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こういうのも悪くありません。

今日は新譜紹介です。Amazonで一時期再入荷未定みたいになっていたので買いそびれ、最近やっと入手。ひとつ前のアドリブ一発とは逆のアルバムです。

P136 ジョエル・ハリソン・セプテット『サーチ』(2010年rec. Sunnyside)です。メンバーは、ジョエル・ハリソン(g)、ダニー・マッキャスリン(ts)、ゲイリー・バセーシ(p,Hammond B-3)、クリスチャン・ハウズ(vl)、ダナ・レオン(cello)、ステファン・クランプ(b)、クラレンス・ペン(ds)です。タイトルが”7つの探求”、そしてこのメンバーなのでニューヨークの小難しい演奏かも?なんて想像しますが、そんなことはありません。

なぜこのアルバムを買ったかと言えば、以前聴いたこの人のアルバム『アーバン・ミシーズ』が良かったからです。このアルバムについては以前ブログに書いています。
「このメンバーにしては分かりやすい。」
ニューヨークの精鋭揃いのわりには難解さはなくファンクとして聴けるものでした。なので、今回もその路線を踏襲しているのかと思って買いました。聴いてみると違う路線だたのですが、これはこれでなかなか面白いのでした。

昨年はストリングスと組んでポール・モチアンの曲をやるという『ミュージック・オブ・ポール・モチアン』なんて変わったアルバムも作っています。ハリソンはコンポーザー型のギタリストです。

このプロジェクトは、自分のジャズにクラシック音楽の影響を持ち込みたいという要望から始まったそうで、自発性を犠牲にせずトリッキーなバランスで新しい作編曲にチャレンジしたいというようなことが、ライナーノーツに書かれていました。

最初はライナーノーツを読まずに聴き、クラシック的で構成要素が強い音楽だと思っていたので、ライナーノーツを読んでなるほどそういうことかと思いました。意図は成功していると感じました。最初の4曲の自作曲がそういうチャレンジなのだろうと分かります。クラシック的な匂いはバイオリンとチェロのアンサンブルで主に簡潔に表現されています。曲の起伏ある展開がクラシック的だとも言えます。

私が気に入っているところは、クラシック的な匂いの中でバセーシのピアノとマッキャスリンのテナーが構築力あるアドリブ・ソロを展開して、それが映えて聴こえるところです。やっぱりジャズにはこういうソロがないと面白くありません。ソロを上手く生かしているところに自発性を犠牲にしないというハリソンの試みの成功を感じます。ハリソンがギター・ソロをほぼせず控えめなサポートに回っているところにもセンスの良さを感じます。曲はサウンド・トラック的にも聴こえますので、景色をイメージしながら聴くと楽しめますよ。

で、4曲終わると、静かにロック系変態ギターがソロをとり、プログレ的とも言える曲《ウィッピング・ポスト》(グレッグ・オールマン作)が始まります。「だよね。やっぱりこういう曲はやりたいよね。」と笑ってしまいます。バイロリンがソロをとっているのがプログレですね。この曲だけバセーシがオルガンを弾いてます。ブルージーな雰囲気があると思ったらサザンロックのオールマン・ブラザーズ・バンドのボーカリストが作った曲でした。ということはバイオリンはカントリー的と言った方が良いのでしょうか。アメリカらしい曲を現代のセンスで。ドラム・ソロも入って、前半4曲の欲求不満を解消?(笑)

次はオリヴィエ・メシアンの現代音楽曲。編曲はハリソン。牧歌的な雰囲気が漂って、マッキャスリンのテナーが現代音楽してます。バセーシのピアノもクラシックをきちんと消化。なかなかしっかりした演奏ですよね。この人達はやろうと思えば現代音楽をきちんとこなせる技術は持っているのだと思います。

ラストはバセーシとハリソンの共作。バセーシのピアノ・ソロでその響きが特に美しい2分少々のエンディング曲。これなんかはもうクラシックなわけですが、でもどことなくアドリブしているような匂いがあります。これってひょっとしたらハリソンが曲のモチーフを提示して、バセーシがそれを基にアドリブしているのかもしれません。

というわけで、クラシック的に構成されつつジャズのアドリブも生かす面白い音楽になっています。ハリソンの本音が”ポロッ”と出ていたりして、それがまた親近感につながっていると思います。

良いアルバムですよ。聴いて見て下さい。

アルバム名:『SERCH』
メンバー:
Joel Harrison(g)
Donny McCaslin(ts)
Gary Versace(p, Hammond B-3)
Christian Howes(vln)
Dana Leong(cello)
Stephan Crump(b)
Clarence Penn(ds)

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