若干遅れ馳せながら新譜紹介です。
ジョナサン・ブレイクの『ザ・イレブンス・ハワー』(2010年rec. SUNNYSIDE)です。メンバーは、ジョナサン・ブレイク(ds)、ジャリール・ショウ(as)、マーク・ターナー(ts)、ケヴィン・ヘイズ(p,fender rhodes)、ベン・ストリート(b)、スペシャル・ゲスト:トム・ハレル(tp,flh)、グレゴア・マレ(harmonica)、ロバート・グラスパー(p,fender rhodes)、ティム・ワーフィールド(ts)です。録音は2年前。
これはすっかりノー・マークでした。昨年の「JAZZ東京2011」でケニー・バロン・トリオのドラムを叩いていたのがこの人だったので、このアルバムも単なるピアノ・トリオかと思っていたのです。ところが私がパトロールするジャズ・ブログにこのアルバムがUPされはじめ、評判は良いしメンバーを見たらマーク・ターナーがいたりで慌てて注文しました。私はブレイクが参加したアルバムを何枚か持っていますが、これまでブレイクにはそれほど注目してきませんでした。
いいですね。これっ! メンバーの魅力的なソロが何よりジャズであり、曲構成とかも良いしロバート・グラスパーのフィーチャ具合も良く、全体として魅力満載です。内容は80~90年代のメイン・ストリームから現代ニューヨーク、そしてヒップホップまでを見据えたもの。ブレイクは全10曲中7曲作曲していてどの曲もジャズとして魅力的です。
1曲目《ザ・イレブンス・アワー》はブレイクの曲。レコードのプチパチ音と遠くで鳴るドラムから始まります。この辺りはヒップホップやクラブジャズの流れを汲んでいるのだろうと思います。ロバート・グラスパーがエレピを弾いていて、和音の感じはグラスパーのアルバムにも感じられた70年代初頭マイルス。ヒップホップ経由のリズムはいい感じです。その上でいかにもターナーらしいフレージングのクールなテナーが決まってかなりカッコ良い。ハモニカが近未来と郷愁をない混ぜにした感じを醸しているのがいいです。
2曲目《リオズ・ドリーム》はブレイクの曲。ニューヨーク現代バップで浮遊メロディーの変拍子。ケヴィン・ヘイズはブラッド・メルドーらを取り巻く一連の現代ピアノらしい好プレー。ターナー、ショウ共にこういう曲はお手の物、良いソロをとってます。
3曲目《ブルー・ニュース》はトム・ハレルのらしい曲。ハレルがトランペット/フリューゲルホーンも吹いてます。ハレルのアルバムにブレイクが参加していたりするので、その関係でのゲストということになるのでしょう。80~90年代感覚4ビートバップをクインテットで演奏。今となっては古いサウンドですけれど、このあたりが現代へとつながるメイン・ストリームのルーツ。ハレルもヘイズもターナーもそれぞれらしい好ソロを展開。躍動的な4ビートを繰り出すブレイクのドラミングも素敵です。
4曲目《デクスターズ・チューン》はランディ・ニューマンの曲。ターナーがサブトーンも交えてオーソドックスなバラード演奏をしているのが新鮮です。こういうベタな演奏が出来るようになったあたりにターナーの成長を感じます。小細工なしできちんと聴かせてくれますよ。ブレイクのマレット・プレーは程よくスピリチュアル。これはターナーのためのワン・ホーン・カルテット。
5曲目《タイム・トゥ・キル》はブレイクの曲。80~90年代風8ビートのバップ。ハレルのまろやかなフリューゲルホーンを素敵に響かせるグッドな曲です。こんどはショウとのクインテット。こういうサウンドってジャズを聴き始めた頃好きで散々聴いたけれど、やっぱり心地良いです。グラスパーのソロってこういう曲だと極普通の今時ジャズ・ピアノになってしまいますね(笑)。ハレルのソロはトランペット?
6曲目《オブ・シングス・トゥ・カム》はブレイクの曲。メカニカルなテーマと複雑なリズムです。ピアノが抜けショウとターナのピアノ・レス・カルテット演奏。速い4ビートでショウ、ターナーが直球素敵なソロをかましてます。バックで煽るブレイクがカッコイイですね。ストリートのベースが演奏の推進剤として活躍。私はこういうストレートな硬派演奏が好きです。
7曲目《フリーフォール》はブレイクの曲。80~90年代風速いラテン・リズムのバップ。ありふれているかもしれないけれど良い曲です。ブレイクって曲作りが上手いと思います。ジャズのエッセンスというものが良く分かった上で耳に素直に入る曲を作ります。ショウとターナーって似たような発想でソロをとるのでマッチングは良好。ヘイズのソロはちょっとスパニッシュなチック・コリア風。活気に溢れるブレイクのドラミングが引っ張る元気な演奏。こういうのも好きです。
8曲目《ノー・レフト・ターン》はブレイクの曲。ダークでちょっと捻った曲です。ターナーとワーフィールドのテナー対決。クールに燃えるターナーが先行して、もう少し熱くメカニカルにうねるワーフィールドが続きます。両者甲乙つけがたいところです。5拍子でヘイズの現代ピアノがソロをとってからテーマに戻ります。これは現代ニューヨーク好演。
9曲目《クルーズ》はブレイクの曲。軽快なアップテンポの曲でショウとターナーが数小節ずつの掛け合いをして火花を散らすカッコ良い演奏。ピアノとローズが交錯するヘイズのソロもカッコ良いですよ。複雑なリズムです。ここでやっとブレイクのドラム・ソロが登場。パルシブでドライブ感抜群ですね。
ラスト《キャンバス》はグラスパーの曲。子供の声から入って、サウンドは『ブラック・レディオ』と通じます。ハモニカの郷愁感がグラスパーのメローな哀愁曲とベスト・マッチ。ハモニカ・ソロではミステリアスな雰囲気も加味。グラスパーのところのクリス・デイヴとまではいかないですが、ヒップホップ経由のドラミングは感じます。ターナーのソロが素敵。やっぱりこういうソロが入ってないとジャズとは言えないでしょうね。最後も子供の声で終了。
いろんなリズムを難なくこなし、押しつけがましさがないのに、ドライブ感は抜群というのがブレイクのドラミング。作曲の上手さも買いだと思います。アルバムの曲構成や順序も良く、コンポーザー系ドラマーの素敵なアルバムになっています。メンバーが皆良い演奏をしていて安心して聴いていられますね。あまり触れてきませんでしたがベン・ストリートはしっかりベースを弾いてます。
尖がり過ぎていないのが安定した良さに繋がってます。現代ジャズ推薦盤!
アルバム名:『The Eleventh Hour』
メンバー:
Johnathan Blake(ds)
Jaleel Shaw(as-all trucks except 3,4,8 & 10)
Mark Turner(ts-all trucks exceps5)
Kevin Hays(p, fender rhodes-all trucks except 1,5,6&10)
Ben Street(b)
Special Guest:
Tom Harrell(tp, flh, M-3, 5)
Gregoire Maret(hca-M1,10)
Robert Glasper(p, fender rhodes-M1,5,10)
Tim Warfield(ts-M8)
最近のコメント