ヒップホップ講座 パート2
1月28日(土) ジャズ喫茶「いーぐる」 で行われた「ヒップホップ講座」のレポートの続きです。
3回に分けてレポートする2回目です。
講演者の長谷川町蔵さんと大和田俊之さんの「文化系のためのヒップホップ入門」を読むんでおくと、以下の内容がより分かります。
ヒップホップを勉強してきましたが、まだまだ素人に毛が生えた程度です。聞き間違えや誤解があるかもしれませんのでご了承ください。
お2人の発言は基本的に区別しません。
貼っている音源は当日かかったものとバージョンが違う可能性がありますのであらかじめご了承ください。
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ここからいよいよお2人が本領を発揮します。
3.ウェストコースト
⑩ Dr. Dreの《Let Me Ride》 1992年
スッキリポップ。ベースのラインが気持ちいい。タブラみたいなパーカッションがアクセント。シンセがカラフル。グルーヴに自然と体が揺れます。こういう雰囲気の曲は好きです。このPVが全てを物語っているみたいですね。あらためて聴くと歌詞が下品なような幼稚なような(笑)。英語が苦手なのでなんとなくとしか分かりません。(以降ピンク字は曲を聴いての私の感想などです。基本的には当日聴いた感想をそのまま書きます。)
東海岸の精神性に対して西海岸は商業的。西海岸は車社会。車でかけると気持ちいいものになります。東海岸のジャズ・ファンクのサンプリングのたがが外れます。サンプリングがミニマルになり、行きようがなくなって、じゃあ本当に弾いてみたらどうか?ということになります。本当に弾いているんだけれどディスコ(オールドスクール・ヒップホップ)と違って遊びがありません。サンプリングしたのと同じように弾きます。サンプリングはこもった音だけけれど、本当に弾くとクリアになって隙間ができます。その隙間にサビが乗せられるようになります。サビメロをゲストボーカルが歌うようになります。この曲は海岸べりを女の子を乗せて車で走るイメージ。パーラメント(グループ)のアルバム『マザーシップ・コネクション』の曲を生演奏で繰り返しています。
西海岸のギャングスタラップは不良文化。これで精神性が落ちたかというとそうではありません。ラップの基本は身の回りのことをラップします。身の回りに起こっていることが政治的なら政治がテーマのラップになるし、身の回りのことがギャングならギャングがテーマのラップになります。その違いだけです。西海岸は麻薬とセックスがテーマになることが多いので、東海岸の人は質が落ちたと言いますが、「女に騙されたとして気の利いたことを言ってみろ。」というのがラップ。ギャングスタラップはラップのテンポが落ちて自由になり、より表情が出せるようになります。喜怒しかなかったラップに喜怒哀楽が出せるようになります。歌詞はひどい⇒雰囲気。こういうもの(ラップ)は仮初めです。より表情が出せることでR&Bがラップと同じくらいになっていくきっかけになります。
⑪ Snoop Doggの《Ain't No Fun》 1993年
ポップな曲です。この曲を聴いて頭に浮かんだのが久保田利伸の《LA・LA・LA LOVE SONG》(ナオミ・キャンベルとのコラボで1996年に出したシングル)。かわいいキーボードの音とメロディーが連想の根源。これも体が揺れる心地良さ。あらためてこれを聴いて思いました。私の”ポップス耳”が発動しているのです(笑)。ファンキーなグルーヴと心地良いメロディー。好きです。
東海岸の後半とオーバーラップしてつつ、西海岸では全く別のものが流行っていました。レイドバックしたリラックスした感じです。西海岸の方が売れ、全国区になります。白人に受けてヒップホップがアメリカ中の白人の若者に聴かれるようになります。
⑫ Pharcydeの《Drop》 1995年
ビートが明らかに重いです。テープスピードをおかしくしたような音がマニアック。ノリが複雑。これにはメッセージ性を感じます。
