不器用な人だと思う。
今日も新譜紹介です。
ドナルド・ハリソンの『ディス・イズ・ジャズ ライブ・アット・ザ・ブルー・ノート』(2011年rec. HALFNOTE)です。メンバーは、ドナルド・ハリソン(as)、ロン・カーター(b)、ビリー・コブハム(ds)です。ニューヨークのブルー・ノートでのライブ録音。サックス・トリオです。
ドナルド・ハリソンといえば、ウイントン、ブランフォードのマルサリス兄弟の後にジャズ・メッセンジャーズに加入して話題になった人です。相方のトランペッターはテレンス・ブランチャードでした。ブランチャードとハリソンが組んで当時(1985年)出したアルバムが『ニューヨーク・セカンド・ライン』。このアルバムは’83年に録音され、アメリカでは’84年にリリース、日本では翌’85年にリリースされています。
確かこの’85年にスイングジャーナル誌が”新伝承派”なる言葉を使い始めました。なので、”新伝承派”と聞いてまっ先に私の頭に浮かぶのがこの2人(ブランチャードとハリソン)なのです。ウィントンとブランフォードはこの時既に先輩格。新伝承派とは少し位置づけが違うように私は捉えていました。’80年代に起こったメイン・ストリーム回帰からの流れの中にある新人達の動きでした。
思い出話はこのくらいで終わりにします。このアルバムは最近のハリソンが聴きたくて買ってみました。実は買ってから思い出したのですが、ビリー・コブハムの『アート・オブ・ファイブ』というアルバムがあって、そこでアルトを吹いていたのがこのハリソンだったのです。で、このアルバム、あんまり面白くないものだからディスクユニオンに売り払ってしまいました(笑)。
一抹の不安がよぎります。最初にこのアルバムを聴いたときはいまいち響いてこなかったのです。う~む、これは買って失敗したかも(涙)。なんて思いつつ聴きなおしてみると、それほど悪くもないかという気持になってきました。ハリソンがひたむきにアルトを吹く姿にちょっと惹かれ始めたのです。
1曲目《カット&ペイスト》はロン・カーターの曲なんですが、ハリソンのソロがスラスラ進まない上に構成が成り行き任せな感じなんです。で、思いましたね。この人は不器用な人なんだろうと。それからタイトルを見てテーマを聴きなおして思いました。この曲、”カット&ペイスト”は”継ぎ接ぎ”感なんだろうと、曲もよくないのです(笑)。そんな曲をハリソンは愚直に吹いているんでしょう。ハリソンの不器用さと愚直さがこんな結果を産んでいるのです。
ロンの曲なので、いつものロンらしいソロがあります。なのでロン・カーター嫌いの人は聴かないように(笑)。私は別にベースを弾くわけではないですし、音程の悪さは気になりません。それよりジャズを聴き始めた頃にV.S.O.P.クインテットで散々聴いた音ですから馴染みがあります。この人も頑な人ですよね。このスタイルを貫き通しています。
2曲目もロンの曲です。地味なブルース。こっちのほうがましですけどね。とはいっても基本的には同じテイストの展開。そして3曲目がロンのベース・ソロで《ユー・アー・マイ・サンシャイン》。全6曲中の前半3曲はロン・カーターづくしです。ですからロン嫌いな人はこのアルバムを買わないように(笑)。ロンづくしだからなのか、コブハムのドラムが奥に引っ込んでいるように鳴っています。コブハムはいい感じで4ビートを叩いているんですけどね~。
私がお薦めするのは後半3曲。《セブン・ステップス・トゥ・ヘブン》から始まります。この曲がちょっとかわいらしく聴こえるのは私だけ?さすがはマイルス、いい曲ですよね。なかなか良い感じでハリソンが不器用かつ愚直にソロを吹きます。不器用だっていいじゃないですか?ハリソンが頑張っているんだから聴いてあげましょうよ(笑)。
4曲目のバラード《アイ・キャント・ゲット・スターティッド》。”言い出しかねて”は不器用なハリソンが吹くから”言い出しかねて”という気持ちがよく分ります。せつないね~。ラストはハリソンのオリジナル《TREEM SWAGGER》。たぶんブルースだと思います。最初のほうで話題にしたアルバムのタイトル曲《ニューヨーク・セカンド・ライン》。そのモチーフとなった”セカンド・ライン”的リズムがこの曲にも用いられていて心地良いです。
『ディス・イズ・ジャズ』”これがジャズだ”不器用なハリソンの開き直りともとれるタイトル。”俺にはこれしかできないんだ!”潔いじゃありませんか?そう思えるとこのアルバムも悪くはないのです。興味がある方は聴いてみて下さい。
アルバム名:『This Is Jazz Live At The Blue Note』
メンバー:
Donald Harrison(as)
Ron Carter(b)
Billy Cobham(ds)
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