ヒップホップ講座 パート1
昨日1月28日(土)は ジャズ喫茶「いーぐる」 で「ヒップホップ講座」がありました。
講演者は「文化系のためのヒップホップ入門」の著者である
長谷川町蔵さんと大和田俊之さん。
昨年の「ジャズ・ヒップホップ学習会」(中山康樹さん講演)からの
ヒップホップ学習の続編です。
内容はこの本に沿ったヒップホップの紹介でした。
天気が良かったのですが東京は結構寒かったです。「いーぐる」へ行く前にディスクユニオンのヒップホップを売っている店に初めて入りました。「文化系のためのヒップホップ入門」片手にCDとレコードを漁るオッサン一人。周りは「何このオッサン。」と思っていたことでしょう(笑)。レコードを3枚買ってしまいました。その中の1枚JAY-Zの『Vol.3...~』の曲は「ヒップホップ講座」でもかかりました。しばし新しい空間を楽しんだ後は「いーぐる」へ。
お店の中はいつものジャズ・ファンより年齢は低め、ヒップホップ・ファンの方が多かったみたいです。まずは大和田さんから、ジャズを聴こうと思って18才の時に買った後藤さんの「ジャズ・オブ・パラダイス」が内面化してしまっているなんて話がありました。私もこの本に影響された一人なので、親近感が湧きました。続いて長谷川さんから、「ひよってマッドリブはかけないし、ヒット作しかかけない。燻ったヒップホップ好きには負けない。」なんて発言がありました(笑)。ヒップホップの歴史紹介の多くは誕生部分が長すぎるということで、今回は6パートに分けた各パートを30分ずつに区切って、新しいものをかけられるような時間配分にするとの説明がありました。サウンドの変遷を楽しもうという趣向。
今回は全部で28曲なので、上記6パートのうち2パートずつを3回に分けてレポートします。それでも9曲ずつになりますので、1回のボリュームはかなり多いです。
ヒップホップを勉強してきましたが、まだまだ素人に毛が生えた程度です。聞き間違えや誤解があるかもしれませんのでご了承ください。
お2人の発言は基本的に区別しません。
貼っている音源は当日かかったものとバージョンが違う可能性がありますのであらかじめご了承ください。
*
1.ヒップホップの誕生
① Gil Scott Heron の《The Revolution Will Not Be Televised》 1970年
フルートから始まるファンク。詩の朗読風≒ラップ。ベースのラインが気持ちいい。ドラムのフィルがいい感じ。フルートの伴奏が黒い。(以降ピンク字は曲を聴いての私の感想などです。基本的には当日聴いた感想をそのまま書きます。)
ラップのルーツ。スポークン・ワード。敢えてヒップホップとの違いを言えば、ヒップホップがゲーム、連歌であるのに対し、ギル・スコットヘロンはゲーム性がなくアートです。詩を読んでいて単体の作品として成り立っています。これはビートに乗ってるの?乗ってないの?というところがあります。ビートに対する言葉の乗っけ方がラップの面白さです。それはジャズの楽器演奏の乗り方と同じこと。リズムに乗って喋るのは昔から遊びとしてありました。それがどうやってヒップホップのゲームになったのか?ブレイクビーツを採用したことが大きいです。発想の転換。既存ビートに乗せてやるというフォーマットができました。70年代前半、サウスブロンクスでギャング(ティーン)の縄張り争いがあって、暴力に係るのと平行してラップが流行ります。当時フィリー・ソウルという洗練されたものが流行っていたけれど、ドラム・ソロだけ切り出しブレイクビーツとします。ターンテーブル2台でループさせてかけてその上でラップします。ブレイクビーツとして何が流行ったかたと言うと、JB(ジェームス・ブラウン)のドラムだけだった(笑)。JBからドラム部分だけが切り離され、ブロック・パーティーで必殺ブレイクとなります。
② Bobby Byrdの《I Know You Got Soul》 1971年
繰り返しの気持ち良さがよく分かります。トロンボーン・ソロが格好いい。
ゲロッパのJBのサイドメンのイントロだけをかけます。全体あっての部分なのに4小節だけをループさせちゃう。曲は鉱脈。ジャズ/ヒップホップの人は精神性というが、これは単にブレイクが格好いいだけ。ドナルド・バードやボブ・ジェイムスをサンプリングするところに精神性ははありません。ソウルより売れない=知らないけれど格好いい。この部分が格好いいという発想が凄いところです。前進運動を途中で切って回していくクリエイティブさ。凄い発想の豊かさです。
③ Fantastic Freaks at the Dixie From Wild Style O.S.T. 1983年
これはかかった音源と同じかどうか不明です。映像のほうが雰囲気は分かります。
かなり荒っぽく勢いだけ?パワーに溢れています。
①と②が合体するとどうなるか?当時のパーティーの録音はないので、80年代映画の不完全な再現です。こういうのが流行ってきて商業録音されていきます。マンハッタンではディスコ~ゲイ文化、ブロンクスではこういうブロック・パーティー、当時色々な場所で色々な音楽が起こっていました。
④ Sugarhill Gangの《Rapper's Delight》 1979年
ファンキーでノリの良い曲。これは昨年の連続講演でも聴きました。定番。
