これはとても面白い本です!
「分化系のためのヒップホップ入門」、読み終わりました。
非常に面白い本でした。
単にヒップホップ入門に止まらない濃い内容でした。
「文化系」ってあるので、てっきり「理科系」に対するものかと思っていました。私が「理科系」なので、「文化系」と書かれるとその反対側には「理科系」が無意識のうちに浮かんでしまうのです。
ヒップホップって「理科系」なの? なんて不思議に思って読んでいたら、「ヒップホップとロック」の章あたりでなるほどと理解。「文化系」とは「体育会系」に対する意味で使っているようです。本文の中に「体育会系」とは書いてありませんが、私はそういう意味で捉えれば良いと思いました。ヒップホップは「体育会系」。”ビーフ(対立・抗争)”があるんで「格闘技系」かな(笑)。なるほど!
それだけではなく、「文化系」というのは「文化」や「文学」が好きな文化系の人という意味も含んでいるように私は受け取りました。著者の一人である大和田さんが正にその人でしょう。
さて、文化系というのはロックリスナーという意味も含むようです。で、それはジャズリスナーでもあるのです。文化系が聴くロックの特徴というのが、ジャズの特徴にも当てはまる部分があるからです。なるほど、ジャズってブルースからヒップホップに連なる黒人「体育会系」でもあり、ロックと似たような特徴も持つ白人「文化系」でもあるんですね。これは”目から鱗が落ちる”状態です。
この本は、そんな「文化系」=「ロックリスナー(ジャズリスナー)」に、「体育会系」=「ヒップホップ」はどういう音楽でどこがどう面白いのかを懇切丁寧に教えてくれているのです。
ここでちょっと。
本文中に ”ファンクのジャンルではよくスライ&ザ・ファミリー・ストーンの『暴動』というアルバムで「ファンクが内省を獲得した」といわれるんですけれど、ヒップホップもどんどんその路線に拡大していくのかもしれませんね。” という一文があるのですが、スライって当時マイルスがかなり影響されているんですよね。”内省”って単語も凄く気になります。ニューヨークダウンタウンって内省的な響きがありますからね。まっ、ジャズには歌がないので、サウンドの印象ということになりますが。
ヒップホップの歴史が黒人文化の視点で丁寧に語られています。これがなるほどと思うことばかりでした。分かりやすい文章ですが、内容は滅茶苦茶濃密。私はジャズ喫茶「いーぐる」で何度か講演を聞いているので、成り立ちから80年代くらいまでは何とか分かり、これまでの知識を更に補完することができました。その後はまだ頭の中に入ってきません。知らない名前が続出ですからね。西海岸のギャングスタ・ラップあたりからは??
このギャングスタ・ラップというのが、「いーぐる」講演でも話題になっていた「最近のヒップホップにはあまり興味がなくなった。」につながっているらしいというのが何となく分かりました。その心は?文化系(ロックリスナー)がその価値観で体育会系(ヒップホップ)を受け入れられないところにあるように思います。
そんな文化系リスナーでも聴けるヒップホップもあるように思います。私の理解では、それは西海岸のアンダーグラウンドではないかと。中山康樹さんが取り上げているマッドリブなんかはそれですよね。この本では軽くしか触れられていません。ヒップホップにも色々あるのです。30年以上の歴史があるから当然なんでしょうけど。
ラップについても切り離して考えようなんてことは全然なくて、ラップはもう何の疑いもなくヒップホップと一体で話が進んでいます。大和田さんがアメリカ文学者なので、ラップの聞き方として”押韻”について解説しているくらいです。なるほどヒップホップも捉え方次第ではずいぶん違うものだと思いました。
話はヒップホップから未来の音楽にまで展開していくのですが、これがまた斬新にして最先端な視点から語られていて、頭が”クラクラ”しそうです(笑)。こんな音楽が近未来だとすると、私は最先端音楽についていけないだろうと思います。
こういう話がジャズ評論界から出てこないのは残念ですが、それはしょうがないような気がします。ヒップホップから比べると、ジャズはもう古い価値観によって成り立っている音楽なので、そこに留まっている限りは新しい発想も出て来ないだろうと思います。うん?そういえば「JaZZ JAPAN」誌が”初音ミク”について書いていましたね。「JaZZ JAPAN」侮りがたし(笑)。
さて、私が「ヒップホップ(体育会系)を聴くか?」と問われれば、聴かない気がします。私はロック(ジャズ)的価値観で今後も音楽を聴いていくだろうと思うからです。
この本はもちろん入門書としてもきちんとしていて、短い解説文付きでたくさんのアルバムを紹介しています。〆にこんなことが書かれています。”紹介している曲も、たいていのものがYouTubeでPVが見られますから。もちろん気にいったらCDなりダウンロードなりで音を購入してほしいですけど。 ゲットーの雇用が促進されるのでお願いします(笑)”。
というわけで、
書きたいことはたくさんありますが、キリがないのでこのくらいにしておきます。
興味が湧いた方は是非この本を読むことをおススメします!
この本と中山さんの「ジャズ・ヒップホップ・マイルス」を読み、私はあらためてジャズの何を聴いているのかを見つめ直す機会を得られた気がします。
*
今週末11月12日(土)には、ジャズ喫茶「いーぐる」で中山康樹さんの「ジャズ・ヒップホップ・マイルス」出版記念イベントがあります。私も参加する予定。楽しみです!
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コメント
私もどういうわけか理科系ですw。
13日からのブルースのイベントの準備をしながらでドタバタです。なかなかこういう本まで手が回らないので、なんとか時間を作って、いーぐるに行こうかとも思っていますが、現実的に…。言ったら、お声掛けします。
投稿: megurojazz | 2011年11月 9日 (水) 23時57分
megurojazzさん
こんばんは。
理系でしたか。
私達は似たような部分を色々持っているのかもしれませんね。
>13日からのブルースのイベントの準備をしながらでドタバタです。
色々なイベントをされているんですね。凄いです。
>なかなかこういう本まで手が回らないので、なんとか時間を作って、いーぐるに行こうかとも思っていますが、現実的に…。
私もいろいろ手は回っていません。
今年はほとんどヒップホップだけです(笑)。
「いーぐる」でお会いしたら声をかけてやって下さい。
よろしくお願いします。
投稿: いっき | 2011年11月10日 (木) 00時20分