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アルバート・アイラーを愛するサックス奏者

今日は新譜紹介です。とは言っても去年発売したものです。

P32ジェフ・レデラー『サンウォッチャー』(2010年rec. Jazzheads)です。メンバーは、ジェフ・レデラー(ts,ss,cl)、ジェイミー・サフト(p,org)、バスター・ウィリアムス(b)、マット・ウィルソン(ds)です。これはディスクユニオン・ジャズ館ホームページのスタッフ推薦盤の記事を読み視聴して買いました。記事を四浦さんが書いているのですが、こういうニューヨークのマニアックなものをよく御存じですよね。買ったのはAmazonです。m(_ _)m だって安いんだもん。

ジャケット写真のこのポーズからも分かるように、レデラーはアルバート・アイラーに思い入れがあるそうです。2曲にはアルバートの名が入っていることや、自身の曲解説、演奏からもそれはよく分かります。フリーな演奏もありますが、極端にフリーに走るというよりはフリーのフレイバーを入れつつアイラー的大らかな奏法を聴かせます。

アイラー系の演奏は冒頭のレデラー作《アルバーツ・サン》とブルージーでレイジーなバラード《クリスト・レデンター》(デューク・ピアソン作)でのテナー・サックスによるものです。

《アルバーツ・サン》の最初の4音はアイラーの曲《サンウォッチャー》から取っているそうで、その響きからはアイラーを色濃く感じます。フリーク・トーンも交え大らかにテナーを鳴らしているのは気持ち良いです。バックやソロにおいて程よくフリーで過激なサフトのピアノもセンスの良さを感じます。ジョージ・アダムス/ドン・ピューレン・カルテットのように聴こえる部分が多々あり。《クリスト・レデンター》でのサフトのオルガン演奏にも注目。こういうブルージーなオルガンも弾けるんですね。レデラーのテナーも豪快に歌っています。

この手の演奏ばかりでなく、《アーノルド・シェーンベルクズ・サン(ワズ・マイ・マス・ティーチャー)》のようにクラリネットで現代音楽的なフリー演奏をしたりもします。ちなみにアーノルド・シェーンベルクはオーストリアの作曲家、指揮者、教育者で、無調音楽に入り12音技法を創始した人。アメリカに帰化しています。その息子がレデラーの高校の数学の先生だったそうなのです。そういう経緯による無調フリー・ジャズ。サフトのピアノとオルガンの弾き分けが演奏を単調になるのを避けています。

《スネーク・イン・ザ・ブラックベリー・パス》は曲名のヘビつながりでヘビ使いのイメージ?ソプラノ・サックスを吹いています。私にはこれがデイヴ・リーブマンの80年代メイン・ストリーム回帰した頃の演奏に聴こえます。適度にフリーなピアノはドン・ピューレン風かも?ウィリアムスのベース・ソロもこの曲想に沿ってますね。元々よく似ているんですがロン・カーター風です。私にはジャズを聴き始めた頃の匂いがしてちょっと懐かし風味。

《アルバーツ・ラブ・テーマ》はテナーによる静かなフリー系の短い演奏。偉大なポール・ブレイのレデラー的解釈とのこと。続くレデラー作《Arshawsky》はアーティ・ショウ(クラリネット奏者)の本当の名字だそうです。ちょっとトラディショナル風のフリー演奏。もちろんレデラーもクラリネットで演奏しています。トラッドの《ブレイク・ブレッド・トゥギャザー》はアイラーではなくロリンズ風ですね。テナーを浪々と鳴らしています。

ラストの《Turiyasangitananda》はレデラーのアリス・コルトレーン愛による曲。ロサンゼルスで育ったレデラーの音楽カレンダーのハイライトがアリス・コルトレーンの年一回のファミリー・コンサートだったそうで、アリスの音楽を愛しているとのこと。ここでのテナー演奏はコルトレーンというよりファラオ・サンダース風に聴こえます。サフトのピアノはまるでマッコイ・タイナーみたい(笑)。

というわけで、これはレデラーの音楽体験の集大成的アルバムになっていると思います。現代人らしく過去の色んな人の影を引きずっていますね。それが問題というわけではなく力強い演奏はなかなか聴かせてくれます。

そんなレデラーに付き添って、見事に表情を変えるサフトのピアノ/オルガン演奏がこのアルバムのハイライトではないかと私は思います。決して浮つかずきちんと楽想を構築していくサフトに脱帽。サフトと言えばツァディック・レーベルでジューイッシュなピアノを弾いている人としか思わなかったのですが、今回これを聴いて見直しました。すっかり忘れていましたが(笑)、ベースのウィリアムスとドラムのウィルソンは過不足ない演奏で無難に演奏をサポート。

レデラーの音楽史に興味がある方は聴いて見て下さい。

アルバム名:『Sunwatcher』
メンバー:
JEFF LEDERER(ts,ss,cl)
JAMIE SAFT(p)
BUSTER WILLIAMS(b)
MATT WILSON(ds)

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