久しぶりにこんなピアノ・トリオを買ってみた。
最近はピアノ・トリオにすっかり飽きてしまい、ほとんど買わない私なのですが、久々にこんなのを買ってみました。先月末に閉店したサンリンの閉店半額セールで買った1枚です。山中千尋の『レミニセンス』とこれから紹介するのとどちらを買おうかと悩んだ挙句、こっちを選びました。半額セールなんだから両方買えばいいのにね(笑)。
マルチン・ボシレフスキ・トリオの『フェイスフル』(2010年rec. ECM)です。メンバーは、マルチン・ボシレフスキ(p)、スワヴォミル・クルキエヴィッツ(b)、ミハウ・ミスキエヴィッツ(ds)です。最早説明不要でしょう。ポーランド出身のピアノ・トリオです。名前が読み難いのは相変わらず(笑)。
今回日本盤を買ったわけですが、直輸入盤に帯兼ライナーノーツが付いているだけなんですね。定価¥2500で売るにためにはこんな方法になるんでしょう。安く売ろうとする努力は認めます。
実は私、この人達のアルバムはシンプル・アコースティック・トリオを名乗っていた時の『ハバネラ』しか持っていませんでした。青色ジャケットが素敵な1枚として有名なやつです。当時は寺島靖国さんの影響下にあったので、寺島本を見て購入したわけです。ジャケットに似合った深い青みを帯びたサウンドでした。その後このトリオは買わずに今日この頃を迎えることに。たまにはこういうピアノ・トリオも聴いてみたくなるのですよ。
さすがにECMで売り出しただけあり、落ち着いていてなかなか深いものがあります。今更言うまでもありませんがジャズは色々あるわけですから、別に黒くなくてもいいわけです。アフタービートじゃなくてもいいのです。未だに欧州ピアノ・トリオを聴いて”これはジャズじゃない。”とか言う人もいますが、時代錯誤も甚だしい(笑)。まっ、色々な意見があっていいとは思います。
ボシレフスキのオリジナルと他人の曲が上手く混ざって配列されています。オーネット・コールマンの《フェイスフル》(アルバム・タイトルでもある)なんかはいい曲ですよね。オーネット独特の哀愁というか侘しさというか美を生かした演奏になっています。ポール・ブレイの《ビッグ・フット》はベースとピアノのインタープレイが素敵。杉田宏樹さんのライナーノーツによるとレーベルへのオマージュの意識だろうとのこと。なるほどなるほど。
本アルバム唯一のスタンダード《バラッド・オブ・ザ・サッド・ヤング・マン》は染みます。杉田さんのライナーノーツによると、この曲はキース・ジャレット・トリオのコンセプトの継承者としての表明と推察できるとか。日本語ライナーノーツもたまにはいいですね。参考になります。エルメット・パスコアールの《オズ・ギーゾス》はギリギリのスローでたゆとう葉の如く進んで行くのが心地よいです。
さて、ボシレフスキのオリジナルでアルバム最長の《ナイト・トレイン・トゥ・ユー》がとても気に入りました。タイトルから想像するに、彼女に会いに行くための夜行列車の旅だと思います。リズミックで列車がゴトゴト走るイメージの曲になっています。列車が駅を出発すると彼女への思いが徐々に高まっていきます。列車は走ります。思いを巡らしながら。ミニマルな要素があって美しい同じテーマが少しずつ形を変えて繰り返されるのが私を刺激して止みません。夜明けには彼女の待つ駅に到着。気持ちの高ぶりも落ち着いていき、列車は静かに停車します。彼女との楽しい1日への予感と共に。
ボシレフスキの他の曲も良い曲揃い。トリオの親友であるマレク・スピルコフスキに捧げた《ソング・フォー・スピルク》は哀愁と楽しさの狭間が良い感じですし、ラストの《ルガーノ・レイク》は収録地の大自然に囲まれた街へといざなわれる優しさと美しさです。ボシレフスキの美意識を共有し、3人の世界を構築するベースのクルキエヴィッツとドラムのミスキエヴィッツもいい仕事してます。
曲を聴いて思いを巡らすのも楽しいものですよ。素敵なピアノ・トリオですね。
アルバム名:『Faithful』
メンバー:
Marcin Wasilewski(p)
Slawomir Kurkiewicz(b)
Michal Miskiewicz(ds)
*
*
ヒップホップ~酒井俊~ハリエット・タブマン~松田聖子、そしてこれ。
我ながらこのハチャメチャな展開に呆れます。
でもそれこそが私なのです(笑)。
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コメント
