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「いーぐる」連続講演「ヒップ・ホップ前夜」(前編)

昨日は ジャズ喫茶「いーぐる」 で行われた連続講演:鷲巣功さんによる「ヒップ・ホップ前夜」に参加してきました。

P3 これまで私は中山康樹さんによる「ジャズ・ヒップホップ学習会」5回全てに参加して、ジャズとヒップホップのつながりについて色々学んできました。それはヒップホップを学ぶという意味でもありました。大谷能生さん、村井康司さん、原雅明さんという3人のゲストが招かれ、少しづつ違った角度からヒップホップというものを見ることもできました。でもヒップホップは5回くらいでは到底学べるようなものではなく、当然のことながら広い世界なのです。ということで、今回はまた違った角度からヒップホップについて講演があると聞き、よりヒップホップに迫れるのではないかと楽しみにして参加しました。

今回はジャズはなく、全てヒップホップです。最初に書いてしまいますが、鷲頭さんの選曲はメジャーというか王道というかベタなというか、そういうものだと思いました。中山さんの講演はジャズとのつながりという目線があったので、ヒップホップを斜めから見るようなところがあり、それはゲストを招いた時にも同じだったので、今回はよりストレートにヒップホップに向かい合えたような気がしました。まっ、まだまだヒップホップ初心者の私が感じたことなので、やや的外れな感想なのかもしれませんが、とんでもなく外れているわけでもないと思います。

まず鷲巣さん自身について。鷲巣さんは80年代にヒップホップに関わっていたそうで、音楽業界内部からヒップホップを見ていたそうです。

最初にプログラムにはない曲から始めました。
ジャズ・ヒップホップを象徴する曲ということで、ギャング・スター《ジャズ・シング》(この曲は中山さんの講演の第5回目でもかかりました)、1990年のものです。ターンテーブルのループ、スクラッチ、ジャズから音源をひっぱってくるなど、ヒップホップの要素が全て入っているとのことでした。触りにくいところから音源をひっぱってきてめちゃくちゃやるというのがあるそうで、この頃からジャズ側から歩み寄ってくる大物ミュージシャンがいたり、ジャズの最先端の人がヒップホップを持ち上げたりしたそうです。この頃のジャズ・ヒップホップに確かな産物はないとのことでした。唯一、コートニー・パインがヒップホップ系のトラックにパインの演奏を乗せるものがかなりカッコ良かったとのこと。この曲《ジャズ・シング》はジャズで、Us3の《カンタループ》はポップスだと言って、中山さんが比較してかけていました。私もその意見には納得しました。(ピンク字は私の意見/感想/注釈など)

ということで、本日のプログラムの始まり。

この手の音源はほとんどYouTubeに上がっていますので貼っておきます。なお、当日かけたものとは違うバージョンがあるかもしれないことはご了承ください。ちょっとさしでがましい気もしますが、参考にしていただければ幸いです。

1.Sugar Hill Gangの《Rapper's Delight》 ’79(年号は発表時期)

世界初のラップです。ディスコビートにのってラップで場を盛り上げる感じのもの。

2.Fat Backの《King Tim Ⅲ》 ’79

前の曲と同じ時期の史上初のラップレコード。インスト&ボーカル。Fat Backはダンスクラブの仕事をメインにしていたそうです。King Tim Ⅲはラッパー。バックの演奏はFat Back。ディスコ的掛声が入っています。これもディスコですね。中盤はコーラスで前後にラップが入っています。以上2曲は今ヒップホップを聴いている人には違和感があるはずとのことでした。確かにそう感じました。この2曲は大谷さんもかけましたね。

3.Spoonie Geeの《Spoonin'》 ’79

Geeのファースト・レコーディング。ベースとドラム(パーカッション)にラップだけ。当時流行したイントロとのことでした。ホイッスルで始まります。ディスコではない感じで、ベースが前面に出たファンクビート。”ヒップホップ”という歌詞が出てくるそうです。私は気付きませんでした(涙)。当時、鷲巣さんもここれがヒップホップだという認識はなかったそうです。

4.Double Troubleの《Stoop Rap》 ’83

79’以前から黒人ゲットーで遊びとしてラップはあったのではないかとのことでした。それがどういうものか感じをつかんでもらうための曲。年代はもっと後のものです。バックトラックなしで路上でしゃべっています。カッコ良さと日常路上の雰囲気を聴いてほしいとのことでした。何かのサウンドトラックに入っているとかおっしゃっていたような?私はちょっと聞き取れず。ごめんなさい。確かにカッコ良く、ストリート(路上)性を感じました。

5.Chicの《Good Times》 79’

なぜ音楽的にラップが取り入れられたのかという話。ディスコが流行していた時、単調な繰り返しの演奏で、踊っている時は良いけれど家で聴くと飽きるというのがあったそうです。そういうブレイクビーツでたいくつしないようにしゃべり始めたのがラップが取り入れられた始まりとのことでした。気持ちの良いブレイクビーツが入っている曲ということでこれをかけました。これは当然ディスコの曲。鷲巣さんは”たまんない。”とおっしゃっていました。私はそこまではいきませんが(笑)、確かに気持ち良かったです。ピアノのソロがいいなんてことも。サンプリングのオケヒット、弦が”ヒュー”と入るやつの元祖だとか。長いけれど我慢して全部聴いて下さいなんておっしゃていました。我慢する感じではなかったです。

