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「ジャズ・ヒップホップ・マイルス」出版記念イヴェントへ行ってきました。

昨日は ジャズ喫茶「いーぐる」 で行われた中山康樹さん著「ジャズ・ヒップホップ・マイルス」の出版記念イヴェントへ行ってきました。天気が良くて”ポカポカ”でした。私は例によってディスクユニオンでいらないCDを15枚ほど処分。最近は買取金額がしょぼいです。昨今の情勢からいったらしかたないでしょう。

その後、時間調整のため本屋で「JaZZ JAPAN」を立ち読み。真ん中へんのコラムが最終回になっていました。次回からこの穴はどうやって埋めるんでしょうね?まっ、どうでもいんですが(笑)。ジャズ喫茶で聴くジャズみたいな記事で、「いーぐる」&後藤さんが紹介されていました。テテ・モントリューの『ピアノ・フォー・ヌリア』のレコードが紹介されていました。う~ん、聴きたくなりました。持っていないのでAmazonで注文しちゃおっかな。

P118 いつものことですが、中山さんの時って人気があるのでたくさんのお客さんが来ていました。内容からヒップホップ側の人も多かったです。原雅明さんがゲストですしね。イヴェントの内容は題記のとおり。マイルスの『サークル・イン・ザ・ランウド』がかかっていました。やっぱりマイルスはイイ。

最初に後藤さんからこれまでの経緯説明がありました。こういうところで手抜きしないのが後藤さんの配慮だと思います。初めて来た人のことをちゃんと考えているんです。今回は中山康樹さん、ゲストの原雅明さんに加え、柳樂光隆(なぎらみつたか)さんが司会進行します。

最初は原さんにこの本を読んでの感想を聞きました。原さんは「JaZZ JAPAN」のジャズ・ヒップホップ対談から本ができるまで速かったので驚いたとのことでした。いきなり振られた原さんは「最初はこんなところにしておいて、進行しながら話します。」なんて言っていました(笑)。

原さんから、「ジャズとヒップホップの関係は前から言われていたけれど、今なぜこの時期にこういう本が出てきたのか気になる。最近雑誌「レコードコレクターズ」でマイルス晩年の『デコイ』や『ツツ』のアルバム評を書いたけれど、昔はすげーダサいと思ったものが今聴くと良いものもあって、ライブで見たサンダー・キャット(ワープというテクノのレーベルからアルバムを出しているスラッシュメタルバンド出身のベーシスト)がフォリー(晩年のマイルス・グループのリード・ベーシスト)のリード・ベースに近いことをやっていて、ダサカッコ良さがいい。」なんて話もありました。中山さんはそういう80年代の音の再評価が最近あることは知らなかったけれど、こういう偶然だけれど必然的なこともあるのではないかとのことでした。

中山さんは初っ端、今回の本は”ド、ジャズ本”であると。最初は「ビバップ、ドゥーバップ、ヒップホップ」というタイトルにしようと思ったけれど、書き終わって違う感触になったので、ビバップをジャズに、ドゥーバップをマイルスに置き換えたそうです。で、ネットでの書評を見ると原田正典さん以外は誤読されているとのことでした。こういう本なので誤読されるのは仕方がないが、マイルスの本ではないし、ヒップホップの本でもない、それはこの本を読んだだけでは、マイルスもヒップホップも分からない、ジャズのことしか分からないからだと。なるほど。

マイルスがヒップホップを利用して新しいことをやろうとしていた。それでヒップホップを持ってきたら、ヒップホップという言葉に食いつきが良すぎたけれど、本当はガレスピー、ミンガス、ローチへの賛歌であるとのことでした。違うところからジャズの全景を見て、そういう人たちに光を当てるということが主旨のようです。

私は誤読していましたね。だって帯に”黒人音楽の再検証!”って書いてあるんだもん。主眼点はジャズ~ヒップホップの歴史を「黒人性」と「批評性」で見渡すことにあるのだろうと思っていました。私にはそれがとても窮屈に思え、居心地が悪かったのです。私はジャズにおいてもヒップホップにおいても、もっと風通しの良い見晴らしの良い全景をみたいからです。まっ、そこが目的ではないなら、中山さんの目的は達成できていると思いますし、他に私が言うことはないということを自覚しました。

読者の質問は、「ミンガスの『ジャズ&ポエトリー』が入手できず、《シーンズ・イン・ザ・シティ》が聴けない。」ということが多かったそうなので、まずそれをかけることに。1957年の録音です。ジャズサイドから見たヒップホップへの早すぎた回答。回転数を変えればそのままラップになるそう。前半のほうにストリートでのやりとりがあって、確かにそういうものでした。ヒップホップの視線でジャズを見直したという点で、ギャング・スターの《ジャズ・シング》とこれをストリートミュージックに結びつけています。ラップかどうとかということより、ミンガスの太くて逞しいベースは文句なくカッコイイ。「いーぐる」のオーディオで大音量で聴くとこれが堪らんのですよ!ジャズ最高(笑)!

