「ヒップホップ・プロデューサーを聴く」④
ジャズ喫茶「いーぐる」 で行われた連続講演「ヒップホップ・プロデューサーを聴く」の詳細レポートの続きです。講演者は原雅明さんとDJアズーロさんです。
今回のレポート、私はヒップホップ初心者なので、誤解している可能性があることはご了承下さい。また、名前や用語の聞き間違えなどもあるかもしれませんのでご容赦願います。
今回はかけた曲と解説、私が聴いた感想や意見を分けて併記していきます。
そしてやっぱり音がないとジャズ・ファンには分からないので、YouTubeにあった音源を貼り付けます。なおここに貼った音源と当日かけたものとはバージョンが違う可能性がありますのでご了承下さい。
3.~現代
デイヴ・クーリー(STONES THROW)/ダディ・ケヴ/Beat Dimensions
⑯J-Tredsの《Praise Due(indopepsychics Remix)》(2000)
この頃以降、音響とアンダーグラウンドなクリエイトがリンクしてきます。これを聴いた後、「レコードはやばいですね。」とアズーロさんと原さん。JトレッズはNYのラッパー。3人組のチームでリミックスしています。イケイケ感、グルーヴが出ます。こういうインドープなものはエレクトロニカに行きます。それを見据えてヒップホップは前に進んでいきます。この辺で行くところまで行っちゃったそうです。元ネタありきでクリエイティブなことをやる一つの到達点です。この後2000年代前半はビート的なものが停滞します。こういうビートに疲れて反動で出てきたのがジャジー・ヒップホップ。
これは凄いSEサウンド。低音がうねりまくってました。インドープってこういうことなんですね。確かにこればかりでは疲れます。フリー・ジャズの反動でフュージョンが出てきたように、ジャジー・ヒップホップがフュージョン的な理由が分かりました。(ピンク字は私の感想や意見などです。)
⑰J Dillaの《Stop》(2006)
Jディラが新しくやり始めたもの。これが遺作になってしまったそうです。アルバム『ドーナッツ』に収録。ディオンヌ・ワーウィックの歌を使っています。ゆり戻しでネタをそのまま使っています。音像が変。大ネタというのはクラブの雰囲気をキャッチしたい時に使うものという悪い意味があるが、ここではキャッチーに聴かせる意味で使っていません。曲を切り刻んで構成。サンプリング観が違ってきます。クリアランス(著作権)の問題で切り刻んで使います。過去を参照することがこれまでとは違ってきています。
これは多層の音楽。ポップな曲(ディオンヌ・ワーウィックでした)をまといつつ、過激な内面を持っています。なるほどこれがマッドリブにつながるのかと思いました。現代的複雑な内面を持つ若者的感情を音にしていると思いました。突然終わったんでビックリ。
⑱Ras G & The Afrikan Space ProgramGhettoの《Staring Riddim》(2006)
埋め込みできないのでリンクを貼ります。
http://www.youtube.com/watch?v=iM36x6WFytE
Jディラ以降、影響を受けた人が出てきます。そんな中の一人ラスG。音が悪いです。この人はMP3で平気で音源を渡してくる人とのことでした。アナログ盤にすると音が変わってくるそうです。
これは明らかにリズムが変ですね。Jディラに影響されたのは分かります。YouTubeで聴くと明らかに帯域不足の鼻づまり音。オーディオ趣味の私が最も嫌う音の類です。でも「いーぐる」オーディオでアナログで聴いた時はそんなに悪いとは思いませんでした。
⑲Young Jazz Rebels(Madlib)の《For Brother Sun Ra》(2010)
