最近は知らないアルバムを買おうという冒険心がなくなっています。ジャケ買いもしません。今やかなりたくさんレコードがあるのでハズレはひきたくないし、いたずらに枚数を増やしたくないんです。

なかなか良い買い物ができたと思います。

次は高円寺の 「universounds」 へ。ここではお店のホームページでチェックしておいたベニー・ベイリー『アイランズ』を購入。
P180
ちょっと高めの価格でしたがレア盤なのでやむを得ません。これも「ジャズ・レーベル完全入門」に掲載されているアルバムです。エバーハルト・ウェーバーとの共演盤でギター・カルテット。8ビートに乗ってヨーロッパ的エキゾチックを落ち着いて聴かせるベイリーのラッパが渋く響きます。こういうアルバムを知っているのがジャズ喫茶のオヤジというやつなのでしょうね。かなり気に入りました。ここまでかなりお金を使ってますので1枚買って打ち止め。

この後久々にジャズ喫茶「ジニアス」へ行こうと思っていたのですが、どうにも足が疲れてしまい、やむなく帰途につくことにしました。山梨は車での移動ばかりなのであまり歩かないのです。すっかり足が弱くなってしまいました(涙)。明るいうちに帰るのもたまには良いでしょう。

というわけで二日間の上京をたっぷり楽しんでしまいました。

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