原さんは、中山さんがヒップホップとラップを分けているところが重要で、バッサリ切っているところが潔いと思ったそう。中山さんはヒップホップとラップを一緒にするのは、ジャズとジャズ・ボーカルを一緒にするようなものなので分けたほうが良いとのことでした。私は分けるべきでない派(笑)。中山さんによれば、シュガーヒル・ギャングは単なるポップスだそうです。原さんによれば、ヒップホップがラップとダンスとグラフィティと一緒に語られる教条主義的なところがあると思うとのことでした。

ラスト・ポエッツの1969年くらいの曲をかけます。確かに上記の《シーンズ・イン・ザ・シティ》に一部似ています。パーカッション+ポエトリー・リーディングというもの。これはパーカッションもさることながら、ボーカルの魅力でしょう。ミンガスの曲のボーカルは雰囲気づくりですが、こちらのボーカルは主役。ボーカルが発するパワーにこそ意味があるのです。

P119

デヴィッド・アクセルロッドの話へ。「ジャズ・ヒップホップ学習会」の第5回に取り上げたけれど中途半端になってしまい、50ページくらいになりそうだったから本にも書けなかったということでの補足です。アクセルロッドはプロデューサー。LAのサウス・セントラルで生まれ、黒人感覚で育った白人だそうです。この人がプロデュースしたアルバムがハロルド・ランドの『フォックス』(コンテンポラリー・レーベル)。ということで1曲かけました。ジャズファンはもうこういうのは数多聴いてますからね。アップテンポの単なるハードバップです。

中山さんがこれをかけた意図は、ウエストコーストでありながら、ウエストコースト・ジャズのアンサンブル重視の白人的ジャズ観を壊す黒人的テイストを持った人がいるということです。で、その黒人テイストが評価されてサンプリング・ネタとしてロンドンで再評価され、2008年にコンサートを開いた時のライブ演奏は。「ジャズ・ヒップホップ学習会」の第5回でかけました。デヴィッド・アクセルロッドを持ってくることで、ジャズの敷居を乗り越えるという狙いです。

キャピトル・レーベル移籍時に指名権を得たキャノンボール・アダレイが指名したのがこのアクセルロッド。キャノンボールのアルバムにはこの人と組んだ変なものがあるそうです。そんな中から『イクスペリエンスE』という野心作の《テンシティ》をかけます。マイルスの『イン・ア・サイレント・ウェイ』の1年後。当時、ジョー・ザビヌルは東海岸でマイルスとやって、西海岸ではキャノンボールとやっていたんだそうです。ロサンゼルスの栄華も含め、ロサンゼルスのトップが集まった演奏だとか。

マイルス的ロックリズムとバックにオーケストラが入ります。中盤のトランペットソロとかを聴くとマイルス崩れのかな?とも思いました。ザビヌルの気の抜けた演奏ぶりは、やっぱりマイルスから離れるとこうなっちゃうのねっていう感じ。良いのはキャノンボールのアルト・ソロです。これは素晴らしい。ヒップホップ・ファンにキャノンボールの叫びを聴きとってもらえるのか?ちょっと不安。アクセルロッドではなくキャノンボールを聴け!ってことで、よろしく哀愁(笑)!