6.Kurtis Blowの《The Breaks》 ’80

それまでラップにスーパースターはいなかったが、そこに出たのがこの人。わりとインストルメンタルにこだわる人だそうです。聴くと確かにこだわっています。これがヒットしてヒップホップが認知されたそうです。ラップのメジャーヒット。レーベルが大手のマーキュリー。日本盤は《おしゃべりカーティス》というダサいタイトルだったとか。ドラムのビートがカッコいいです、ティンバレスが効果的に使われています。

7.Grand Master Flash & Furious 5の《Super Rappin' No.2》 ’80

真打登場。DJと5人のラッパー。ディスコのレコードB面のインストの上で歌わせるもの。この辺からテクニクスのレコードプレーヤーSL-1200を使うことになります。ここまでトラックはオリジナル。ラップの掛け合いがカッコイイ。掛声の”ホー、ホー”とか特徴的でした。コンガが入っているのですが、そういえば中山さんがコンガでジャズからヒップホップまでつなげられるなんておっしゃっていましたね。ここでコンガが登場するところが面白いです。これは気に入りました。

8.G.M.F.の《The Adventure Of G.M.F. On The Wheel Of Steel》 ’81

グランド・マスター・フラッシュの電光石火の指さばきを聴いてほしいとのことでした。いや~っ、カッコイイ!こういうことをしたいと思った人が当時増えたのもうなずけます。これは全部リアルタイムでやっているか疑わしいが、これくらいのことはしていたはずとのことでした。これには一部オーバーダビングも入っています。ブロンディが自分のこと(スラッシュ)をカッコイイと歌っているのをちゃんと聴いていてそれを最初のほうに入れているとのことでした。ブロンディの《ラプチュアー》からの引用ですね。翌年くらいに藤原ヒロシさんが影響されてDJになり、ネタが奥村チヨとかで面白かったそうです。この《ラプチュアー》について以前私がブログに書いているので御覧下さい。「元祖白人ラップ曲《ラプチュアー》」 私はこの80年に《ラプチュアー》をリアルタイムで聴いていたのでした。ラップと知らずに。
*雲さんからコメントをいただいて気付いたのですが、これには5番目にかかったChicの《Good Times》が引用されていたんですね。私、何を聴いていたんだろう。ふがいない。そういえば鷲巣さんもそのことに触れていたようないないような・・・記憶が~(涙)。

9.G.M.F. & F5の《The Message》 ’82

ここまではラップで語られている内容に触れないできたが、意味のない言葉の羅列がほとんどだそうです。英語が分かる人が聴くとバカバカしくなるとか。まじめなことを歌おうという動きがでたそうで、この曲は”ローンが残っている車がレッカーでひっぱられていっちゃた。”とか、大きくて重たいハーレムの状況、貧困を歌っているそうです。動画がまさにそんなPVになっていますね。聴いたあと鷲巣さんはハーレムの状況が目に浮かんでくる。いびつな緊張感があるとおっしゃっていました。私は妙にファンタジックなシンセと客観的にサバサバうたっているところに退廃を感じ、それがカッコ良く聴こえました。これはジャズ耳で聴けるヒップホップだと思いました。

10.Zappの《More Bounce To The Ounce》 ’80

サウンドが変わっていきます。電子楽器による自動演奏です。電子楽器が怒涛のように広がっていくそうです。それはZappの影響が大きいとのこと。衝撃的な自動演奏。ボコーダーを使った感じとか基本ファンクグルーヴなので、私はハービー・ハンコックのサウンドの単なる自動化みたいに聞こえました。ギターのカッティングの感じとかも古い感じにも聴こえたのです。初歩的な打込み。「正確なビートは気持ちがいい。中毒性があり、イッテしまう。機械ビートの気もちさ。」と鷲巣さんは説明されていました。それは私も分かります。当時ドナ・サマーも自動演奏で歌うアルバムがあったとか。Y.M.O.も無縁ではないとのことでした。私は当時のY.M.O.テクノ世代です。

11.Tom Tom Clubの《Genius Of love》 ’82

トーキング・ヘッズのベースとドラムが組んだグループ。自動演奏のツボを押さえているとのことでした。「おしゃべり魔女」というこれもダサい邦題でレコードが出たとか。ポップでカワイイ感じです。これを聴いて私の頭に浮かんできたのがMの《ポップ・ミュージック》。’79のテクノポップ大ヒット。

私が高校生の頃よく聴いていました。今改めて聴くと、これってラップかも?”キュイキュイ”電子音がスクラッチのニュアンスに近かったリして興味深いです。まっ、ヒップホップとはリズムが違いますけどね。ブロンディの《ラプチュアー》が元祖白人ラップのはずだったのですが、こっちが元祖?それも’79と言えば、世界最初のラップレコードが出た年。このPVを見るとディスコで歌っているし、テクノもヒップホップも接近していたんですね。電子楽器という意味ではヒップホップはテクノからの影響を受けたのです。

