「ブラック・ミュージック入門」を買いました。
中山康樹さんの「かんちがい音楽評論」は面白かったのですが、今の私の音楽的な興味は中山さんの「ジャズ・ヒップホップ・マイルス」を引きずっています。このテーマって私のなかでは未消化なので、頭の中で”グニョグニョ、ウニョウニョ”とのたうっているのです(笑)。
で、昨日いつもの食品買い出しの帰り、いつもの「朗月堂」(本屋)に寄ってきました。目的は「かんちがい音楽評論」が売っているかどうか見ること。やっぱり売ってなかったので、Amazonで買って良かったです。今盛んに宣伝しているディアゴスティーニの「ブルーノート・ベスト・ジャズコレクションズ」はたくさん並んでいました。通りかかったカップルの女性が「あっ、ブルーノトート」と言ったけれど、それだけで通り過ぎていったのが面白かったです。単にTVで宣伝しているアレがあるということなのでしょう(笑)。売れてるのかな~。
さて、面白い本がありました。「ジャズ・ヒップホップ・マイルス」の未消化をもう少し消化したいという気持ちからこんな本を手に取ってしまったのです。「ブラック・ミュージック入門」です。ジャズも知っているし、ヒップホップもかじってきたわけですが、ここはやっぱりそれらを含むブラック・ミュージックをもう一度押さえておきたいと思ったからです。
ジャズについては書いてないのですが、それは知っているから良しとして、興味が湧いたのは現代のブラック・ミュージックがヒップホップになっていたからです。なるほどやっぱり現代のブラック・ミュージックはヒップホップなんだと思いまいしたし、そこに至る流れが分かれば何か見えるかもしれないと思ったのです。
内容は、歴史を大雑把に4期に区切ってあり、各期間の大雑把な流れを社会の出来事ととともに総括し、その時期毎にミュージシャンについての個別の紹介をしています。間には各期間の音楽的なトピックスにちなんだコラムもパラパラと挟まっています。
まず各期間の大雑把な流れを先に読んでしまったのですが、はっきり言って内容はかなり端折ってあります。でも実はそこが良かったりするのです。大雑把故の分かりやすさがあります。まずは俯瞰できました。ヒップホップも俯瞰できました。今後はここから細かいところを補足していけば良いのです。
4期というのはこんな感じ。
ソウル以前
ソウルの時代(50年代~60年代後半)
ニュー・ソウル~ファンクの時代(60年代末~80年代前半)
ラップ、ヒップホップの時代(70年代末~2000年代)
たったこれだけです(笑)。
分かったのは、マイルスが60年代末までやっていたのはジャズ以外の何物でもなかったのに対し、60年代末からやろうとしたことはブラック・ミュージックのメイン・ストリームに変わったってことです。余談ですが、ジャズをここへつなぐために中山さんはフリー・ジャズ(アーチー・シェップなど)を持ってきています。マイルスはそれをやっていないんですよね。
70年代はスライ・ストーンに代表されるようなファンクが花開いた時代で、正にマイルスはそれを取り入れたわけです。ジェームス・ブラウンがファンクを築いたというのも興味深い事実でした。マイルスが一時的に引退した時期。ダンス・ミュージックだったファンクがディスコ・ブームによって下火になり、ディスコ・ブームの中でヒップホップが出てくる流れも面白いです。
80年代に入りマイルスが復帰するわけですが、ファンク下火の中で頑張っていた人達、エレクトロニクスの発展で大所帯のバンドが不要となる流れをとらえた人員削減のキャメオ、プリンスなど新型ファンクに、その時期マイルスが接近していたのはなるほどと思えますし、実際売れていたマイケル・ジャクソンもやっちゃったりしたのはブラック・ミュージックのメイン・ストリームをやりたかったということで腑に落ちるわけです。
そのころはまだヒップホップがアンダーグラウンドだったわけですが、80年代後半になるといよいよヒップホップがメジャーになります。本来マイルスはこの時点でヒップホップに乗っても良さそうなのですが、そうならなかったのはマイルス故の慎重さと捉えるより、私は6年間の空白によるj時代感覚の”ボケ”によるものだろうと思います。中山さんの見立てによるこの時期のファンクの失敗は、正に”ボケ”によるものではないでしょうか。
更に推論すれば、6年の空白から81年に復帰し、そこから空白期間の2倍、つまり12年後の93年には時代感覚の”ボケ”を修正することができ(ブランクを取り戻すってそんなものなのです)、当時のブラック・ミュージックのメイン・ストリームであるヒップホップをマイルスが使いこなし、ファンを納得させるアルバムを出したのではないかと想像するのですが、残念ながらマイルスは2年前の91年に亡くなってしまいました。マイルス死後の92年に『ドゥー・バップ』が出たというのは、それを期待させるに十分な出来事だったと私は考えます。