ここで柳樂選曲。その前にトーク。柳樂さんが働いているお店(クラブなんでしょうかね?)でストラタイースト・レーベルやブラック・ジャズ・レーベルをかけると、こっちばかりかかって飽きてしまうなんて話がありました。このあたりはスピリチュアル・ジャズというくくり。最近スピリチュアル・ジャズ関係の話でコルトレーンも一緒に入れてというのがあったけれど、コルトレーンじゃなくてファラオ・サンダースの人気。ヒップホップ的掘る楽しみがファラオとかだそうです。

で、中山さんによればヒップホップ・サイドではミンガスが忘れられていて、ローチ、オーネット、ガレスピーなどもサンプリングされていない。こういう人達を若者にアピールするためにヒップホップを使うとのことでした。同様な考え方で、原さんはオーネットをクラブ系、ヒップホップ系のファンへ知らせたいというのがあるそうです。

柳樂さんは色々悩んだみたいですが、ガレスピーが晩年やっているディスコもの。私に言わせれば80年代フュージョンですな。こういうB/C級感はクラブジャズ的好みのテイストだと私は思います。原さんはガレスピーはパーカッションから入っていったそうです。ポリリズムですよね。アフロキューバンリズム。中山さんもその視点で本に書いています。

プロデューサーの話へ。ジャズにはなぜプロデューサーがいないのかという話。原さんからはサンプリングとかならいいけれど、ジャズマンを使うと難しくなるという話もありました。私は単純にジャズがセルフプロデュースの音楽だからだと思います。セルフプロデュースの上にプロデューサーがくるわけなんで、色々やっかいになるのは当然のことと思います。それに対してヒップホップはプロデューサーが重要。

原さんからは最近カナダのジャズ・グループ(オルガン、ベース、ドラム)がJディラの曲をずっとやっていたりして、ジャズマンの考え方も変わってきているのかもしれないという話、中山さんからはマイルスの『ドゥー・バップ』は、形式はヒップホップだけれど内容はド・ジャズなんていう話がありました。ここでトランペッター日野皓正さんのエピソードがあって、あまりにステレオタイプのジャズマンなんで笑ってしまいましたよ。

原さんの選曲でカニエ・ウェスト。原さんは『ジャズ・ヒップホップ・マイルス』がマッドリブで終わっているのは「何で?」と思ったそうです。原さんならカニエ・ウェストで終わると収まりが良いとのことでした。(マイルスがヒップホップをやったらこういうゴージャスなものになっただろうとの意図のようです。)かけた曲はギル・スコット・ヘロンのファーストをそのままほぼ使っているとのことでした。しょっちゅう聴かないけれどカニエが今やっていること。最後はヘロンが歌っているが、その前は別のボーカリストが歌っているそうです。プログレからサンプリングしています。ラップも重要と考えている原さんらしい選曲だと思いました。声/歌の魅力に強力なリズムがサポート。カッコイイ!スピーカーから音塊炸裂!

カニエやジェイZはヒップホップの最先端で、白人の音楽を平気でサンプリングしています。ブラックカルチャーと距離をおいて、メインストリームになっているそう。派手なアルバム・ジャケットはマイルスへ繋がる高級感を出しています。一般のユースカルチャーやサブカルチャーにうったえているそうです。柳樂さんからは今回ジャズ繋がりでヒップホップを選曲しようとしたら、黒人がほとんど出てこなかったという話もありました。

中山さんからこの本は「ジャズの歴史の再読本」という発言があり、最後の曲へ。意味はないけれどということで、「ジャズ・ヒップホップ学習会」の最初にかけたアルバムから2曲。2曲をつなぐと面白いという曲で、中山さんが割と好きなもの。トラックメイカーとしてのマッドリブの仕事を評価したいとのことでした。相変わらずのマッドリブらしい感じの曲だと思いました。私はこの2曲にそれ程惹かれるものは感じられませんでした。いつも出るのですが、「マッドリブは色々あるのでこれだけで評価しないでほしい。」という意見。これって、中山さんの選曲が良くないってことなの(笑)?

柳樂さんはジャズ・ファンにマッドリブを薦めたい中山さんの気持ちは分かるとのことでした。中山さんからは「ヒップホップではないジャズ観によってジャズから離れる。そういう問題提起をするところが聴きどころ。」と説明がありました。

抜けているところや誤読はあるかもしれませんが、出た話はだいたい書いたつもりです。私のまとめの感想は書きませんが、ところどころに織り交ぜられている私の意見から察していただければと思います。

質問コーナーでは、ヒップホップ・ファンの方から「ロバート・グラスパー(最近来日してライブがあったようです?)のサウンドのどこにヒップホップの要素があるのか?」との質問があり、原さんからはドラマーのリズム感などにそれがあると回答がありました。また、別のヒップホップ・ファンからは「コモン、Q・ティップ、ジャズとのつながりではトライブ・コールド・クエストなど、インテリ系でストリート性を見いだせるのか?」との質問があり、原さんは「ゲットーのことを言ったりすると、ゲットーを批評する点でメタ視線が入るので、メジャーとアングラの乖離がある。」というようなことを回答していました。

