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ジャズ・ヒップホップ・マイルス!

やっと中山康樹さん著「ジャズ・ヒップホップ・マイルス」を読み終えました。
面白かったです。

ジャズ喫茶「いーぐる」で5回に渡って行われた「ジャズ・ヒップホップ学習会」でよく分らなかったところは、この本を読んでほぼ分かった感じです。これはこれで面白い見方だと思います。色々よくつながっているなと思いました。さすがは中山さんです。

論旨を極端にまとめると、ジャズとヒップホップの共通項は「黒人性、批評性、メッセージ性」であり、それがビバップ、フリー、ファンク、ヒップホップと遷移する中で脈々をつながっていくというようなことだと思います。複線としてアフロ・リズムのつながりも書かれています。

頭のビバップとお尻のヒップホップは良いとして、間が微妙かも?意外とフリーの部分はなるほどと思いました。問題はファンクのところですね。突然ですが、ファンク期を渋谷駅としましょう。そしてジャズの流れは山の手線でヒップホップは地下鉄半蔵門線とします。同じ駅の中なのだけれど、同じ電車ですが、乗り換えはなかなか大変です。そんな雰囲気があります(笑)。

ここに書かれていることは黒人音楽(ブラック・ミュージック)史としては、いいところを突いていると私は思います。でもこれをジャズ史から見ると、しっくりこないと私は思います。それはなぜかというと、(モダン)ジャズは普通の解釈では即興音楽(インプロバイズド・ミュージック)だからです。即興音楽という側面がこの本では意図的に無視されているようなところがあります。

即興性というのを「スタイル」の中に入れて無視してしまっている感じがします。即興性を無視してジャズの先にヒップホップを置き(ヒップホップにも即興要素があることは「ジャズ・ヒップホップ学習会」で知りましたが、この本ではそこにほとんど触れてません)、ジャズ側から見てヒップホップに価値を見出せるかということにはどうもしっくりこない私がいます。

話は変わりますが、マイルスが生きていてヒップホップを取り入れたとして、そこに批評性があるのかは疑問に感じます(『ドゥー・バップ』は未完なのでそれを持って判断しているわけではなません)。なぜならマイルスはジャズ界のモード(最先端ファッションという意味)を作ってきた類稀なるスタイリストだからです。そんなマイルスなら音楽に批評性を持ち込むことはダサイと思っていたんじゃないかと想像します。

《ワン・フォン・コール/ストリート・シーンス》はギャグです(笑)。『ユア・アンダー・アレスト』自体がテオ・マセロと別れてマイルスが好き勝手やったパロディー・アルバム的側面がありますから。もしくは天才ならではの幼児性が一挙に出たものと感じます。サン・シティの参加も自分の音楽ではないですからね。それまでマイルスの音楽に批評性がないことはこの本にも書いてあります。なので、ジャズ・ヒップホップにマイルスを絡ませても、批評性という部分で説得力を欠くと私は感じます。

第14章にブレッカー・ブラザーズとパッと・メセニーが登場していることに個人的にニンマリ(笑)。ヒップホップを取り入れたジャズに大した成果がないことは認めます。でも、ジャズを参照したヒップホップも、ジャズ的な目線で見れば大して面白くないというのが私の意見です。

ジャズ側がヒップホップを取り入れると、「精神なきヒップホップ」と称するとの意見は私も認めるとして、ヒップホップ側がジャズを取り入れると、私に言わせれば「即興なきジャズ」と称するものになると思います。ちなみに、ジャズは即興にこそ精神性が色濃く反映されているものと考えます。

ここで突然ですが、ジャズを一旦かっこで括ってメタ・レベルでジャズをやるのがポスト・モダンだと私は思うのですが、そんなポスト・モダン感覚を持ったウイントン・マルサリスが80年代にトラディショナル・ジャズを引っ張り出してきたように、90年代にヒップホップがジャズを引っ張り出してきたというのは、正にヒップホップを一旦かっこで括りメタ・レベルでヒップホップをやるポストモダン感覚の現れだと思うわけで、そうなると当のヒップホップも周回遅れでポスト・モダン感覚を持ったことになると思います。ジャズを参照することの意味は、ジャズとのつながりというよりはポスト・モダン感覚の存在を意識することが大事だと私は思います。

マッドリブはポストモダンの典型だと私は感じます。ここにはポスト・モダンのつまらなさという問題(私はそうは思わないのですが)が内包しているように思います。批評性についても疑問があります。黒人が大統領になる現代、黒人であるが故の抑圧って未だにそんなに大きいものなのでしょうか?そこに有意義な批評性ってあるのでしょうか?素朴な疑問です。

最後にもう一つ、黒人ではないけれど、現代社会の中で抑圧された者が、ジャズにそのはけ口を求めているようなところが、今のNYダウンタウンのジャズに感じられるのですが、そこにあるエネルギッシュなものは、中山さんが言うところの批評性と同義ものもだと私は考えます。

とまあ、あまり考えずに、勘違い甚だしいのかもしれませんが、
思いの丈を書きました(笑)。
m(_ _)m

「ジャズ・ヒップホップ・マイルス」、面白い本です!是非お読みください!

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コメント

いっきさん、たいへん面白い書評だと思います。私もこの本は総論賛成、しかし「各論」となると「そうかなあ」と首をかしげるところが無きにしも非ずです。

ここまでヒップホップに首を突っ込んでしまったのなら、ぜひ、大和田俊之さんと長谷川町蔵さんによる『文化系のためのヒップホップ入門』(アルテスパブリッシング)をお読みになることをお薦めいたします。対談なので読みやすいわりには、鋭い視点が満載です。こちらの書評も読みたいですね。

ちなみに、来年いーぐるでも大和田さん長谷川さんをお招きして講演会を行います。あ、その前に11月12日の中山さん、原さん、なぎらさんの出版記念イヴェントもぜひお越しください。

投稿: 後藤雅洋 | 2011年10月29日 (土) 08時16分

後藤さん

こんにちは。
お読みいただきありがとうございます。
後藤さんに面白いと言っていただけると嬉しいです。
『文化系のためのヒップホップ入門』はもう手元にありますのでこれから読み始めます。
11月12日までには読み終えて感想をブログに書く予定です。
11月12日の中山さん、原さん、なぎらさんの出版記念イヴェントには、是非参加させていただきたいと思います。

投稿: いっき | 2011年10月29日 (土) 12時30分

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