東海岸的なことをやりたいというオルタナティブなもの。ファーサイドは日本のヒップホップ・ファンが多い人。それは他の西海岸のラッパーのように全身刺青とかでなくかわいい感じだからです(PVのとおり)。日本のファンが多い弊害もあります。あらためて聴くとトラック的には面白いが、ラップが上手くないのが決定的。一人一人のラップがきちんとしていません。プロデュースはデトロイト出身のJディラ。
東西抗争。ディスりがあり死人が出ました。西海岸の2PACが射殺され、1年後に東海岸のトーリアスBIGがニューヨークで射殺されます。この抗争を東海岸は乗り越えたけれど、西海岸は国を挙げての規制でつぶれてしまいます。離脱したドクター・ドレーは自分が作ってきたものを捨て、ミニマルなものを作ります。これがヒップホップの完成形。次の曲です。
⑬ Dr.Dreの《The Next Episode》 1999年
ビートはシンプル。ギターとドラムにサウンド・エフェクト・シンセが乗ります。渋い感じです。なるほどヒップホップの完成形ね~。
「超カッコイイですね。」とお2人。ミュージシャンにジャムらせてドラムを差し替えています。テンポが絶妙。日本人にはできません。三味線のように聴こえるギター。これが出たあとメジャーではサンプリングが流行しなくなります。講演では触れられていませんでしたが、メジャーでのサンプリングの衰退は著作権の問題も絡んでいるようです。トラックを重視する日本のヒップホップ・ファンはこのあたりのサンプリング事情にも敏感に反応しているようなことを他所で聞きました。
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ここで10分程休憩が入りました。
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後半が肝。ここまでの前半は書いた本がたくさんあります。
4.ヒップホップ・ソウル~ティンバランドのサウンド革命
⑭ Mary J. Bligeの《Be Happy》 1994年
風の音から入ります。ディスコっぽいのり。ベースがビージーズの《ステイン・アライブ》に似ていますよね。ストリングスの音がいい感じです。歌はアメリカの主流。ハスキーな声がいい感じです。
ウエストコーストの引き直し。歌を乗っけます。ワン・ループの上で歌います。このパターンがR&Bに普及してヒップホップのプロデューサーが活躍。1個のループの中でサビはあります。この流れは今も生きています。R&Bがヒップホップのサブジャンル化しました。この曲はその先駆けとなった曲。カーティス・メイフィールドのイントロの弾き直しのループです。ループの宙吊り感。歌はジャズの譜割。ブランフォード・マルサリスはこの人のフレージングに影響されたと言っています。どんなループでも歌を乗せられます。そこでとんでもないことが起きます。
⑮ Destiny's Childの《Get On The Bus》 1998年
ティンバランド・サウンドですよね。格好いいです。響きが新しいと思うのです。マーカス・ミラーみたいなチョッパー・ベースが素敵。バスドラの不規則リズム感が心地良いです。男の声で入るため息みたいなボーカルもいい感じ。このサウンドは好きです。
何が起きたのか訳が分からない。ビヨンセがいるアイドル・グループですね。鳥の声やシンセの”シャー”音とか特殊な音が入っていて、バックはループが流れています。2拍4拍にスネアが入っていません。ルンバ、ラテンのクラーベのリズムに近いです。このビートがR&Bに向けて流行りだし、ブレイクビーツから外れていきます。バックの音がブルーノートから開放されていて黒人的ではありません。上の音は黒くないのにビートは真っ黒。おもちゃ箱をひっくり返したような音です。ティンバランドは業界に雇われた人でバージニア州出身。バックビートはどこが由来なのか?アフリカや南米はバックビートというわけではありません。フェラクティなどはバックビートが効いていません。
⑯ Missy Elliotの《Get Ur Freak On》 2001年
これはマイルスの《レイテッドX》に通じます。ティンバランドのサウンドについては既に私のブログで言及済み⇒今日もヒップホップです。m(_ _)m ちゃ~んとお見通しなのです。参ったか(笑)。ティンバランド・サウンドの魅力は前曲の解説で納得。ブラック・ミュージックのメインストリームがヒップホップだということもその後分かりました。