そして現代のヒップホップとマイルスを考えた時、ブラック・ミュージックのメイン・ストリーム:ヒップホップの再重要人物であるカニエ・ウェストが、マイルスの見た未来として浮上してくるというのが、私の得た見解です。
ついでに、70年代に入りマイルス・スクールから出たフュージョンの一言で括られがちな3人のキーボーディストについても見直しておきたいと思います。ソロ/非ソロというアドリブに拘りジャズのフィールドに留まったジョー・ザビヌル(ウェザー・リポート)、ロック・リズムとギターを前面に出しテクニカル・フュージョンを推進したチック・コリア(リターン・トゥ・フォー・エバー)、黒人故かブラック・ミュージックであるファンクを継承したハービー・ハンコック(ヘッド・ハンタース)にして一番マイルスに忠実な後継者、ということになろうと思います。今更言うことでもないかもしれませんね。
私が言いたいのは、その流れからいくとハービーがいち早くヒップホップを取り入れたのは至極当然であり、ジャズのウェザー・リポートとはアドリブという視点からすでにレールが分かれていたのではないかということです。そしてマイルスにおいては、そういう異なったものが時に現れたり隠れたりしながら、併存していて神秘性として大衆に写ったことが最大の魅力なのだろうと思うわけです。
なんとも大雑把な推論ですが、結構いいところを突いているかも? いやっ、箸にも棒にもかからない代物かもしれないですし、そんなことはもう誰かが言っている既知のことなのかもしれません。自己納得ということであしからず(笑)。
「ジャズ・ヒップホップ・マイルス」、私にはとても面白いテーマです。
***
ジャズナビゲーターの高野雲さんから長文コメントをいただきました。
そこには興味深いことが書かれています。
それを詳しく知るには雲さんのブログをご覧下さい!
マイルス・デイヴィスの『カインド・オブ・ブルー』と『ドゥ・バップ』
会話をきっかけにインスピレーションが湧く展開って面白いですよね。
ネットではこういうことが簡単にできるところがいいのです。
まっ、リテラシーの問題とかもあるでしょうが、
活字にはない魅力があることもまた事実なのです。
***
*
今週末1月28日(土)は、ジャズ喫茶「いーぐる」で、「ヒップホップ講座」があります。『文化系のためのヒップホップ入門』の著者である長谷川町蔵さんと大和田俊之さんによる講演です。私も行く予定。楽しみです。
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コメント
いっきさん
こんばんは。
マイルス・スクールのキーボーディスト3人の方向性の見たてと、そのとおりだと思いますよ。
▼
ジョー・ザビヌル
ソロ/非ソロというアドリブに拘りジャズのフィールドに留まった
チック・コリア
ロック・リズムとギターを前面に出しテクニカル・フュージョンを推進
ハービー・ハンコック
ブラック・ミュージックであるファンクを継承
マイルス
上記3要素の併存
また、
ボケを修正し、ヒップホップを使いこなし、ファンを納得させるアルバムを出したのではないか?
これにも同感です。
おそらく『カインド・オブ・ブルー』の《ソー・ホワット》が、
『フォア・アンド・モア』の《ソー・ホワット》になったような進化を遂げているんじゃないかと。
つまり、慎重演奏⇒領域超越演奏 みたいに発展していったんじゃないかと考えます。
マイルスって、新しいリズムや手法に自身のトランペットプレイをフィットさせ、自在に操れるようになるまでには少々時間がかかる人だと思うんですね。
私は、『ドゥ・バップ』の《ドゥ・バップ・ソング》のトランペットを聴くたびに、『カインド・オブ・ブルー』の《ソー・ホワット》を思いだしてしまいます。
2曲とも大好きな演奏なのですが、マイルスはストイック、というよりも「慎重」なんですね。
新しい試み(枠組み)のなかに、どう自分の音を置いていこうかと、慎重に音を発しているように感じます。
そのへんが、上記2曲から感じられる共通したニュアンスなんですね。
ま、《ソー・ホワット》はコード一発(正確には二発)のモード曲だし、《ドゥ・バップ》も一発ものの打ち込みだから、アプローチが似てくるのでしょうが……。
しかし、両曲ともに、コードトーンの重要な成分を音を確認するかのように執拗に鳴らしながら、バックの演奏と自分のトランペットとの距離感を慎重にはかっているように聞こえるんですね。
試運転みたいなニュアンス?