「音楽夜噺」主宰の関口義人さんからは、「この本は、読者をはぐらかすフックのようなものが仕組まれ、モザイクのように構成されつつ、それでいて通して読むと納得させられてしまうが、それは意図的なのか中山さんの性格に由来するものなのか、いづれにせよ中山さんのストーリーテラーぶりが素晴らしい。」というようなご意見がありました。私もそのご意見には全く同感です。

最後に後藤さんからは「マッドリブよりカニエ・ウェストがいい。」なんてストレートなご意見も(笑)。

色々な意味で面白いイヴェントでした。その後の打ち上げも、ヒップホップ/ワールドミュージック/ジャズ混在で、色々な意見が出てとても面白いものでした。

ということで一気に書きました。長文にお付き合いいただき感謝。m(_ _)m

<追記>
・ソングリストは ジャズ喫茶「いーぐる」 のblogをご覧下さい。
・中山さんはこの本は2度以上読んでほしいと強調していました。

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コメント

結局、今日のイベントの準備でてんてこ舞いで、いーぐるには行けませんでした。こうして、すぐにその時の様子がわかるとうれしいものです。最近柳樂さんとちょっと話すことが多くなりました。私の出没地域にいらっしゃることがわかったので…落ち着いたら、しっかりと読み返します。
テテは少しずつ円盤を集めているのですが、ヌリアはオリジが見つかれば即買いする候補の一枚です。

投稿: megurojazz | 2011年11月13日 (日) 23時57分

megurojazzさん

こんばんは。

>結局、今日のイベントの準備でてんてこ舞いで、いーぐるには行けませんでした。

お会いできなくて残念です。
本当は私がmegurojazzさんのイベントに行けばいければ良いのですが。

>こうして、すぐにその時の様子がわかるとうれしいものです。

そう言っていただけると私もやり甲斐があります。

>最近柳樂さんとちょっと話すことが多くなりました。

柳樂さんも色々な活動をされていて凄い方だと思います。

>落ち着いたら、しっかりと読み返します。

ありがとうございます。

>テテは少しずつ円盤を集めているのですが、ヌリアはオリジが見つかれば即買いする候補の一枚です。

私は今のところCDにしようと思います。

投稿: いっき | 2011年11月14日 (月) 00時34分

>本当は私がmegurojazzさんのイベントに行けばいければ良いのですが。
いえいえ、後藤さんのところとは比べ物にはならないものですから…お恥ずかしいです。

テテはソロをいくつか持っていたのですが、
Bouncing with DEX から系統的に集めだしています。そのきっかけを作ってくれたのもジニアスです。
最近ご無沙汰なので、行かねば…と思っている次第です。

投稿: megurojazz | 2011年11月14日 (月) 00時55分

megurojazzさん

こんばんは。
私は色々活発に活動している皆さんのことを尊敬しています。

>そのきっかけを作ってくれたのもジニアスです。

私もジニアスで聴いたのをきっかっに興味を持ったものがいくつかあります。
一番影響されているのは、後藤さんと寺島さんですが。

>最近ご無沙汰なので、行かねば…と思っている次第です。

また行きたくなる良い空間ですよね。

投稿: いっき | 2011年11月14日 (月) 19時52分

いっきさん、こんばんは。

レポート興味深く拝読しました。
現場の空気が良く伝わってくるレポートだと思います。中山さんの本を読むのが楽しみになってきました。

とりあえず以下の本を図書館で予約しました。
「ジャズ・ヒップホップ・マイルス」
「文化系のためのヒップホップ入門」
「ジャズ耳の鍛え方」

3冊の中では「文化系~」を一番早く借りられそうです。

ちなみに今日は村井康司さんの「ジャズの明日へ」、加藤総夫さんの「ジャズ最後の日」を借りてきました。

投稿: kimt | 2011年11月15日 (火) 21時52分

kimtさん

こんばんは。
今回はあえてラフに書きました。
こうしたほうが面白いと思ったからです。

「ジャズ・ヒップホップ・マイルス」
「文化系のためのヒップホップ入門」
「ジャズ耳の鍛え方」
「ジャズの明日へ」

上記4冊は全て面白い本です。
私はこれらの本を読んで視界が広がりました。

「ジャズ最後の日」は未読ですので機会があれば読んでみたいと思います。

投稿: いっき | 2011年11月15日 (火) 23時36分

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