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これはかなりユニークな音響です。

高野 雲 さんから貸していただいたアルバムが面白かったので紹介します。雲さんにによると私のオーディオで濱瀬のベースがどう聴こえるか教えてほしいとのことでした。

P86 濱瀬元彦 E.L.F. Ensemble & 菊地成孔『”ジ・エンド・オブ・リーガル・フリクション”ライブ・アット・JZ Brat』(2010年rec. Airplane)です。メンバーは、濱瀬元彦(el-b & effector)、清水玲(el-b & effector)、成澤功章(syn,p)、岡部洋一(per)、菊地成孔(sax)です。

CDの帯には、「盟友菊地成孔との共同プロデュースによる20年振りの新作は、ジャコ・パストリアス、オウテカ、スクエアプッシャー等を経た2010年代の聴覚可能性を切開く、100%手弾きによる驚異のテクノ・ジャズ。」と、書いてあります。簡単に言ってしまえば、テクノのような機械的リズム感覚と音響感覚を取り入れた人力エレクトリック・ジャズということになります。

これが面白い音響なのです。まずは濱瀬のバックを固めるリズム陣が超強力。エッジの立ったチョッパー・ベースがうなりを上げ、シンバルはシャキシャキとエッジが効いて尖り、スネアはパキパキ跳ねまわり、バスドラムは重く塊となり腹を揺らし、刺激的なシンセ音が飛びかったりと、スピーカーの前に壁のようなマッシブな音響を築きます。

こんな音響をバックにしたら、主役を張る濱瀬のベースはもっとエッジを効かせて良さそうなのに、これが反対というか何というか、エコー深めのモコモコとこもった音なのです。でもこれが主張しているんですよ。バックの音響群は正に噴火の真っ最中という感じ、あちこちで火柱が上がっています。その中心にあるのは何でしょう?そう、マグマです。マグマがあるから噴火するのです。濱瀬のベースは真中で不気味に黒光りしてエネルギーを供給し続けているマグマなのです。

時々菊地のサックスが入ります。これがまるで噴火をヘリコプターから中継している多弁なアナウンサーという感じ。「火山の噴火は凄いです。」と言いつつ興奮しているようですが、これが見事に客観的なのです。私はこれこそがポスト・モダン感覚だと思います。熱演しているのですが、演出っぽく聴こえます。尖ったサックスなんですよ。でも外からジャズをくくってメタ・レベルでジャズをやっているのです。

このメタ・レベルの視線というのを最初に意識したのは、後藤雅洋さん著「ジャズ・オブ・パラダイス」を読んだ時です。あれからもう20年以上経ちました。ジャズ喫茶「いーぐる」ではポスト・モダンについて色々講演とかあったのですが、ポスト・モダン感覚というのはメタレベルな視線のことだと私は思っています。熱にうなされたような濱瀬のベースは、意匠がいくらポスト・モダン的テクノでも、やっている本人はモダンの範疇。音響的に面白いのですが、もう一つ、モダン VS ポスト・モダンの構図が見えてくるところがこのアルバムの面白さです。

6曲目だけは静かな曲でメロディーと音響を聴くものになっていますが、他はメロディーではなくリズムの面白さを聴くべきものです。押し寄せる怒涛のリズムと音響は快感以外の何者でもありません。これがライブ演奏で全て人力演奏だというんだから凄いですね。ライブ会場の大音量でこれを聴いたら、エクスタシーとカタルシスが込み上げてきたことでしょう。

できれば良いオーディオで音量大きめで聴いてほしいです。こういうのは色々理屈を付けてもしょうがないと私は思います。サウンドをそのまま浴びて聴くのが◎。そういう意味ではエレクトリック・マイルスに通じます。菊地と共同プロデュースというのはうなづけます。

高野雲さんのレビューはこちら。ベース弾き雲さんならではです。
http://cafemontmartre.jp/jazz/H/live_at_jz_brat.html

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コメント

いっきさん

感想をアップいただきありがとうございました。

いっきさんのご感想、面白かったです。
マグマとヘリコプターと実況中継(笑)。

なるほど、周りがエッジ立ってるから、かえってモコモコなこもった音に耳を寄せてしまうんでしょうかねぇ。

たしかに、リズムで聴くアルバムでしょうね。

菊地成孔のいっきさんの分析、なるほどなと思いました。私は、レビューでは「ジャズ係・菊地成孔」という表現を使ってますです。

http://cafemontmartre.jp/jazz/H/live_at_jz_brat.html

こういう編成のバンド、昔やったことあるんですが(なんとベース3台、ウッドベース1台!)、とにかく複数の低音楽器があると、モニターが難しいですね。自分の音がよく聴こえないうえに、自分が弾いた音が周囲に与える効果とか、聴衆にどう届いているのか、想像力働かせても、あまりよく分からない。
演奏終わったあとのプレイバック映像をみて、ようやく、ああ、そういうことだったのか、と分かり、なんだ、俺ってアホ!と思うわけです(笑)。

とにかくベースが2台以上いるバンドはアンサンブルが難しい。

でも、このCDの場合は、音色面からいっても役割分担がものすごくハッキリしているので、なるほど、サウンドキャラを極端に分ければいいんだ!と思ったりもしました。

今さら気づいたところで、もはや20代のときのように、ベース何台ものバンドを組もうなんて酔狂なことを考える気力はありませんが……


投稿: | 2011年10月25日 (火) 00時49分

雲さん

こんばんは。
いまいちうまく例えていないかもしれませんが、面白かったのならば幸いです。

>なるほど、周りがエッジ立ってるから、かえってモコモコなこもった音に耳を寄せてしまうんでしょうかねぇ。

だと思うのですが。

雲さんの「ジャズ係・菊地成孔」も納得ですよ。
彼のサックスに似たような感じを受けていると思います。

バンドをやるのもいろいろなことに気配りが必要で大変ですね。
まあそこがまた面白いんだろうとは思います。

投稿: いっき | 2011年10月25日 (火) 19時33分

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