バンド名のクレジットがありますがマッドリブ。普通のフリー・ジャズと変わりません。ビートはジャズと混じっています。マッドリブのイエスタディーズ・ニュー・クインテットが出た時、アズーロさんはインストで自由だと感じたそうです。ヒップホップ・ビートはち密に切り刻んで組み立て、そこにラップがのるものだったが、そういうフォーマット的に固まっていたところから抜け出しました。これは、イエスタディーズ~より更に自由になっています。サンプリングを極め、Jディラとは別の方向性で抜けたものです。ラスGにもサン・ラーに捧げたアルバムがあります。ラスGとマッドリブがついにやっちゃった。マッドリブはサンプリングでサン・ラーみたいなことをやりたいと言っているそうです。
これはもう変態的。アバンギャルド。よくここまでいじると思います。SEそのものという感じ。マッドリブはこれまでにいくつか聴きましたし、アルバムも買いましたが、表面的に少し違っていてもも作風と発想は同じです。こういう電脳オタク・サウンド(私が勝手にそう言っている)をジャズの未来に据えることには違和感があります。ただアバンギャルド(前衛)という意味では、ジャズが持っていた前衛性の先にあるものがこういうものなのかもしれないというのは否定しません。
⑳Matthewdavidの《We Helped Pioneer This》(2010)
YouTubeにこの曲はありませんでしたが、Matthewdavidの曲はUPされているので、雰囲気を知るためにフライング・ロータスをフィーチャした《Group Tea》を貼り付けておきます。
マシューデイヴィドは白人。ロウ・エンド・セオリー(クラブ・パーティ)、ダブラブ(LAのウェブラジオ)の周りにいたりする人。フライング・ロータスの作風に影響を与えています。西海岸ビート・シーンのキー・パーソン。凄く才能がある人です。ドローンみたいな音が特徴で、これは彼の作品の中ではビート感がある方(貼った音源はビート感希薄)。アンビエント、テクスチャー・ミュージックみたいな側面があります。「ジャズのレコードからサンプリングしなければならない。」「ビートがファットでなければならない。」という、ヒップホップと聞いて思い浮かぶティピカル(典型的な)ものと違うものです。アズーロさんは、「現行ビート・ミュージックのサンプリングとして大きくなる可能性があるものとして見ていきたい。」とおっしゃっていました。フライング・ロータスが有名になったので、その名前を周りの人が上手く使っていて、フライング・ロータスの周りに、70年代マイルス的人のつながりが出てきています。「これがヒップホップなのか?というのは、マイルスはジャズなのか?と同じであまり意味はない。」とアスーロさん。サンプリングにしろ楽器を使うにしろ、この人の周りのシーンが面白いそうです。
なるほど、ディスコあたりから始まったヒップホップもここまで来ると隔世の感がありますね。
以上で講演は終了。
質問コーナーの質疑をちょっと書いておきます。
私がした質問「この20曲はヒップホップ史として捉えていいのか、またその位置づけはどういうものなのか。」に対する回答は次のようなものでした。
「ヒップホップ史ということでは、ビート主体の変遷。位置づけという意味では、アスーロさんと原さんが考えるヒップホップの芯。今回の選曲は1994年を境にビルボードのヒットチャートに乗るような物は入っていない。アート的な視点で追った。1小節や2小節が繰り返されているだけなのに、何度も聴けて首が振れるヒップホップの特殊性。サンプラーをメインにミニマリズムという手法がヒップホップのコア。ヒップホップはDJ、スクラッチ、ダンス、クラブカルチャーなどがあるが、それぞれ別なくくりで話すこと。」
「リアルタイムで聴いたのか?後追いで聴いたのか?」という質問に対する回答は、「ヒップホップ雑誌『ブラスト』(1995年創刊、シンコーミュージックの雑誌『クロスビート』の別冊、10年くらい続いた)を読んで聴き進めた。」とのことでした。
今回の講演はかなり濃くて深い内容でした。ヒップホップへの理解は深まったように思います。「いーぐる」のオーディオでアナログ(レコード)で聴くヒップホップはとても気持ち良かったです。
原雅明さん、DJアズーロさん、後藤雅洋さん、皆さん、楽しい講演でした。
大変ありがとうございました。
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