14分あるけれど割愛。さわりだけ1分くらいかけました。講演が始まる前にこの曲もかかっていました。③との違いは非常に洗練されていること。商業化時ディスコにされて、ロー(荒さ)が取れてしまいました。荒さを残したいため試行錯誤。生バンドでも荒くはできません。
⑤ Afrika Bambaataaの《Planet Rock》 1982年
低音のパワーが凄い。ポップです。
2年くらい打込みが大流行します。こういう曲で踊るイメージ。クラフトワークやY.M.O.を引いていて、ロボット化が実はファンキー。バンバータはクラフトワークはファンキーだと言っています。それは彼らがビデオや衣装を見ていなくてドラムだけ聴いているから。洗練されて近未来イメージになります。荒々しさはなくなります。ブロック・パーティーの荒い雰囲気を出したいということで、それまでのやり方をブレイクしたのがサンプラー。ドラムのフレーズごとサンプリングする(誤用)ことで荒さが出ました。これをかけた後、お2人から「いーぐる」オーディオの音(低音)が素晴らしいとの声がありました。
*
2.イーストコースト
⑥ Eric B & Rakimの《I Know You Got Soul》 1987年
ハイハットの荒々しさ。バスドラのマッシブさ。スクラッチが入ります。ギターのカッティングの音を変えているのが特徴。シンプルで格好いい。
②と同じ曲をサンプリング。当初のクラブの雰囲気が出てきます。ラップはクールになっています。それはレコーディング・ミュージックだから。ラップのビートの乗せ方のズレなどがあります。DJもサンプリングで出来るからいいというのではなく、このフォーマットで何が出来るかを考えます。サンプラーは曲のどこでも抜けるので、リズムブレイクだけでなくサックスなどもサンプリングして、コラージュ・アートと化していきます。エレピ、サックス、ベースなどをサンプリングして厚みを増していきます。各楽器のキーが合っていなくても格好いいということにもなります。
⑦ Pete Rock & CL Smoothの《They Reminisce Over You(T.R.O.Y.) 1992年
しょぼいサックスが思い出を想起させるイメージになります。ドラムはタイトになっていて、コーラスの浮遊感がいい感じ。確かにいい曲。じんわり染みてくる感じです。
東海岸のDJとラッパーのベストトラック。自分の幼なじみが抗争で亡くなり、友の思い出を自分の思い出としてラップしています。凄くいい曲。サックスはトム・スコット。ソフト・ロックのダメなアルバムから取っています。大和田さんが見た昨年のロイ・エアーズとのライブでこの曲をやったそうですが、来ていた40代くらいのお客さんが全曲を覚えていて大合唱していたそうです。そういう世代の心に残っている曲。トラックは一切手弾きをしていなくて、ピッチ調整はターンテーブルの回転数を調整して合わせています。ピート・ロックが泣けてきたのは長いサックス演奏の中で多分この2小節だけ(笑)。
⑧ Black Starの《Definition》 1998年
スローテンポのビート。タリブ・クウェリの畳み掛ける感じの撥音系ラップが格好いい。ギターのカッティングとブレイクが効いています。イントロと間奏はなんとなくレゲエもイメージさせます。
モス・デフとタリブ・クウェリのラップに注目。ヒップホップというと日本人はトラックを聴くけれど、アメリカはラッパーが主役。フロー、声色、ビートへの乗りを聴きます。モス・デフが先行。声色が面白いです。この人はラップのコンテストみたいなもので優勝する上手さです。後発のタリブ・クウェリは歌いだしでビートに乗っていないのがジャズっぽいです。そこからオン・ビートになっていくのが聴きどころ。韻の踏み方が分かりやすいです。ラップを聴いてほしい曲。
⑨ Gangstarrの《Mass Appeal》 1994年
エレピのブレイクがアクセント。ビートはマッシブでシンプルな繰り返し。派手さがないあたりが求道的ということか?後半スクラッチが入って、ラストのラップは効果音的。これは渋くて通好みという感じです。
フュージョン系ギタリストのビッグ・ジュリスのソロが終わって、エレピのソロが始まるその7音くらいをサンプリングしています。初期のヒップホップに比べると求道的。ヒップホップ道の美学。ヒップホップの代表曲です。ループの快楽。これに乗れるか乗れないのか?そこに気持ちが行くか?演奏は現代音楽(ミニマル・ミュージックなのだろうと思います)。それが売れてるのが面白いです。サウンド・オブ・ニューヨーク。ニューヨークの音は正にこういうもの。
*
ハイッ、本日はここまでです。次回もお楽しみに!
| 固定リンク
「「いーぐる」連続講演」カテゴリの記事
- ジャズ喫茶「いーぐる」の『ヒップホップ~黒い断層と21世紀』出版記念講演へ行ってきました(後編)。(2013.06.10)
- ジャズ喫茶「いーぐる」の『ヒップホップ~黒い断層と21世紀』出版記念講演へ行ってきました(前編)。(2013.06.09)
- 「クラブジャズの範疇」とは書いたものの・・・(2013.01.15)
- 「新春ジャズ七番勝負 : 原田和典 vs 大塚広子」(2013.01.13)
- ジャズ喫茶「いーぐる」の「2012年ベスト盤大会」へ行ってきました。(2012.12.16)
コメント