だから、けっこう響きの重力圏の中での演奏なんです(つまり、思いきり“イン”な演奏)。
それが、トニーらリズムセクションが刷新された頃になると、かなり重力から解放された勢いあふれるプレイになってくる。
もはや同じ《ソー・ホワット》ではないぐらいマイルスは飛翔しています。
だからもし《ドゥ・バップ・ソング》など、ヒップホップの演奏を繰り返し、自家薬籠中の物にしていけば、それこそ『フォア・アンド・モア』や『イン・ベルリン』のような、我々「耳の冒険家」がビックラこいて腰を抜かすような演奏に発展している可能性は大いに考えられますよね。
そして『フォア・アンド・モア』のときのようなジャズ一発の要素で興奮させる音楽ではなく、いっきさんが分類された3要素が絶妙にコーディネイトされた内容になっているのかもしれません。
あくまで妄想です。
でも、そういう内容だったら、聴いてみて~!ですよね。
そういえば、ここのところ私のヘヴィローテーションはスライの『暴動』です。
昔から好きなアルバムだったのですが、先日、iTunesでの再生回数を見てみたら、
300回を超えていた(@w@)
今日も聴いたし、昨日も聴いていたし、一週間前も……。もちろんiTunes導入前からしつこく聴いていたし。
中山さんの新刊も、そういえば『暴動』を聴きながら読んでました。
ほんと、クセになる(もうなってる)アルバムです。
いっきさんは、このあたりのブラックミュージックはお好きですか?
投稿: 雲 | 2012年1月24日 (火) 01時25分
「かんちがい音楽評論」のやりとりを見てましたが、書いてある内容は正論だと認めているのに文句をつけている人がいたのには驚きました。そう言えば菊地さんがブログで書いていますね。中山さんと菊地さんには批評行為を理解した者同士の連帯感を感じました。
「ジャズ・ヒップホップ・マイルス」は私も勉強中です。「文化系のためのヒップホップ入門」を昨日から読んでいます。CDの紹介にマッドリブがないと思ったら、イエスタデイ・ニュー・クインテットの名前で出したCDが出ていました。インストのヒップホップの本が欲しいですよね。今度の土曜日は私も行くつもりです。
投稿: いーぐるの客 | 2012年1月24日 (火) 07時56分
雲さん
長文コメントありがとうございます。
ご理解いただき感謝です。
>つまり、慎重演奏⇒領域超越演奏 みたいに発展していったんじゃないかと考えます。
そういうのが考えられますね。
>2曲とも大好きな演奏なのですが、マイルスはストイック、というよりも「慎重」なんですね。
>新しい試み(枠組み)のなかに、どう自分の音を置いていこうかと、慎重に音を発しているように感じます。
なるほど確かに慎重というニュアンスがあるように思います。
>だからもし《ドゥ・バップ・ソング》など、ヒップホップの演奏を繰り返し、自家薬籠中の物にしていけば、それこそ『フォア・アンド・モア』や『イン・ベルリン』のような、我々「耳の冒険家」がビックラこいて腰を抜かすような演奏に発展している可能性は大いに考えられますよね。
ですよね。今となっては残念ながら想像しかできませんが。
>3要素が絶妙にコーディネイトされた内容になっているのかもしれません。
>でも、そういう内容だったら、聴いてみて~!ですよね。
聴いてみて~!カモ~ン、マイルス!
>いっきさんは、このあたりのブラックミュージックはお好きですか?
あまり聴かないのですが、『暴動』は村井さんの本と雲さんのレビューを見て必聴だと思い買いました。
このアルバムの持つ雲さんがおっしゃるダウナーな雰囲気は独特で、惹かれるものはあります。
投稿: いっき | 2012年1月24日 (火) 20時48分
いーぐるの客さん
「かんちがい音楽評論」についても中山さんについても色々な意見があっていいと思います。
またその意見に共感できるかできないかも色々あっていいのだろうと思います。
>そう言えば菊地さんがブログで書いていますね。
そうなんですか。私は見ていません。
>中山さんと菊地さんには批評行為を理解した者同士の連帯感を感じました。
大人ですね。
>CDの紹介にマッドリブがないと思ったら、イエスタデイ・ニュー・クインテットの名前で出したCDが出ていました。
マッドリブは色々な変名を使っています。そういうヒップホップ文化については、去年の「ジャズ・ヒップホップ学習会」でだいぶ勉強させていただきました。
>インストのヒップホップの本が欲しいですよね。
インストものはどちらかというとマイナーみたいなので、私は今の段階ではインストに拘らず、広く色々聴いてみたいと思っています。
>今度の土曜日は私も行くつもりです。
楽しみですよね。
投稿: いっき | 2012年1月24日 (火) 20時58分