ヒップホップの話に戻しますが、ヒップホップのオールド・スクールはラップがないと成立しませんので、ラップを単に手法と割り切ってしまうことはできないと感じました。
今回の選曲、当時の音楽事情の一部が見えて楽しいですね。

長くなりそうなので、今日はここまで、ほぼ半分です。
続きもお楽しみに。

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コメント

こんばんは。
この講演 おもしろそうですね。

ヒップホップってジャンルかわかりませんが わたしが洋楽にはまっていた頃 けっこういろんな(そうでもないかな?)ミュ-ジシャンの曲にラップが入っていてかっこいいと思ったものです。
チャカカ-ンの「アイ・フィ-ル・フォ-・ユ-」だったかな…
イントロからラップとドラムで 爽快な曲で好きでした。

次も楽しみにしています。

投稿: マ-リン | 2011年8月 7日 (日) 22時39分

マーリンさん

こんばんは。

>この講演 おもしろそうですね。

面白かったです。
乗れる曲を大音量で聴くのは気持ち良かったです。

>ヒップホップってジャンルかわかりませんが わたしが洋楽にはまっていた頃 けっこういろんな(そうでもないかな?)ミュ-ジシャンの曲にラップが入っていてかっこいいと思ったものです。

私もあまり詳しくないので明言はできませんが、80年半ばくらいからラップはよく耳にしたような記憶があります。

>チャカカ-ンの「アイ・フィ-ル・フォ-・ユ-」だったかな…

それは明日登場します。
カッコいいポップスだと思いました。
気持ち良く聴けましたよ。
私もイントロは耳に残っていました。

>次も楽しみにしています。

ありがとうございます。

投稿: いっき | 2011年8月 7日 (日) 23時45分

いっきさん。
レポート楽しく読ませていただきました。

いや~、シックの《グッド・タイムズ》、懐かしい!
ナイル・ロジャースとバーナード・エドワーズが繰り出すリズムは素晴らしく、いつ聞いても気持ちが良いですね。
このベースライン一時期は夢中になって練習しました。

グランド・マスター・フラッシュが複数曲取り上げられていたのもう嬉しいですね。

《ザ・メッセージ》は、以前英会話を習っていた時、先生が黒人だったので、歌詞を全部書きとってもらったこともあります(笑)。
サビ(?)というか、何度も繰り返され、このナンバーの基調を形成する“It's like a jungle sometimes it makes me wonder”の箇所が、何度練習してもうまく言えず、逆にその先生は楽々&ノリノリでラップしていたので、すんごく悔しかった思い出があります(笑)。

ちなみに、グランド・マスター~には、シックの《グッド・タイムズ》をネタにしたナンバーもあります。《ザ・ホイールズ・オブ・スティール》という曲です。
《グッド・タイムズ》のべースラインの音数を省略コピーした曲に、クイーンの《アナザー・ワン・バイツ・ア・ダスト》という曲があるのですが、グランド・マスター~もそれには気付いていたらしく、《ザ・ホイールズ・オブ・スティール》の曲中には、《グッド・タイムズ》と《アナザー・ワン・バイツ・ア・ダスト》のベースラインが交互に登場しています。

私がグランド・マスター~を知るキッカケになったのは、中学の時に買って読んだ坂本龍一と吉本隆明の対談本『音楽機械論』で、教授が吉本氏に出した聞くべき音源の宿題の中の1枚に入っていたのがグランド・マスター~だったのですね。
坂本龍一経由でヒップホップを知るというのは、当時の音楽子供にとっては自然な流れだったような気がします。テクノ好きの友達とドラムマシンに合わせてラップもどきごっこをして遊んでいましたから。

投稿: | 2011年8月 9日 (火) 08時42分

雲さん

こんばんは。

>レポート楽しく読ませていただきました。

ありがとうございます。

>いや~、シックの《グッド・タイムズ》、懐かしい!
>ナイル・ロジャースとバーナード・エドワーズが繰り出すリズムは素晴らしく、いつ聞いても気持ちが良いですね。

はい気持ち良かったです。
ほんとに懐かしいディスコサウンドです。

《ザ・メッセージ》にまつわる思い出もなるほどと思いました。ラップ/英語というか異文化への憧れみたいなものが感じられました。

《ザ・ホイールズ・オブ・スティール》って、8番ですよね。言われて気づいたふがいなさです。クイーンもYouTubeで検索して聴いてみましたが、雲さんがおっしゃるとおり両方のベースラインを使っているのが分かりました。

>坂本龍一経由でヒップホップを知るというのは、当時の音楽子供にとっては自然な流れだったような気がします。

なるほどそうなんですか。
私は当時オーディオ趣味のほうが盛んだったので、オーディオの本ばかり読んでました(笑)。

>テクノ好きの友達とドラムマシンに合わせてラップもどきごっこをして遊んでいましたから。

雲さんらしいですね。

投稿: いっき | 2011年8月 9日 (火) 20時53分

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