これが1位。日本で言えば「いきものがかり」(このグループ、私好きです)の位置にいるのは凄い。後にも出てきますが、こういう発言が出てくる時点で、長谷川さんにしても大和田さんにしても、私の感性にマッチするものを感じます。「さっ、これから作ろう。」と、こういうものが出てくること自体、ブレイクビーツの作業とイメージが全然違います。南部中心にこのビートでラップしたりどんどん出てきます。東海岸のラッパーは軒並みこの動きに乗り遅れました。そしてこのビートに乗れる南部のラッパーがスターになります。
⑰ R.Kellyの《Ignition Remix》 2003年
レゲエにも近いように感じました。ゆったりしたグルーヴ。ちょっとありがちなのが私的にはいまいち。
⑯のようなリズムで歌うと歌とリズムの境がなくなります。R&Bのキングと言われる人の歌。4小節のループとAメロのサビ。4種の和音が鳴っているだけ。
⑱ Snoop Doggの《Drop It Like It's Hot》 2004年
これは「いーぐる」で聴くととんでもない低音が出ていました。この低音、どう聴いても大太鼓(和太鼓)なのです。祭ばやしかと思いました。盆踊りかとも思いました(笑)。最後の質問で同じことを言った方がいました。”フー”という音は尺八みたいだし、途中に入る”チーン”が仏壇にある鐘みたいだし。舌打ちするみたいな音とかユニーク極まりないですよね。これって前ノリ?もう頭が”ウニウニ”になりました。ヒップホップがこんなことになってたとは・・・。しかも大ヒットシングルって(笑)。どういうシチュエーションでこういうのを聴いているんでしょうね?
クールの美学。熱いんだけれど覚めています。ウエストコーストの代表的なラッパーがクラーベのリズムを採用しました。大ヒットシングル。
⑲ Busta Rhymesの《Touch It》 2006年
最初無音なのでCDが認識されないのかというちょっとした戸惑い。また出ました大太鼓。タンタンの音量大小のみは確かに面白いです。ラップは確かに上手いと思います。でもこのリズムには参るな~っ。この後このリズムが続出。クラクラッ(笑)。このビデオの世界、いかにも黒人ギャング。私にゃついて行けませぬ。「いーぐる」オーディオのパワー炸裂。凄い音圧でした。
”タンタタン タンタン”だけで音が大きくなっり小さくなったりするだけです。「”タンタタン タンタン”だけでは単調だよね。シンセ被せる?じゃあ音を大きくしたり小さくしたりしてみようか?」と言ったのかどうか?このトラックをラッパーが奪い合いました。抑えた部分の微妙なラップのずらしが素晴らしい。これは音楽なのか?ビートだけでミニマルになっています。歌詞の内容は言葉遊びで精神的ではありません。音楽的に面白いです。スター・ラッパーが復帰第一弾として賭けたのがこれです。お2人も笑っていました。
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今回はここまでです。いや~っ、濃いですね。
次回もお楽しみに!
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コメント
はじめまして。いーぐるに行った者です。きちんとまとめられてて動画もついててすばらしいです。
1点間違いを指摘させていただいてもよろしいでしょうか?
メアリー・J・ブライジのところですが、「ブランフォード・マルサリスに影響を受けた」のではなくて、ブランフォード・マルサリスがメアリーのフレージングに影響を受けた、ということだったかと思います。
投稿: tetsuya_st | 2012年1月30日 (月) 23時42分
tetsuya_stさん
はじめまして。
>きちんとまとめられてて動画もついててすばらしいです。
そうおっしゃっていただけると嬉しいです。
>1点間違いを指摘させていただいてもよろしいでしょう
か?
どうぞどうぞ大歓迎です。
>ブランフォード・マルサリスがメアリーのフレージングに影響を受けた、ということだったかと思います。
逆だったんですね。私の誤解ですね。早速修正します。
投稿: いっき | 2012年1月30日 (月) 23時46分