このピアノトリオ、わたし的には去年のベスト10の中に入ってるピアノトリで最高峰でした。
って言うか、ピアノってくくりのリーダー作でも最高峰でした。
わたしはあんまりピアノトリオを追っかけないので、彼を知ったのはトーマススタンコのアルバムが最初です。
話題になったハバネラとか後から聴きました。
スタンコはECMからアルバムだしてますから、マニアックな人でなくても聴きますでしょう?彼のストイックなスタイルが好きで思い出すと新譜買う,みたいな感じ。あるとき、彼の作品であれ、って、思ったんですよ。うまくいえないけど、スタンコの作品って、基本暗い感じなんですが、色が溢れた気がしたんです。
作品に安易な感じはないけど、とても聴きやすい感じだし。なんだか色彩が増えた感じ。で、その時のピアノが彼だったのです。
スタンコみたいな威光あるミュージシャンのアルバムで、自分の世界を出せちゃうって凄いと思いましたよ。
と、そのうち、ECMでも自作を出すようになって。
ショパンの国のピアニストなので、そういう香りももちろん残しながら、世界に通じる作品をつくるって、やはり凄いなぁ,と。
と、そのへんの塩梅も良いかなぁ,と。
このトリオに先鋭的なものも、懐古的なもの望みません。
暫く、新譜を楽しみにするピアニストだと思います。
投稿: Suzuck | 2012年4月10日 (火) 08時54分
Suzuckさま
こんばんは。
>って言うか、ピアノってくくりのリーダー作でも最高峰でした。
良いピアノトリオですよね。
私の場合は上にひろみちゃん&ダイローさんがいます(笑)。
>彼を知ったのはトーマススタンコのアルバムが最初です。
『サスペンディッド・ナイト』だけ私も持っています。
当時ディスクユニオンでかなり推薦してました。
ピアノトリオ好きな山本隆さんを知ったのも確かその頃です。(顔見知りではなく名前をですが)
>スタンコはECMからアルバムだしてますから、マニアックな人でなくても聴きますでしょう?
そうですね。
ユーロジャズ好きならチェックしていると思います。
>彼のストイックなスタイルが好きで思い出すと新譜買う,みたいな感じ。
分かります。
>うまくいえないけど、スタンコの作品って、基本暗い感じなんですが、色が溢れた気がしたんです。
スタンコは基本的に暗くて禁欲的ですね。
なるほど、そう言われてみれば、そうかもしれません。
>作品に安易な感じはないけど、とても聴きやすい感じだし。
正にそういう理由で買ったのが『サスペンディッド・ナイト』です。
>なんだか色彩が増えた感じ。で、その時のピアノが彼だったのです。
なるほどなるほど。
そのお話には説得力を感じます。
>スタンコみたいな威光あるミュージシャンのアルバムで、自分の世界を出せちゃうって凄いと思いましたよ。
確かにおっしゃるとおりだと思います。
>と、そのうち、ECMでも自作を出すようになって。
はい、そうでした。
>ショパンの国のピアニストなので、そういう香りももちろん残しながら、世界に通じる作品をつくるって、やはり凄いなぁ,と。
ショパンの国、なるほど。
しっかりした技量とセンスを持ったピアニストだと思います。
>このトリオに先鋭的なものも、懐古的なもの望みません。
強いて言えば王道ユーロッパ・ピアノ・トリオ。
>暫く、新譜を楽しみにするピアニストだと思います。
私も過去作を何枚か聴いてみたくなってきました。
トラバありがとうございました。
後程私もトラバ&コメントさせていただきます。
投稿: いっき | 2012年4月10日 (火) 21時11分
正直に言いますと。。
シンプルアコースティックトリオ
って、名前は知ってたんです。
でも、あまりにベタで、、
また、いつものように。綺麗で終わるピアノトリオだと思っていたわけです。
浅はかなヤツなんです。はい。
投稿: Suzuck | 2012年4月11日 (水) 08時59分
Suzuckさま
>って、名前は知ってたんです。
>でも、あまりにベタで、、
確かに、名前がベタです。
>また、いつものように。綺麗で終わるピアノトリオだと思っていたわけです。
それは素直で正直な反応だと思いますよ。
今の私なら同様な反応でしょう。
>浅はかなヤツなんです。はい。
私なんか当時寺島本に掲載されていたのを端から買っていたんですからよほど浅はかです(笑)。
投稿: いっき | 2012年4月11日 (水) 20時34分